2013年4月19日金曜日

スローイング・イップスなど無い。

スローイングイップスは基本的に内野手が陥る。

プレッシャーのかかる状況で緊張感の余りコントロールを乱し、それ以来スローイングに自信が無くなり、ますます投げられなくなるというものだ。

しかし、実際には技術上の問題から自信が無くなり、それゆえにプレッシャーによってますます緊張してしまうと言う順序では無いだろうか。つまり卵が先か鶏が先かの議論になる。

そして、技術上の問題と言うのは、スローイングフォームにおける、テークバック〜トップの複雑な回旋運動を頭で考えて意識的にコントロールしようとする事から始まる。そして投げ方が解らなくなる。結論から言うと、そこは意識してはいけない所なのだ。真面目な選手ほどイップスにかかると言われるが、真面目故にプレッシャーを感じやすいからでは無く、真面目故にフォームについて考え込むからでは無いか。

そして、ここがこの話のポイントだが、スローイングで腕を加速する動作と言うのは(パンチャーであれスインガーであれ)MAXのスピードを発揮する中でのみ理想的な動作が出現する。だから、内野手が軽く投げるような動きと言うのは(相対的には良い悪いは有る物の究極的には)どうやったって良い投げ方にはならない。そして、イップスは近距離でのスローイングで起こりやすい。

つまり、スローイングの中で「近距離で軽く投げて狙った所にコントロールをつける」と言うのは、そもそも一番難しい事なのだ。その一番難しい事を出来ないと言って悩んでいる状態がイップスなのであって、それを周囲がイップスイップスと騒ぎ立てるのでますます悩むようになる。

思い切り投げる事に集中すると、腕の振りから意識が抜きやすいので、余計な事を気にしないで済むが、軽く投げようとすると腕の振り(テークバックの回旋運動)に意識が向いてしまうので、余計に難しくなるのだ。

イップスにかかった選手は内野手から外野手にコンバートされる事が多いし、それによってイップスも軽減すると言われているが、それは「コントロールが大雑把で済む外野は投げる事に対するプレッシャーが小さい」からでは無い。外野手は思い切り投げられるので、動作も良くなるしコントロールも付けやすいからだ。

マウンド上から思い切り投げてストライクを取れるピッチャーが、バント処理で一塁手に山なりのボールを投げる時に暴投が起きる事を考えてほしい。

では、具体的にはどうすれば良いか。イップスにかかった選手にはバックホームでもピッチングでも良いので、まず全力で投げて良い球がいくように、根本的にスローイングそのものを作り直す所から始めると良い。イップスのせいにしてはいけない。

そして、その応用でステップを加えた内野手のスローイングを再開させて行く。このとき、リズム感と、ある程度強いボールを投げる事を重視すると良い。固まった状態から緩いボールを投げようとすると、体が上手く動かないので、コントロールがつけにくい。だから、余計にプレッシャーを感じるし、失敗を心因性の物と錯覚してしまう事になる。(ただし、一つ考えなくてはならない問題として、要は「置きに行く」中でイップスが起きるのだから、置きに行こうとすること自体はメンタルの問題では有る。)

そして、イップスから脱却しつつ有る状態でも、また完全に治っても、とにかく内野手のスローイングフォームの基本にはオーバーハンド(というか、スリークでも縦回転フォーム)からの全力投球がある事を忘れずに、その練習をしなければならない。内野手のスローイングをした後は、全力投球で動作を修正すると言う考え方が必要だ。そういう基本が出来たら、内野手のスローイングも感覚で上手く出来るようになるだろう。

技術的な事については、スペース上割合するが、一つだけ。ピッチング投げをするにしても、いわゆる「トップ」を作ろうとしてはならない。スローイングの中で、投球腕は体重移動と連動して「回る」ものであり「トップ」はその中の一瞬に過ぎない。意図的にトップを作って投げようとするなら、それは担ぎ投げである。担ぐと緊張して、また「イップス」になる。この事は当然パンチャータイプの技術にも当てはまるが、その辺を話し出すと長くなるので、ここまでにしておきたい。

イップスなど「無い」と言い切ってしまうと極論になってしまうだろう。しかし、個人的には、イップスと言う問題は殆ど「虚像」では無いかと思っている。一つだけ有るとしたら、プレッシャーのかかる場面で置きに行くと言うメンタルの問題だ。これをイップスと言うなら、イップスは確かに有るのかもしれない。だが、投げる事に自信が無いから置きに行くのだから、メンタルは問題の一部に過ぎない事は間違い無い。