2013年4月26日金曜日

現時点での打率1位 クリス・ジョンソン

現在のところ、メジャーリーグではブレーブスのクリス・ジョンソン(三塁手)が打率0.397で一位に立っている。右打者である事を考えると、純粋に打撃技術が評価出来る。

ただ、このクリス・ジョンソンのフォームには、良くも悪くも、今のアメリカ野球の潮流が非常に色濃く表れている。

2013/04/01 Johnson's first hit as a Brave

良い点はスイングが非常にシャープな事。両手振り抜きで、最短距離にバットが出て来るタイトなスイングだ。フォロースルーでの手首の返し方も良い。

悪い点は「オートマチックステップもどき」と言う点。オートマチックステップもどきは一種のノーステップ打法で、形式的にはステップがあるものの、着地した状態でボールを待って、そこから振り出す。実質的なメカニズムとしては「形式的な」ステップが着地した時点が構えであり、そこからノーステップで打っている事になる。メカニクスとしては間違った打ち方だ。

「オートマチックステップもどき」は少なくとも90年代までのメジャーには存在しなかった。少なくとも私の記憶では一人も見ていない。いたかもしれないが、その程度だと言う事だ。

それが2005年くらいから急激に数が増えて来た。恐らく、高校や大学で教えているのだろう。youtubeにアップされているアメリカの教則ビデオを見ると「ストライド&ロード」と言って、前脚を踏み出すと同時にグリップを引き、その体勢でボールを待ってスイングするように教えている事が多い。その打ち方は正にオートマチックステップもどきだ。

※)ロードとはローディングのロード(load)で装填(弾込め)を意味する。アメリカの打撃理論ではテークバックの意味で使われる言葉。

ある意味では「割れ」を教えているわけだが、結果として出来上がるフォームは日米で全く違うのも面白い。ただ、オートマチックステップはノーステップと同じなのでパワーにも限界が有る。しかし、手順が明確で、家電製品の取り扱い説明書のように打撃理論をマニュアル化出来るので、教えやすく、普及したのだと思う。クリス・ジョンソンもホームランはまだ2本で、体の割にはパワーが無い。

もう一つの話題である「スイング」だが、これが実にアメリカらしい。片手フォローや大きなスイングをする選手が多い中南米と違い、アメリカの野球選手は人種を問わず、実戦的なスイングをする傾向が強い。野球の歴史の深さがさせている事だろう。(明治2年に最初のプロ球団が出来た。)

ところで、アメリカのメジャーリーガーの出身地を見ていると、温暖な西海岸や南部の出身者が多い。中でもカリフォルニアが特に多い。やはり一年中野球が出来るからだろう。スイングを見ていても、アメリカ出身の選手は、中南米の選手とスイングが違うので、だいたい見ればアメリカの野球選手だと解る。特に右打者は解りやすい。そこで、典型的な「アメリカ流」のスイングをする打者の動画を紹介したい。もちろん、アメリカにも片手フォローの打者は多いが、両手振り抜きにこそアメリカ流の特徴が出るので、両手振り抜きの選手に限って紹介する事にする。

ジェイソン・ヘイワード(ブレーブス)
フレディ・フリーマン(ブレーブス)
トリー・ハンター(元エンジェルス)
マイク・トラウト(エンジェルス)
バーノン・ウェルズ(元エンジェルス)
マーク・トロンボ(エンジェルス)
ピーター・ボージョス(エンジェルス)
チェイス・アトリー(フィリーズ:カリフォルニア出身)
マイク・スタントン(マーリンズ)
リード・ブリニアック(レイズ)
サム・フルド(レイズ)
ショーン・ロドリゲス(レイズ)
プリンス・フィルダー(タイガース:カリフォルニア出身)

面白いのは、上記の選手全てが、野球が盛んな西海岸や南部にゆかりのある選手だということ。フィルダーとアトリーはカリフォルニア出身で、後の選手はアトランタブレーブス(ジョージア州)ロサンゼルスエンゼルス(カリフォルニア州)マイアミマーリンズ(フロリダ州)タンパベイレイズ(フロリダ州)の選手(または在籍した事が有る)だ。


そして、クリス・ジョンソンもまた、フロリダ州の出身である。 こうした背景(典型的なアメリカン・スイングと、オートマチックステップもどきの蔓延)を踏まえて、クリス・ジョンソンのバッティングを見ると「ああ、なるほどな」と言う感じだが、そうした選手が打率一位に立っている事が興味深い。これでアメリカの指導者は自信を深めるだろう。そうすると、またこの種の打ち方が増えることになる。

ただ、アメリカ打法のトレードマークあでる「タイト&ストロング」なスイングそのものは実戦的で優れたスイングだ。こうしたスイングの打者が国際大会に多く出て来ると面白いのだが。ただ、WBCが終わり、あらためてMLBの伝統に裏打ちされた華やかさを見ると、やはりメジャーリーガーをWBCに振り向かせるのは難しいのでは無いかと思う。