2016年3月25日金曜日

ダルビッシュ投手フォーム分析 その15

ハムストリングスを使うというテーマの最後に「セットポジションとクイックでハムストリングスを使うコツ」について書きます。

まず近年のダルビッシュ投手が多用しているこの構えからの投球ですが、この構えにはハムストリングスを上手く使える多大な可能性が潜んでいます。セットにもクイックにも使える構えなので、まずそこから書きます。

ただ、一方でこの構えについてはパンチャーとスインガーの違いも考慮する必要が有ります。今のMLBの特に右腕(特に中南米系)ではパンチャーが多数派なのですが、パンチャーの場合は軸脚に乗せた所から瞬発力で投げるので、こうした打者に近い構えをとる投手が多いのです。しかしスインガーの場合、重心移動(並進運動)が命なのでステップ幅を確保するために、スタンスが狭く腰の高い構えが基本となります。なので重要な事は、この構えから得られるメリットをいかにして「スタンスが狭く重心の高い構え」の中で得られるようにするかという事です。と言っても上の写真(写真の左)くらいなら既に理想的なのですが。


アメリカで良く言われる「アスレチックポジション」にちなんで、打者的なセットポジションの構えをアスレチックセットポジションと言う事にします。

まず、何と言っても、この構えの長所は股関節を屈曲した状態で構える事でハムストリングスが使いやすい事です。しかし屈曲させ過ぎると並進運動が小さくなるので、そのさじ加減が重要になります。

ですからまずこの構えの場合、膝スクワットにならない事を最優先する必要があります。画像はバッティングの構えでの股関節スクワットと膝スクワットの例です。もちろんピッチングの場合、脊柱が前傾しすぎるのは良くありません


まず、この形を作るためのコツは腰を反って腸腰筋をストレッチして、その反動で股関節で身体を折る事です。


 この構えのポイントは以下の通りです。

(1)アゴを引く
(2)胸椎後弯の凸アーチを高い位置に保つ。
(3)膝を緩める。
(4)足裏の荷重位置がポイント。
(5)骨盤前傾は意識しない。
(6)少しだけ捻る
(7)腕の内旋
(8)肩甲骨のかぶせ 肘を浮かせない
(9)股関節で身体を折る。膝で折らない。
(10)軸脚股関節の割りと爪先の向き

(1)アゴを引く
アゴを引くと言うよりも、脊柱が僅かに前傾するので、首も少し傾くのが自然になります。脊柱と首の角度がズレると下図のように逆S字の脊柱になり骨盤が後傾します。

ただ、もちろん過剰に傾けるのは良く有りません。ホンの気持ち程度です。頸椎は前湾が正しいのですが、傾けすぎると後湾してしまいます。


下の写真のように脊柱と首の角度が合致しないと言う事は、アゴが上がってるとも言えるので、アゴを引く意識で解消される問題でもあります。

(2)胸椎後湾の凸アーチを高い位置に保つ。
これまでに書いて来ました通りです。腰が丸まるのはもちろん、背中全体が丸まったりするのも好ましくありません。脊柱がS字を描いているのが理想です。

これが出来ると胸がやや凹み気味に見えます。(痩せていればの話ですが)


(3)膝を緩める
曲げる=× 緩める=○ 突っ張る=× です。 曲げると四頭筋が効き、突っ張ると例の図(下図左)のシステムにならないので、ハムストリングスが働きません。

(4)足裏の荷重位置がポイント。
頸骨真下だけでは説明不足で結論から言うと踵、小指球、拇指球の3点に加重すると足部のアーチが効いて安定します。ハムストリングスを使うためには特に踵と小指球のアウトライン側が重要になります。


(5)骨盤前傾は意識しない
矛盾するようですが「正しい骨盤前傾の形を作るためには骨盤の前傾を意識しない事が大切です。意識すると脊柱起立筋等の働きで骨盤を背面からつり上げ、脊柱全体が反るからです。写真は間違った骨盤前傾の例です。









(6)少しだけ捻る
これも打撃の構えに見られる動きですが、写真のように後ろ脚股関節の斜めのラインに沿って体幹を捻ることで後ろ脚の股関節が割れます。 割ると骨盤が前傾しやすくなるので、さらにハムストリングスが使えます。

ピッチングの場合は下の写真くらいになります。(パンチャーを教えた投手)非常に微妙な程度ですが、それでも構えで僅かに後ろ脚股関節を割っておく事で重心 移動に入った時に格段に割りやすくなります。この構えだと若干、後ろ肩上がりに肩が傾きますが最小限に抑えれば大丈夫でしょう。それよりも気をつけたいのはバッティングの後ろ肘のように挙がってしまうと投球腕がスムーズに回りにくくなる事です。

ワインドアップステップではこのような軸脚のセッティングは出来ないので、これはセットポジションの強みと言えます。ただスタンス幅が広くなると(スインガーにとって特に重要な)ステップ幅が狭くなるので、そこは最も気をつけたい部分です。

(7)腕の内旋
胸椎が後弯すると肩甲骨が外転します(figure43)。 そして肩甲骨は鎖骨からぶら下がっているので外転する時には上方回転します(figure44)。さらに腕を前に出した状態で肩甲骨が上方回転すると、腕が内旋します(figure45)。 
ですから、下の写真のような腕の形にすると胸椎の後弯が作りやすくなります。
 またその反対に、胸椎が後弯した時にはこうした腕の形になるのが自然です。(もちろん腕を無理に捻ると力んで逆効果になる事は言うまでもありません。)写真はピッチングの構えで胸椎の後弯に連動して腕が適切に(僅かに)内旋されている例です。

これとは逆に胸椎の後弯が作りにくいのが下の写真のようなタイプの構えです。前腕が打者方向から見える感じが特徴的です。

ジオ•ゴンザレス等は、この点が結構、上手い例です。この腕の形からの方が両腕が割れた後のアームアクションが綺麗な形になります。元の骨格も関係あると思いますが。

ジオ•ゴンザレス 動画


(8)肩甲骨をかぶせる
肩甲骨を後湾した胸椎の上に被せると、肩甲骨を筋肉で支える必要が減るので肩回りがリラックス出来ます。荷物を持つ時もそうする方が楽ですし、腕を組んで肩甲骨を被せて立つと肩の力が抜ける事が解ると思います。













写真は肩甲骨の被せが出来ている例です。


バッティング型の構えではどうしても少し肘が浮きますし、それがベストバランスなのですが、それでも肘が上がりすぎると肩に力が入りますし、僧帽筋などの緊張で胸椎の後湾が作りにくくなります。バッティング型のセットポジションの構えでは肘が浮きやすくなりますが、この「肩甲骨を被せる」感覚が有ると、それを最小限に抑えられます。

※)胸椎が後湾すると肩甲骨が「外転+上方回転」するので若干ワキが開いて肘がお腹側に出ます。ココで無理にワキを閉めようとすると、胸椎の後湾(脊柱のS字)が作りにくくなります。(写真はほぼ自然な例)



(9)股関節で身体を折り、膝で折らない
これについてはココまでに書いて来ました通りで、腸腰筋の伸張反射を使うと股関節で身体を折る事がやりやすくなります。

ただ、ダルビッシュ投手の場合、やや膝が折れ気味なので、この状態から重心移動に入ると膝スクワットの成分が生じやすくなります。背中が真っすぐ気味で脊柱のS字がもう一つ効いていないので骨盤が前傾しにくく、股関節の屈曲角度が稼ぎにくいので、膝の屈曲で下半身を効かせているのかもしれません。脊柱が真っすぐになるのは主に2つの理由からで「(1)脊柱が前傾気味なのに首が立っているので胸椎が前湾しやすい」「(2)セットの腕の形が胸椎の後湾を作りにくいタイプになっている」というものです。これが右図のようになれば理想的だと言えます。膝屈曲ではなく股関節屈曲が主導の形です。

骨盤が前傾している事のメリットは下図のとおりです。左側の図はどちらも通常の立位ですが、骨盤が前傾していると、単に立っているだけで股関節が屈曲している事になるので、そんなに重心を下げないでも下半身を効かせる事が可能になると言う事です。同じ頭の高さの構えでも骨盤の角度によって股関節の屈曲角度が違ってくると言う事です。重心を下げるとスインガーの命である並進運動、つまりステップの幅が狭くなるので、これは非常に重要なポイントです。


また、脊柱のS字が出来るようになると写真の構えほど上半身を前傾しなくても、股関節を充分に屈曲出来るので、もう少し上半身を起こしても、この写真と同じくらいの感覚(下半身を効かせている感覚)が得られるはずです。


(10)軸脚股関節の割りと爪先の向き
(6)で書きましたが、少し捻る事で後ろ股関節を割る事が出来るのがこの構えのメリットです。そして股関節の割れとは股関節の斜め回転なので下図ABCのいずれもが股関節の割れです。もちろんピッチングの場合はAくらいの割れを使います。

つまり下図のような状態です。(写真の角度も見え方に影響しますが、イメージ的にはこのような感じです)

ところで、股関節が割れると大腿骨が開くので、その間に挟み込まれるようにして骨盤が前傾します。なので後ろ脚股関節が割れると、後ろ脚に骨盤が被さるようにして前傾します。そのぶん、後ろ脚股関節の屈曲角度を(重心を下げずに)稼げます。


※)重心を下げずに後ろ脚股関節の屈曲角度を稼ぐためのポイントは「捻って後ろ股関節を割る」「胸椎の後湾を作る(S字を作る)」の2点が重要です。

なお、膝には自動回旋機能が有り、伸展すると下腿部が回外し、屈曲すると回内します。僅かですが。

股関節の割れは膝の屈曲を伴うので下腿部が少し回内するため、股関節を割ると言ってもガニ股にはなりません。ピッチングの構えくらいの割れならほとんどプレートと平行に足を置くくらいの感じでも割れます。

なお、割るためのコツは後ろ脚股関節の斜めラインに反って身体を捻る事と、足裏の外枠に加重(土踏まずを浮かせる感じ)する事です。(爪先をあまり開かずに捻って割ると自然に外枠加重になります)


ところでダルビッシュ投手の場合、この割りは充分出来ており、そのため動作に入っても、3コマ目のように股関節が割れてくれるのは大きな長所です。軸足の爪先がやや開いているのも割れを使う感覚が有ってむしろ良いと思います。割れが深まる時にさらに爪先が開きますが、これも割と多くの投手に見られる例です。ただ問題は、この角度から見ても構えで膝が少し折れているのが解る点です。そこが改善されると、爪先の開きも(理想的には)もう少し小さくなると思います。

つまり打撃の構えで言うと、脊柱を立てて膝を折った「膝スクワットの構え」に近いものがあるのです。これが、股関節スクワットの形になれば、膝は折れないはずです。


まとめると、後ろ脚の股関節を割ると言う事は、重心を下げずに股関節の屈曲角度を稼いで「軸脚の筋肉が効いた構え」を作る為には非常に重要なポイントです。割る感覚が掴めてくると、自然に膝が折れる感覚は消えて行くと思います。



以上をまとめると、以下のイラストのようになります。細かい事を色々書いたようですが、これらは全て連動している事なので、全部出来ると「ハマる」感じになりますから、その感覚を憶えてしまうと考えなくても出来る事です。

以上のような構えの中で「軸脚股関節を割る」と「脊柱のS字を作り、股関節で身体を折る」が出来ると、必要最小限のスクワットで後ろ脚を効かせた構えが出来ます。



次はクイックモーションでハムストリングスを使うと言う事について書きますが、まずダルビッシュ投手の場合、大きく分けると日本で使っていた高重心のクイックとメジャー後に見られる低重心のクイックの2種類があるようです。


メジャー移籍後の低重心のクイックに関してはセットポジションの構えが低重心になった事で必然的にクイックも低重心になったのかなと想像しています(同じ構えから投げ分けられるため)。

ただ、クイックモーションの場合、前脚を挙げたときに重心が沈むので、基本的に構えから重心を下げてしまうと並進運動が小さくなりがちです。MLBの場合、パンチャーの投手が多いので、構えで軸脚を折っておいて、そこを土台に瞬発力で投げるようなフォームが多いのですが、ダルビッシュ投手の場合はスインガータイプなので、球速面だけを考えると高重心からのクイックの方が有利です。スインガーはパンチャーに比べてクイックや牽制はどうしてもやや遅くなるのですが、そのぶん縦の変化球が強みになりやすいので三振が取りやすく、そのあたりを考慮するとスインガーの場合はバッター集中的なピッチングスタイルが合うのかなと思います。

そこで下の連続写真ですが、見事な股関節スクワットになっています。実はこれにはれっきとした理由があります。ダルビッシュ投手のような回し込み式の脚挙げや、あるいは松坂や則本のような振りかぶり系、また大谷のようなその中間的な脚挙げのフォームの場合、どうしてもセットやワインドのように脚を挙げると、骨盤が後傾気味になりやすいので、むしろクイックの方が軸脚の動きが良くなりやすいのです。ですから、こうしたフォームの投手というのはクイックで球速が出せる(へたするとクイックの方が良い球が行く)のがある意味で長所です。

実際、この連続写真のフォームを動画で見ると、フォロースルーでの重心移動が豪快になっている事が解ります。またハムストリングスが効いているので軸脚がスクワットした時に体重を支える力が強い事が解ります。一方、低重心からのクイックの場合、構えでやや膝スクワットになっているので、そこから重心が下がったときに軸脚でカチッと体重を支えられずにそのまま沈むような重心移動になってしまっています。変化球を投げている事も理由かもしれませんがフォローでの重心移動もやや弱くなっています。

クイックを使う時、あるいは、その構えを決める時など、こうした事も考慮してもらえれば良いのではないかと思います。難しいのはセットの場合、最近の低重心の構えが魅力的な反面、クイックの場合は高重心の方が魅力的だと言う点ですね。ただ、そうすると今度はセットとクイックで構えを変えなければならないというデメリットが出てくる訳で。。ただ、そうした微妙なフォーム調節を上手くやるあたりがダルビッシュ投手の真骨頂だと思います。ただ、日本ハム時代のクイックはスインガーのクイックとしてはかなりのレベルのものだと思います(速さという意味では無くスムーズさと身体の力を使い切るという点で)。

ただ、特に高重心クイックでハムストリングスを使うため気をつけなければならないのは構えで軸脚の膝を突っ張らないと言う事です。突っ張ると重心が下がる時に膝で折れやすくなるからです。膝を緩めておくと、股関節スクワットが出来やすくなります。

膝が緩む感じは、腰を反って腸腰筋をストレッチし、その伸張反射で股関節で身体を折ってアスレチックポジションを作ると解ります。この時、骨盤が前傾する(股関節が屈曲する)ことによってハムストリングスが引き伸ばされるので、その伸張反射で膝が少し曲がるのです。この時の感じが「膝が緩む」感じです。構えで軸脚がこの角度になると、図の右端のようにハムによる股関節伸展で立つ形が出来るので、股関節スクワットになりやすいのです。膝を突っ張ると構えでハムが効かないのでスクワットしてもハムが効かない形のまま(膝スクワットの形)になってしまうと言うことです。


〜その15 完〜

2016年3月21日月曜日

ダルビッシュ投手フォーム分析 その14

ところで、なぜダルビッシュ投手にとってこの問題が大きなテーマになるのかというと、それは個人的な問題というよりも、回し込み式の脚挙げ動作そのものが抱えている問題であるからです。脚の挙げ方によってハムストリングスの使いやすさに差があるという事です。以下に例を挙げます。

1)もも挙げ型
 もも挙げ型は脚を挙げる時に骨盤がほとんど後傾しないので、ハムストリングスは比較的使いやすくなります。ですからもも挙げ型の投手はフォローでの軸脚の蹴り上げが強い打者が多いのです。


2)ライアン型
 ライアン型では脚を挙げる時に後傾した骨盤が下ろす時に前傾に戻るので、ハムストリングスが非常に使いやすくなります。最もハムストリングスの力が使えるタイプです。


3)振りかぶり型
振りかぶり型の動作では脚を挙げる時に腰が丸まり、骨盤が後傾しやすいのですが、この場合の骨盤後傾はライアン型の場合と違って脚を下ろす時に前傾に戻ってくれないので、ハムストリングスは使いにくくなります。


4)回し込み型
回し込み型の場合、振りかぶり型ほどは腰は丸まりませんが、捻りを作って腰を前方に送り出しながら頭を後方に残す時に写真のようにやや骨盤が後傾気味になります。この場合の骨盤後傾も、ライアン型と違って前傾に戻りにくい傾向があります。


つまり、どの脚挙げにも一長一短があるのですが、回し込み型の場合は流れるようなスムーズなフォームになる反面、ハムストリングスを使いにくい動作形態であると言う事です。ですからこのテーマが非常に重要になるわけです。各投法の長所短所は以下の通りです。

1)もも挙げ型:ハムストリングスは比較的使えるが、動きがギクシャクする。
2)振りかぶり型:動きがスムーズだが、ハムストリングスは使いにくい。
3)ライアン型:動きもスムーズでハムも使えるが、不安定でセットには不向き。
4)回し込み型:動きがスムーズだが、ハムストリングスは使いにくい。

ですから、ダルビッシュ投手のように回し込み式の脚挙げ動作を採用している投手にとっては、骨盤前傾とか、腸腰筋とか、ハムストリングスといったあたりの事が非常に重要になってくるわけです。そして改善策は以下の二通りです。

1)動作中の技術、コツなどに改善する
2)トレーニングによって改善する


それでは実践編に入ります。

〜ハム立ちと股関節スクワットをマスターするメソッド〜

まず、ピッチングで股関節スクワットを実現するためには、構えや動作の初期段階における立ち方が重要になります。それが出来たうえで、グラブを身体から離しすぎないなどのポイントを抑えれば、自然に股関節スクワットが出来るはずです。

STEP1 アスレチックポジション 
腰を反って腸腰筋をストレッチした後、股関節で身体を折って、アスレチックポジションを作ります。このとき「アゴを引く」「胸椎後弯の凸アーチを高い位置に保つ」「膝を緩める」「頸骨直下に荷重する」などを意識します。非常に重要な事ですが、骨盤の前傾それ自体は意識しません。意識すると脊柱起立筋などの働きで脊柱が全体的に反ってしまうからです。
  
STEP2 体重移動と連動した踵トントン足踏み
アスレチックポジションを作ったら動画のように両脚の間で体重移動を繰り返し、それと連動して踵を上げ下げさせます。  踵、頸骨でトントンと地面をノックします。


この時、踵で地面をノックした衝撃が骨を伝わって骨盤まで響く感じが重要で、それが出来ていると言う事はハムストリングスで立てていると言う事です。

STEP3 マシンガンタップ
STEP2の足踏みの状態から、動画のように素早く踵で足踏みしてみましょう。この時、手は身体の近くにおきます。そうすると踵側に加重してハムストリングスが使いやすくなるからです。この運動をするとハムストリングスが疲労するはずで、そうなればハムストリングスを使えているという事です。事前に腰を反ってアスレチックポジションを作ってから行う事が重要です。


STEP4 揺らぎ8の字体操
体重を受け止めた股関節は屈曲しますが、屈曲=割れなので、つまり体重を受け止めた股関節は少し外旋します。STEP2の動きに、股関節の円運動の要素を加えた体操です。より股関節を上手く使えるようになるための体操です。


両手で8の字を描きながら、股関節の円運動を誘導してやることがポイントです。もちろん、踵でトントンする事が非常に重要です。これは打者が打席でやる「揺らぎ」の時と同じ身体の使い方です。


打席の図で表すと、股関節と手で下図のように8の字を描くわけです。
 
STEP5 リズムタッピング
より強くハムストリングスを効かせる感覚を掴む体操です。腰を反ってアスレチックポジションを作ったら、動画のように踵でトントンとリズムを取ります。踵が着地した時、股関節伸展で押し込むのがコツで、ハムストリングスによる股関節伸展で地面を押さえる感じが掴みやすいでしょう。動画よりリズムが遅い方が感じが出やすいでしょう。このジェームズ•ブラウンの踵でトントンする感じこそがハムストリングスを使っている感覚で、そこに黒人プレーヤーの強みがあるわけです。

(実演動画準備中) 

ここまででハムストリングスで立つ感じがだいたい掴めたのでは無いかと思います。次は、股関節スクワットの感覚です。高重心と低重心の両極端でハムストリングスを効かせる感覚を掴めば、その間も自然に掴めるという考えです。


STEP6 踵足踏みスクワット 
動画のように、踵でトントンしながら重心を下げて行く体操です。事前に腰を反って腸腰筋をストレッチしたあと股関節で身体を折りアスレチックポジションを作ってから、踵で地面を強くノックする事を意識して行ってください。


感覚的には図のように、下腿部が杭だとしたら体重でそれを地面に打ちつけながら沈んで行く感じです。股関節伸展の力は頸骨から地面に伝わるので、このポジションを保てば、ハムストリングスの効いたスクワットの形が出来るというわけです。動画を見ると股関節スクワットの形になっている事が解ると思います。

手を身体に近くに置いて踵(頸骨の真下)に加重しやすくする事、アゴを引いて胸椎を後弯させ、脊柱のS字を作ること、頸骨を立てた状態に保ち、膝が前に出ないようにする事等がポイントになります。また、このスクワットでは股関節が割れます。ゆらぎ8の字体操のところで書きましたが、股関節の屈曲=割れだからです。


上記の6STEPメソッドを繰り返す事で、ハムストリングスの効いた時の感覚を身体に覚え込ませる事が出来るはずです。その感覚と膝スクワットで大腿四頭筋が効いた感覚を比較すると違いは一目瞭然でしょう。

ではこのテーマの最後に、こうしたハムストリングス立ちの感覚を投球動作に活かすためのコツについて書きます。

軸脚のハムストリングスを投球動作で使うためのコツ

まず前提として、ワインドアップ(振りかぶらない)の脚の運びをワインドアップステップという事にします。このワインドアップステップを上手く使うと、ハムストリングスを効かせやすくなります。

まず結論から言うとMLBとりわけ南米系の選手はワインドアップ時のステップが上手いです。上手いというのはハムストリングスを使うという観点でです。まずは動画を見てください。南米式のステップです。最後の2人は私がその動きを教えた例です。このステップが膝スクワットを防ぎ、ハムストリングスが効く股関節スクワットを実現するために非常に重要になります。


次に日本式の典型的な例として田中将大投手を挙げます。


何が違うのかというと、南米式は前脚を後ろに引いた時に軸脚の膝を緩めている点です。写真の(3)の時点です。日本式が前足を後ろに引く時に身体全体を後ろに引いてしまうのに対して南米式では頭を軸足の上に残すイメージで前足を引きます。こうする事で写真の(3)のように後ろ脚に対してやや前傾軸が出来ます。
 
なぜ、このステップによって軸脚の膝が緩むかというと、下図のように軸脚に対して前傾軸が出来る(骨盤が前傾する)事で、ハムストリングスが引き伸ばされて、その伸張反射で収縮する時に膝が曲がるからです。ハムストリングスの伸張反射で膝が緩むのは膝カックンと同じです。

膝カックンというのは脚気の検査(図の右端)のハムストリングス版です。脚気の検査は大腿四頭筋の伸張反射です。つまり、前足を引いた時に軸脚の膝をカクッと緩めるというのがコツなのです。日本式のステップだと、後ろ脚に対して前傾軸が出来ないから後ろ脚の膝カックンが起きてくれないのです。

ここで軸脚の膝がカックンする事により、下図のように「股関節伸展で地面を押す形」が出来上がるので、ハムストリングスで立ちやすくなるわけです。しかもハムストリングスの伸張反射で膝が緩んでいるわけですから、なおさらハムストリングスが効きやすい状態になっています。


この南米式というかメジャー式ステップのポイントは2つあります。

(1)2回足踏みする。
日本式ではプレートに軸足をセットする時の一回しか足踏みしませんが、メジャー式では軸脚の膝をカクッと緩める時にも足踏みするので、合計2回足踏みしますここでポイントは構えから脚挙げまでの約90度のターンを2度に分けて行う事です。これによって脚を挙げる時の捻りが小さくて済みます。

ただ、ペドロの場合はプレートに足をかけ気味なので、軸脚の膝が内に入り、折れやすいという問題があります。


(2)手の動き
下の写真(斉藤佑樹)のように、構えた時には手の位置が低い方が楽で上半身の力が抜けるぶん、地に足が着く感じがします。しかし、脚を挙げて重心移動が始まる時には写真の3コマ目のように手を肘より挙げておいた方が良い事は前述しましたとおりです。この1コマ目と3コマ目の腕のポジションそれ自体はほとんど理想的です。

ただ、この写真の問題は、手を上げる動きをこのように投球動作の導入部でやってしまうと腕から投球動作が始まるので腕主導のフォームになり、下半身体幹部の力をロスしやすくなる点です。脚を挙げ始めるまでには手は既に挙げておきたいのです。

この点にメジャー式ステップのメリットがあります。(動画の例ではあまり見られませんが)図のように前脚を引いて上半身が軽く前傾するのに連動して両肘が身体から離れて手が挙がる』という事です。この動作では体幹部との連動で手を挙げられるので、腕力で挙げてる感じにはなりませんし、これにより前脚を挙げる始める前に腕を挙げておく事が可能になります。


以上がメジャー式ワインドアップステップですが、これにより軸脚のハムストリングス立ちの状態が作りやすくなります。その結果、股関節スクワットが実現しやすくなります。

ただ、ここまでの動画例などは多くがメジャー式の脚挙げなので、ここで「メジャー式ステップに(ダルビッシュ投手の)回し込み式脚挙げを組み合わせた動作」を実演してみます。捻り動作がコンパクトになる利点が有ると思います。解りやすくするためにステップの動きを大きめに強調しています。実際には軸脚でトンする動きを強くしてしまうと悪い意味で軸脚が曲がらなくなってしまうので、おとなしめにする事がコツです。

「頭を軸足上に残し気味にしながら前足を引く」「前脚を引く時に軸脚の膝を緩める」「2回足踏みする」「2回に分けてターンする」「前脚を引く時に手を挙げる」などの要素が盛り込まれています。

〜その14 完 〜