2013年4月8日月曜日

大谷のフォーム



典型的な昔式「振りかぶり型」のスインガータイプである。(ノーワインドでも、振りかぶるリズムで投げている。広島の前田とは違うタイプ。)カーブの投げ方にスインガーの特徴が出ている。西武の岸と同じタイプのフォームだ。この脚の挙げ型からパンチャーで投げるのが松坂大輔。日本の野球ファンにとっては最も親しみやすい投球フォームだろう。

フォーム的には、このタイプの投げ方として見ると、ソツが無く良く纏まっているが、グラブとボールを割るのが少し早いのが気になる。

グラブとボールは体重移動と連動して自然に割れるのが正しいのだが、大谷の場合、腕の力で割ってしまっている。因に、その点が最も上手かった日本人投手は藤川球児。その恩恵を活かして豪速球を投げ込んでいた。清水直行も上手かった。

グラブの中にボールが有る「セット」の状態は、左右の腕が相互に支え合うので力が抜きやすい。一方、割ってしまうと、両手の重さをそれぞれの肩、腕の筋肉で支えないといけないので上半身に力が入る。中でも、特に僧帽筋に力が入りやすいはずだ。そして、僧帽筋に力が入ると、胸椎が前彎し、腰椎が後彎し、骨盤の後傾した状態になりやすい。

大谷の場合も、腕を降ろした所で、僧帽筋の緊張からか、骨盤が後傾気味になっている。こうなると、ハムストリングスが効かないので、後ろ脚が体重を支えきれずに、膝が深く折れる。そうなるとなおさら大腿四頭筋が効き、ハムストリングスが使えない。

そのため、大谷のフォームは後ろ脚の膝が折れ過ぎて、重心が下がり過ぎている。そして投げ終わった後に後ろ脚が勢い良く前に出て来ない。このフォームで故障が怖いのは後ろ脚の膝と右肩だろう。腕は綺麗に回っているので、肘を痛める事は無いと思う。

特に、振りかぶり型は、元々のメカニクス上、骨盤が後傾し、膝で体重を受けやすい。そのため、そのメカニクス上の弱点をさらに強調してしまっている感の有る大谷のフォームには一抹の不安が残る。

グラブとボールを割るのをもう少し我慢して、体重移動との連動で割る事が出来れば、もっと腕の力が抜けて、フォームに躍動感が出る。重心は後少し高くなり、投げた後に後ろ脚がもう少し小気味良く前に出て来るだろう。シュートして抜ける球も無くなるだろう。しかし、肩に力が入り気味で、下半身が使い切れていないので、肩の故障は気になる。

面白いのはクイックの場合、その欠点が少し小さくなる。そのため、クイックの方がフォームが良い。だが、先発投手としては、そうも言ってられない。非常に簡単な修正で良くなるフォームだけに勿体無い。

西武の岸と比較してみると、岸の方がグラブとボールを割るタイミングが遅く、重心が高い。この辺は(似たタイプの)大谷にとって非常に参考になる部分だろう。惜しむらくは背中をやや一塁側に傾けるので、ハムストリングスが使いにくいバランスになっている事か。


ところで、落合が大谷の二刀流を賛成するコメントが有ったが、流石に落合が言うと説得力が有るので、一瞬納得してしまいそうになった。落合の思考はどちらかと言うとアメリカ式で「大谷くらいの素質の投手はこれからいくらでも出て来るよ」と言う余裕が根底に有るように感じた。だが正直、あの個性の無いと言うか執着心が感じられない淡白な打撃フォームにはあまり魅力を感じないのでやはり投手になった方が良い。この大谷の「二刀流問題」に関しては、言い出しっぺに一番の問題が有るのではないか。言い出さなければ無かった問題なのだから。