2012年5月29日火曜日

89さん 2回目




〜前置き〜

2回目となった今回は、最大の問題である股関節を使った回転が使えていないと言う事に焦点を当てました。それと同時に89さんにとって特に重要である、腸腰筋、ハムストリングス系のトレーニングをやりながら、揺らぎの動き等の改善を試みました。


ただ、今回に関しては、ラボの時間内での改善と言うよりも、その中で色々な試みをし、89さんの反応を確認、撮影していく事で、89さんの特徴がより明確になったと言う事に意味が有ります。ですから、ラボでの結果を踏まえた上での、この分析記事や今後の取り組みが重要になると言う事です。


最後、バットをぶら下げた所から、構えを作る打ち方をやりました。ただ、目指すのはやはり揺らぎで構えを作る打ち方です。最初の方の動画の方が振れていますが、それはやはり筋肉の疲労から来るもので、恐らく、明日や明後日の最初の方は調子が良いのでは無いかと思います。


ただ、やはり練習の中では、基本的に揺らいでから振る方針でやってください。


細かい形に関しても色々有りますが、それよりも根本的な問題は、黒人的な身体の使い方がバッティングの中で出来ていないと言う事です。ストレッチでは、それでも大分良くなりました。ただ、それももちろん、まだ始まったばかりです。そして、その辺が出来て来ないと、この打法でパワーを発揮する事、或は、この打法の爽快感を実感する事は「無理」なので、とにかくまず何よりも、黒人に近づく事を最優先にしてください。その意味においては89さんの打撃技術を改善する試みはまだ始まったばかりです。黒人の歩き方、走り方、踊っている所、様々なスポーツをしている所。それらをよく見て感性を磨く事も重要です。


日本にいると周りが皆日本人なので、日本人の動きのままで良いんだと思ってしまいますが、その考えをまず無くす事が大切です。日本人の動きのままだと、やはり打ち方も日本人の打ち方にしなくてはならなくなるわけで、それだと走りながら打つタイプの左打者でないとメジャーで成功する事は難しいと言う結果が出ているわけです。


何もメジャーを目指す云々と言う話では無く、89さん以外でも、ここを読まれている方の中に、才能は並でも理論を使って何とかプロにはなりたいと思っている人はいると思います。そういう人の場合、やはり周りと同じ事をやっていては、望む結果は得られないと思うのですが、そこで何をすれば良いのかと言うと、これはもう絶対的に黒人に近づくと言う事です。スポーツを続けている限り、とにかく1ミリでも黒人の動きに近づいて行くのだと言う事を、最後まで続ける事が重要です。


分析


テーマは当日もお話しましたが、始動時の下半身の動きの問題と、それが原因で、両脚股関節を使った骨盤の回転が弱いと言う事です。分析の結果、問題の原因と改善策はほぼ解りましたので、それを書きます。

終わってから動画で振り返ってみると、やはり揺らぎの動きが出来ていないです。揺らぎ体操はほぼ完全に出来るようになりましたが、その感覚をバッティングの中で実現出来ていないと言う事です。

昨日は「前足踵の足踏みが無い」と書いてしまいました(その文は削除しました)が、よく見ると有りました。ただ、揺らぎの動き自体は、あまり良く無いです。それに加えて、揺らぎから始動する流れに問題が有ります。その辺を動画で表現してみました。89さんのスイング時の足のアップと、私のを比較してみました。(この点については自信有りますのでご安心ください。)



動画を見ると、89さんの場合、前足の踵が着地した瞬間に始動してしまっている事が解ります。これは当日もお話しましたが、他の部分に気を取られて見落としてしまっていたようです。ただ、このタイミングでの始動だと、そりゃあ、力でないですよ。このタイミングで始動して、良く振れるなと関心するくらいです。

対して、私のは、前足の踵が着地して(踵が少し浮いてるのが気になりますが)しばらく間を作ってから始動しています。こうしないと力が出ないのです。

揺らぎとは、前脚と後ろ脚の間の体重移動の繰り返しです。そして、後ろ脚に体重が移動する時に前足の踵が浮き、その次に前脚に体重が乗った時に前足の踵が着地するのです。

つまり、前足の踵が着地した瞬間と言うのは、後ろ脚から前脚に体重を移動させ、前脚に一番体重が乗っている瞬間を意味するわけです。もちろん、後ろ脚には一番体重が乗っていない瞬間を意味します。ですから、この瞬間に始動してしまうと、始動時のメインエンジンとなる後ろ脚の力が使えないのです。

そして、問題は「体重が乗るか乗らないか」だけでは有りません。体重を受け止めた時の股関節の動きは「屈曲=割れ」です。そしてその体重を押し返すときの股関節の動きは「伸展=絞り」です。ですから、前足踵が着地した瞬間と言うのは、後ろ脚股関節が「最も割れていない瞬間」を意味するわけです。

次の動画を見てください。89さんの横からの動画で、その次は下半身のアップです。後ろ脚の膝の動きに注目してみましょう。



揺らぎに連動して、後ろ脚の膝が回っている事が解ります。便宜上、二次元的な表現をすると、捕手方向から投手方向へと前後に膝が動いています。

後ろ脚の膝が後ろ(捕手方向)に動くのは股関節が割れている時で、後ろ脚に体重が移動している時を表します。後ろ脚の膝が前(投手方向)に動くのは股関節が絞りの動作を起こしている時で、前脚に体重を移動している時を表します。

そして、よく見ると、89さんは後ろ脚の膝が前に来た所で始動している事が解ります。つまり、前足踵が着地し、前脚に体重が乗った瞬間。後ろ脚から前脚に体重を送り込み、後ろ脚が絞り動作を起こしている状態の中で始動しているのです。


股関節の割れ=股関節の屈曲=骨盤の前傾です。ですから股関節が割れているとハムストリングスの力が使いやすいのです。そのため、後ろ脚股関節は割れた状態から始動する必要が有ります。

基本的に「塚口理論」を実践し、股関節を割って構えている以上、89さんの場合でも一般的な打者に比べると股関節が割れた状態から始動している事になります。しかし、問題は形だけでは無く、股関節が絞りに転じている中で始動していると言う事に有ります。これでは後ろ脚の力が使えません。

ですから、まずは始動のタイミングを変えなければなりません。上の動画で言うと膝が後ろに来た所からの始動にならないといけないのです。


そのためにはどうすれな良いのかと言う事をここから書きます。


改善策


まず、前足踵で着地した後に間を取ってから始動する事が重要です。当日もお話しましたが、最後に前足踵が着地した後、身体をリラックスさせ、身体の重みをスーッと地面に下ろして、その下ろした底の所で始動する事が大切です。実打系だと、そのタイミングがずらされやすいので、このタイミングを憶えるのは素振りが最適です。

揺らぎでは前足踵の足踏みを伴います。そして、その足踏みを止めてから始動するのですが、最後に前足の踵を着地すると、前足踵から地面反力が身体に跳ね返ってきます。その地面反力は後ろ脚方向への体重移動を発生させます。そして、後ろ脚まで体重が移動すると、その反動で、また前脚への体重移動が始まります。こうして、大体の場合、前足踵の足踏みを止めた後、余韻でもう一往復くらい揺らぎが起こってから、真ん中に体重が落ち着くと思います。

この真ん中に体重が来て安定したところで、身体をリラックスさせ、身体の重みを地面に下ろしてやる事が重要なのです。

感覚だけの話では無く、実際にもこの時、数ミリは姿勢が低くなるはずです。つまり、身体中をリラックスさせ、体重の負荷を加えているわけですから、その重みで股関節や膝が僅かに屈曲するはずなのです。

ですから、身体の重みが一番下まで沈んだ後は、その反動で浮き上がってきます。浮き上がる動きの中で始動すると、これもまた、力が発揮しにくくなります。沈んで、一番底まで落として、また浮き上がる。この一番底の瞬間で始動する事が重要なのです。勿論、素振りではその間をコントロール出来ますが、実戦ではタイミングが会った、会わなかったと言うのは、多少出て来ると思います。ただ、それは仕方が無い事ですね。それが野球と言うゲームだからです。

そして、その身体の重みで沈み込む事で何が起きるのか。実はこれが重要なのです。


体幹部操作のメカニズムを思い出してください。ここで詳細に触れるわけにもいきませんが、要は下の写真のように、手を身体の中心より捕手側にズラして股関節を屈曲させる(割る)と、トップハンド側の肩甲骨の上方回転が優位になり、肘が上がり、斜めの捻りが生じ、それに連動して、前の膝が内に、後ろの膝が外に向くと言うものでした。


つまり、真ん中に体重が落ち着いた所で、身体をリラックスさせ、身体の重みを地面に下ろしてやる時、股関節や膝関節が僅かに屈曲するはずだと書きました。

この時の股関節の屈曲により、体幹部操作が生じ、さらに「後ろ脚の膝が内」「後ろ脚の膝が前」の状態になるわけです。つまり、後ろ脚股関節の割れが優位の状態になると言う事で、この瞬間がある意味、本当に構えが完成した瞬間です。

この状態から始動する事が出来ると、始動時の下半身の力を最も上手く使う事が出来ます。


練習方法


まず、89さんの場合、揺らぎ体操そのものは大体いい感じで出来るようになりましたが、バットを持つと揺らぎの動きがまだまだ違います。ですから、揺らぎ体操をもっと練習する事が大切です。

そして、揺らぎ体操の前には腸腰筋その場ステップ等で、腸腰筋をストレッチし、骨盤が前傾した状態を作っておく事が重要です。骨盤が前傾すると、股関節の靱帯が緩み、大腿骨の骨頭部のボールがソケットの中で転がりやすくなり、揺らぎで股関節の円運動を上手く使いやすいからです。

ですから目安として以下のようなメニュ―を提案します。

腸腰筋その場ステップ 6回(左右3回ずつ)
揺らぎ体操 10回(前足踵の足踏みでカウント)
立ったままでの軽い割れ絞り体操(当日やった体操)4回(左右2回ずつ)
素振り3〜5回(揺らぎから打ちに行く間を重視)

上記のメニューをとことん繰り返してください。もちろん、正しい「揺らぎ〜始動の間」が出来ていないと繰り返す意味は半減します。

軽い割れ絞り体操を挟むのは、腸腰筋その場ステップのような縦系の動きの後には、スイングの前に、横回転系の動きをしておきたいからです。

揺らぎ体操では、前足の踵での足踏みと、その衝撃が股関節にダイレクトに伝わる感覚を重視してください。それが出来ると脚の力も抜けてきます。足幅は狭めで、突っ立った姿勢で行います。その方が体重移動を強調しやすいからです。

スティックは、五本の指でしっかり(かといって力まないように)握り、(ストレッチの場合に関してのみ)意図的に回転を加えます。打つ時にバットを意図的に回すのは絶対にダメですが、ストレッチでは、そうした方が逆連動によって股関節の円運動を引き出しやすいからです。

素振りでは、勿論、揺らぎから前足の足踏みを止めて打ちに行く「間」を意識する事が重要です。最後に前足が着地してから、体重が真ん中に落ち着いたら、そこで身体の重みを地面に落とし込み、下半身が良い状態にハマったと感じたら、そこで始動します。

※)ただ、当日の動画を見ると、少し揺らぎの回数が多過ぎますね。平均であと、1回〜2回減らした方が良いです。

※)学校などでやる場合、腸腰筋その場ステップや揺らぎ体操がやりにくければ、腰を反るストレッチやバットをスティック代わりにつかったりすると、違和感の無い動きで代用出来るでしょう。ただ揺らぎ体操は腕で棒を持ち上げた状態を続けるため、基本は軽い塩ビパイプで行うべきです。

最後の大会に向けては、まず何よりも「下半身が使えていない」と言う最大の問題を克服してほしいので、上記のメニューを徹底して行う事で、一点集中的な取り組みをするのが良いでしょう。構えのバランス、股関節の割れ方など、まだまだ追求したい所ですが、それらに関してはそれほど大きな問題があるわけでは無いので、何より、上記の一点に集中するべきです。それが、この打法でパワーを発揮するために最も重要な部分であり、また日本人が最も苦手とする部分でもあるわけで、だからこそ日本人は自然発生的にこの打法に取り組む事が無かったのです。つまり、この部分を改善しなければ、この打法で成功する事は難しいと言う事です。

続きます。

揺らぎについての動画です。

注)揺らぎの動きは解りやすくするため、誇張しています。



この動画を見て、以下の点を見直してください。

1)揺らぎ方が「間違った例」の腕ごと揺する揺らぎになっています。そうでは無く(構えが出来た後は)腕を揺すらないようにしてください。もう一度、揺らぎ体操を確認して、その動きを打撃の中で出来るようにしてください。今の揺らぎ方は正しい揺らぎ方とは違います。
2)足踏みを止めてから打ちに行くまでの間を掴んでください。基本的には「前足の足踏みが終わる」「前足着地の反動で後ろに体重が戻る」「その反動で真ん中に体重が来る」と言う順番で、真ん中に体重が来たら、そこで腰を落ち着かせて、一拍の間を取ってからスイングします。ただ、真ん中に体重が来た後、スッと止まるか、惰性でもう一度小さく揺れるか、小刻みな揺らぎが始動まで継続するか等、人によって多少にパターンが有ります。しかし、いずれにしてもマクロな視点で見ると「止まって、一拍取ってから打つ」と言う事が非常に重要です。
3)こうした事の感覚を掴みやすくするために、胸でリズムを取る系の体操と、腰でリズムを取る系の体操(何種類か紹介しましたね)は徹底して行ってください。それだけで全然違います。「腰反り」「腸腰筋その場ステップ」「リズム股関節伸展スクワット」は必須です。

まとめ)正しい揺らぎ方を身につけ、そこから打ちに行くまでの間を練習してください。その時重要な事は「止まって、一拍取ってから打つ(振る)」と言う事と、その一拍で、地面に根を下ろすようにドッシリした感覚を得る事が重要で、そのためには黒人化のトレーニングが重要になります。まずは、これらのテーマを重点的に行ってください。そして、素振りでは必ず巻き戻しが起きるスイングをしてください。


続きます。

「開き」について。


開いている印象が有るのは、恐らくフォロースルーで前脚の膝が開くからでしょう。フォロースルーでバットを前に押し出す時、後ろ向きの反作用が後ろ足にかかります。(一番下の写真の矢印)この力を受け止める時、後ろ足が90度ターンしておらず、写真のようになっていると、ここで腰を回転させる力が発生してしまい、それによって前足の爪先が開くのです。これは、ゆっくりとした動きで再現しても解ります。ですから、これも結局はインパクトまでに後ろ足が回転しないと言う問題が原因なのです。

両脚のラインについて。

両脚のラインがまだあまり良く有りません。これを作るために構え作りスクワットをやってください。なお、その前にリズム股割りスクワットで股関節を割る感覚をしっかり掴んでおく事が重要です。「脚」の内側のラインのたわみ、アウトエッジ荷重等を意識してください。また、両肘を内に絞り込む際、胸椎の後湾を作りながら上体を軽く前傾させ、骨盤を前傾させる事も大切です。

それらが出来たら、構え作りスクワットをやります。この時、左右の股関節を均等に割る意識(両脚の内側をたわませる意識)を持ちながら、上半身の捻りにより前の膝が内に向き、後ろの膝が外に向く状態を作ります。これは最初は鏡を見ないと出来ているかどうか解りにくいでしょう。本人感覚では両方割っているのに、鏡を見ると、後ろ脚の方がよ食われていると言う状態が理想的です。

構え作りリズムスクワットは塩ビパイプ等を両手の間を離して行うと良いです。

この練習をした後、軽く割れ絞り体操をやって絞りのストレッチもしてから、素振りをします。構えでシックリ来る感じ、両足が地に着くような感じが有れば良い証拠です。

89さんの場合、まだ上半身の捻りと下半身のラインが連動していないところが有ります。こうした練習により、構えを基礎から見直していく事も重要です。

続きます。

まとめ

いろいろと細かい点まで書きましたが、大雑把に言えばパワーが出せないだけです。腕の使い方には良いものが有り、特に問題は無いのですが、下半身の力が使えていないわけです。

ですから、揺らぎから打ちに行くまでの「間」と、構えの基本を見直し、黒人化のためのトレーニングを積む事で、下半身の力を使えるようにすると言う事をテーマにしばらく練習してください。

「始動時に突き上げる動きでは無く、沈み込む動きになっており、後ろ脚が回転しない」と書きましたが、しかし、そこばかりに気を取られると、基礎的な内容の習得が疎かになってしまいます。89さんの場合、(構えの形や、揺らぎから打ちに行く間など)基礎的な内容の部分で、まだ完全ではありません。そのため、細かい問題も、基礎的な内容を完全にすると、修正される部分もいくらかはあるかもしれませんし、また、基礎的な内容を完全にした状況でなければ、細かい問題の本当の原因も解りにくい部分が有ります。ですから(特に私が横にいるわけでは無い場合)基礎的な内容の習得を第一に考えて練習してください。

また、前述の内容とやや矛盾するようですが、まだまだバットを軽々と扱えるような力が付いていません。あまりバランスの悪いバットを振り込むのも良く無いのですが、常にやや重めのバットを振り込む事で振る力を付ける事をもっと考えた方が良いでしょう。と言う事は、軽いバットを振る練習も必要になると言う事です。

また、良い状態に保つために、練習後の自主的な調整として「軽いバット、出来れば塩ビパイプを振る」「胸でリズムを取る系と、腰でリズムを取る系、割れ絞り系の股関節の体操」の二点をやるようにしてください。重いバットを振ったままで一日を終えてしまうと、上半身の緊張した状態での動作を身体が憶えたまま寝てしまう事になり、その緊張が蓄積されていくからです。ですから最後に負荷が最小の状態で振る事により、下半身〜上半身のスムーズな連鎖を身体に思い出させてから寝る必要が有ります。また、いろいろな動作の中で、悪い筋肉の使い方をしたぶんを修正するために、股関節のストレッチが重要になります。この二点を最後にやるようにしてください。

最後に取り組みのポイントを挙げておきます。

●揺らぎから打ちに行くまでの間を意識して練習する
●構えの基礎的な内容を振り返り、ストレッチ等とあわせて継続的に取り組んで行く
●振る力を付けるために重いバットを振る(後で軽いバットも振る)
●一日の最後に軽いバットのスイングと、股関節のストレッチを行う。

構えの外見的な形については、下の動画が一番良いです。ラボ直前に頂いた動画です。ここにもう少し捻りが入ると、もっと良いでしょう。

この状態に、後は、揺らぎから打ちに行く間と、股関節のトレーニング等の「中身」の部分を磨けば、だいぶ良くなるでしょう。当面は、その方針で練習してください。それだけでも「本当に」出来れば、かなりのレベルに到達する事が出来ます。

89さんの場合、股関節の力が使えていないと言う意味では(私の立場からすると)難しい例では有るのですが、インサイドアウトに振れている、スイングそれ自体の基礎的な部分が出来ていると言う意味では、非常に楽な例でもあります。そう考えると、当面の課題も何が重要かがおのずと見えて来ると思います。つまり、グリップ云々、腕云々、スイング云々よりもまず、股関節の力を使えるようにする事が一番重要だと言う事です。

股関節のトレーニングを重点的に行いながら、揺らぎの動きを見直し、揺らぎから打ちに行くまでの「間」を習得すれば、それだけでだいぶ良くなるでしょう。(それらが本当に出来ればの話ですが)

そして、目安として、素振りの後は必ず巻き戻しが「起きる」スイングである事が重要です。軽いバットを振る際も、巻き戻しが起きないと言う事は余程大きな問題が有るのだと考えてください。

以上です。ではがんばってください。

補足:アップダウンのリズムの話で間違えてお伝えしてしまった点としては、ダウンの時に踵が浮くと言う事です。(アップの時に浮くと言ってました)
ダウンの時はやや重心が前(爪先寄り)に来るので踵が浮くと言う事です。結果的に、弾むような感じになります。股関節の力が上手く使えるようになると、アップの時に踵で床をヒットするので、ドンドンと足音が大きく響くようになります。

2012年5月2日水曜日

Y君 1回目



新4年生としては、上出来だと思います。当日は気がつかなかったのですが、動画を見返してみて、最も感じる事は「センス」です。もう少し凡庸な言い方をすると「起用」だと言う事です。投球腕のテークバックの動きや、ボールを打つ時の対応能力など、その辺に光るものを感じます。野球を始めたのが早かったのかもしれませんが、こうした事は野球の感覚が無いと出来ない事です。ですからむしろ股関節の割りや捻りなど、基礎的な身体の使い方の練習を地道に続けて行く事で、後は本人の対応能力により、結果が出せるのでは無いかと思います。また、起用と言う意味で言えば、守備も色々なポジションがこなせそうで、そうなれば試合に出るチャンスも増えるので、なんとなく順調に階段を上って行くようなタイプに見えますね。これは全くの勘ですが。

続きます。

打撃編


1 揺らぎ、ヒッチ、コネる

バッティングにおいて最も気になる点は、当日、揺らぎの練習を行った結果、素振りの中で少しバットを捏ねる傾向が出た事です。捏ねてしまうと、空振りやミスショットが増えてしまいます。(もちろん、捏ねるからと行って片手でフォローを取らせるのは逆効果になるのでやらないでください。)

大きく気になったのはそこだけで、つまり具体的にはご帰宅後にボールを打とうとした時に、ミスショットが出てまったりしないだろうかと言うことです。

それと同時にヒッチの動きが出てきました。もちろん、無意識で起きるヒッチは良い動作です。ただ「揺らぎを練習した結果として、ヒッチが起こり、バットを捏ねる」と言うのは一つながりになっている事で、揺らぎを練習した事の結果としてままある事なのです。

つまり揺らぎと連動してバットがクルクル回りますね。(ケン•グリフィーJrのように)その動きのリズムが出来ると、その動きの連続でヒッチが起こりやすくなります。しかし、その一方、そのバットがクルクルするのが強調され過ぎたり、また手でバットを揺らしてしまうと、その後にスイングをした時もバットがクルクルしてしまい、捏ねてしまう場合が有るのです。

難しい問題なのですが、揺らぎから打ちに行くのは一番良いやり方です。しかし、子供の筋力、技術力、諸々を考慮した時に、それを実現しようとすると、逆に難しい部分が出て来る事も有るのです。一方、ワキを締めてグリップのコックを作った素振りでは捏ねていませんでした。以上の事から、今後の取り組みの中で以下のポイントに気を付けてください。

1)最も基本的な事として、バットの揺らぎは下半身の体重移動の結果であり、構えの中では意識してバットを回したり、手を揺らしたりしません。(この点、揺らぎ体操は、股関節の円運動を引き出しやすくするため、敢えて意図的に塩ビパイプをクルクル回します。)その体操と実際のバッティングの違いを再確認してください。ただ、この技術自体、指先まで神経が通ってこないと難しい部分(この動きの中で手首や前腕部を力ませず、かつ安定させる事)もあり、その意味で下記(2)のような事も考えてください。

2)上記の内容を踏まえた上でも、揺らぎから振ると言う事を素振りの中で繰り返した結果、コネることが多くなったり、ミスショットが増えたりした場合、「上半身に関してはバットをクルクルさせない揺らぎ方をする」「止まってから手首の形を固めてから振る(動画の実打では出来ています)」「そもそもあまり揺らがないで振る」等、そういった素振りを取り入れ、その中に一定の割合でラボで行った揺らぎの方法で振る練習を行ってください。と言うのは、最終的にはその方法で振れるようになってほしいからです。例えば、私自身の例でも左で振るときはそういう感じです。ただY君の場合、そこまで無理が有るようには見えませんが、参考までに、書いておきました。要は特に子供の場合「今、一番上手く振れる振り方」と「目標とする理想的な方法」が噛み合ない事も有るのです。例えば、弱い筋肉は大きく引き伸ばさないと力が出ないので、理想の形より捻りを大きく取らないと力が出なかったり、等、様々なケースが有ります。このような場合「今、一番上手く振れる振り方」もやっていかないと、振る力が中々ついて来ないのです。しかし、その一方「目標とする理想的な方法」も練習していく必要が有ります。前述の通り、Y君の場合、それほど無理が有るとは思いません。ですから、そういった二段構えの取り組みが必ずしも必要だとも思いませんし、必要なければそれに超した事はありません。しかし、もし今回危惧したような状況になった場合、積極的にこうした二段構えの方法を取ってほしいという事です。

3)とは言う物の、揺らぎ体操等は、四頭筋が弛緩し、ハムストリングスで立つ骨盤前傾の姿勢が取れていないと上手く出来なかったり、全身の連動を憶える良い練習ですから、腸腰筋その場ステップと揺らぎ体操のセットは積極的に行ってください。もちろん、実際のスイングの中でも、そういう入り方が出来れば理想的です。

他、フォーム的に細かい部分は勿論あるのですが、それはこれからのトレーニングや素振りで改善されて行く部分が大きいでしょうし、特に今の年齢だと、まずバットがボールに当たる事、そして当たった時に、満足出来る強い打球が飛ぶ事。この二点が最も重要だと思う訳で、そのテーマに対して、現状で最も危惧されるのは、上記の揺らぎに起因するコネだと言う事です。


続きます。

2 肩の傾き

また、バッティングで次に気になったのは、構えた時に後ろ肩が傾きやすいと言う事です。

これが、打撃の構えの時だけなら、さほど気にならなかった(子供は筋力が弱いのでバットの重さで後ろ肩が下がりやすいと思います。)のですが、ストレッチのスタンディング割れ絞り体操でも、後ろ股関節のラインに沿って斜めに右腕を振り上げる所で、水平に回してしまったりと、要は捻りに伴い右肩を上げるのが苦手のように見えたので、その辺はストレッチ等で根本的な動きから見直して行く必要が有るかもしれません。

あまり当て推量で適当な事も言うべきではないのですが、例えば筋肉のコリとかが解る人に見せると、右側の筋肉が少し固まり気味だったりとか、そういう可能性も有ります。(全くの勘ですが)

いずれにしても、後ろ肩が下がっていると、スイング軌道もアッパー気味になりやすいですし、後ろ脚に体重が残り過ぎたりと良い事はありません。体幹部操作2の捻りによって後ろ肩が少し上がる事が大切です。

3 首の角度


写真のように、首の角度が脊柱軸に一致していません。そのため、少し骨盤が後傾気味の構えになっています。ただ、これは経験から、最近では「首を斜めに」とは言わない方が良い事が解ってきました。Aロッドにしても少し強調し過ぎでしょうね。首を斜めにと言うと強調し過ぎた悪い例になる場合が多いのです。



ではどうすれば良いのかと言う事ですが、捻りが足りないと写真のようになりやすいのです。首が立っている事の弊害を端的に表現すると「アゴが上がっているのと同じ意味になる」と言う事です。ですからつまりアゴが上がらなければ良いのです。

ここで少し体幹部操作2の捻りを強調した構えを作ってみてください。捻りを加えないで前傾(ホームベース方向に)した状態と比べると、捻った方が自然に首が傾くと思います。(この詳しいメカニズムはまだ説明出来ませんが)捻るとむしろ首を立てるのが難しくなるでしょう。捻って、アゴを軽くクッと引いてやると、もう首が立ちようがありません。

この問題も「2 肩の傾き」に関係が有るのかもしれません。つまり体幹部操作2の捻り、スタンディング割れ絞り体操の動きが苦手なのでしょう。その辺が出来るようになると、打撃も良くなって来ると思います。

4 打撃 まとめ

上記のように、細かいポイントも有るのですが、今最も重要な事は、この感じでどんどん振って行く事により、この打法のメカニズムを身体に憶え込ませる事です。ただ、そうは言っても実際にはバランスが悪くて腕や脚が緊張したりしていると、思うように上手くならずに、むしろ振れば振るほど悪くなったりもして伸び悩む事も有るのです。その意味で「1 揺らぎ ヒッチ 捏ねる」のテーマは特に重要な問題です。基本的に打撃は下半身の力が使えて、上半身に力みが無ければ、少々形は悪くてもバットは走ります。ただ、肘を上げなければ上半身がリラックス出来るかと言うと、そうでも無かったりして一筋縄ではいかないのですが、基本はそういう事です。Y君の場合は親御さんの方でかなり理解されているようですので、そんなに心配は無いのですが、その辺を客観的に見て、伸び悩む方向に向かわないように、そうなってもなるべく早く脱出出来るようにする事が重要でしょうね。そういう調子が悪くなる事が何回か起きるのは仕方が無い事ですが、それを脱出しながら着実に進歩して行きたい所です。


投球編

当日もお話しましたように、重心移動が始まる時に重心がストンと真下に下がるのが問題です。これは、このシーンで骨盤が後傾するためにハムストリングスが緩んでしまい、その力を発揮しにくくなる事で起きる現象です。股関節伸展の力が弱くなるため体重を支えきれないのです。

真下に重心が下がってしまうと、股関節が割れにくく、膝の屈曲がメインになってしまうので大腿四頭筋が強く働き、ハムストリングスが使いにくくなります。一方、滑り台を滑り落ちるような軌道での重心移動だと、上手く後ろ脚股関節が割れてくれます。そうすると骨盤が前傾して、ハムストリングスの力が使いやすくなるのです。

斎藤和己

もちろん、当日もお話しましたように前脚を上げる時に回し込んで来るようなリズムが有った事も原因の一つでしょう。しかし、それだけが原因では無いと思います。それをここで書きます。

最大の原因は、グラブとボールが割れた時、グラブ腕がお腹側に大きく突き出される事です。このため、その反作用で腰が背中側に引けてしまうのです。何故、グラブ腕がそういう動きになるのかは後述します。

このシーンで骨盤が後傾してしまう事の悪影響は多々有るのですが、最も大きな悪影響は肘に負担がかかりやすい腕の振りになる事です。下の写真の2コマ目で、もう少し投球腕が外旋して、上腕三頭筋が打者に向き、ボールが肘の後ろに隠れる関係を作りたいものです。(ここでのこの形は同じ問題を抱える人に共通して見られる特徴です。)

なぜ、投球腕の外旋が不足するのかと言うと、骨盤が後傾した結果、後ろ脚股関節の伸展の力が弱いため、股関節の伸展と連動して胸を張る動作が不十分になってしまうためです。後ろ脚の股関節伸展が上手く使えると、後ろ腰を前に突き出し、脊柱が全体的に反る形になり、もっと力強く胸を張る事が出来ます。胸の張りと肩関節の外旋は連動している(実験すると解りやすいでしょう)ので、胸の張りが不足すると外旋も不足するのです。そうなると肘に負担がかかります。

次にフォロースルーのシーンにも問題が現れています。下の写真のように、このシーンで少し腰が引け、前脚の膝も少し曲がり過ぎています。こうなると、身体全体の前に出て行く力が弱いので投球腕に負担がかかります。
後ろ腰が引けているのは、当然、前述の股関節伸展が上手く使えていない事が原因ですが、前脚についてここから書きます。下の写真の右のように、フォロースルーでは前脚は一度伸びるのが望ましいのです。(もう少し後のシーンでも構いません。早すぎると突っ張ってる事になりますので良く有りません。)

これは骨盤が後傾した状態で前脚が着地してしまうので前脚に関しても、ハムストリングスによる股関節伸展の力が使いにくくなる事が原因です。前脚股関節伸展がもっと使えると、股関節伸展=絞りですから、前脚股関節を内に締める力が働き、最後のフォロースルーで、回って来る上半身と前脚が、雑巾を絞るようにギュッと逆に捻る力を発揮して、もっと最後の所でキレが出てきます。今は、その力が弱いので、なんとなくヌル〜ッと倒れ込むようなフォローになっています。

と、このように、動き出しで骨盤が後傾してしまう結果、ザッとこれだけの問題点がその後に出て来てしまうのです。逆に言うと、そこが改善されれば、今の問題はほとんど解決し、年齢不相応に完成されつくしたフォームになるでしょう。ですから最大のテーマと言えるわけです。

端的に言うと、この問題が解決されると、後ろ脚股関節の伸展も力強くなるので、重心移動が大きくなり、胸の張りと投球腕のしなりも良くなります。そして最後のフォロースルーでもっとキレが出て来るでしょう。

ではどうすれば良いのかと言う事ですが、これらの問題の多くは動き出しのグラブ腕の動きに原因が有ります。ここからは、その修正法について書きます。

下の動画は始動した時に腕がお腹側に伸びる原因を表しています。小さく前にならえのようなセットポジションだとグラブ腕の肘の凹みが前を向いているので腕がお腹側に伸びやすいのです。(小さく前ならえの形を使う練習をやりましたが、それはあくまでもセットポジションからの始動を理解するためのもので、小さく前ならえの腕の形が良いと言う意味ではありません。)


一方、肘の凹みが身体の中心方向に向いていると、そこから腕が割れる時、両肘が均等に開く形になりやすいのです。これは両肩関節が内旋した状態で、この時グラブの捕球面がやや地面に向きます。

また、最初の腕組みドリルは、同じような問題を抱えている投手に使用するドリルです。この状態から始動すると、腕がお腹側に伸びにくく、身体の近くに位置するので、始動時に骨盤が後傾しにくいのです。なお、このドリルはセットポジションで腕を高く掲げて腕に力みが入った結果、下半身の力が使いにくくなっている投手にも有効です。肩甲骨を胸椎に被せて腕を組んだ状態では肩から腕の力が抜きやすく、下半身の力が使いやすいからです。

Y君の場合、セットポジションのところで、特にグラブ腕の肘の凹みが身体の正面に向いているので、そこから両腕が割れるシーンでグラブ腕がお腹側に伸びやすいのです。

ボール側は良いのですが、写真のようにグラブ腕側のワキを締めて、手首を掌屈させるクセが有ります。

これは特に子供に多いのですが、前脚を上げる時に、後ろ脚の膝と前脚の膝が重なるくらいの位置まで持ってくる事で後ろ脚に体重を乗せると言う事を知らないのです。そうすると、体全体を後ろに傾けて後ろ脚に体重を乗せようとするため、骨盤も後ろ脚側が低くなるように傾きます。その骨盤の傾きとバランスを取ろうとして、肩を傾けようとするので後ろのワキは開くものの、前のワキが締まりやすいのです。グラブ腕側の手首を背屈すると前腕部が回内し、肩関節も内旋するのでワキが開きます。それを防ごうとして手首を掌屈し、前腕を回外気味にさせる事でワキが開きにくくしているわけです。


ですからまず前脚を上げる時のバランスに注意しながら、セットポジションの形を見直していかなければなりません。その辺が良くなると、後の動作も連鎖的に良くなって来るでしょう。

もう少し続きます。

とりあえず目安として、セットポジションでのグラブ腕を下の写真の左のようになるよう、修正してください。今は右のようになっています。肘の凹みの向きが違う事に注目してください。ただしこの形を作ろうとして力んでしまっては本末転倒です。(そうなる場合が良く有ります。)腕組みドリルのように、肩甲骨を胸郭に被せるイメージを作る事で、肩、腕に力みが入らないようにしてください。


以上です。ピッチングでは、投球腕のテークバックの形など、小学生らしからぬ巧みさが有ります。(写真)コンパクトな腕の振りが出来るので、内野手も上手くこなせるでしょう。

この腕の振りのしなやかさを保つためにも、素振りの後はシャドーピッチングや腕回しのストレッチ等を積極的に行った方が良いでしょう。

ではがんばってください!