2013年3月31日日曜日

重いバット

テレビを見ていたら巨人の村田が重いバットを使っているそうだが、軽いバットを使った方が良い。動くボール全盛の時代にあっては、重いバットでヘッドを効かすイメージよりも軽いバットでスイングを速くして、そのぶん引きつける事で対応するイメージの方が結果が出やすいだろう。巨人にいたアレックス・ラミレスも統一球対策でバットを重くした事が有ったが、目立った結果は出ていなかったと思う。確か統一になって指がボールに引っ掛りやすく、ボールが曲がりやすくなったように聞いたが、それであればなおさら統一対策として、重いバットは相応しく無い事になる。

賛否両論有る統一球だが、個人的には大賛成だ。ボールの変化が大きくなると言うなら特に大きな価値がある。何故なら、素直な真っすぐを投げる投手が多い日本の野球では、そのくらいで丁度良いからだ。一方、アメリカはアメリカで空気が乾燥しているぶん、投手がボールにツバを付けたりする事に対して寛容であると聞いた事が有る。日本人の場合、ツバ=汚いと言う感覚が欧米人よりも強いし、湿度の高い気候のため、ツバを付ける必要も無い。なので、国内リーグだとなおさらボールは動きにくい環境にあるので、統一はなおさら必要だろう。

統一が導入される前は、日本のボールはメジャーのボールよりも一回り小さいと言われていた。そうした環境の中でホームラン30本だ40本だと言っていては世界に通用する打者が育たなくなる。そもそも今回のWBCでも敗退はしたものの、日本打線はキューバやオランダや台湾レベルの投手に対しては、非常に良く機能していた。打線を比較しても、それらの国の打線よりも良く繋がっていたが、これなどは統一の成果の一つだと見ていい。つまり、飛ばないボールに冷や水を浴びせられて鍛えられた日本の打者がミートする事に重点を置くようになった結果が、今回の打線の繋がりを産んだと言う事だろう。実際、長打を狙わずにボールに喰らいついて行こうと言う姿勢そのものは参加国の中でも一番良かったと言っていいくらいだ。ただ、惜しむらくは動くボールに対応する能力が鍛えられていなかったということだ。

話を村田に戻すが、村田は「重いバットを使って、バットを落とす感覚で打っている」と言っているそうだが、村田のメカニクスを考えると、そのような小洒落た事を言わずに、軽いバットを使って筋肉の力で思い切りボールをぶっ叩いてやれば良い。

打者のスイングが大きい事と言うか豪快に振る事は、とかく大振りと非難の対象になるが、重いバットを使う事は非難の対象になりにくい。しかし私の考えではスイングは豪快であるべきだが、バットは軽くするべきだ。スイングを小さくしようとするとメカニクスが悪くなるが、バットを軽くする事でメカニクスは悪くならないし、むしろ良くなる。であれば「正確性を高める」と言うテーマをバットを軽くする事によって追求した方が良い。スイングを小さくして当てに行くということは投球に例えると置きに行く事と同じであるから、本当にキレの有る球や速い球には対応出来ないだろう。だから無茶振りにならない程度に思い切り打って行った方が良いのだ。むしろ重いバットを(試合で)使う方が飛距離に拘っている事を意味するので、非難の対象になる。「そのリーグで最も速い球を投げる投手のインコース高めを打てるかどうか」がバット選びの基準になるべきだ。その球が打てないようなバットなら、その選手にとっては重すぎると考えた方が良い。結局は、そのカテゴリー(硬式、社会人、プロ、少年野球)の中では一番軽いランクのバットを使うのが賢明な選択と言えるだろう。それで体そのものの力とスイングスピードで飛ばしてやれば良いのだ。

ところで、同じ巨人の選手でもWBCに出場した阿部は、興味深い事を言っている。

http://hochi.yomiuri.co.jp/giants/news/20130328-OHT1T00290.htm

新フォームで東京Dでの最終調整を終えた4番は「バットを振り下ろすイメージだね。強く叩くことを意識している」と説明した。よりスピンのかかった打球が右翼席へと放り込まれた。WBC後から取り組んだ新打法は、威力が違った。キューバ、プエルトリコなど各国の強打者のスイングを見て学び、究極のダウンスイングを手に入れた。昨年、打率と打点の2冠を獲得した4番は「今年はホームランはあえて狙わない。狙うとろくなことがない」と無欲を強調しながらも、アーチ量産への下準備を整えていた。

ダウンスイングについてはさておき、中々正確な観察眼をしていると思った。ダウンスイングと言うのも、彼等の素振りを真近で見たためだろう。強く叩く事を意識していると言うのが良い。「ホームランを狙わず、強く叩く」一見、矛盾しているようだが、要するに動くボールに芯を外されてもヒットになるようにしようと言う事だ。

ただ、これで阿部に結果が出るとも限らない。何故なら、スインガータイプとダウンスイングは極めて相性が悪いからだ。しかし、阿部の取り組み自体は、極めてこれからの野球に適応しているものだと言える。そして、それでこそ国際試合に参加した意義が有ると言うものだ。

最後にもう一度村田だが、重いバット云々の彼の選択は非常に残念な所だ。村田なら3割20本のラインを狙って行けば、全盛期のジェイソン・ジアンビを右打者にしたような実に良い打者(そのNPB版と言う意味)になれると思うのだが。。

2013年3月30日土曜日

二刀流?

日本ハム大谷翔平の二刀流が話題になっているが、非常に疑問を感じる判断だ。そもそもアメリカや中南米と違い、日本人の中から、あれだけ上背が有り、技術的にもソツの無い投手は、そうそう出て来る物では無い。どう考えても投手として大事に育てるべきだろう。本来なら、今年一年、二軍で経験を積ませても良い。前半を二軍で過ごし、後半にボツボツお目見えし、来期から本格的にスタートを切ると言うのが妥当な線だと思うが。

WBCで敗退し、もう一度、日本代表を一から作り直そう的な状況の中で、藤波や大谷のようなタレントはその中心になるべき人材であるはずなのに、日本野球のレベルの中だからこそ通用するような二刀流をやって喜んでいて良いのだろうか。

日本ハムは大谷を「大きく育てたい」と思っているのだと思うが、それは「NPB的な視点での」大きく育てたいであり「世界的な視点での」大きく育てたいでは無いと言う事なのだろう。あるいはそうした発想が出て来ないということは世界の野球を本気で見ていないと言う事なのかもしれない。

また、野手をしていて、余計な怪我をしたらどうするのだろうか。何をしていても怪我をする可能性は有るが、余計な事をして怪我をする必要は無いではないか。また、将来的にはメジャーを志望しているそうだが、それであればなおさら二刀流等と言っている場合では無い。世界のトップレベルのプレーを見ていれば、こうした発想は出て来ないと思うのだが。。

とにかく、この判断は(大谷が上手くいこうがいかまいが)褒められたものでは無い。にしても、高卒の二刀流ルーキーに開幕からレギュラーの座を明け渡す日本プロ野球とは何なのか。

ついでにどうでも良い話だが、現役プロ棋士(プロキシ)がコンピュータに負ける。このニュースややこしい。実際、聞いてるとコンピュータが勝ったのか負けたのか途中から混乱して来る。制作側も面白がっているフシが有る。

2013年3月27日水曜日

ホセレイエスJr君 3回目

本日は御来店ありがとうございました。



まず、すぐにでも修正した方が良いポイントは、クイックでの手の位置で、もう少し体に近く、もう少し肘より上に手が来るようにしてください。体から離れると爪先重心になりますし、手の位置が低いとテークバックで肘から挙りにくくなります。肘は今の位置のままで手だけ上に挙げるということです。このへんは肩や肘の故障とも関わる問題ですので、重要です。

写真で言うと、今青○の位置に有る手を赤○の位置に置くようにしてください。


バッティングに関しては、ホセレイエスJr君の、最も大きな課題の一つは、股関節を割った形を作るということです。ラボでは出来ているので、本来は出来ないということでは無いと思いますから、そこをチェックしてください。それが出来るようになると、もっと前脚股関節が良い感じで割れて着地し、腰の回転も大きくなると思います。

まず、股関節を割るストレッチでは、爪先を開き過ぎず、アウトエッジに荷重し、脚の内側のラインがたわむ感覚を重視してください。そして、実際に構えを作る時は、割る意識は必要有りませんので、揺らぎを利用して割ると、自然に割れるようにしてください。そのためにも股関節を割るストレッチを普段からしておく事が大切になります。

構えで股関節が割れた状態を作るための感覚的コツを書きます。下図のように、アウトエッジ荷重で爪先を開き過ぎず、脚の内側のラインにたわみを作ると、両脚の間に大きなボールが挟まっているような意識が生まれます。


この状態から前脚の膝を内に、後ろ脚の膝を外に向けた形を作っても、そのボールの意識が無くならないようにしてください。そうすると、その感覚と、アウトエッジ荷重との関連も解ると思います。そして、それが「両脚股関節を割ったうえで、後ろ脚の膝が外、前脚の膝が内に入る形」が出来た時の感覚です。この感覚を忘れないようにしてください。

ただ、アウトエッジ感覚とボールが挟まっている感覚を誇張し過ぎると、おかしな事になって来るので、ここでもバランス感覚が重要です。フワッとボールが挟まっているかいないかと言うようなソフトな感覚が重要です。ただストレッチでは誇張してボール感覚がクッキリ生まれるようにしておいてください。打撃の構えではストレッチ程重心を下げない(股関節を割らない)ので、感覚もそのぶんソフトになるわけです。

次の今回の動画を見ていて気になった点は、当日、捻りを利用して懐を作る事等を重点的に行なったせいか、写真のようにやや上半身が捕手側に傾いている構えになっている事です。

これについてはゴルフの左一軸打法を例に説明しましたが、右耳、首筋から左足に至る前軸を意識した素振りを取り入れる事によって修正してください。

このように人の字が出来ます。なお、この前軸は捻りを入れる事でより強く感じられます。前言と矛盾するようですが、捻ろうとした時に水平の捻りや後ろに傾く動きが生じると良く無いということです。そうでは無く後ろ脚股関節のラインに沿った捻りが出来ると頭が若干投手寄りに出て来ますので、それによって前軸が意識しやすくなるのです。そして、前軸素振りで重要な点は、後ろ脚股関節が割れていなければならないと言う事です。捻りを強調して前軸が出来るのですから、それに連動して後ろ脚股関節が割れるということです。それによって後ろ脚サイドのパワーも使えるということです。これが出来なければ、左一軸では力強く振れません。

イメージ的には下の写真のようになります。つまり「前軸に乗せて、後ろ脚を割る」と言う事です。

もちろん、この意識はあくまでも前軸を作るための練習のための意識であって、最終的には全体のバランスの中に消化されなければなりません。ただ、前軸素振りが上手く出来たら、前軸が効いたスイングになりますから、巻き戻しが力強くなります。そこを見るようにしてください。

キューバのグリエルも捻りによって頭が投手寄りにきます。このアングルから見ると、それがやや強調されて見えますが。

捻りを強調してオープンスタンスで構えるブランコも良い位置に頭が有ります。(オープンスタンスは特にオートマチックステップの場合は良く無いですが。)

ケン・グリフィーJrも、良い位置に頭が有りますね。ライアン・ハワードやバリー・ボンズも良い例です。

そして、この「前軸素振り」は「捻って体の捕手側に懐を作る素振り」や「捻って後ろ脚が効いて地面を捉える感覚を強調した素振り」とのセットでやると良いでしょう。そして最後は「Xのライン」でバランスが取れるようにすることです。

打撃に関して、その他の話題ですが、当日の動画ではやはり置きティーを多用した悪影響も出ています。ただ、その辺の事は一過性のもので、直ぐに治ります。(集中力を保つ意味や、打球でスイングの善し悪しが判断しやすい意味、短時間で数が打てる意味からも、置きティーを多用しました。)巻き戻しも、正面からのボールを打つと、もっと強くなって来るでしょう。置きティーの悪影響と言っても、それは素振りやフリー打撃中心に戻せば、すぐ治る事ですし、さほど気にする必要も無いですが、普段の練習でも置きティーやトス(斜めからのティー)には出来るだけ頼らない方が賢明です。重要な事は顔の向きによってスイングが変わって来るということで、その理屈と、修正方法(投手方向あるいはインハイ気味のポイントを見つめた素振り)さえ掴めていれば、悪い練習というほどでは有りません。

つまり、ティー打撃で顔の向きが変わると手首の返るゾーンが下図のように違って来る訳です。こうした面が、当日のラボでの動画にも見られます。

また、最後に撮影した置きティーで前脚の爪先が開いていますが、これは最後にテスト的に行なった「前脚股関節伸展を使って骨盤を回転させるトレーニング」のマイナス面が出たのかもしれません。あのトレーニングはやり過ぎないようにしてください。

また、もう一つ、揺らぎが雑でせわしなくなりやすい傾向が有りますので、腸腰筋ストレッチの後、骨で立つ感覚を確認し、揺らぎ体操で体の芯の軸を中心にゆったり揺らぐ感覚を掴むようにしてください。動画のアンドリュー・ジョーンズは良い例です。そして止まってから打つ事を重視してください。

ハムストリングスを使って立つ事が上手くなると(力の発揮する方向と重力が一致するから)筋肉に負担がかからないので、止まっても非常にリラックスしていられます。そうすると長く止まっていられるので、タイミングについて考える要素が一つ減りますからシンプルに打てるようになります。下の動画のエイドリアン・ベルトレイは、それが非常に上手く出来ています。ベルトレイは腸腰筋が効き、ハムストリングスで立つということについては非常に上手い打者です。重心が高いので骨で立つ感覚に近いでしょう。


ただし、必ずしも、長く止まるのが良いということはありません。実際、この動画のベルトレイは長く止まり過ぎたせいもあり、良い意味での重心移動の流れが寸断されて、やや後ろ軸のスイングになり、前脚が開き気味です。(特にベルトレイの構えは捻りが小さいので後ろ軸になりやすいですが。)

ただ、実戦では投手にじらされて「長く止まらされる」ケースもあります。そうした中で高いパフォマンスを発揮する上でも、ハムストリングスを効かせて立ち、長く止まって待てるということが重要になるわけです。

投球編

かなり良い感じになって来ました。ただ脚の挙げ型は修正しきれなかったのですが、それについては後日書きます。まだ前脚が突っ張り気味で、そのぶん脚の挙げ型がせわしなく、また重心が爪先寄りに来る問題は残っています。先取り的に書いておくと、恐らく振り子のようにブラーンと振るイメージが強すぎるのでしょう。確かにそういうふうに言いましたし、それは間違いでは無いのですが、あくまでも導入期にイメージしやすくするための表現で、そのイメージのデメリットが出てしまうと、今回のように前脚が畳めないようになります。極々かんたんに言うと、振り子のヒモの付いた重りがスイングするイメージが脚を伸ばしたままにしているのだと言う事です。

腕の振りについては良いものがあります。

日本人にはあまり見られない形ですが、中南米系のパンチャータイプには典型的に見られる形です。もちろん、ペドロ・マルティネスもそうです。(ペドロのフォームをよく見てる人はホセレイエスJr君のフォームを見て、絶対に「ペドロだ!」と言います。)私はそういう投手を山ほど動画で見てますが、本当にこうしたフォームは中南米では右投手の基本形と言っても良い程スタンダードなものです。特に2コマ目から3コマ目が特徴的なのですが、通常の投球理論的な表現で説明すると、投球腕が最大外旋に至るシーンが2コマ目から3コマ目です。スインガータイプならこのシーンで肩関節外旋と同時に肘が畳まれるのですが、パンチャータイプの場合は外旋すると同時に肘が伸びて行き、そのままリリースに向かって投球腕がスイングされます。このあたりを見ても典型的なパンチャーのスイングになっている事が解ります。前脚が伸びているのもパンチャーでは良い事です。いわゆる「前脚が突っ張る」フォームなのですが、突っ張るフォームで良く無いのは、投げた後に後ろ脚が前に出て来ないフォームです。パンチャーであっても、これは良く無い形なのですが、突っ張った後に後ろ脚が前に出て来て一塁側に着地するのは、パンチャーの正しい動きです。

ただ、腕の出所は、後少しだけ高い方が良い感じがします。このあたりは勘でしか無いのですが、もう少し後ろ脚の力が使えて重心移動が大きくなると、腕の出所の少し高くなると思います。そして、そのための改善ポイントが問題となっている前脚の挙げ方だと言う事です。

その後日書くと書きました、脚の挙げ方ですが、下の動画の練習をやってください。感じがつかめたら繰り返しやる必要は有りませんが、少しづつでもやって、出来るだけ早く感じがつかめるようにしてください。

走るときのような腕振りになっていますが、その他のポイントは、ピッチングでの脚挙げのポイントと同じです。軸足踵で踏んで前脚を挙げるなどです。ホセレイエスJr君がもう一つで来ていないのは、脊柱をやわらかく使う事ですが、これも振り子のイメージのせいかもしれません。上半身を背中側に倒すと前脚が挙るメカニズムを頭を倒さないで元の位置に残して行なうと、脊柱が柔らかく曲がってくれます。そうすると楽に前脚が高く挙ります。

私やまーやんさんのように、脚を挙げたところで膝が曲がるようになってください。現状では脊柱の彎曲や骨盤の回転が上手く使えておらず、股関節屈曲にたよって前脚をスイングして挙げているため、大腿四頭筋の緊張(収縮)によって、膝が伸びたままになってしまっているのです。骨盤の後傾と、脊柱の彎曲を使って前脚を挙げる事が出来るようになると、大腿四頭筋をあまり使わなくて済むので、膝が曲がりやすくなります。(膝は曲げようとしなくても、股関節屈曲によってハムストリングスが伸張されるので、その反射で自然に曲がります。)ホセレイエスさんなら既に上記の内容が理解出来ると思い、比較的高度な書き方をしていますが。

現状では、膝が伸びているので、足部が体から離れ過ぎ、後ろ脚が爪先荷重になりやすく、それがハムストリングスを使いにくくしています。(使えていない事は無いですが。)これが、もっと膝が曲がるようになると重心が踵側(頸骨の真下)に乗りやすく、ハムストリングスを使いやすくなります。この辺が改善されると、もう少し重心移動が大きくなり、腕の出所ももう少し高くなると思います。

振り子のイメージと言うのは、広島の前田健太や藤川球児、ヤンキースの黒田のように典型的な日本人式の脚の挙げ方からメジャー式に転換する場合に初期の段階で使うイメージの言葉掛けなのですが、ホセレイエスJr君くらいの段階になると、もう必要無いでしょう。それより、骨盤の回転(後傾)を使うイメージに切り替えた方が良いです。そして、前脚は意識から消すくらいの感覚で良いです。なれて来ると、そうした事を別段意識しなくても体が憶えてくれますが、とっかかりとして、そうしたイメージを持って下さい。

下図はイメージの良い例と悪い例です。良い例のように、体幹部に近い部分を意識すると、良い感覚が掴みやすいでしょう。

振り子のように前脚を伸ばしたまま挙げてしまうと、大腿四頭筋は緊張する(股関節屈曲と膝関節伸展を同時に行なうと大腿四頭筋を最も使う事になる)し、また、ハムストリングスは極度に伸ばされます。(股関節屈曲と膝関節伸展を同時に行なうのはハムストリングスが最も伸びる運動なので、ハムストリングスの静的ストレッチで使われる)このように大腿四頭筋が緊張しハムストリングスが突っ張った状態だと、前脚を挙げている状態が苦しくなりますから、おそらくその感覚が有るので、現状のようなせわしない前脚の挙げ方になっているのでしょう。前脚の上げ方がせわしないと言うのは現状のフォームの大きな問題点の一つです。

また、現状では前脚をスイングして挙げたいイメージが強いせいで、後ろ脚をプレートに向かって踏み出す動きが大きくなっています。つまり、それによって前足を後方に残し、前脚をバックスイングする効果を生み出しているのです。もちろんこれはワインドアップのステップにおける重要な効果であり意味なのですが、強調しすぎると(プレート上に)踏み出した後ろ脚に体重が乗りにくく(身体から前に出過ぎるので)後ろ脚の踵の踏みが弱くなる問題が生じます。

もう少し、身体の近くに後ろ脚を踏み出してやると、ハムストリングスを使った踵の押しが強くなるので、そのハムストリングスの力で骨盤が後傾し、前脚が楽に挙るようになります。(これが後ろ脚踵でトンと踏むと前脚がポンと挙るメカニズムです。)この辺も改善の余地がある所です。

なお、ピッチングについては、下地としてのフォーム作りとしては脚を出来るだけ高く挙げたダイナミックなフォームを作っていきたいのですが、最終的にバランスを崩しやすく制球が乱れる場合、そこから実戦の中でコンパクトにしていく対応も求められます。


では、最後、もう一度打撃について書きます。

打撃実戦編

トップ型のパンチャータイプの大きな命題の一つが、やはりトップ型で構える事によるバットの重さと言う問題です。これは振る力を付けるための練習で力を付けて行くのは当然重要ですが、実戦の中で、どのタイミングで構えを作るかということをよくシミュレートしておく事も大切です。

例えば、youtubeには下のような動画がいくらでも有りますが、こうした動画を使って、ワインドアップ、セットポジション、クイックモーション等によって、どういうタイミングで構えを決めると、構えの時間が短くなり、なおかつ構え遅れないかということを研究してください。(バックネットからの撮影でなくても、内野席や、最悪、外野から撮った動画でも使えます。ポイントは編集していない定点撮影ということです。)




また、ホセレイエスJr君の、この点に関する課題としては、もう少し止まって(静止して)待てるようにした方が良いですね。

揺らぎにともなって、バットが回転するのですが、そのバットの運動を受け止める手や前腕部の筋肉も緊張を強いられます。これは試してみると直ぐに解ると思いますが、バットが回転しぱなっしだと、特に緊張しやすいのがトップハンドの前腕部です。そして、トップハンドの筋肉が緊張した状態でスイングに入るので、スイングもバットを捏ねるような軌道になります。以前、自宅ゲージの動画で正面から撮影したものの中に、そうしたスイングが何度か有りました。この場合、手が出るのが(体の回転に対して)早くなってしまうので、体の回転も途中で止まってしまいます。もしかしたら、ホセレイエスJr君の「体の回転が小さい」と言う問題も、これが原因(又は原因の一つ)かもしれません。実際、コネているスイングではかなり回転が小さいです。

この動画の、投手からのアングルの二球目は特に捏ねていますね。そこで、気になったのは「最近、長打が出なくなった」と言う事についてですが、こうした筋肉の緊張に伴う問題は、時間が経過すると共に悪化してきます。そういう目で見ると、この一つ前の動画に比べて、スイングが小さくなってるようにも見えます。

完全に静止しても、3〜5秒くらいは待てます。それでも相手が投げて来なければタイムをかければ良いのです。最初に揺らいでいて、構えが出来たら、後は止まって待つようにしてください。ずっと揺らぎっぱなしだと特にトップハンドの前腕部が緊張しやすいからです。そして、タイミングによっては完全静止の直前に投げられる場合も有るかもしれませんし、静止から3秒後に投げられる場合も有るでしょう。この辺のバラツキは想定の範囲内としなければなりません。そして、静止してから5秒くらい経っても投げて来なければタイムをかけたら良いのです。(揺らいで待ってる時間も合わせると10秒近く待ってる事になりますから、タイムをかけても、当然の状況です。)

特に、バットを支える手首から前腕部に余計な力みを作らないために、静止して待って打つ感覚を身につけた方が良いでしょう。今回の動画で、ホウキを振っているものが有りますが、あの時は静止してから振ると言う練習だったので、それが出来ています。あの感じで打つということですね。以前の試合の動画では構えが決まってもずっと揺らいでいますが、構えが決まったら、じょじょに揺らぎを止めて行った方が良いです。

素振りの中で、揺らいで〜止まって〜振る と言う事を習慣付けてください。特に、止まってから振るまでのタイミングを1秒にしたり3秒にしたりと自分でバラツキを付けると、より実戦的になるでしょう。

最後に、構えの力を付ける練習は、その後に必ず腕回しやシャドーをして、特に右肩の動きを柔軟に保つようにしてください。そしてまたやり過ぎない事も重要です。(一日5回〜10回くらいでしょう)地道にコツコツと続けてください。

今回は以上です。






2013年3月24日日曜日

新しいシンキングベースボール

ベースボール・パフォーマンスラボでは、古い日本野球から解き放たれた、新しいシンキングベースボールを提唱します。古い日本野球を斬り、その「反動」としてのアバンギャルドな「新しい」野球の潮流も斬ります。その両方を斬って始めて「古い日本野球」から解き放たれたと言えるためです。

なお、野球ではプレー毎に状況が異なり、そこで取られる戦略も状況事に異なって来ます。ですから、ここでのテーマはそうした様々な状況における判断の基となる「思考」を提示する事であり、様々なテーマにおける絶対的な答えを提示することではありません。

それでは前置きはさておき、早速各論に入って行きましょう。

(1)「ゴロを打て」は本当に「古くて間違った指導」か

特に選手の力が無い高校野球までは「ゴロを打て」と言う指導がなされる事が多く、無理矢理にダウンスイングに矯正させられる事も有るようです。こうなると、スイングそのものが小さくなってしまい、その選手の可能性の芽を摘み取ってしまいかねません。そのため「ゴロを打てなんて古くて間違った教え方だ」と言う意見が今ではむしろ主流になっています。でも「本当にそうなの?」と、ここで立ち止まって考えてみましょう。

野球と言うゲームは、攻撃側が一つでも前の塁にランナーを進めて、その結果としての得点数を競うゲームです。そして、フライが挙っている間、ランナーは前の塁に進む事が出来ません。ですから、犠牲フライが求められる場面と一発狙いが許される場面を除き、極力フライを打ち上げない方が、攻撃側には有利なのです。

次に、守備側の視線で考えてみると、フライは落ちて来る球を取れば終わりですが、ゴロの場合、ゴロを捕球してから一塁手などにボールを送球しなければ、アウトを取る事が出来ません。つまりショートゴロを例に考えると「ショートが正確にゴロを捕球し」「正確に一塁に送球し」「一塁手が正確に捕球する」と言う3つの行程を経なければならないわけです。また、ゴロの場合、グラウンドのコンディションによって打球のバウンドが変化する事が多く、これも内野手のミスを誘発する原因です。

「相手のミスを狙うなんて姑息な野球だ」「そんな野球では上のレベルで通用しない」と言う声が聞こえて来そうですが、果たしてそうでしょうか。相手のミスも含めて、少しでも勝ちに繋がる可能性の高い手段を選択する事はスポーツ戦略の基本です。これはボールにジェルを塗ったりする反則とは明らかに異なりますし、隠し球に代表されるトリックプレーのような「野球の本質から外れた、場当たり的なその場限りの一発芸」とも異なります。極力フライを打ち上げないと言う事は、野球と言う競技の本質に則った、攻撃側の行動指針の一つなのです。そしてメジャーリーグのレベルになると、打者が打つ打球も速いので、守備のレベルが高くても、やはりファンブルは起こりえます。

ですから、高校野球までの期間と言うのは、特に「フライを挙げるな」と言う事がやかましく言われる場合が多いのですが、ここで問題となるのは、その結果としてダウンスイングが教えられる事です。

この考えは戦略的な観点から見れば間違いでは無いのですが、野球の本質はそれだけでは有りません。と言うよりも、もっと大きな本質として打者と投手の勝負から全てが始まると言う事があるのです。そして、この場合、主眼は人間の身体運動と言う解剖学的、物理的な問題になって来ます。そして、そうした観点から見た場合、ボールを上から叩き付けるダウンスイングと言う物は、あまり上等なものでは無いのです。つまり、そうしたスイングでは、まず投手と打者の勝負に負けてしまいます。最も単純な説明では、地面と平行な軌道で飛んで来る投球に対して上から叩き付けると空振りの可能性が増えます。投手のレベルが向上している事を考えると、この視点も軽視出来ません。

また、野球は確率のスポーツなので、その場限りのパフォーマンスの事だけでは無く、良いパフォーマンスの発揮を持続する事を考えなくてはなりません。例えば低い打球を打てばヒットになりやすいからと言って、そうしたスイングを重ねてしまうと、スイングのメカニクス自体は悪くなってしまいます。スイングのメカニクスと野球のゲームの性質は完全に切り離して考える必要があります。これが野球の技術論を考える時に最も難しい点であり、今までもシンキングベースボールに欠落していた視点なのです。つまり、野球と言う競技の特性を考えると低い打球を打った方が良いのですが、スイングメカニクスを考えると、そうした事は気にしない方が良い。そういう曖昧で複雑、一筋縄では行かない所も野球の面白さであり懐の深さなのです。

さらに、打撃の基本はあくまでもジャストミートする事であり、その事に集中するためには「低い打球を打て」「角度を付けろ」「右に打て」等、気を散らせる要素は出来るだけ排除した方が良いのです。こうした考えは投手のレベルが高くなるにつれて重要になってきます。

では、この問題は、どこに答えを見出せば良いのでしょうか。ゴロでは内野の間は抜けても外野の間は抜きにくいので「ゴロを打て」はともかく「低い打球を打て」と言う考えに一理ある事は否定出来ません。しかし、問題は、そのためにダウンスイングを教えてしまう事です。所謂、ゴロを打つためのダウンスイングは解剖学的、物理的に見て間違ったスイングです。まして「文字通りのゴロ」にはダブルプレーを取られる危険性も有ります。

フライを挙げてもいけない。ダウンスイングもいけない。では、どうするか。答えは高めの特にボール球に手を出さないと言う事です。(もちろん、犠牲フライが望まれる場面や、一発狙いが許される場面では別です。)高めのボール球に手を出して凡フライを打ち上げると言う事は、攻撃側の行動として初歩的なミスである事を、その理由も含めて選手にはよく説明しておかなけれななりません。指導者からすると当たり前のように思っている事でも、きちんと説明しなければ、その本当の意味は伝わらないでしょう。単に「フライを打ち上げるな!」と怒鳴るだけでは効果がありません。

特にバッテリーから見ると、低めに落ちる球で勝負して捕手が後逸するとランナーに進塁されるので、打者が高めの釣り球に手を出して空振りしたり凡フライを打ち上げてくれると非常に楽なのです。もちろん、低めの球をすくい挙げた凡フライは仕方が無い事です。

「高めのボール球に手を出さない」と聞いて「なんだ、そんな事か。」と思われる人が多いでしょう。しかも、実際には「高めのボール球を見極める」と言っても簡単な事ではありません。低めに落ちるスライダーやチェンジアップに戦々恐々としている所に高めに真っすぐが来ると、少々ボールでも打てそうに感じて手を出してしまいやすいのです。また、特に2ストライクでは見逃し三振を取られるよりは打って行った方が良いので、手を出してしまうケースが殆どです。凡フライはゲッツーが無いので、打ち取られるのも見逃し三振も結果は変わりませんから、これは当然否定出来ない行動です。そう考えると、この問題に対して、さほど効果的な答えを見出せたとも思えません。でも、良いんです。それで。重要な事は結論に至るまでに思考が有ると言う事です。その思考は、また様々な局面での様々な作戦に結びつくからです。

いずれにしても、ここらで一度「古い固定観念に縛られた日本的精神野球」とも「その跳ねっ返りとして、最近よく見られる開き直っただけの大味野球」ともオサラバしましょう。「新しいシンキング・ベースボール」の基礎に有るのは、そうした厄介な問題が起きる前に、ドン・ブレイザーが南海の野村克也に伝授したシンキング・ベースボールです。そこに、その後の時代に発展した「科学的な技術論」や、実際に技術力が向上した近代野球の現実を考慮して、新しいシンキングベースボールを追求していこうではありませんか。そして、いわゆる「スモールベースボール」から解き放たれた「考える野球」の本来の面白さを追求していきましょう。

やや大袈裟な論調になってしまったかもしれません。しかし、そうした「丁度良い温度でのシンキング」はサッカーやバスケット等では当たり前のように出来ている事です。野球の場合は残念ながら「古い日本野球」が精神主義とも結びついたりして、あまりにもイビツに出来上がってしまったため、他の競技のように上手くいかなかったのです。

もちろん、私は個人技を専門とする立場上、その全てを網羅してテキストブックを作る程の手間をかけるわけにはいきません。しかし、その基本的なスタンスと、代表的な事象に対する考え方だけは、ここで示しておきたいと思います。

2)「正面で捕球し体で止めろ」は本当に「古くて間違った指導」か

まず、守備に対する基本の概念を考え直す必要があります。ゴロを体の正面で捕ることが基本だと言うのが、そもそも間違っています。脚を使って正面に入れと言うのも解らなくは無いですが、逆シングルや素手での捕球、ジャンピングスロー等と言ったプレーも試合で起こりえる以上、正面で捕る事と等しく基本なのです。ですから、遅くとも中学生くらいからは、これらのプレーを練習していかなければなりません。ノックの時に逆シングルで捕った選手に対して「脚を使って正面に入れ」では無く、逆シングル捕りを目的としたノックを練習しなければならないのです。日本の指導者は派手なプレー、華麗なプレーを嫌う傾向が有りますが、いかなる派手なプレーや華麗なプレーも、試合で起こりえる以上、正面捕りと同等に基本なのです。ですから「ファインプレーの練習」をしていかなければなりません。

様々な捕り方からの様々なステップを使ったスローイングを練習していくうちに、即興やオリジナルの独特の動きが出来るようになってくるでしょう。そうした積み重ねが海外の選手の独創的なプレーを生み出しているのであって、それは正面捕りを基本(でもケースによっては逆シングルも良いんだよ)と言う日本的な教え方からは生まれ得ないプレーです。例えばショートストップなら、ショートに起こりうる全ての捕球パターン、ステップを洗い出し、それらの動きを練習していく必要があるのです。

では逆シングルが重視される場合とはどういう場合でしょうか。ショートを例に考えてみます。1対1の同点で9回裏、その回の先頭打者がイチロータイプの俊足巧打の左打者だったとします。後にはクリンナップが控えていますから、絶対に塁には出したくありません。ここで三遊間にゴロが来たとしましょう。この場合、正面に入った結果としてファンブルし、体で止めても誰も褒めてはくれません。そもそも打者がイチローならレフトは前進しているでしょうし、イチローも一塁線を直線軌道で走り抜けていくわけですから、ゴロが飛んだ時点でレフトがバックアップに入れば2塁に進塁される事は無いでしょう。この場合、ショートは逆シングルで捕った方が体勢的に無理が無く、一塁への送球もしやすいと考えたら、積極的に逆シングルで捕りに行くべきです。このように、逆シングルや素手でのプレーも有効な使い道が有る限り、正面捕球と同等に基本プレーの一つなのです。ところが日本の場合、正面捕球を基本として、さらにその形を追求する事が基本練習だと考えているフシが有りますが、これでは世界レベルの内野手には追いつく事が出来ません。ただでさえ身体能力で負けている場合が多いのですから。

それでは正面での捕球が特に求められるシーンとはどういう状況でしょうか。サードを例に考えてみましょう。5対3で負けている3回表、1アウトでランナーは一塁にいます。ここで打席には右の強打者。レフトも深めに守っています。この状況で3塁種の右手、三塁線にやや強いゴロが飛んで来た場合はどうでしょう。2点差がついているとは言え、味方の打線も2回で3点取ってるのだから逆転の見込みは大です。この状況では、とにかくアウトを一つずつ丁寧に取って行きたいわけですから、ダブルプレーを焦る事は禁物です。しかも1アウトがツーアウトになるかならないかと言うのはビッグイニングを作るか否かの瀬戸際にいるわけですから、ここは何としてでも確実に2アウトにしなければなりません。この場合、3塁手は少々送球が遅れても正面に入り、確実にゴロを止めて3塁線を抜かれないようにしなければなりません。ここで逆シングルで取りに行って3塁線を抜かれてしまうと試合自体を潰しかねないからです。

逆シングルで取りに行った時の最大のリスクは何かと言うと、その一つは味方の士気に対する影響です。いくら華麗な守備が出来るショートでも、確実に一つアウトが欲しいところで逆シングルで取りに行って後ろに反らす事が有るような選手だと、味方の信頼が得られませんし、案の定、大事な所でエラーされると、そこから空気がダレてしまいビッグイニングにも繋がりかねません。捕手ならなおさらです。ですから、重要な事は、正面に入って確実に止めるべきシーンと、逆シングルで取りに行くべきシーンの区別を普段から野手陣が共通認識として持てるように練習の中で意識付けをしておく事です。選手自身が今のは何故正面に入ったか、何故逆シングルで取りに行ったのかと説明できなければなりません。そうした土壌が有ると、例え逆シングルで取りに行って後ろに逸らしても、空気が乱れる事は無いでしょう。「やる気が無くなって手だけで取りに行った逆シングル」も「意図を持ってやった逆シングル」も形は同じなので、意志の疎通は重要になります。

理想を言えば、ケースノックの中で「なんで今のは逆シングルだったんだ」「○○だからです」と言ったコミュニケーションが取れる事です。

内野手が逆シングルで取るか正面で取るかは以下の3パターンに分けられます。「A:簡単に正面に入れる状況」「B:正面に入れるが逆シングルの方が自然な状況」「C:逆シングルでなければ間に合わない状況」Aは誰でも正面で取りますから、この場合、問題となるのはBの状況でしょう。この状況でどちらを選択するかは、その場面によって違います。逆シングルや素手での捕球も正面捕りと同等に基本であると認識した上で、無理をしてでも正面で捕球するべき状況が有る事を知っておかなければなりません。「正面捕りが基本と言うのは間違っている」と考える「進歩的」な指導者は得てしてこの事を忘れがちなので注意が必要です。正面に入るか逆シングルで捕るかが士気に与える影響、そして、それを考慮した上で普段から意志の疎通をはかり共通認識を持つ事の重要性を認識しておかなければなりません。

普段から「正面で捕球し体で止めろなんて、古くて間違った常識だよ」と言っている指導者だと、正面に入るべきシーンで逆シングルで捕りに行って後ろに逸らした選手に「今のは何で正面に入らなかったんだ」と言えません。そうなると、そのチームはそこで成長が止まってしまいます。

3)「投手は投げた後に守備に備えて打者に正対しろ」と言う教えに象徴される問題

日本では、どうも投手は投げた後に守備姿勢を取るために打者に正対しなければならないと考えられているようです。あるいは、投げた後に右投手が一塁方向に倒れ込むのは悪いフォームだとも考えられているようです。こうした考えはMLBにも有ったのだと思いますが、現在では一線級の殆どの投手が投げた後に倒れ込むため、そうした教えは実効力を失い、過去のものとなったのでは無いでしょうか。

投げた後に倒れ込むメジャーリーグの一線級の投手


実際、ブレーブスで投手王国を築き上げた有名な投手コーチであるレオ・マゾーニは、その著書「マダックス・スタイル」の中で「投げた後に正面を向けと言われる事も有るが、それで球の威力が失われたら本末転倒だ。投手の後ろには7人の野手がサポートしているのだから、投手は投げる事に専念するのが最も大切だ。守る事を考えるのはその後だ。」と言う意味の事を書いていました。

この事からも解るように、アメリカ球界でも投げた後に正面を向けと言う教えが有ったが、その教えが現実にそぐわなくなったため、そうした事は言われなくなって行ったのでしょう。

この問題には、まず前提となる議論があります。それは投球フォームとして倒れ込むのが正しいか否かと言う議論です。結論から言うと、倒れ込むのが正しいのですが、股関節伸展の力、つまりキック力が弱い日本人の特徴と、その条件をベースとして構築されて来た日本式投球フォームでは倒れ込みが起こりにくいのです。ですから、そうした日本式フォームを前提として考えると、倒れ込むと言う事は余程バランスが悪い事を意味するので、日本では倒れ込む事を否定する教え方が一般的になっているのです。

ただし、私の経験上、投げ方を変えれば日本人でも倒れ込み動作は簡単に出来ますし、実際に、日本のプロ野球でもそれに近い動きを見せる投手もいます。また、松坂大輔が高校に入学した時、倒れ込むクセが有ったので矯正したと言う話をテレビで観ましたが、そうした事からも解るように日本人でも本来は倒れ込むフォームは出来ますし、またこれからそういうフォームが増えて来るでしょう。それは高校野球を観ていても解ります。ただ問題は、そうしたフォームで投げている投手を感覚の古い指導者が潰してしまわないようにしなければならないということです。

いずれにしても、こうした問題はさておき、現実に倒れ込むフォームで投げる投手がいて、球威もそこそこ有る。その投手に倒れ込まないフォームで投げさせると球威が落ちる。このような場合、どうするべきかと言うのがここでの主題です。

野球と言う競技のシステムを考えると、投げた後に打者に正対した方が守備に入りやすい事は間違い有りません。しかし、そうしたルールやシステムとは別に、もっと大きな問題として「野球」と言うものは投手と打者の勝負から始まると言う事を忘れてはなりません。極端に言うと、投手と打者の対決だけでも「野球」は成り立つのです。守備がいなくても、投手と打者が対決している光景を我々は「野球」と見なします。しかし、投手と野手の対決が無ければどうでしょう。ピッチャーがピッチングマシンでバッターがロボットだったらどうでしょうか。この事からも解るように野球の最もコアにある本質は投手と打者の対決なのです。

そして、投手と打者の対決においては、ルールはワキ役で解剖学的、物理的な身体運動が主役です。ルールは、その対決をフェアにするためにサポートする存在に過ぎず、ルールによってパフォーマンスが束縛されるものでは有りません。

これまでの古いシンキングベースボールに欠けていた視点は「解剖学的、物理的な技術論」と「野球のシステム、ルールから導かれる戦術論」を分けて考えると言う視点です。つまり場面によって「技術論」が「戦術論」に優先されたり、「戦術論」が「技術論」に優先されるのですが、そうした優先順位をケースバイケースで、なぜそうなるのかと言う事をシンキングしなければなりません。一例を言うなら「ゴロを打つためにダウンスイングしろ」「守備姿勢を取るために投げた後は打者に正対しろ」と言うのは、「技術論」と「戦術論」がゴチャマゼになった古い時代のシンキングベースボールなのです。

4)スモールベースボールはグローバルスタンダードとなり得るか。

2013 年WBCでは、各国が二連覇した日本を見習い、見よう見まねでスモールベースボールらしき事をやってきました。しかし、私の見る限り結果は出ておらず、動くボールを捉えきれずに送りバントを失敗していたケースが多かったようです。

日本の高校野球でよく見られる送りバントを多用した攻撃。ツーアウトにしてまでランナーを二塁に進めようとする作戦。そこで監督が判で押したように口にする「ウチには飛び抜けた選手がいないから、全員で繋いでいかなければいけない。」って、ちょっと待って下さい。ツーアウトにしてまで、ランナーを二塁にしたら、次の打者は確実にヒットを打たなければなりません。しかもツーアウトになった事で守備側は戦術的にも余裕が生まれ、それが投手にも有利に働いてしまいます。こんな厳しい状況で確実にヒットを打てる選手。それは充分飛び抜けた選手では無いですか!いるじゃ無いですか充分に飛び抜けた選手が!。打力が弱いから送りバントに頼る。非常に矛盾した考えです。送りバントをするということは続く打者の打力を高く評価していると言う事なのです。

正直、私は送りバントを多用するチームを見ると、イラッときます。何故イラッと来るのか。それはアウトを一つ与えてでも次の打者が確実に打てると考えているその思い上がりに対してです。そして思い上がっている事にさえ気が付かない、その厚顔ぶりにイラッと来るのです。野球をナメているとしか言いようがありません。将棋を打つのとは違うのです。「いや、バントはギャンブルだよ」と言う監督もいるかもしれませんが、ギャンブルするなら打たせて行けば良いだけの事です。ツーストライクまで狙い球を絞るサインを出すなど、ギャンブルはいくらでもやり方が有ります。

ただ、現実問題として送りバントは高校野球で多用され続けるでしょう。高校野球までなら、投手のレベルもまだそれほど高くありませんから、バントもしやすいし、打者のレベルもまだそれほど高くないので、振るよりもバントした方が確実に当てる事が出来るからです。次の打者が凡打しようが、バントそのものが成功している限り、監督はバントのサインを出し続けるでしょう。

しかし、プロレベルで考えるとどうでしょうか。近年では、ムービングファストボールが増えていますが、この傾向はさらに加速していくでしょう。そうなると打者もバントを決める事は非常に困難になるはずです。ましてプロになるような選手は、高校時代は主軸打者である事がほとんどですから、バントが上手いはずは無いのです。そこに高校時代よりさらに磨きのかかった一流投手が出て来たら。。バントが決まるわけは有りません。これはバスターやエンドラン、右打ち等についても同じ事です。

つまり、小技を多用するスモールベースボールと言うのは、古い時代のシンキングベースボールなのです。前述したドン・ブレイザーの時代や、ドジャーズの戦法の時代なら、有効であった戦術です。タイ・カッブはその代表的な選手と言えるでしょう。ただ、そうした”古いシンキング”を否定するつもりは有りません。古いシンキングは新しいシンキングに活かされるからです。

そして、もちろん、プロでもそうした小技に特化された選手も存在し続けるでしょう。例えば1対1の引き分けで9回裏、0アウト1塁で右の2番打者に打順が回って来たとします。この場合、送りバントが決まってランナーが二塁に進めば、投手は一本のヒットも許されない状況になるので、配球にも制約がかかり厳しい立場に追い込まれます。さらに、仮に送りバントが失敗しても、1アウトで続くのは3番バッターと4番バッターです。右の2番打者(アベレージヒッター)なら、普通に打ってゲッツーのリスクも有りますし、また、打った後に捕手の前を横切る右打者ならバントが決まりやすいので、バントの上手い打者であれば、バントは有効な作戦になり得ます。ただし、投手のレベルが高い状況で確実に送りバントを決めるとなると、かなり送りバントが上手い川相昌弘のような選手でなければなりません。中途半端な選手にバントのサインを出すくらいなら、こうした選手を代打に出して、相手バッテリーを揺さぶって行く作戦を取るべきです。これからの野球は、役割に特化された選手と、そうした選手の用兵が重要になってくるでしょう。そこに「シンキング」を持ち込む余地が有ると考えます。

もちろん、少年野球や高校野球の監督はバントを教える必要があります。それは野球と言う競技について教える事も重要なテーマであるし、実際にその中から小技で生き残って行く選手が出て来る可能性もあるためです。しかし、送りバントが上手いからといってプロになれる事はありませんから、いくら目先の試合で勝ちたいからと言ってバントの練習に時間を割いたり、試合で多用するべきではありません。

そもそも、高校まで勉強する時間を削って、お金を払って子供に野球をやらせると言う事は親の立場としては子供をプロ野球選手にしたいと考えているわけですから、高校野球の監督は、そうした事を尊重しなければなりませんし、また部員がプロを目指していると見なすべきです。(そういう前提の元で練習メニュー等を決めるべきです。)

そこで、送りバントの練習に時間を割いたり、試合で多用すると言う事は、監督が甲子園出場等と言った自分の名誉を優先している事を意味します。少年野球や高校野球は単に勝てば良いと言うだけでは無く、選手育成の機関だと考えなければなりません。(もちろんそれだけでは有りませんが、甲子園に出る事が出来る実力校こそ、そう考えるべきです。)甲子園に何回出たかでは無く、何人プロに送り込んだかで、その監督の手腕が評価されるべきです。

いずれにしても、現代における送りバントやエンドランを多用する「スモールベースボール」と言うものは「本来はプロを目指す育成機関である中学高校の野球」で「育成機関であるが故の弱み(発展途上であるが故の弱み)につけ込むスキマ産業」のように目先の勝ちを拾いに行く中でのみ効果を発揮する、日本野球ガラパゴス化の象徴のような存在になっています。高校野球の全国大会に大きなスポンサーがついて大々的に扱われるから、そのような事態になったのでしょう。

これからの野球では、投手の技術が発達し、ボールの動きも激しくなってくるので、そうした小技はますます通用しにくくなると予想されます。2013年のWBCで見られたスモールベースボールの流行は、そうした時代の移り変わりの中で行なわれた試行錯誤の一貫であって、その試行錯誤は失敗に終わると予想します。しかし、その事とは別にスモールベースボールを生み出したシンキングベースボールは評価されて、新しいシンキングベースボールに繋げていかなければなりません。

まぁしかし甲子園を見ていても、送りバントが多い事には呆れます。こんな野球をしていては甲子園では勝てても選手は育ちません。甲子園で堂々とバントのサインが出せると言う事は、それだけバントを練習して来たと言う事なのでしょうが、その時間は本当にバントに割いて良かったのか。もっと言えば、そのスペースと時間を控えの選手に与えてやるのが高校野球の本来の有り方のはずなのです。そうした控えの選手も大学で成長して社会人くらいまでは行ける可能性が有るからです。そして指導者となり、また新しい選手を育てる。そういう流れを作らなければなりません。まさかその間にブラスバンド部と一緒に応援の練習などをしていると言う事が無ければ良いのですが。いずれにしても、こんな野球は一刻も早く止めなければなりません。

高校野球のレギュラーが甲子園に出た事だけでローカル的にはスター扱いになるから「応援団」になる部員が出て来るのです。どちらも極端すぎてバカげた事です。

一方WBCで優勝したドミニカが、どういう野球を若い選手に教えているのか見てみましょう。ドミニカン・プロスペクトリーグと言う組織のYOUTUBEチャンネルが参考になります。DPL BASEBALL YOUTUBE チャンネル ここを見ると、ドミニカでどういう野球を教えているか一目瞭然で解ります。



ここには、投手が思い切り投げて、打者が思い切り打つ。野球の原点が有ります。打撃練習を見ても流し打ちの練習をしているような光景は見られません。もちろん、ここにシンキングを加えて行く事でさらにスリリングな野球になっていくのですが、そうした事はアメリカの方が進んでいそうですね。しかし、このドミニカ野球も、成長過程の選手にとっては日本野球よりは数段良いものです。

※)ちなみに打撃に関してはドミニカが振り回して来るのに対して、アメリカの方が正確性に重点を置いている事が解ります。一方、投球に関してはアメリカの方が大雑把と言うかオールドスタイルなのに対し、ドミニカの方がボールを動かすテクニックに長けていますね。これはペドロ・マルティネスの影響も有るでしょう。その流れに最近になってアメリカも追いついて来た模様です。いずれにしても、DPLの動画を見ると、ハンリー・ラミレスやロビンソン・カノーのような打者が育つ土壌と、ペドロ・マルティネスやフェルナンド・ロドニーのような投手が育つ土壌が良く解ります。

最後に私が高校野球の監督なら「バント」はどう扱うか。前述のようにバントの練習はさせます。しかし、基本的なスタンスとして、ココ一番大事な場面で自信を持ってバントのサインが出せるほどの練習はさせません。せいぜい打撃練習前の3~5球程度ですね。(やりたい選手の自主性は尊重します。)また、キャッチボール後のトスバッティング(ペッパー)を止めてバント練習にしても良いでしょう。いずれにしても失敗したときのベンチの落胆を考えると、バントもギャンブル、いやバントこそギャンブルなのです。高校野球なら3点ビハインドの中盤、無死ランナー1塁でもバントのサインが出る事が有りますが、本来ならここは勢いに乗って流れを掴みたいシーンなのです。バントをしなくてもランナーが揺さぶれば落ちる球を使いにくくなって(気持ちぶん甘くなって)打者が有利になったり、粘っているうちにワイルドピッチ等で走者が進塁出来るチャンスが有るかもしれません。そこで初球からバントに行って一球でポップフライを挙げてしまった時の事を考えると、これほど相手にとって楽な事は無いでしょう。仮に上手く決まったとしても、1アウト与えた事によって「アウトをひとつずつ丁寧に」と相手に強く思わせるだけです。特にプレーヤーが若ければ若い程、良いときは勢いに乗りますし、悪いときは動揺して自滅します。こうした「勢い」や「流れ」は確実に存在するものです。監督としてはそうした流れに水をさすべきではありません。

また、もっと言えば「勝負事はこれ全てギャンブルなり」と考えるべきです。手堅い手法が有る等と考える事が既に間違っているのです。ギャンブルであれば、失敗した時のリスクと成功した時のメリットは常に量りにかけなければなりません。「手堅くバントを決める」事を求められた打者は多かれ少なかれ緊張します。こうした場合では体を止めて使うバントよりも、思い切って振って行った方が緊張がほぐれると言うのも考え方の一つです。監督と言うのは、そうしたマイナス思考もしなければならない立場なのです。

ただ、試合においてバントには「あるぞ」と思わせる効果が有ります。その意味で「決まったらラッキー」と「あるぞと思わせる」と言う二つの狙いを持ってバントのサインを出す事は有るでしょう。サードにあるぞと思わせるだけで打者には有利になるためです。これがスモールベースボールでは無いシンキングベースボールにおける一つのバントの使い道です。そう考えると、セフティーやスクイズも含めて様々な使い道がありそうですね。バントについても全く無用の存在と言う事はありません。

確かに現状では高校野球において送りバントは威力を発揮しているのかもしれません。しかし、それは相手投手と相手守備の未熟さにつけ込んだ結果であると考えるべきです。未熟さにつけ込む事は悪く有りませんが、そのための練習に時間を割くのはバカげた事です。送りバントの練習をすれば勝てるのだが、選手の将来の事を考えれば送りバントに時間を割くべきでは無いと言う事が解れば、送りバントの練習は短縮するべきなのです。しかし、高校野球では勝ちたいがために絶対的なエースに200球を越える球数を投げさせる事もままある事です。これも「勝ちたい」が「選手の将来を考える」に勝ってしまう悪い事例です。こうした無理な投球は監督としては立場上、絶対に止めなければなりません。

★まとめ

日本では高校野球で送りバントが蔓延してしまったせいで、考える野球がイコール「スモールベースボール」になってしまった感が有ります。そのため「考える野球」と言うと窮屈なイメージを持つ人が多いようです。また一方、スモールベースボールを学生時代に押し付けられてしまったせいか、その反動としてホームランを狙って行けと言う教え方をするような「進歩的」な指導者も増えて来ています。しかし、WBCを観ても解るように、結局最後は「一本のヒットが打てるか打てないか」という事に皆が手に汗を握る状況になるわけですから、普段からそのスタンスで練習していくべきなのです。

本来のシンキングベースボールはスモールベースボールでは有りません。そして一球ごとに間の有る野球においては「考えて、作戦を立てて、勝つ」と言う事は紛れも無く大きな醍醐味なのです。高校野球の負の側面であるスモールベースボールをここらで捨てて、もう一度、本場メジャーリーグ生まれのシンキングベースボールの原点に回帰しましょう。

2013年3月20日水曜日

WBC総括


3- 0でドミニカがプエルトリコを破り、8戦全勝で優勝した。MLBレベルのムービングボーラーをずらりと揃えて格下の相手打線を封じた結果の優勝だろう。

今大会で特筆されるべきは、ムービング•ファストボールの威力だ。決勝でもドミニカは、デデューノドテルストロップカシーヤロドニーと注目所で繋いで来た。特に左打者のインコースボールゾーンからストライクゾーンの低めに切れ込んで来るエグいムービングボールが数球あったが、あれは打てないだろう。

何のスポーツでも同じだが、トップクラスの技術は時間が経つと裾野まで拡がって行く。ムービング•ファストボールも同じように日本球界でも一般的になって来るだろう。そうなった時に要求されるのは、どういうバッティングか。この事も本大会が示した大きなテーマだ。

結論から言うと、これからの野球はこういう球を投げる投手と、こういうスイングをする打者の戦いになって行くだろう。

もちろん、許容範囲の広いのが野球と言う競技の良さなので、2割1分40本塁打の巨漢DHとか、ナックルボーラー、小技や走塁、守備などに特化された選手も存在し続けるだろう。カーブとストレートで勝負するバリー•ジトのような左腕も消えるとは思えない。しかし、大筋においては制球の安定したムービング•ファストボーラーと、鋭いスイングでそれを打ち返し、芯を外してでも内野の頭を超す「強く叩く」スタイルの打者が成功する時代になって来るだろう。

また、決勝戦では、ドミニカのMLBトップレベルのスラッガーを集めた打線でも、格下のプエルトリコ投手陣から3点しか取れなかった。ドミニカの打者は明らかに一発狙いの雑なスイングをしていたからだろう。もちろん、スイングメカニクスそのものは良かった。しかし、その優れたスイングメカニクスを武器として打席に入った時、どういう心持ちでバッティングをするかと言うだけで、結果は違って来るはずだ。

ムービング•ファストボールは、速球を微妙に変化させて、バットの芯を外す所に真骨頂が有る。このため、打者としてはそれを打ち返すためには、強くボールを叩いて、芯を外してでも内野の頭を超してヒットにすると言う姿勢が重要になる。つまり「強く打つ」と言う事が重要になってくる。

ドミニカのムービングボーラーを見ると解るが、レベルの高いムービングボールは右に打つとか左に打つとか言う事が狙って出来るような次元の球では無い。ましてや一発を狙った雑なスイングでは正確に捉える事さえ難しい。

日本球界では、こうしたムービングファストボールに対する対応が遅れてしまった。これが今回の敗因だろう。MLBでは既に多くの打者が「強く打つ(ハードコンタクト)事を最も重視している。それで芯に当たればホームランも出る」と言う意味の事を言っているのだが、何故そういう表現になるのかと言うことを日本の打者は理解していなかったのでは無いか。

ムービングファストボールで芯を外されるから強く打つ事が必要になるのであって、また正確に捉える事が難しい球だからこそ、打球の行方(右か左か、オーバーフェンスか)よりも、バットとボールが衝突する現場に最も神経を集中させる必要が有るのだ。そうした意味が「ハードコンタクト」と言う言葉に込められている。

一方、日本ではタイミングを合わせて、相手のボールの勢いを利用して、バットにボールを乗せて運ぼうと言う合気道的な考えが根強い。そのため、技術論的にもタイトでストロングなスイングよりも、スムーズでフレキシブルなスイングの方が好まれる傾向にある。しかし、この考えでは芯で捉えた場合はヒットになるが、スイングが弱いので、芯を外すと凡打になりやすい。

それ意外にも、ボールの下ッ面を叩いてバックスピンをかけるとか、もっと酷い話になるとフックをかけるとかフェードをかけるとか言う理論も出て来る。こういった技術論は、素直な球筋のストレートを打つ事が前提となっているのだろうが、それは日本球界がガラパゴス化した結果の象徴である。

いずれにしても、1、2の3のタイミングでポーンとバットを出し、芯に当てて綺麗な打球を打とうと言う日本式の打撃がムービング•ファストボール相手に苦しむと言う事はよくわかった。ムービングボーラーを打ち崩すためには、強く、正確にボールを捉えて、芯を外しても良いから最低限、内野の頭を超してヒットを打とうと言う姿勢が重要になる。それを1番打者から9番打者までが徹底して行く事だ。

日本戦で先制ホームランを打ったキューバのヤスマニ•トマス。両手で振り抜くので押し込みが強く、インコースの球を詰まりながら右に打ち返しヒットを打つ打撃も出来る。重要な試合で役に立つのはこういう選手だ。日本の選手ももっと強く振って行く必要が有るが、それはホームランを打つためではなく、芯を外してもヒットにするためだ。


ホームラン狙いも、右打ちもいらない。必要とされるのは、ボールからストライクに入って来るムービングボールに食らいついて行く事であり、またストライクからボールに出て行くムービングボールにバットが止まる事である。そのギリギリの反応力が、これからの野球で打者に最も必要とされる能力である。

決勝戦に中継ぎで登板したペドロ•ストロップ。ストライクとボールの間でボールを動かしていた。まともなストレートはほとんど投げないこの種の投手から打つためには、どうすれば良いのか。また、投手の視点で考えると、この種の投手には芯を外した打球が長打にならないような球の力が重要になる。制球はある程度まとまっていれば充分だが、低めにボールを集める事。そして、それを受け止めるキャッチャーの技術。さらに緩急を使う事が出来れば言う事は無い。いずれにしてもバッテリーにとっても容易な技術では無い。「球に力が無く、緩急も無い。」この手のムービングボーラーは少々低めに集めても打たれるだろう。



野球そのものがウィッフルボール化しているのだ。どこに動くか解らないボールを、軽いバットを使って、無駄の無いフォームから鋭く振り抜いて打ち返す。ウィッフルボールには、これからの野球で打者が生き残るためのヒントが隠されている。


なお、以前にも書いたが、今大会を面白くしたのはチェックスイングに対する審判の判定の甘さだ。MLBでは確実にスイングを取られるチェックスイングが何回も審判の判定によって救われて来た。

そもそも、ストライクからボールに逃げる速球に対して、振りに行きながらも途中でバットが止まったと言う事は打者の勝ちを意味するのだから、今大会の判断は正しい。MLBのが厳し過ぎて間違っている。

この今大会における審判のチェックスイング判定もムービングボール全盛時代にマッチしたものだと言えるだろう。そして、MLBレベルのムービングボーラーをずらりと揃えたドミニカがチーム防御率トップ(1.75)で8戦全勝して優勝した。今大会のキーワードは間違い無くムービング•ファストボールだ。


★日本球界に向けた提言

今回の真の敗因は何か。その最大の責任は監督でも無ければ選手でも無いと思っている。ましてや高校野球や少年野球の現場でも無い。最大の原因はメディアにある。MLBを放送すると言っても日本の選手しかロクに映さず、タマにMLB特集が有ると言うので見てみたら全編に渡り松井イチローダルビッシュであったりするこの現状。試合中に平気で味方の守備陣に責任をなすりつける実況と解説。

こうした状況があるため、日本のファンは「日本の打者に打たれるメジャーの投手」と「日本の投手に抑えられるメジャーの打者」しかロクにみていない。そういうシーンばかりが放映されるからだ。このため、日本の野球ファンの多くが世界最高峰の技術を知らないでいる。選手だけではなく、現役プレーヤーも知らない。そうしてシーズンオフに気の抜けたメジャーリーガーと対戦し「メジャーなど大した事無い」と勘違いを起こして、渡米した多くの選手が失敗して帰って来ている。青木がテストされた件や、中島がマイナー契約を提示された件を、多くの日本野球関係者が憤っていたが、メジャーの打者のバッティングをよく見て来た立場からすると、当然の事である。それで無くてもメジャー関係者は失敗して来た多くの日本人野手の例が頭に有るから、日本人野手に手を出す事をためらうようになって来ているのだ。

しかし、そこに輪をかけて問題なのは、渡米した選手が打てばニュースになるが打たなければ全く採り上げられないと言う事。だから、日本のファンはメジャーで日本の打者が打てていないシーンをあまり見ていない。それを知ってか知らずか、メジャーで通用しなかった選手達が凱旋するかのように日本球界に戻って来る。しかも、そのままの打ち方、そのままの投げ方で。

そうした状況があるため、日本野球では、打球にバックスピンだとかフックだとかフェードだとか平和ボケした技術論にうつつを抜かして、悦に入っているのだ。打球に角度を付けるためフリーバッティングでボールの下を叩いて外野フライを打ち上げているような選手もいたが、今回のWBCでキリキリした緊迫感タップリの状況の中で、一本のヒットがのどから手が出るほど欲しい思いをした日本の選手達は、もうそうした平和ボケした技術論に惑わされる事は無いだろう。

まずは、放映権を持っているメディアが、メジャーリーグに詳しい評論家をゲストに迎えて、メジャーのトップレベルの選手のプレーを少なくとも一週間単位で紹介する番組を組むべきだ。バーランダーの勝ち試合をダイジェストで紹介したり、ホームランや試合を決める打席のシーンを紹介するくらいは最低限必要になる。そうすれば、高校野球や少年野球の指導者がプホルズやバーランダー(サッカーで言うとCロナウドやメッシのレベル)を知らないと言う事態は解消出来るだろう。そして日本の野球ファンはNPBのレベルがどのくらいの物かと言う事を相対的に知る事になる。

指導者の不勉強を責める声も強いが、特に少年野球となると指導者はボランティアで、週末の休日に子供とふれあい、終わったら一杯やろうと言うくらいの人が多いだろうし、またそれで当然であり、そういう人達が野球界の底辺を支えているのだから、それはそれで(その事自体は)感謝するべきだ。そして、そういう状況はどこの国でも同じだろうし、そういう人達に「勉強しろ」とか「意識を高く持て」等と言う方が土台無理と言うか、現実離れした発想である。「するわけねぇ。」と思うし「それで良いじゃん。」と言うのが私の感覚だ。

なので、そういう人達や野球少年が「勉強」しなくてもプホルズやバーランダーのプレーくらいは普通に見た事が有ると言えるような状況をメディアが作り上げて行く必要が有る。そして、そうした事はメディアがやるのがもっとも手っ取り早い。少年野球や高校野球の指導者が勉強会を開くようなまどろっこしい事をしなくてもテレビで放送すれば、トップダウンでメジャーの技術から皆が学べるのだから、それが一番速い。

股関節がどうのと言う解説を付ける必要は無いし、食い入るような眼差しで真剣に見る必要も無い。とりあえず夕飯を食べながらでも良いので、プリンス•フィルダーの打撃やジェレッド•ウィーバーのピッチングを横目ででも良いから日常的に見られるような環境を作るべきだ。それがスタートになるのだから。

日本に野球少年とか、高校球児とか、その関係者も含めるとかなりの人口がいるだろう。そうしたマーケットに対して、一週間に一回、メジャーのトッププレーを集めた番組を一時間流す。(メジャーのトッププレーヤーから学ぶ事が隠れた主題だが、解説は野球中継レベルで充分。)企画としては充分成り立つと思うのだが。。野球の試合は時間が長い割りには好プレーは一瞬なので、良く知ってる人間が時間をかけて見ないと、良さが解らない。なので、好プレーを集めたダイジェスト版の需要は有るだろうし、そうした番組に関わりたいと言う評論家や解説者はいくらでもいるはずだ。

今回でも地上波がWBCの決勝の生放送を取りやめたが、こんな事はもっての他。日本の打撃、投球の技術が、世界的には一段レベルの低い、ガラパゴス化したものであると言う事に皆が気がつくためには、まず、野球ファンの多くが日本の野球しか見ていないと言う状況を変えて行く必要が有る。

「洗脳」と言うと大袈裟に聞こえるが、その最も簡単な手口は情報統制で、大手のメディアが大金を投入して、有る一つの事を大々的に繰り返して主張すれば、大多数の人間がそれを信じるようになる。(別に不都合な真実を検閲して隠すまでも無い。)そうした人達を外から見て洗脳されていると言うのは簡単だが、実際には、どの時代のどの国の人も多かれ少なかれ「洗脳」されているものだし、どの権力も多かれ少なかれ「洗脳」は試みる。

日本野球もそれと同じと言うか、その一つの典型的なパターンで、NPBの試合と、MLBで活躍した日本人の映像しか見せないものだから、日本の野球ファンはまさに北朝鮮なみに洗脳されている。と言うと北朝鮮の人に失礼だと言っても良いレベルである。まさに頭に電極が刺さった状態に近いと言っても良い。むしろ、今回のWBCではブラジルや中国あたりに負けていた方が頭に突き刺さった電極がスッポリと綺麗サッパリ抜けてくれて良かったのでは無いか。

「洗脳」と言うのは大袈裟な言葉だが、野球の場合は政治と違って、単に放送する側の心情と視聴率の関係でそうなっているだけだから、解決出来ない問題では無い。視聴率に関してはやむを得ない感も有るが、少し視聴者の程度を低く見過ぎているのでは無いか。既に出来上がってる「日本野球ファン」と言うマーケットに受け入れられる安易なプログラムを組むのでは無く、自分達で新しい視聴者を開拓するくらいの気概を見せてほしいものだ。(視聴者の程度を低く見過ぎて、程度の低い番組を作ると言う批判には、NHKも民放も実際に良くさらされている。そして実際にそういう傾向が有る。それと同じ事が野球の放送でも起きている。)

確かに梅田の阪神電車と御堂筋線の改札あたりで騒ぐタイプの阪神ファンの意識までは変えられないだろうと思うが、野球を実際にプレーする人達の意識は、メディアの取り組み次第で大きく変わると思うのだが。

いずれにしても、今回の敗退は、この十年の集大成として負けるべくして負けたものである。あの走塁がどうだとかそういうレベルでは無い。そういうレベルで話をするなら、逆に奇跡的に日本を救ったプレーも有ったのだから。むしろMLB組を抜いたメンバーで準決勝まで行った事自体は、良い結果であると言えるほどだ。

日本野球界は、ここ10年くらいの間、日本野球が一番と思い込み、外国の特に都合の悪い情報を見て見ぬ振りしたり、また存在自体を半ば無視して来た。そういう状況は何故生じたのだろう。プロ野球OBの大物に気を使っているのか、日本人の気質なのか、はたまた、それとは無関係に、そうならざるを得ない時期、事情になっているのか。おそらく全部が正解だろう。いずれにしても、そういう状況の中で日本人選手の技術はガラパゴス化していく。ここ最近は国際試合で「なんか変な打ち方の奴がいるな」と思ったらたいてい日本人選手だと言う事態になっている。中国人でさえ、日本人選手の打ち方をマネしようとしない。

2006年から始まったWBCで確かに日本は二連覇したが、その実情は、惰眠を貪った日本野球と言う名の船が穴だらけになって沈没しようとしているのを、実際にWBCの試合に出ている選手たちが必死に排水して守っていると言う状態だったのだ。2009年のイチローのセンター前ヒットや、2013年は井端のタイムリーや鳥谷の盗塁で守って来たのだ。が、それももう限界でごまかしが効かない状態になったと言う事だろう。確かに2連覇はしたが、2009年はイチロー松坂ダルビッシュを擁して韓国と良い勝負だったし、今年は台湾やオランダ等にも手こずっている。1990年代後半なら、これらの国々には圧勝していたはずだ。

栄華を極めているように見える状況の中で、実質的には腐敗と崩壊が始まっていたと言うのは良く有る話であって、日本の野球もそういう状況であったのだ。

とにかく、どのプレーがどうと言う話では無い。日本野球そのものが「ダメ」を言い渡された瞬間であったのだ。

鬼の形相で内川に走りよって来るヤディアー•モリーナが日本球界に最後の審判を下す閻魔大王の役割を演じていた。

2013年3月19日火曜日

WBC決勝戦の見所

決勝戦はドミニカVSプエルトリコになった。日本は出ていないが、近代野球というか、これからの野球がどこへ向かって行くのかと言う意味では最も見所の有る試合と言えるだろう。演じるのがラテンの選手なので計算通りの展開になるとは限らないが、この試合の見所を私なりに紹介していきたいと思う。順当に行けばドミニカが勝つだろう。投打ともに戦力がドミニカの方が1枚、いや2枚勝っている。

見所(1)最強の打者は誰か

最も注目したいのはロビンソン•カノー(ドミニカ)とエドウィン•エンカーナシオン(ドミニカ)とカルロス•サンタナ(ドミニカ)の左打席だろう。この3人が最も力が有ると見ている。カノーとサンタナは片手フォローだが、その悪影響が出にくいタイプ(特にカノー。サンタナはやや不安が残る。)だし、実際にまだ悪影響はあまり出ていない。本当にキレの有るメジャー一流クラスの球なら不安もあるが、プエルトリコの投手の球なら捉えて来るだろう。

サンタナ左打席  サンタナ右打席

見ての通り、この手のスイッチヒッターに多く見られるように、右打席はバットが遠回りする傾向が有る。

また、エドウィン•エンカーナシオンは、2012年に打率2割8分で42本打っている。荒っぽい印象のあるスイングだが、リラックスした構えから両手で強く振り抜いて来る。そこそこ振れているようなので、大一番での一発が見られるかもしれない。どちらかと言うと、緩急の変化に弱そうな打ち方なので、一定の球速で動く球で勝負する投手が出て来た時は要注意だ。

見所(2)ムービングボーラー対決

両チーム共に、ムービングファストボールが主体の近代的な投手を揃えている。ただ、この点に関しても、ドミニカの方が上手だ。日本戦で登板したプエルトリコの投手にスピードを増した感じだと思えば良い。ただ、ドミニカは準決勝でボルケスが先発したので、決勝では左腕のワンディ•ロドリゲスが先発するかもしれないが、ワンディ•ロドリゲスは、ムービングボーラーと言うほど球を動かしては来ない。

ドミニカの投手については、この記事http://bplosaka.blogspot.jp/2013/03/wbc_17.htmlで紹介しているが、ムービングボーラーと言う視点では以下の投手が面白い。

ペドロ•ストロップ動画

アルフレッド•シモン動画

サンティアゴ•カシーヤ動画

サミュエル•デデューノ動画

その他、ケルビン•へレーラ動画の速球や、抑えのフェルナンド•ロドニー動画も注目したい。

いずれにしても、ムービングファストボールが主体となる投手が投げる野球を見る場合、一球一球、ボールがどう動くのか、それに対して打者がどう反応するのかと言う事が非常に大きな見所になる。大雑把な見方では面白さが解らないので、見る方にもかなりの集中力を要求するだろう。

ドミニカのムービングボーラーの方が、格が上だが、日本戦で見たようにプエルトリコの投手も粒が揃っているようだ。ドミニカ打線が振り回して来ると、少ない失点で後半にもつれ込む可能性も有る。

見所(3)特大ホームラン

この試合、メジャーでも屈指の飛距離を誇る長距離打者が二人いる。(ともにドミニカ)二人とも荒っぽいタイプなのだが、ツボにハマると特大のホームランが見られるかもしれない。二人とも右打者なのでスプラッシュヒットは期待出来ないが。

ネルソン•クルーズ https://www.youtube.com/watch?v=9BP3Q1kiCo4

エドウィン•エンカーナシオン https://www.youtube.com/watch?v=cBPYtl1riwM

見所(4)プエルトリコのバッテリーvsドミニカの打線

日本戦で話題になった通り、プエルトリコにはメジャー最強捕手のヤディアー•モリーナがいる。モリーナがドミニカより一枚格下のプエルトリコ投手陣をリードして、ドミニカの今大会最強打線と対決する。これは非常に大きな見所になるだろう。

日本戦を見ても解るようにプエルトリコは外野よりも内野の方が守備力が高い。内野守備に関しては今大会最強だとも言えるだろう。そのため、モリーナとしては如何に低めでボールを動かし、ドミニカの打者にゴロを打たせるかと言う点がカギになる。もちろん、これは投手陣にも求められる課題だし、ベンチワークとしても低めに制球力の有る投手を選ぶ事が求められる。

この作戦がハマれば、後半までロースコアで試合がもつれ込む可能性が有る。プエルトリコにとって勝機となりうるのは、ドミニカの主軸にはカノーやサンタナ、ハンリー•ラミレス(動画)など、片手でフォローを取る打者が多い事だ。このタイプは、低めにボールを落とされると、バットヘッドを潜り込ませる事が出来ずにボールの上っ面を叩く可能性が非常に高い。両手で振り抜くタイプもいる(エンカーナシオン、クルーズ等)が、荒っぽい打者なので、その点ではまだ安心出来る。特に二人とも(悪い意味で)トップハンドが強い打者なので、低めに落ちる球には片手フォロー同様に苦しむ可能性が有る。低めに落ちる球に柔軟に対応して付いて来そうなのは当たっているホセ•レイエスの左打席(動画)とベテランのミゲール•テハダ動画)だろうか。この辺の伏兵が勝負のカギとなる可能性も有る。

片手フォロー云々と言う考えがモリーナに無かったとしても、力の無いムービングボーラで相手に何とかゴロを打たせて、高い内野の守備力で守り勝ちたいと言うことくらいは考えているだろう。その作戦が結果的に片手フォローの多いドミニカの主軸に効果的に作用すると言う可能性がある。

見所(5)プエルトリコの攻撃

見所と言うより不安要素である。日本戦を見る限り、プエルトリコの監督もキューバ同様、スモールベースボールに傾倒している感が有る。だが、日本の高校生よりも下手なバントが、ドミニカのムービングボーラー相手に決まるとはとても思えない。こうした事をアメリカ球界での経験が豊富なプエルトリコのロドリゲス監督が解らないとも思えないが。

ムービングファストボールが主流となり、その技術が向上して来ると予想されるこれからの野球では送りバントはある意味で高等技術になって来るだろう。送りバントのサインを出すくらいなら、小技に特化した選手を代打に送り、ヒッティングかバントかで相手を揺さぶって行った方が良い。

スモールベースボールを掲げるWBCの監督は、一度日本の高校に一ヶ月くらい研修に行くと良い。そうすると本場の送りバントがどういうものか良く解るだろう。バントはその性質上、脇役選手の技術なので、プロよりもバントが上手い高校生がいて当然なのだ。キューバの大砲が送りバントをする姿と言うのは白人が着物を着るくらい違和感のある物だが、そうした事を当の本人が理解出来ていない。

まだ体の小さかった頃の日本人が日米野球でパワーの差を見せつけられ、今で言うスモールベースボールに傾倒して行くのだが、その歴史はアメリカやラテン諸国の「スモールベースボール」とは比べ物にならないほど長い。また、体の小さな選手が多い日本の高校野球の選手が、飛び抜けた選手がいる強豪校に立ち向かって行く時「ウチには飛び抜けた選手がいないから、小技とヒットで繋いでいくぞ」と耳にタコが出来るくらい聞かされて、中学、高校時代から送りバントの技術を磨いて行くのだが、そうした事情は、外国人には理解しにくいものが有る。さらにそこには、合気道や柔道の受け身に通じる「相手の力を受け止めて利用する」と言う日本特有の精神的土壌が関係している気もする。

ただ、このスモールベースボールと言うか小技の技術は元々は日本はアメリカから学んだものだ。特に野村監督が現役時代にドン•ブレイザーから学んだエピソードは有名である。それが前述のような日本野球の事情とリンクして、日本のチームカラーとして発展していく。私はこの事を批判するつもりは無いし、むしろ「考えて野球をする」と言う事を若いうちに教えると言う事は、インナーマッスル云々の知識を教えるよりも、野球と言うゲームそのものを教えると言う意味では重要な事だと考えている。しかし、問題は、そうした技術(打撃の小技)がバッティングメカニクスに与える悪影響と、これからの野球の質にはマッチしないと言う事である。

野村がブレイザーから学んだ事からも解るが、この技術は元々は、アメリカの古い野球なのだ。それでイチローがメジャーデビューした頃に、アメリカ人は昔の野球を思い出したと言われる。昔と言うのはタイ•カッブの時代の事だろう。今でもアメリカで行われる古式野球では小技が健在かもしれない。

ただ、これからの野球では投手の技術力ももっと挙るだろうし、ムービングファストボールもさらに増えるだろう。そうした中で送りバントやバスター、右打ちと言った技術は非常に通用しにくいものになる。そしてジャストミートする事そのものが重要になってくるのだ。そのためには、打球の方向などでは無く、とにかくバットとボールがコンタクトするその現場に集中するのが、最も重要だ。そして、強く振り抜き、少々芯を外しても良いので、内野の頭を抜く。この考えが重要になる。

話をプエルトリコvsドミニカに映すと、ドミニカの投手はムービングボーラーが主体だが、球のスピードと言う点ではメジャーレベルで見ると、特筆するレベルでは無い。そういう中でボールが動いて来る状況で、プエルトリコの打者には集中力が求められるし、今の所、彼らは非常に高い集中力を発揮している。こうした場合、ベンチは出来るだけ打席に入る打者の集中力を削ぐべきでは無い。ベンチがする事は「相手投手と球種と、その対応に対するレクチャー」である。そうして、一発狙いに陥って打線の繋がりを失わないように念を押しておく必要が有る。こうした事を事前にどれだけ入念に行えるかがカギになる。

プエルトリコがノーアウトでランナーを出した。ここで決勝戦だからといって大事に考えて送りバントをするようだと、プエルトリコに勝機は無いだろう。日本戦を見た所、プエルトリコの打者は高い集中力をキープしているし、ドミニカやアメリカ、日本と戦い、非常に「質の高い練習」を繰り返して来た。そうした意味ではプエルトリコの打線も侮れない。ドミニカのスター軍団が振り回してくるようだと、プエルトリコにも勝機は有る。

ドミニカの投手陣は、確かに質が高いが、それでもメジャートップレベルと言うわけでは無い。トップレベルと言えるのはロドニーくらいだが、それもむしろ技巧派に近く、驚くような球を投げる投手では無い。その事を考えると、メジャー経験者の多いプエルトリコの打者にとっては、打てない球では無い。むしろ「打てそうで打てない球」なのだ。その意味では、準決勝での日本の打者と、決勝のプエルトリコの打者はダブルところがある。日本の打者にとってプエルトリコの投手の球には全く威圧感が無かったが、プエルトリコの打者もドミニカの投手には全く威圧感を感じないだろう。ベンチに邪魔されず、各打者が集中力を持ってジャストミートに徹して行けば、非常に面白い試合になる。

見所(6)ドミニカの伏兵

ドミニカには主軸だけでは無く、脇役にも見所の有る打者が揃っている。

1)ミゲール•テハーダ(https://www.youtube.com/watch?v=069CASq3_u4

ベテラン(38歳)だが、ある意味で最も注目したい打者だ。バッティングのセンスは主軸と比べても全くひけを取らない。と言うよりカノーと同じレベルの逸材である。(オールスター選出6回 打点王1回 MVP1回)

イチローがメジャーデビューした当時はアスレチックスの期待の若手ショートストップだった。その頃の方がスイングが良い意味で大きく、スピードもしなやかさも有ったのだが。それでもまだまだ、面白い打者だ。見た所、今大会ではいい感じで柔軟性を発揮している。両手で振り抜いて腕を柔らかく使い、良い意味でも悪い意味でもヘッドの重さが効くタイプなので、低めに落ちる球には強そうだ。(簡単に言うと低めをすくいあげるのが上手いタイプ)プエルトリコのムービングボーラーが低めに落ちる球をコントロールして来た状況で主軸が沈黙した場合、このテハーダが意外な所で試合を決める可能性も有る。

プエルトリコの投手にはあまり速い球を投げる投手はいないようだ。球に力が無い技巧派が相手なら、ベテランのテハダが大きな仕事をする可能性が有る。

2)メルキー•メサ(https://www.youtube.com/watch?v=R84dMfBa1Wo

代打で出て来たら注目したい選手。以下の動画を見ても、非常に高い打撃センスが有る事は間違い無い。

動画1(https://www.youtube.com/watch?v=63k_21tssTU

動画2(https://www.youtube.com/watch?v=ecky7Ffmzbo


見所(7)プエルトリコの打者

日本戦を見る限り、打ちそうな気配が有ったのは、マイク•アビレス、アレックス•リオス、カルロス•リベラ、アンヘル•パガン(左打席)、ヤディアー•モリーナだ。

マイク•アビレスは実際に大当たりしているし、リオスもホームランと綺麗なヒットを打った。だが、リベラ、パガン、モリーナも高い集中力を見せていたので打ちそうだ。ドミニカに比べると一発狙いの傾向があまり見られない事もプエルトリコ打線を面白くしている。そしてここまで不振だったベルトランもそろそろ打ち出すかもしれない。

マイク•アビレスだが、この打者は両手で振り抜くオートマチックステップ故に、注目していた打者だ。また解説の衣笠が言っていたように、ボールに食らいついて行って詰まっても良いからヒットにしようとする感が、特に強い。ただ、一つ気になるのは構えでバットを動かしすぎる事。(ただ、そのアクションも揺らぎと連動した整合性のある動きだが)このため、悪い意味で腕が効き過ぎて、キレのあるボールに対応力が落ちるのでは無いかと言う事が気になる。(それで日本戦での予想でも、注目打者に挙げなかった)ただ、この手の打ち方の打者は、相手投手のレベル云々よりも、自分の打撃メカニクスのコンディションによる部分が大きい。それが調子が良いと言う事は、ある程度は期待出来るだろう。


〜予想〜

番狂わせでプエルトリコが5対3で勝つと予想する。これまで当たってなかったプエルトリコ打線が、メジャーレベルでは大した事ないドミニカ投手陣相手にそろそろ来るかと言うのが一つの根拠。さらに日本戦で見せた高い集中力。ここまで不振のモリーナ、ベルトランもそろそろ来そうだ。特にモリーナは勝負にかける集中力が高いし、日本戦では打っていないので、確率的にそろそろ打ちそうだ。一方ドミニカ打線は前日にオランダと対戦して大味になっている可能性が有る。また主軸に良い意味でも悪い意味でも豪快に振って来る打者が多いので、プエルトリコバッテリーの術中にハマる可能性も有る。願わくば、プエルトリコの監督に攻撃に関しては動かないようにしてほしいと言う事。ただ、継投や、守備の配置(それに関する代打を出すか出さないかの判断。日本戦でも打たない守備的プレーヤーのファルーを使い続け、それが勝負を決めた)に関する判断は良いので、そこは期待出来る。

モリーナがリードするプエルトリコのバッテリーと、ドミニカ打線の対決で、プエルトリコのバッテリーが勝ち、不振続きのプエルトリコ打線のエンジンが温まってくれば、プエルトリコが勝つだろう。それが予想の大筋の根拠だ。

★余談 ハンリー•ラミレスの打撃

ハンリー•ラミレスは今のMLBで最も派手な片手フォローを取る打者である。1990年代、リニアック打法とチャーリー•ロウ理論で片手フォローが流行し、手首を返さずボトムハンド一本で大きくフォロースルーを取る打ち方が流行した。ルーベン•シエラ、ホアン•ゴンザレス、フランク•トーマスが典型的だが、ハンリー•ラミレスはこれらの打者の直系の子孫とでも言うべき打撃フォームだ。

ハンリー•ラミレスのフォームはコチラ
http://www.youtube.com/watch?v=1RhF5ulXJYg

片手フォローでも、このように手首を返さずボトムハンドを大きく伸ばすようなタイプは、特にその悪影響が出やすい。しかし、ラミレスを見ると、踵体重でかなりハムストリングスが使えている。これは先天的、骨格的な事も有るのだろうか。つまり骨盤前傾型なのだろう。

「骨盤前傾とは踵体重と見つけたり」つまり、骨盤が前傾すると、踵体重で腰が引けない。そうなった時、一番、腰が入って見えるようになる。ラミレスはその典型的なタイプだ。似たようなタイプとしてキャメロン•メイビンが挙げられる。(http://www.youtube.com/watch?v=-KBFR_mF2bw)マニー•ラミレスにも近いものが有ったと思う。どちらかと言うと胸椎後湾が顕著な体型に見られる事が多い。日本人では今売り出しのソフトバンクの柳田(パンチャー)がこのタイプだろう。

この手のタイプは、踵体重が強調されるせいか、やや後ろ軸(に見える)フォームになる事が多いが、このタイプの方が片手フォローの悪影響が出にくいようだ。構えの位置やバットの角度が比較的、腕の筋力に負担がかからないポジションである事もポイントだ。ただ、MLBのパンチャーの強打者クラスで片手フォローの悪影響から逃れられた打者を私は知らない。もちろん、両手で振り抜くに超した事は無いのだが、参考までに。

2013年3月17日日曜日

コータ君 7回目

ご来店ありがとうございました。



上半身の構えを修正した事により(コータ君本来の脊柱の生理的彎曲の良さを活かした)懐の深さが出て来ました。細かい感覚は本人の中で試行錯誤が有ると思いますが、この懐の深さを大事にして振り込んで行って下さい。

重要な練習テーマは以下の通りです。

●振る力を付ける練習
●ハムストリングスを使った立ち方の感覚を維持
●ホウキなど、軽い棒を使って体に正しい連動を憶えさせる練習
●左脚の動きを良くする事と力を強くする事

ところで、投打に共通するコータ君の最大の問題点としては、ハムストリングスの力を使うと言う事が、まだあまり出来ていないと言う事です。その結果として、投球でも打撃でも、始動時に股関節、膝関節がグニャッとなる動きが入ってしまいます。これはハムストリングスの力で体重を支え切れていないからです。これは例えるならスポンジのクッションを付けた靴を履いてプレーしているようなものですから、下半身の力が吸収されてしまい、地面に上手く伝わりません。この点が改善されるともっとパワーが出るでしょう。ただ、恐らく年齢と共に解消していく問題ですので、地道にでも取り組んで行って下さい。メニューの一例としては、以下の通りです。

●階段or椅子踏み台昇降
●踵足踏みスクワットダウン
●リズム股関節伸展スクワット
★腸腰筋ストレッチ(腰反り体操)
★腸腰筋その場ステップ
▲踵小刻み足踏み
▲8の字揺らぎ体操

●印はハムストリングスを鍛えるメニューです。★印はハムストリングスの硬化短縮による骨盤の後傾を防ぐために腸腰筋を鍛えるメニューです。▲は、骨で立つ感覚を養うメニューです。このメニューは順番も考えて作っていますので、●★▲を各一つづつでも良いので、この流れで取り組むようにしてください。

ちなみに今回良かった点は、始動してから前脚が着地するまでの動き(体の連動)をホウキを用いた練習で上手く出来るようになった事です。この形は日本人には見られない動きですが、バリー・ボンズにもライアン・ハワードにもケン・グリフィーJrにも皆同じ連動が見られます。あまり繰り返しする必要も無いですが、継続して体が忘れないようにしてください。

メジャーリーグのバッティング技術の挿絵「理想のフォーム」※今とは若干細部が変わっています。

練習のポイントとしては、一度止まってから始動する事です。始動時に前後の揺れが有ると正しい連動の形になりにくいためです。

また、もう一つ、コータ君に不足しているのは、始動してから前脚が着地するまでの速さ(クイックネス)です。これについては、比較的ワイドスタンスで、やや重心は低めの構えから、軽く短いバットを使って、反応素振り等をしたり、また、その構えからバットを短く持って、前から投げられたボールをギリギリまで引きつけて打つ練習をすると良いでしょう。(遅いボールの方が引きつける感覚が掴みやすくなります。)

最後に、振る力を付けるトレーニングでは、肩関節、とくにトップハンド側が固まらないように注意してください。セットで腕回しや左投げでのシャドーなどの肩のストレッチが必須です。特に左打者の場合、左肩関節の外旋が不足するようになると、低めにバットヘッドを潜らせる事が出来なくなるので、外旋可動域も重要です。そのためのストレッチとして「皿回しストレッチ」と言うのが有ります。

これは、インパクトか、その一歩手前くらいの形を作り、両手で車のハンドルを握るように皿など円形の物を持ちます。その状態から、左打者であればハンドルを左に切っていき、ボトムハンドを内旋、トップハンドを外旋します。トップハンドが外旋し、肘が曲がりながらヘソの方に食い込んで来るバッティングフォームの形になる事がポイントです。トップの形から、腰を回すと同時に両腕を捻って皿を回しても良いでしょう。

また、懐を開ける件についてですが、この場合のポイントは、バットが顔の前を通らないようにすることです。バットが顔の前を通ってヘッドが投手方向に入る構え(ヘッド入れ型)になると、ヘッドが出るのが遅くなるので注意が必要です。具体例としてキューバの打者を例に挙げると、ユリエスキ・グリエルの形は良いですが、フレデリック・セペダの場合はバットが顔の前を通ってしまっています。

ユリエスキ・グリエル(5回表)片手フォローの悪影響も有って今大会は不振を極めましたが、元々は非常に優れた技術の打者です。捻りがやや極端ですが、捻り方そのものは良いです。懐の開け方としても良い例です。投手からトップハンドとボトムハンドの両方の肘が見える捻り方がポイントです。

グリエルは元々はメジャーリーグからチャップマン並みに注目されていた選手でヤンキース入りの噂も有ったのですが、それは正確な評価でしょう。ステップはオートマチックステップです。膝を内に絞っていないので、ハムストリングスが使えている事も長所です。



フレデリック・セペダ(四回裏、右中間に二塁打) キューバでは最も安定感の有る主軸打者であり、キューバで最も実力の有る打者と言えばグリエルとセペダと私は見ています。ただ、顔の前を通ってヘッドが投手方向に入る「ヘッド入れ型」の構えである事だけが難点です。ステップはジータータイプの二段ステップで、元中日のタイロン・ウッズ、キューバのホセ・アブレウと同じタイプです。スイッチですが左右ともに打ち方は同じです。


セペダの右打席。ステップは左打席と全く同じです。この構え(ヘッド入れ型)は股関節が割れにくいのですが、その辺がセペダが今一歩、長距離打者になりきれない原因でしょう。


ホセ・アブレウ セペダと同じタイプの二段ステップ。最も難易度が高い二段ステップで、ラボでもほとんど触れていません。タイロン・ウッズとホセ・アブレウはかなり似たタイプの打者です。


しかし、こうした動画は良いですね。見逃し方や、打席を外したときの行動なども解るので、テレビでは解りにくい面が見えてきます。

なお、ボトムハンドの肘をホームベース側に出す事については、そこだけを無理に強調するとぎごちなくなるので、あくまでも全体のバランスでちょうどいい感じを見つけるようにしてください。


以上です。

WBC決勝ラウンド 展望


アメリカが敗退し、ドミニカとプエルトリコが準決勝に進出した。打線で見た場合、アメリカの進出を期待していたが、主砲として機能していたデビッド•ライトをケガで欠いた事を考えると、仕方が無いかもしれない。

ところで、日本とカブスの強化試合で2本のホームラン(うち一本はサヨナラ場外)を打ち、試合を決めた選手がいる。そのシーンは↓。

Cubs Javier Baez Walk-Off Home Run vs Japan

ハビエア•バエズ。プエルトリコ出身で1992年生まれの21歳で遊撃手。カブスのNO1プロスペクト(若手有望株)らしい。躍動感のある豪快なスイングのパンチャータイプだ。WBCには参加していない。ただ、こちらの動画(http://www.youtube.com/watch?v=Rog78wwpNqY)を見ても、片手でフォローを取るケースが多いのが気になる。メカニクス的にはライアン•ジマーマンに似ていると言えるだろう。(http://www.youtube.com/watch?v=CggTV0NiE6c

さて、WBCだが、やはりドミニカが戦力的には最強だと考えられる。一般には打線に目が行きがちだが、比較的一発屋の荒っぽい打者が多く、相手の投手が良ければ繋がりにくい打線では有る。それよりもむしろ特筆すべきは投手陣。さほど豪華なメンバーでは無いが、今流行のペドロ•マルティネス直系的なムービングボーラーが多く、投手の人選と言う意味ではアメリカより数段近代的である。(カーブストレートの左腕ジオ•ゴンザレスと、ナックロボーラーのディッキーを看板にしていたアメリカはかなり古典的だった。)まずはドミニカの投手力から分析していきたい。

ペドロ•ストロップ動画)今大会、投手成績トップ。典型的なペドロ的右のパンチャータイプ。

ケルビン•へレーラ動画)何度か当ブログでも紹介した事が有る。典型的なパンチャータイプで速い球を投げる。

フェルナンド•ロドニー動画)今期48セーブで、投手陣の中では最もビッグネーム。もちろん、クローザーをつとめる。速球で押して来るタイプでは無く、低めのボールを動かして、打たせて取るタイプ。

サンティアゴ•カシーヤ動画)パンチャーカーブの動画で何度か紹介した事のある投手。あの独特の鋭いカーブが見られたらうれしい。動画を見ての通り、直球で押すタイプでは無いだろう。

アルフレッド•シモン動画)ややアームがっかったパンチャー右腕。この投げ方ならムービングボーラーと見て間違い無いだろう。

オクタビオ•ドテル動画)こちらもアームがかったパンチャー。39歳のベテランセットアッパー。ただ、この感じだとかなり制球が良く無いと打たれそうだが。

エディンソン•ボルケス動画)パンチャータイプの右腕。見ての通り変化球で勝負しているが、このメンバーの中ではまだ本格派な方だろう。ただ何となく肩が出来上がるまでに時間がかかりそうな投げ方なので、この時期にどこまで仕上がっているかが気になる。

ロレンゾ•バルセロ動画)比較的球速が出そうなパンチャー右腕。だがツーシームが多いタイプか。

アンヘル•カストロ動画)ソフトバンクに所属するパンチャー右腕。球は速いらしい。ピッチングスタイルは不明。

ホアン•セデーニョ動画)スインガーの左腕。普通の左腕のカーブを投げる。カーブ、スライダー、ストレートの典型的左腕。CCサバシアやクレイトン•カーショウと同じ。このメンバーの中ではオーソドックスなタイプ。

サミュエル•デデューノ動画)この動画ではパンチャーカーブを連発している。割と投げ方が良いパンチャー右腕。かなり面白そうな存在。

ワンディ•ロドリゲス(動画メジャーで14勝をした事が有るパンチャー左腕。パンチャーだがクセ球では無い。仕上がっていれば「モーションの割には」速い球が来る。カーブ
スライダー、ストレートの典型的な左腕の投球スタイル。

ホセ•ベラス動画)パンチャーの右腕。クセのある投げ方で、適度に荒れ球。190センチ台の長身ながらリリースポイントは低い。「力の有る」ストレート、スライダー、ツーシーム等が有るようだが、ムービングボーラー系では無い。打って点を取る事は難しそうな投手。

Atahualpa Severino 映像資料無し

こうして一通り見ると、パンチャーの右腕でボールを動かすタイプが多い。意図を持って選ばれたと言うよりは、母国の英雄ペドロ•マルティネスの影響だろう。「速い球を動かせ」と言う指導がかなり浸透しているのかもしれない。左腕が少ないのが気になるが、野球は投手力のセオリーで言えば、ドミニカが優勝候補最右翼だろう。プエルトリコはあまり見ていないが、近代的なピッチングスタイルの投手が多いドミニカに注目したい。

仮に日本と対戦した場合、見所は「日本の打者vsドミニカの投手」と「日本の投手vsドミニカの打者」だろう。当たり前と言えば当たり前だが、その意味を考えると面白い。要するに「日本の打者がドミニカの(今流行の)ムービングボーラー(MLB平均レベル)にどのくらい通用するか」「ドミニカのパワーヒッター(メジャーのパワーヒッター)が、日本の(ダルビッシュや松坂よりは下のクラスの"怪物レベル"ではない)良い投手から、どのくらい打つのか」と言う所に注目したいと言う意味。特に日本がここまでの試合で打って来たのは白人系の古典的な投手が多かったので、その意味でもドミニカの投手と日本の打者の対戦は見物である。繰り返すがドミニカの投手陣が注目されるのは「豪華」と言う意味ではなく「近代的」と言う意味である。むしろ、決勝と言う事でドミニカが力んでメジャーで実績の有る左腕のワンディ•ロドリゲスを出して来たら日本にとっては都合がいいと言うべきかもしれない。(少なくとも見てる方は面白みが無い)ロドリゲスはあまり「ドミニカ的な投手」では無いからだ。ドミニカ的なのはペドロ•ストロップやアルフレド•シモン。

もしドミニカが2次ラウンドを1位通過した場合、日本対ドミニカは決勝でしか見られない。ただ、プエルトリコ打線なら日本の投手力(前田健太の先発が予想される)にかなり低い点に押さえられる可能性が有る。そう考えると日本対ドミニカの決勝が実現する可能性は高い。

そうなった時の決勝は田中将大だが、私はこの投手の力を全く評価していない。腕を体の前に大きく突き出すので爪先体重になり、膝が折れて大腿四頭筋が効く。そのため後ろ脚のハムストリングスが使えず、重心移動が弱く、投げた後の後ろ脚が勢い良く前に出ない。この投げ方なら球の力が無いので一発を浴びて当然である。

ただ、とは言っても田中将大である。日本野球でキャリアを積み上げて来て、素材的にも高い能力が有るし経験値も高い。変化球の技術力も有る。そうした技術力の中で「ハムストリングスが使えない」と言う欠点が有るのは事実だが、その欠点が「どのくらい響くのか」と言うのは、その日のコンディショニング等によって変わって来る。それが良い方に振れた場合、ドミニカの打線でも、それほど簡単に打てるとは思えない。だが、悪い方に振れた場合、完全にドミニカ打線に「捕まる」だろう。特に「ハムストリングスの効いていない大腿四頭筋ストレート」は痛打される可能性が高い。しかも大腿四頭筋ストレートは当たれば良く飛ぶ。恐らく重心移動が弱いので指先でスピンをかけるのに依存する度合いが強くなるためだろう。(イメージ的に言うなら星飛雄馬のストレートはおそらく大腿四頭筋ストレートだったのだろう。余計解りにくくなったか? 巨人の星を読んだ事が有ればある程度解るはず。飛雄馬の投げた雪球を受けた伴宙太が星の球質の軽さに気がつくシーンが有る。別にマンガから星飛雄馬の動作を云々する等と言う気は毛頭無いが、筆者が言いたかったのは要するに、スピンが効いた軽い球、当たれば飛ぶ球の事だったのだろうと言う意味。)

田中の頼みの綱はスプリットか。あれが決まれば打たれないだろう。ただ、オランダと戦って勢いに乗ったドミニカの打線が、その勢いを日本戦に持ち込んで来る可能性がある。

では準決勝のプエルトリコvs日本を予想してみたい。

まず、プエルトリコの打線。ハッキリ言って全くと言って良い程見所が無い。と言うと少し言い過ぎだろうか。だが、大味でしまりが無い事だけは確か。ビッグネームはカルロス•ベルトランとアレックス•リオスとヤディアー•モリーナ。これらの打者もどちらかと言うと鋭さに欠ける印象の有るタイプだ。少なくとも個人的には興味が持てない。まぁ、これは好みの問題かもしれないが。。

ただ、プエルトリコにはメジャー経験者が比較的多く、メジャーリーグの投手の投げる球をよく見ている。こうした目に日本の投手が投げる球はどう映るか。そういう意味では、台湾、キューバ、オランダの打者とはひと味違うだろう。そうしたプエルトリコの打者が大振りに走らず、集中力を発揮してきたら、そこそこ力を発揮するだろう。だが、それが出来なければ、日本の投手リレーに2点くらいに抑えられる可能性も充分有る。

特に前田健太は調子が良いし、世界的に見てもそこそこ良い球を投げる。ストレートはMLBレベルでは速いと言う事は無い。しかし、カーブを使って緩急を付ける投手のストレートとしては充分な速さだ。そして日本人特有の脚を挙げた所で止まるようなモーション。プエルトリコの打者は「タイミング」と言う面において苦しむのでは無いか。

野手で注目される存在はキャッチャーのヤディアー•モリーナだろう。この捕手は強肩で有名なので、盗塁を決める事は容易では無い。

モリーナの強肩1(https://www.youtube.com/watch?v=aH-tqW8r1wI
モリーナの強肩2(https://www.youtube.com/watch?v=NZoF3XctrCs

このモリーナの強肩に加え、中南米系投手特有のムービング•ファストボールで日本の送りバントや右打ちが封じられれば、日本の戦術の柱である「バント」「盗塁」「右打ち」が封じられる事になる。が、プエルトリコがそうした事を考えているかどうか。

そして、肝心の投手陣。これもドミニカに比べると一段下で時代遅れの感が否めない。が、過去の試合で大崩れはしていないので、そこは期待出来る。ただ、プエルトリコの投手が投げる球は日本の打者にとって「厳しい」と言う程のものでは無いだろう。

つまり、双方の打者にとって、双方の投手の投げる球は、さほど厳しいというほどのものでは無いが、さほど甘いものでも無い。そうした意味で、3点4点の丁度良い試合になるのでは無いかと思う。

プエルトリコ打線がコケるパターンとしては先制されて集中力を欠いた状態で主軸が一発を狙いに行って大味になり、脇役も機能しようが無くなると言うパターン。

日本打線がコケるパターンとしては慣れないボールを投げて来る慣れない投手を捉えきれずにズルズルと後半にもつれ込むパターン。クセ球系のボールで右打ちや送りバントが失敗する可能性も有る。そして、後半になって2点差3点差を追いかけるシーンで焦りから中田や糸井あたりの力のある打者が一発を狙い出し、打線の繋がりが寸断されると言うパターン。

ただ、プエルトリコの面白いのは第二ラウンド決勝でドミニカと2対0と言う接戦を演じた事で(決勝でドミニカを破って)優勝出来ると言うイメージを掴んでいるのでは無いかと言う事。こうしたマインドが集中力に繋がれば、力を発揮してくる可能性が有る。

集中力が持続出来れば、強振すると言う彼らの特徴が「大味な打撃」では無く「今のは振り切ったからヒットになりましたね」に変わって来る。そうなって来た時の彼らは手強い。

そして、ドミニカの投手の投げる球を見た、昨日の今日と言う事も、プエルトリコにとっては有利な条件だ。同じ前田の球でも、第一ラウンドとかでいきなり出くわすのとは見え方が違って来る。これに対して、日本打線は今まであまり良い投手の球を見ていない。

予想するのは非常に難しいが、5対3でプエルトリコが勝つと予想したい。本音を言うとドミニカと日本の決勝戦でドミニカ打線の爆発するのが見たいのだが。

ポイントとしては守備。プエルトリコの守備は良さそう。まずキャッチャーのモリーナ。外野は、さほど強肩ではなさそうだが、リオス、パガン、ベルトランは脚が速い。他の二人も守備で選んだ感が有る。内野もファーストでこのくらい動けるのだから、守備で選んでいる要素が強いのだろう。この守備力が有るから、投手があまり大量失点をしていないのかもしれない。

もう一つのポイントとしてはプエルトリコの打線。この打線はビッグネームがいるので、いわゆるメジャー評論家に言わせると「打率○○を記録した」とか「○○と言われている」とか、"凄いメジャーリーガー"として、紹介する事が出来るメンツだが、私的には、正直、このメンツは「アテにならない」と考えている。だが、一発が有る事も確か。それを考慮した上で5点取れるのでは無いかと予想したのだが。


結果 3-1でプエルトリコの勝ち。

本音では日本とドミニカの試合を見たかったのだが。それでは、この試合を独自の目線で解説していきたいと思う。

まず、序盤。プエルトリコの先発マリオ•サンティアゴは、球の力は全く無かったが、まともなストレートが全くと言って良いほど無い典型的なムービングボーラーだった。そしてコントロールもまとまっていたので四球も少ない。これが大きかった。

日本打線は(力が無く、適度にまとまっている投球に対し)食い気味で振って行くが、僅かにポイントがズレるので中々綺麗なヒットにならない。打てそうで打てない。それをプエルトリコの巧守が必死にバックアップする。このコンビネーションが非常に上手く機能し、日本はサンティアゴから得点を奪えなかった。球場で見ていると「なんで打てないの?」と思ったファンも多かっただろう。

序盤、最も「打つのでは」と見ていたのが中田翔。サンティアゴの投球は緩急があまり無く、小さな球の動きで勝負するタイプ。良く言えば精密機械。悪く言えば綱渡り的な投球で日本を抑えて来た。ただ、中田だけはそういう次元で野球をやっていない。サンティアゴの「玄人的な」良さが通じない。極端に言えば3球思い切り振って行って、少しポイントがズレようがヒットにはなるし、オーバーフェンスも可能である。サンティアゴがメジャーで結果を出せていない理由もそこにあるのだろう。つまり球に力が無いムービングボーラーはパワーの有る打者には通用しにくい。

ただ、5回。1点ビハインドでランナーを一人置いて、その中田の打席。マリオ•サンティアゴが脚に不調を訴えて降板する。これが中田にとっては凶と出た。代わりに出て来たホセ•デラ•トーレは、もう少し大きな変化と緩急を使って来るタイプ。おそらく中田のようなブンブン振って来る典型的な若いパワーヒッターには「微妙な変化」等と言う「玄人的な」投球術は通用しにくいのでは無いか。それよりも素人目に解りやすいハッキリしたスライダーとかチェンジアップとか、もちろん豪速球も含め、そういうハッキリした投球術の方が通用しやすいだろう。もしここでマリオ•サンティアゴが続投していたら(0ストライク2ボールまで投げていた)結果は大きく違っていたかもしれない。

今回登板したプエルトリコの投手はだいたいが「球に力の無いムービングボーラー」だった。そして、素直な真っすぐが一試合通じて何球あっただろうか。「球の力」と言う意味ではNPBでも極々平均的なレベルだったと思うが、こうした球を日本の打線がことごとく打ち損じていた。或はちょっとしたポイントのズレで長打が出なかった。そして、その打球がプエルトリコの巧守に阻まれた。この打たせて取る投手陣と巧守のコンビネーションがプエルトリコの勝因だろう。そして日本の野手がMLBであまり成功しないのも、パワーの問題よりも、この問題(動く球に対する反応)の方が大きいのでは無いか。メジャーの一線級の投手が投げるムービングファストボールはもっと凄い。

一方、プエルトリコはどうか。今回彼らが対峙した日本の投手は、比較的技術が有り、制球がまとまっていた。だが、ストレートはメジャーレベルでは速く無いし、ムービングファストボールもあまり無い。色んな意味で「メジャーの投手をスケールダウンし、まとまりを良くした感じ」だったのでは無いか。ある意味、メジャーの主力級と対戦するための「丁度良いシミュレーション」みたいな感じだったのだろうと思う。つまり「打てない球」では無いが「それほど簡単に打てる球」でも無いと言う状況だった。

それも有ってか、特に序盤、プエルトリコの打者陣は一発を狙う感じでも無く、非常に良い意味で集中力を保てていた。日本投手陣の制球の良さが、彼らの集中力を高めていた感すら有った。日本人の球は「集中しないと打てないが、集中すれば捉えられる」と思わせる程度の球だったからだろう。 

プエルトリコの打者は、特に変化球やムービングファスト系に対する反応が、オランダやキューバとはひと味違っており、見逃したり、ファールで粘ったり、また打ち返したりと、非常に良い反応を見せていた。スイングそのものよりも、その「反応力」にメジャーを感じさせられた。本来なら序盤に1点では無く3点くらい入ってもいい感じだった。

しかし、それに水をさしたのがプエルトリコの作戦。勢いに乗るべきシーンで(彼らの不慣れな)送りバントやエンドランなどで、ことごとく打者の集中力に水をさしてしまった。案の定、どれも上手く行っていない。打者があれだけの集中力と反応の良さを見せているのであれば、普通に打たせて自分の打撃に集中させた方が良かっただろう。こういう傾向は改められなければ、決勝でも攻撃の脚を引っ張る事になるだろう。

また、日本側の作戦の不備としては、もう少し左腕を使った方が良かっただろう。ベルトランとパガンとファルーはスイッチヒッターなので、彼らは左腕が出ると右に変わる。メジャーの打者を良く観察していると解るが、皆ほとんど同じタイプの中南米にゴロゴロいる典型的なスイッチヒッターで、あの手の打者は総じて左の方がバッティングが良く、右打席ではバットが遠回りする打者が多い。それを考えると杉内、能見、内海、大隣、山口等の左腕で繋ぎ、その間に先制しておき、相手を焦らせてから、クローザーに前田を持って来ても良かった。(或は、左腕陣がプエルトリコ打線に通用しないと判断した時点で、一枚、格が上の前田を投入すると言う手も有る。)

また、最も大きな采配ミスはランナーを一人置いてアレックス•リオスにホームランを打たれたシーンだろう。ややクロスファイアー気味に投げて来る能見に対して、開かず、コンパクトに両手で振り抜くリオス(しかも背が高く長打も有る)。如何にも「左殺し的」なスイングである。あそこでワンポイントで良いから右投手を投入するべきだった。沢村でも良かったし、牧田を投入しても良かったぐらいだ。プエトリコのパワーヒッターの中では、リオスのスイングが最も無駄が無く、実戦的であったからだ。その上で一発もあるので、最も警戒する打者の一人だった。リオスにはスイングのキレやスピードはあまり無いが、後ろの小さいスイングで技術的にはアラが無いのが長所だ。だから沢村の速球や、牧田のような変則投手なら、痛手を負う事は無かったかもしれない。一点ビハインドの緊迫した試合展開を考えると、あそこに全てをかけても良かった。

なお、この試合、一点目はアビレスのタイムリーで、3点目はアビレスがヒットで出塁した後のリオスのホームランで入っている。つまり、攻撃に関してはこの二人で勝ったようなものだ。では二人のスイングを見てみよう。

アビレス https://www.youtube.com/watch?v=jdl6OTvs_Ik

リオス https://www.youtube.com/watch?v=6uosx7gp-Ac

二人とも、オートマチックステップの両手振り抜きである。こうした打者は大事な場面では頼りになるので、気をつけなければならない。特にリオスのようなメジャーのレギュラーとなると、メジャーの一線級の球を嫌と言うほど見て来ている。そういう打者がココ一番で集中力を高めて、無駄の無い打ち方から両手で振り抜いて来たら。。最も警戒するべきシーンだっただろう。

オランダに関してもそうだったが、大事な場面で打ったのはスコープやシモンズと言った両手振り抜きの打者であった。キューバでもセペダが最も安定していた。今大会を見て各国が気がついてほしいのは、スモールベースボールでは無く「片手で振るパワーヒッターは大事な所でアテにならない」と言う事。自分自身にとっても、その事を強く再認識させられた大会であった。(厳密に言うと、片手で振るタイプでもオルティーズやカノーのようなタイプはまだマシ。)

ドミニカのハンリー•ラミレスは大事な場面でホームランを打ったが、相手はナックルボーラーのディッキーである。片手フォローはインコースの球に詰まり、低めに落ちる球に空振りをするのが最大の弱点だが、常に一定に近いタイミングでナックルボールを投げられたら、その弱点はあまり出にくい。

プエルトリコ側の采配で光ったのは9回裏一死一塁、中田翔の場面でベテラン左腕のロメロから、カブレラにスイッチした事。おそらくプエルトリコも事前の情報から、当たっている中田のパワーは警戒していただろう。カブレラは荒れ球だが、鋭い変化球が有り、球速も有る。クセの有るフォームの右腕だった。ロメロのような、球に力が無いが比較的安定した感じの投手に比べると、中田にとっては打ちにくい相手だろう。

大きな視点で見れば、ムービングボールで打たせて取り、守備力で守り勝つと言うプエルトリコの作戦勝ちだったのでは無いだろうか。

ただ、試合中に気になったのは実況が言っていた事だが、内川が「サンティアゴはシュートとスライダーで横に揺さぶって来るタイプなので、どちらの球をどうやって打つか、しっかり決めてから打席に入りたい」と言っていた事だ。これには異論を唱えたい。サンティアゴのようなムービングボーラーの場合、詰まっても良いから内野の頭を抜くぐらいの気持ちで「どう打つか」では無く、とにかく体の反応に任せて喰らい付いて行き、ジャストミートして強い打球を打つ事に集中した方が良いのではないか。そして、その事を打線全体で確認しておいた方が良い。いずれにしても、ああしたタイプ(世界的にはトレンドとなっている投球スタイル)の投手との対戦経験の少なさが日本の敗因となったのは間違い無いだろう。

そういう視点で見ると、今大会「面白い」と思っているのがチェックスイングの判定の甘さ。MLBでは絶対にスイングを取られるケースでもほとんどスイングを取られない。これは良い事だったと思う。ムービングボール全盛の現在、打者にはホームベースギリギリの所での反応力が求められる。そうした状況でバットが止まったと言う事は、打者の勝ちに等しいのだ。実際、今大会の審判に「救われている」チェックスイング達は、打者サイドから見たら「振っていない」スイングばかりである。ではなぜMLBのチェックスイングが厳しいのか。それはステロイド全盛時代の名残では無いか。あの時期に比べると、検査も厳しくなっているし、投手の技術も進化している。そうした中での「MLB流のチェックスイング判定」に対するアンチテーゼが、今回の審判団の中に共通認識として有ったのではないだろうか。

そして、最後に話題の走塁ミスというか采配ミス。自分自身ビックリしたのだが「ダブルスチールしても良いよ」と言うサイン等あり得るのだろうか。「盗塁しても良いよ」ならまだしも二人で息を合わせる必要の有るダブルスチールを「しても良いよ」と言うのはちょっとあり得ないのではと思ったが、その辺はあまり詳しく無いので、これ以上の言及は避けたい。