2013年4月27日土曜日

バックホルツから学ぶ投球スタイル

今期、5勝(1位)0敗、防御率1.19(3位)と言う抜群の成績を挙げているレッドソックスのクレイ・バックホルツだが、彼のピッチングからは何かと学ぶことが多い。

この投手は右のパンチャータイプだが、まず、クイックモーションが上手い。ラボでも、バックホルツのクイックモーションをクイックのお手本として使わせてもらっている。

ただ、ここで注釈を入れておかないといけないのは、とかくタイムだけが取りだたされるクイックモーションだが、投球技術の視点、というか投手目線で見た時の「アイツはクイックが上手いな」と言うのは、それだけでは無いと思う。つまり、良いボールが投げられる事とも関係があるのだが、本当の意味で上手いクイックモーションは動きが非常にスムーズだ。逆にタイムが速くても、ギクシャクした動きのクイックモーションには魅力を感じない。スムーズに脚が挙り、短い時間の中にもタメを感じる。そういうクイックが良いクイックだと思うが、日本人では阪神〜オリックスの野田浩司のクイックが上手かった。また伊良部秀輝はタイムこそ特別早くは無かったが、動きそのものはスムーズで「良い」クイックだった。

2011/05/07 Buchholz's scoreless start

↑この動画にはバックホルツのクイックモーションを横から見たシーンが有るが、スタンスが狭い事が注目に値する。スタンスを広くすると簡単にタイムは速くなるが、それだと後ろ脚に体重が乗りにくく、球速が出にくい。一方、スタンスを狭くするとタイムは若干犠牲になるが、球速は出しやすい。しかしバックホルツの場合、スタンスが狭い事を考えるとタイムは速い。これは本当の意味でクイックが上手くないと出来ない事だろう。

つまり、球速を出すと言う事と、タイムを短くすると言う事を両立させている意味で、バックホルツのクイックは「良いクイック」であり、またその事がバックホルツが「勝てる」原因の一つだろう。

2013/04/25 Buchholz's quality outing

↑この動画はバックホルツの最も新しい登板の動画だが、ファストボール系をウィニングショットに使っている事が解る。ただ、バックホルツはパンチャーとしては比較的ゆったりしたフォームなので80マイル台の中速系変化球も投げるし、カーブも投げる。球種的には特に比較的オールマイティで特に目立った特徴が有るとは思えない。ただ、最近では(youtubeで見る範囲だが)ファストボール系を決め球に使う事が多いように思える。そのメリットは(中速系で落ちる球を使うのに比べて)ランナーを気にせずに済む事だろう。デメリットは空振りは取りにくい。(それでも奪三振3位だが。)

その成績を(中速系で落ちる球をウィニングショットに使う事が多い)ダルビッシュと比較してみよう。ちなみにストレートの球速はほとんど変わらない。(試合で投げるMAXはバックホルツの方が1マイルは速いだろう。)

奪三振  バックホルツ(39) ダルビッシュ(49)
被安打  バックホルツ(25) ダルビッシュ(16)
四死球  バックホルツ(13) ダルビッシュ(10)
被本塁打 バックホルツ(1)  ダルビッシュ(0)
被打率  バックホルツ(0.192) ダルビッシュ(0.145)
防御率  バックホルツ(1.19) ダルビッシュ(1.65)
自責点  バックホルツ(5)   ダルビッシュ(6)
勝ち負け バックホルツ(5勝0敗)ダルビッシュ(4勝1敗)
イニング バックホルツ(37.2) ダルビッシュ(32.2)

面白い事に、ヒットもホームランも四死球もバックホルツの方が多く与えているし、奪三振もダルビッシュの方が多い。(共に登板は5) 打者に取っては、打ちにくいのはダルビッシュの方だろう。しかし、自責点と防御率はバックホルツの方が良いし、勝ち星もバックホルツの方が多い。

もちろん勝ち星は味方打線の事も有るが、防御率は参考になるデータだ。バックホルツの方がランナーを塁に出しているのに点は取られていない。クイックの上手さとか、ファストボール系を決め球に使っている事が関係しているように思える。(そこまで細かくは見ていないが)恐らく、牽制もバックホルツは速いだろう。つまり、こうした所にパンチャータイプの優位性が出ている。

さて、ここからが今回の本題だが、バックホルツの動画を見ていて、次の事に気が付いただろうか。バックホルツはワインドアップモーションとクイックモーションしか用いておらず、セットポジションから脚を挙げて投げる事が無い。

今の野球では基本的にランナーがいる状態ではクイックを用いるのが普通(と言ってもメジャーでは脚を挙げる投手も多いが)なのだが、ランナーがいない場合でもワインドアップモーションを用いずにセットポジションから(脚を挙げて)投球する投手が多い。

しかし、この投球スタイル(セットポジションから脚を挙げる)は、いかがなものだろうか。ワインドアップモーションでは打者に正対した状態からフリーフット(前脚)を後ろに引く。(このとき、センター方向では無く二塁手方向に引く事によって、脚を挙げるときの無駄な捻りが小さくなる)

そして、この、フリーフットを後ろに引く動作が脚を挙げるためのバックスイングと同じ意味の動作になるから、これによって投手はフリーフットを楽に挙げる事が出来る。だから、脚を挙げる場合は、ワインドアップモーション(振りかぶると言う意味では無く、脚の運び。振りかぶる必要は無い。)を用いた方が良い。

もちろん、投げ方との相性もあるだろうから、全ての投手に当てはまるとも限らないだろうが、基本的にはその方が良い。(脚を挙げるならワインドアップモーションを用いた方が良い。)

例えば、動きの中で軸足をセットするワインドアップに比べると、構えからセットしているセットポジションの方が再現性が高いので制球は安定するかもしれないが。。

ワインドアップから、ランナーが出たらいきなりクイックになるのは、変化が大きすぎて嫌う向きも有るかもしれないが、実はこの方が理に叶っているのでは無いだろうか。そしてバックホルツはその事を実践している。

今度はバックホルツの投球を中継でじっくり見てみようと思う。