2013年4月28日日曜日

実戦練習用 素振り素材アップ



オートマチックステップの最大の利点の一つが、投手のモーション(クイックかワインドアップか等)にタイミングを惑わされる事が無いと言う点だが、実戦ではリリース前始動になるので、若干の慣れを必要とするかもしれない。その独特の感覚を、この映像を見ながらの素振り(相手はメジャーなので軽いバットで良い)で掴んでほしい。

ぶっちゃけ、私自身、この打法を編み出したのが、現役が終わってからなので、実戦ではヒットがまだ打てていない。(笑)おそらく4タコくらいだろう。もちろん、対人の練習で打つ感覚は掴んでいるが。

ただ、バッティングセンターと対人の違いは痛感させられているし、人が投げるボールを打つ事の重要性が痛い程身にしみてはいる。素振りやマシン打撃を見ていても、凄さが解らないが、実戦になれば良く打つと言う選手がいる。そういう選手は人が打つボールを打つ事が上手いのだろう。

動画については、相手がメジャーなので、大体のレベルの人はまともにバットを振る必要は無いと思う。手を組んで素振りの真似事をするだけで充分だ。良いイメージトレーニングにはなると思う。

個人的には、体を捻るフォームの打ちにくさが解った気がする。近年、トルネード的に体を捻る投手(フェリックス・ヘルナンデス、ティム・リンスカム、ジョニー・クエト等)が多く勝ち星を挙げているが、リリースポイントが見にくいからかもしれない。


マニアック動画2本

野球の動画を見ていると、ラボで行なっているのと似た体操をやっているシーンを目にする事も有る。

例えば、この動画。ラボでは腸腰筋ストレッチの後に踵での小刻みな足踏みをやる事が多い。骨で立つ感覚が求められる投手にはなおさら重要だ。動画の選手は順番こそ逆だが、同じ事をやっている。良い立ち方の感覚を思い出しているのだろう。そして実際、投げる前に軸足で足踏みする感じを見ると、良い感じだ。



次は、この動画。↓

2010/05/23 Marcum's strong start

2011/04/07 Marcum's solid start

ショーン・マーカムと言う投手は、以前に「塚口式屈伸」として紹介した事が有る、立位体前屈からの屈伸を投げる前にやっている。立位体前屈でハムストリングスを引き伸しておき、その後の収縮で膝を曲げている。特に1個目の動画ではかがんだ時の脊柱のS字カーブの具合も良い。外国人ならこれくらいが標準だと思うが。投げる前にハムストリングスを使う事を確認しているのだろうか。

2013年4月27日土曜日

バックホルツから学ぶ投球スタイル

今期、5勝(1位)0敗、防御率1.19(3位)と言う抜群の成績を挙げているレッドソックスのクレイ・バックホルツだが、彼のピッチングからは何かと学ぶことが多い。

この投手は右のパンチャータイプだが、まず、クイックモーションが上手い。ラボでも、バックホルツのクイックモーションをクイックのお手本として使わせてもらっている。

ただ、ここで注釈を入れておかないといけないのは、とかくタイムだけが取りだたされるクイックモーションだが、投球技術の視点、というか投手目線で見た時の「アイツはクイックが上手いな」と言うのは、それだけでは無いと思う。つまり、良いボールが投げられる事とも関係があるのだが、本当の意味で上手いクイックモーションは動きが非常にスムーズだ。逆にタイムが速くても、ギクシャクした動きのクイックモーションには魅力を感じない。スムーズに脚が挙り、短い時間の中にもタメを感じる。そういうクイックが良いクイックだと思うが、日本人では阪神〜オリックスの野田浩司のクイックが上手かった。また伊良部秀輝はタイムこそ特別早くは無かったが、動きそのものはスムーズで「良い」クイックだった。

2011/05/07 Buchholz's scoreless start

↑この動画にはバックホルツのクイックモーションを横から見たシーンが有るが、スタンスが狭い事が注目に値する。スタンスを広くすると簡単にタイムは速くなるが、それだと後ろ脚に体重が乗りにくく、球速が出にくい。一方、スタンスを狭くするとタイムは若干犠牲になるが、球速は出しやすい。しかしバックホルツの場合、スタンスが狭い事を考えるとタイムは速い。これは本当の意味でクイックが上手くないと出来ない事だろう。

つまり、球速を出すと言う事と、タイムを短くすると言う事を両立させている意味で、バックホルツのクイックは「良いクイック」であり、またその事がバックホルツが「勝てる」原因の一つだろう。

2013/04/25 Buchholz's quality outing

↑この動画はバックホルツの最も新しい登板の動画だが、ファストボール系をウィニングショットに使っている事が解る。ただ、バックホルツはパンチャーとしては比較的ゆったりしたフォームなので80マイル台の中速系変化球も投げるし、カーブも投げる。球種的には特に比較的オールマイティで特に目立った特徴が有るとは思えない。ただ、最近では(youtubeで見る範囲だが)ファストボール系を決め球に使う事が多いように思える。そのメリットは(中速系で落ちる球を使うのに比べて)ランナーを気にせずに済む事だろう。デメリットは空振りは取りにくい。(それでも奪三振3位だが。)

その成績を(中速系で落ちる球をウィニングショットに使う事が多い)ダルビッシュと比較してみよう。ちなみにストレートの球速はほとんど変わらない。(試合で投げるMAXはバックホルツの方が1マイルは速いだろう。)

奪三振  バックホルツ(39) ダルビッシュ(49)
被安打  バックホルツ(25) ダルビッシュ(16)
四死球  バックホルツ(13) ダルビッシュ(10)
被本塁打 バックホルツ(1)  ダルビッシュ(0)
被打率  バックホルツ(0.192) ダルビッシュ(0.145)
防御率  バックホルツ(1.19) ダルビッシュ(1.65)
自責点  バックホルツ(5)   ダルビッシュ(6)
勝ち負け バックホルツ(5勝0敗)ダルビッシュ(4勝1敗)
イニング バックホルツ(37.2) ダルビッシュ(32.2)

面白い事に、ヒットもホームランも四死球もバックホルツの方が多く与えているし、奪三振もダルビッシュの方が多い。(共に登板は5) 打者に取っては、打ちにくいのはダルビッシュの方だろう。しかし、自責点と防御率はバックホルツの方が良いし、勝ち星もバックホルツの方が多い。

もちろん勝ち星は味方打線の事も有るが、防御率は参考になるデータだ。バックホルツの方がランナーを塁に出しているのに点は取られていない。クイックの上手さとか、ファストボール系を決め球に使っている事が関係しているように思える。(そこまで細かくは見ていないが)恐らく、牽制もバックホルツは速いだろう。つまり、こうした所にパンチャータイプの優位性が出ている。

さて、ここからが今回の本題だが、バックホルツの動画を見ていて、次の事に気が付いただろうか。バックホルツはワインドアップモーションとクイックモーションしか用いておらず、セットポジションから脚を挙げて投げる事が無い。

今の野球では基本的にランナーがいる状態ではクイックを用いるのが普通(と言ってもメジャーでは脚を挙げる投手も多いが)なのだが、ランナーがいない場合でもワインドアップモーションを用いずにセットポジションから(脚を挙げて)投球する投手が多い。

しかし、この投球スタイル(セットポジションから脚を挙げる)は、いかがなものだろうか。ワインドアップモーションでは打者に正対した状態からフリーフット(前脚)を後ろに引く。(このとき、センター方向では無く二塁手方向に引く事によって、脚を挙げるときの無駄な捻りが小さくなる)

そして、この、フリーフットを後ろに引く動作が脚を挙げるためのバックスイングと同じ意味の動作になるから、これによって投手はフリーフットを楽に挙げる事が出来る。だから、脚を挙げる場合は、ワインドアップモーション(振りかぶると言う意味では無く、脚の運び。振りかぶる必要は無い。)を用いた方が良い。

もちろん、投げ方との相性もあるだろうから、全ての投手に当てはまるとも限らないだろうが、基本的にはその方が良い。(脚を挙げるならワインドアップモーションを用いた方が良い。)

例えば、動きの中で軸足をセットするワインドアップに比べると、構えからセットしているセットポジションの方が再現性が高いので制球は安定するかもしれないが。。

ワインドアップから、ランナーが出たらいきなりクイックになるのは、変化が大きすぎて嫌う向きも有るかもしれないが、実はこの方が理に叶っているのでは無いだろうか。そしてバックホルツはその事を実践している。

今度はバックホルツの投球を中継でじっくり見てみようと思う。

2013年4月26日金曜日

現時点での打率1位 クリス・ジョンソン

現在のところ、メジャーリーグではブレーブスのクリス・ジョンソン(三塁手)が打率0.397で一位に立っている。右打者である事を考えると、純粋に打撃技術が評価出来る。

ただ、このクリス・ジョンソンのフォームには、良くも悪くも、今のアメリカ野球の潮流が非常に色濃く表れている。

2013/04/01 Johnson's first hit as a Brave

良い点はスイングが非常にシャープな事。両手振り抜きで、最短距離にバットが出て来るタイトなスイングだ。フォロースルーでの手首の返し方も良い。

悪い点は「オートマチックステップもどき」と言う点。オートマチックステップもどきは一種のノーステップ打法で、形式的にはステップがあるものの、着地した状態でボールを待って、そこから振り出す。実質的なメカニズムとしては「形式的な」ステップが着地した時点が構えであり、そこからノーステップで打っている事になる。メカニクスとしては間違った打ち方だ。

「オートマチックステップもどき」は少なくとも90年代までのメジャーには存在しなかった。少なくとも私の記憶では一人も見ていない。いたかもしれないが、その程度だと言う事だ。

それが2005年くらいから急激に数が増えて来た。恐らく、高校や大学で教えているのだろう。youtubeにアップされているアメリカの教則ビデオを見ると「ストライド&ロード」と言って、前脚を踏み出すと同時にグリップを引き、その体勢でボールを待ってスイングするように教えている事が多い。その打ち方は正にオートマチックステップもどきだ。

※)ロードとはローディングのロード(load)で装填(弾込め)を意味する。アメリカの打撃理論ではテークバックの意味で使われる言葉。

ある意味では「割れ」を教えているわけだが、結果として出来上がるフォームは日米で全く違うのも面白い。ただ、オートマチックステップはノーステップと同じなのでパワーにも限界が有る。しかし、手順が明確で、家電製品の取り扱い説明書のように打撃理論をマニュアル化出来るので、教えやすく、普及したのだと思う。クリス・ジョンソンもホームランはまだ2本で、体の割にはパワーが無い。

もう一つの話題である「スイング」だが、これが実にアメリカらしい。片手フォローや大きなスイングをする選手が多い中南米と違い、アメリカの野球選手は人種を問わず、実戦的なスイングをする傾向が強い。野球の歴史の深さがさせている事だろう。(明治2年に最初のプロ球団が出来た。)

ところで、アメリカのメジャーリーガーの出身地を見ていると、温暖な西海岸や南部の出身者が多い。中でもカリフォルニアが特に多い。やはり一年中野球が出来るからだろう。スイングを見ていても、アメリカ出身の選手は、中南米の選手とスイングが違うので、だいたい見ればアメリカの野球選手だと解る。特に右打者は解りやすい。そこで、典型的な「アメリカ流」のスイングをする打者の動画を紹介したい。もちろん、アメリカにも片手フォローの打者は多いが、両手振り抜きにこそアメリカ流の特徴が出るので、両手振り抜きの選手に限って紹介する事にする。

ジェイソン・ヘイワード(ブレーブス)
フレディ・フリーマン(ブレーブス)
トリー・ハンター(元エンジェルス)
マイク・トラウト(エンジェルス)
バーノン・ウェルズ(元エンジェルス)
マーク・トロンボ(エンジェルス)
ピーター・ボージョス(エンジェルス)
チェイス・アトリー(フィリーズ:カリフォルニア出身)
マイク・スタントン(マーリンズ)
リード・ブリニアック(レイズ)
サム・フルド(レイズ)
ショーン・ロドリゲス(レイズ)
プリンス・フィルダー(タイガース:カリフォルニア出身)

面白いのは、上記の選手全てが、野球が盛んな西海岸や南部にゆかりのある選手だということ。フィルダーとアトリーはカリフォルニア出身で、後の選手はアトランタブレーブス(ジョージア州)ロサンゼルスエンゼルス(カリフォルニア州)マイアミマーリンズ(フロリダ州)タンパベイレイズ(フロリダ州)の選手(または在籍した事が有る)だ。


そして、クリス・ジョンソンもまた、フロリダ州の出身である。 こうした背景(典型的なアメリカン・スイングと、オートマチックステップもどきの蔓延)を踏まえて、クリス・ジョンソンのバッティングを見ると「ああ、なるほどな」と言う感じだが、そうした選手が打率一位に立っている事が興味深い。これでアメリカの指導者は自信を深めるだろう。そうすると、またこの種の打ち方が増えることになる。

ただ、アメリカ打法のトレードマークあでる「タイト&ストロング」なスイングそのものは実戦的で優れたスイングだ。こうしたスイングの打者が国際大会に多く出て来ると面白いのだが。ただ、WBCが終わり、あらためてMLBの伝統に裏打ちされた華やかさを見ると、やはりメジャーリーガーをWBCに振り向かせるのは難しいのでは無いかと思う。








2013年4月25日木曜日

大事な場面に強く、どうでも良い場面に弱い? 両手振り抜きのツボ

これまでに繰り返し書いて来たように、パンチャータイプの打者にとっては両手で振り抜く事が非常に重要になる。アレックス・ロドリゲス、アルバート・プホルズ、マニー・ラミレスと言った片手フォローの代表的なスタープレーヤーもやはり下降線を辿っている。

ラボでは、コンパクトなスイングを奨めているつもりは全く無い。あくまで、野性味溢れる、アグレッシブで豪快なスイングを奨めている。

しかし、プリンス・フィルダーや、ブライス・ハーパーのような超一流のスタープレーヤーを除くと、大事な場面で役に立っている印象が強いのは、以下のような、比較的コンパクトなスイングの打者だ。

ウィル・ミドルブルックス

フレディ・フリーマン

バーノン・ウェルズ

いわゆる、インパクトまでにバットが最短距離を通って来るタイプの選手が、大事な所で役に立つ事が多い。もちろん、理想はインパクトまでは最短距離でフォロースルーは大きなスイングなのだが、そうした理想的なスイングを(メジャーの投手相手に)出来る打者はメジャーでも極一部で、大きなスイングをする打者となると、後ろも前も大きかったり、逆にインパクトまでが最短距離だと、フォロースルーもコンパクトになる打者が多い。当然、大事な場面では、少なくとも後ろは小さい(最短距離でバットが出る)事の方が必須になる。だから、自ずと大事な場面で打つ選手と言うのは、統計的にスイングがコンパクトな選手が多い。デレック・ジーターが「ミスター・クラッチ」と言われている事が、それを端的に表している。

さて、そうした両手で振り抜いてコンパクトなスイングをする打者が、良い当たりのヒットを打っているシーンを目にして「これは良い打者だな」と思い、成績を調べてみると、(MLBでは)意外と数字が伴っていない場合が多い。2割5分でホームラン8本とか、そんな感じが多い気がする。もちろん、それには投手のレベルの高さも有るだろうが、それだけでは無いと思う。

その原因と考えられる理屈を、説明したい。そして、それは両手で振り抜く打者に取って、重要な技術論上の示唆を与えるだろう。

繰り返し書いて来たように、両手で振り抜く事がスイングメカニクス上、理想的なのだが、それはあくまでもMAXのパワーを発揮する中で、全身の力を使い切り、腰もフルに回転している状態での話だ。

イメージが掴みにくいだろうか?

例えばティー打撃。この場合、打者は投げ手の方を向いている。そのために腰の回転も小さくなる。腰の回転が小さな状態で両手を投手方向に伸ばすと解るが、当然ながらトップハンドがボトムハンドに届かない。この状態で両手で振ろうとすると、ボトムハンドを伸ばし切る前にトップハンドの手首を返す事になるので、つまり手首を捏ねたスイング(フォローが小さいスイング)になる。

「写真解説」左が肩が完全に投手に正対した状態。この状態だと、トップハンドとボトムハンドが同じ所まで伸びる。一方、右は肩の回転角度が小さい状態。トップハンドがボトムハンドに届かない。

こうした事(肩の回転が不足し手首を捏ねるスイングになる)は置きティーでも起きるし、軽く振る素振り(腰の回転も小さくなる)でも起きる。そして、メジャーの選手の置きティーや素振りを見ると、決まって顔が横(右打者なら一塁ベンチ方向)を向いている。この角度で両手で振ろうとすると、手首を捏ねるスイングになるので、それを嫌って多くのメジャーの打者が片手でフォローを取りたがる。これも、メジャーで片手フォローの打者が多い一つの原因だろう。

置きティーを打つアルバート・プホルズ。アメリカ野球の中で最もポピュラーな打撃練習が置きティーで、日本人が素振りを好んでやるように、アメリカでは多くの選手が行なっている。この練習の中から、片手フォローの打者が量産されて来ると考えられる。


同じく、ジョシュ・ハミルトン。プホルズもそうだが、打ちに行く時の顔の向きに注目してほしい。科学する野球の表現を借りると、これでは野球と言うよりゴルフだ。この顔の向きだと肩が回りにくいので、その状態で両手で振ろうとすると、手首を捏ねる事になる。それを嫌うからか、置きティーは片手でフォローを取る打者が多い。


ただ、置きティーなどでトップハンドを離す事によって、手首を捏ねないで振る事が出来たとしても、片手フォローでは別の問題が生じて来るので、トップハンドを離した事で問題が解決するわけでは無い。結局、置きティーやトスのティー、軽く振る素振り、横を向いて振る素振り、と言った練習方法では、どうやっても理想的なスイングは生まれないということだ。

ここからが本題だが、つまり両手で振り抜くタイプの場合、軽く当てに行くような打ち方との相性が悪い。これは片手フォローの選手よりも相性が悪いと思う。ヘッドが返ってしまうと当てる事すら出来ないからだ。

イメージがわきやすいように具体的な例を挙げると、二戦球の投手が気の抜けたような球をボワーンと投げて来たような時、両手で振り抜くような打者が変に右に打ち返そう等と考えて打つよりは、片手でフォローを取る打者が、半ばホームラン競争のような心持ちで、これまたボワーンと振りに行った方が、まだ打てる確率が高いような気がする。

このように、両手で振り抜く場合、ある程度全力で振って行かないと両手振り抜きの良さが活きてこない。そのため、どうでも良いような場面で、打球をどっちに飛ばそうとか、器用に打ってやろう等といった余計な考えが頭によぎるような状況の中では、力を発揮しにくいのでは無いか。そして、大事な場面で、アドレナリンが湧き出て来るような状況の中、ボールに集中して叩き潰しに行ったような時に、真の実力が発揮出来ているのでは無いか。

別にアドレナリンが出て来る必要も無い。しかし重要な事は、常にボールを強く叩きに行き、余計な事を考えないということだ。打球の行き先はボールに任せれば良い。右に打とうとか、フェンスを超してやろうとかでは無く、とにかくボールとバットが衝突するポイントに集して、強くボールを叩こうと言う姿勢が大切になる。この事が両手で振り抜くタイプの打者にとっては大切になる。

最後に、練習方法について。置きティーやトスのティー打撃、軽く振る素振り等では、トップハンドを離した方が良いのかと思った人も多いと思うが、別にそういう話では無い。大事な事は、そうした練習では決して理想的なスイングに近づけないと言う事を知っておく事だろう。置きティーやトスティーにはそれなりにメリットが有るので、やった場合は後で素振りやフリー打撃で修正しておかなければならない。ラボでも都合上置きティーを使う事が多いが、やはりフォームを作る上では良く無い事を実感している。(コマメに修正のために素振りを挟んでいる。)


ダルビッシュ・有とA.J・バーネット

現時点でのメジャーリーグの奪三振レースはA.J・バーネットが42個で1位、ダルビッシュが38個で2位につけている。恐らく明日の登板で一時的にはダルビッシュが一位になるだろう。

ただ、このバーネットとダルビッシュが1位2位になっているということについては、理論的に面白い見方が出来る。この二人は今のメジャーでは少なくなったスインガータイプの先発右腕である。ただ、面白いのはそれだけでは無い。

まずは、両者の奪三振シーンを動画で見てほしい。

A.J・バーネット
2013/04/07 Burnett strikes out nine Dodgers

ダルビッシュ・有
10/5/2012 プレーオフ、ダルビッシュ6回2/3 7奪三振!

両者とも、80マイル前半〜中盤の縦スラのような落ちる球で空振りを取るシーンが目立つ。バーネットは、いわゆる”スライダーに間違えられやすいハードカーブ”を投げるタイプなので、何球かはカーブだと思うが。

もちろん、こうした球は、他の先発投手も投げるが、ダルビッシュやバーネットは特に目立つ。そして、こうした中速系で縦に落ちる、抜く感じの変化球が投げやすいのもスインガータイプの特徴だ。

そして、ここで重要なのは、落ち幅よりもむしろ、ボールゾーンまで落ちている事が重要な意味を持っている。

メジャーの打者には片手でフォローを取るタイプが多い。そして何度も書いて来た事だが、特にパンチャータイプのメカニクスと片手フォローは相性が悪い。スインガータイプで重心移動が大きい打者にはマッチしている部分も有るが、それでもポイントを間違えると危険な技術だ。

片手フォローのデメリットの一つが、低めにバットのヘッドを潜り込ませる事が難しくなる点にある。片手で振ると決め込んでいる打者は、振り出しから、ボトムハンドの手の甲が投手方向に向いた状態のまま振り切る感じのスイングが多いが、これだとヘッドがボールの低さまで潜り込めない。バーネットの動画で、マット・ケンプが片手フォローで2回空振りしているが、まさに典型的なシーンだ。ダルビッシュの動画でも、同じようなシーンが目につく。もちろん、ダルビッシュやバーネットのような球を投げられたら、どんな打者でも打ちにくいが、片手で振る打者は特に打ちにくい。ボールが、ばるでリンボーダンスのようにバットの下をすり抜けて行く。

下の動画はフィルダーが低めに落ちる球にヘッドを潜り込ませて上手くすくいあげたシーンだが、こうした、体の捕手側を落としてヘッドを潜り込ませるような打ち方は、両手で振り抜いた方がやりやすいのだ。

2011/09/27 Prince's third homer

メジャーの打者は落ちる球に弱いというような事がしばしば言われるが、こうした事も関係があるだろう。野茂が渡米した時点で、メジャーでは既に片手フォローが大流行していた。と言うより、フランク・トーマス、ホアン・ゴンザレス等の全盛期で、第一次ブームのまっただ中にあった。また、今年のWBCでも、キューバやオランダの打者が日本人投手の投げる落ちる球を、片手で振りに行って空振りするシーンを何度か見た。

そして、さらに面白いのがメジャー中継の解説で知った事だが、マリナーズのカイル・シーガーがダルビッシュキラーと言われていた事だ。この打者は、下の動画を見ても解るように、良くも悪くもアッパースイングの打者で、しかも両手で振り抜く。見るからに、先に挙げたフィルダーのような打ち方が出来そうなスイングだ。さらに左打者である事も、スライダーが入って来る球になるため、ダルビッシュに強い理由かもしれない。

2013/04/23 Seager's two-run homer

今、メジャーの先発右腕は、パンチャータイプが大多数を占めている。今期もクレイ・バックホルツ(パンチャータイプ)が早くも4勝、防御率0.90で、この二つのレースでは首位に立っている。もちろん、パンチャータイプの投手も、ダルビッシュやバーネットのような球は投げるが、それでもスインガーの方が投げやすい事は間違い無いだろう。実際、パンチャータイプの場合は、もう少し高速で鋭く動くが、動きの小さい球が多い。

自分のタイミングで投げられる投手の場合、打者ほどにパンチャーである事が有利とは言えない。牽制球や、クイックモーションはパンチャーの方が速いが、その他の点では共に一長一短が有る。

球速はどうだろう。確かに豪速球投手にはパンチャーが多い。しかし、藤川球児はスインガーだ。これは恐らく、速い球を投げようという願望の強い投手が、半ば無意識の内に、単純に思いっきり投げるパンチャータイプを選択しやすいからでは無いか。一方、スインガータイプの場合、力を抜けば抜くほど指先が走るとか、よく言えば「高度」だが「速い球を投げたければ、腕を"振って"はいけない」等と禅問答的で難解である事が多い。合気道のような伝統がある日本人には馴染みやすい世界かもしれないが。落合などは、正にそういう世界観を持った打者の典型例であったように思う。実際「投手のボールの勢いを利用して」等と言うのは決まってスインガータイプだし、これほど合気道的な発想は無い。それにしても、何故このようにウィンドウズとマックのような、或はペプシコーラとコカコーラのような二者択一が、人間の身体運動の中に存在するのか、謎は尽きない。

まぁ、いずれにしても、こうした多様性が野球を面白くしている事は間違い無いだろう。ラボでは目指す方向性をハッキリ打ち出しているが、見る分には多様性が有った方が面白い。

ダルビッシュとバーネットのようなスインガータイプの投手が、ああいうボールで三振を量産している。その事と、バッティングメカニクスの関係。野球は面白い。




2013年4月23日火曜日

始動の早いフォームと始動の遅いフォーム(ピッチング)

最近よく話題にしている、パンチャーのピッチングフォームにおける始動が早いか遅いかと言う問題について書きたい。

パンチャーのピッチングでは、後ろ脚に体重を乗せた状態から「エイッ」と力を入れて投げる。瞬発的に大きな力を発揮する意識だ。この意識で一気に投げようとすると、無意識下で下半身が力を発揮し、重心移動が起きる。そして、この意識の中で「エイッ」とやる瞬間を始動の瞬間と言う。

※)ただ、ポイントを抑えずに思い切り投げると、アーム式や担ぎ投げになって、肩や肘の故障に繋がるので、そのへんはラボに来るなり掲示板で聞くなりしてください。掲示板でも大雑把な事は教えられます。

ポイントとしては出来るだけ後ろ脚に体重が乗った状態から始動したいと言う事。つまり、出来るだけ土台となる脚に体重が乗った状態から始動した方が力が出る。それとは逆に、脚を挙げて、脚を降ろして、やや重心移動が進んだ状態で始動するパンチャーの投手も多い。というか、一般的な投球技術理論を考えると、むしろその方が自然だろう。

今回は、始動の早いタイプと始動の遅いタイプを動画で紹介する。もちろん、パンチャータイプとしては始動が早い方が良いのだが、遅いタイプには遅いタイプなりの利点があったりして、一概に投手成績を左右する要因にもなっていないのが、また野球の面白い所だ。

始動の早いタイプ

クレイグ・キンブレル
メジャーで豪速球クローザーと言えばこの人。脚を挙げたらすぐ投げるような感じのフォームだ。ラボでも教えている事だが、脚を挙げて、降ろして、投げるの感覚だと始動が遅い。降ろした時には既に重心が移動しているからだ。なので、脚を挙げて、フッと力を抜いて、ガッと投げると言うリズムで教えている。これでも実際には脚を降ろしたあたりでの始動になる。脚を降ろしてから始動しようとすると、実際にはもっと始動が遅れる。キンブレルも脚を挙げたら、後はリラックスした状態から一気に投げると言うだけのフォームに見える。ただ、こうした始動の早いフォームは遅い変化球が投げにくい。実際、キンブレルもほとんど投げない。

デビッド・ロバートソン
キンブレルと似たタイプのフォーム。ただ、この投手は大きなカーブも投げる。(動画)僅かに始動のタイミングを遅めにずらし、力を抜き気味に投げているように見えるが。この動画では、速球の次にカーブを投げているので比較しやすい。また、これはキンブレルにも言える事だが、後ろ脚の膝をやや曲げ過ぎているせいで、重心移動の距離がやや短い。肩を痛めなければ良いが。

チャド・ビリングスリー
ビリングスリーも始動が早いので力感が有る。カーブをよく投げる事も関係があるように思えるが、多少アーム式なのが気になるが。ビリングスリーの動画で注目してほしいのは、どのボールを投げるときも腕を強く振ってる事。始動が早いタイミングで変化球を投げようとすると、こういう感じになると言う見本のような投げ方だ。

ジャスティン・バーランダー
この動画の中ではバーランダーは比較的多彩な変化球を投げている。そして、ビリングスリー同様、どのボールも腕を強く振って投げている。始動の早いパンチャーの特徴だ。先発投手の中ではメジャー最速と言っても良いスピードボールを投げるバーランダーも、やはり始動は早い。ただ、バーランダーの場合、やや後ろ脚の膝を曲げてタメを作る感じが有るので、そこのタイミングの調整で始動のタイミングや、力の入れ具合を操作しやすい投げ方にも思える。ただし、膝を曲げるようなタメの作り方は、動作理論上は良く無いので真似はしないで欲しい。

アレクシー・オガンドー
上半身動作は似ていないが、全体の投げるリズムや膝を折る所などはバーランダーと似ている。元鉄砲肩の外野手である。野手投げと言われればそれまでだが、パンチャータイプとはある意味、そういう投げ方である。何故かと言うと、モーションの早さが要求される野手にはパンチャータイプが多いからだ。もしかしたら、今のメジャーを見ていて「野手投げの投手が多い」と思う人がいるかもしれない。そしてまた、今の日本プロ野球を見ても「野手投げの投手が増えた」と思う人もいると思う。そうした人は、スインガータイプを深く理解している人で、逆に言うとパンチャーも理解出来る素養が有る。

始動の遅いタイプ

アービン・サンタナ
脚を挙げて、降ろして、投げると言うリズムの典型のようなフォーム。そのぶん、球速もバーランダーに比べると遅い。また、上の動画はパンチャーである事が理解しやすいように、比較的思い切り投げている動画を選んだが、それでも後半に力を抜いて変化球を投げているシーンが有る。基本的にあまり全力で投げない感じで、そのへんも始動の遅いタイプの特徴が出ている。腕の振りを緩めて投げる事がやりやすい利点を活かして中速系の変化球を武器にしているようだ。この動画のように、軽く投げて80マイル中盤の変化球で打ち取っているシーンが多く見られる。

イバン・ノバ
始動のタイミングが遅いので、スインガータイプだと思っていたが、パンチャータイプのようだ。スインガーに分類していた頃、ベースボールバイブルの東さんに「え、これがスインガーなんですか?」と聞かれたが、よく見ると、どうやらパンチャーのようだ。ただ、この投手の場合、始動のタイミングが遅い中でも、常に強く腕を振って様々なボールを投げている印象が有る。ただ、これは打撃でも投球でも言える事だが、基本的には重心移動である程度まで体を移動させておいて、最後にエイッと力を入れるフォームが多い。落合や福留のように最後まで力を抜きっぱなしと言う例も珍しければ、逆にオートマチックステップでいきなりガツンとやる例も珍しい。ただ、理想はそういう所に有ると言うのが、スインガーとパンチャーと言う分類方法のミソである。ノバにしても、この身体で、全てが理想的であれば100マイルくらいは出るのでは無いか。

エドウィン・ジャクソン
この投手も、スインガーと思っていたが、よく見るとパンチャーのようだ。始動のタイミングが遅いし、その利点を活かして軽く投げて80マイル台の変化球を投げるシーンが目立つので、スインガータイプと間違えていた。この動画のように、80マイル台中盤の縦スラのような落ちる変化球で空振りを取るシーンが多いが、こうした抜く系の変化球を投げやすいのも、このタイプの特徴だろう。遅い始動のタイミングから、やや出力を抑え気味にして、スッポ抜くように投げているのだと思う。

まとめ

このように、始動の早いタイプの方が球速は出る。しかし、始動が遅いタイプは、緩い変化球が投げやすい上に、力の加減がしやすいので、スピードの変化も付けやすい。そうした利点を活かして80マイル台の中速系変化球で勝負するタイプが多い。

しかし、ふと思った事だが、こうした特徴を理解しておけば、基本は始動の早いフォームを身につけつつ、やや始動のタイミングをずらす事で、両方のメリットを活かした投球が出来るのではないかと言う事だ。ただ、これはまさに今、文字通り机上で思いついた事なので、やってみた結果には責任は持てないが。もう少し試してから、もう一度、このテーマについて書こうと思う。もちろん、この問題の最大のテーマは「基本となる自分のフォームを崩さずに、試合中にアレンジを効かせる事が出来るか」と言う事になる。

ジェイク・アリエッタもライザーの使い手?

ジェイク・アリエッタ

オリオールズの若手有望株(プロスペクト)でありながら、まだメジャーでは目立った成績を残せていない、本格派の右腕。2011年には10勝8負を記録しているが、防御率は5.05と結構、点を取られている。1986年生まれなので、出て来るならそろそろ頭角を表して来るはずだが。

ただ、この投手が面白いのは、極めてファイブツール・ファストボーラー的な投手であるということだ。つまり、上、下、右、左、と全ての方向にムーブする速球を投げる。そして、さらに面白いのはカーブに対する評価が高い投手ということ。オフスピードピッチとしてのカーブを持っており、つまり「ファイブツール・ファストボーラー+1」と言う事になる。

この種の投手が打者にとって厄介なのは、外角のストライクゾーンギリギリにボールが来たとき、その球がそこから右に曲がるか左に曲がるかわからないと言う事だ。こうした状況で、いわゆる「選球眼」と言うのは役に立つのだろうか。

Arrieta's strong start

↑この動画の2球目と3球目、トリー・ハンターと松井秀喜に対する投球では、94マイルの速球が、鋭くシュート方向に動いている。

2012/09/24 Arrieta strikes out the side

↑この動画は面白い。1球目の82マイルの比較的速いカーブは典型的なパンチャーカーブ。2球目は91マイルの高速スライダー。3球目の82マイルもスライダーと見せかけて実はパンチャーカーブだと思うがどうだろう。打者から見ると、どちらでも同じ事だが。

この投手のカーブは81マイル〜82マイルが多く、カーブとしては速いのもパンチャーの特徴だが、面白いのは、時おり76マイルくらいの緩いカーブを投げる。下の動画の3球目がそれ。

Arrieta's scoreless start

↑この動画では1球目にもカーブを投げているが、3球目のカーブの方が遅いのでは無いか。そして、こうした球を投げるあたりに、フォームの特徴が出ている。藤浪の所でも書いたが、この投手は「始動が遅いタイプのパンチャー」である。だからパンチャーの割にはあまり力感が無い。つまり、ある程度、重心が打者方向に移動してから「エイッ」と力を入れて投げている。そして、このタイプの投手は、最後の腕の振りだけ緩めて、遅いボールを投げるのがやりやすい。パンチャーとしては理想的なフォームでは無いが、そうしたフォームには、そうしたフォームなりの利点が有ると言うのも野球の面白さの一つだろう。このタイプの最大のデメリットは球速が出にくい事。軸脚に100%体重が乗っているうちに始動した方が力が出るから、始動が早い方が球速が出る。

カーブについては下の動画が面白い。

2012/05/18 Arrieta's nine strikeouts

1球目と2球目は、81マイルの鋭いカーブで、おそらくこのカーブの方がアリエッタにとってはスタンダードなカーブだと思う。要するに、あまり腕の振りを緩めないで、ストレートに近いフォームから投げるカーブである。アリエッタのように90マイル前半から90マイル中盤の速球を投げるパンチャータイプの投手が、普通にカーブを投げると、81マイルくらいになるのが自然で、それより遅いカーブを投げようとすれば、腕の振りを緩めなければならないはずだ。

そして、ライジング・ファストボール。

2011/05/25 Arrieta's strong start

↑この動画の最後の2球。特に最後の1球。フォームを見ていると、他のボールを投げるときに比べ、体の横回転の角度が浅い。元々、投げた後に後ろ脚が勢い良く出て来るフォームでは無いが、ライザーを投げているときは、それにもまして後ろ脚が出て来ない。体全体で意図的に投げ上げ角度を作っているようにも見えるが、どうだろう。

ライザーについては投げ方がまだ解らないので、何とも言えないが、アリエッタもライザーを意図的に操っているように見える。そして、また面白いのは時おり、微妙に腕の角度を変えて投げているようにも見える。ここまでやると本格派と言う感じでは無くなるが。。ただ、本質的には縦軌道で腕を振るタイプの投手で、メインウェポンはツーシームとカーブと言うパターンでは無いかと思う。

ただ、それにしても、このくらいの球を投げる投手が防御率4点台5点台を記録している事に驚かされる。実際の試合を通しては見ていないので、なんとも言えないが、こうした投手(良い球を投げているのに防御率が悪い)は結構多い。このへんにメジャーのレベルを感じる。






門真ビッグドリームス 主軸3選手の分析

去年12月に見させて頂いた門真ビッグドリームスの主軸3選手について、簡単に感想を書きます。

佐藤君


かなりオートアマチックステップに適性があるので、この打ち方でやっていけるでしょう。ただ、バットのヘッドが出て来ないような事を言っていたように思いますが、それは肩を捻りすぎているからでは無く、ヘッドが顔の前を通って、投手方向に入る傾向が有るからです。こうなると、後ろの大きなスイングになりやすく、ヘッドの出が遅れやすいのです。そして、この動画でも、その傾向に有ります。それが修正されれば、もっと素早くバットが出るようになるでしょう。

ヘッドが顔の前から投手方向に入る例(×)ポール・コネルコ

ヘッドが後頭部を通って投手方向に入る例(○)プリンス・フィルダー


ただ、そのプリンス・フィルダーのような構えは、技術論的、解剖学的には理想なのですが、腕の筋肉には最も負担がかかりますので、いきなり大きく変えたり、筋力が伴っていないと、逆に調子を落とす可能性があります。そして、その構えに耐えうる力をつけるトレーニングも重要になります。それについてはそのち、このブログのコラムに書くと思います。「構えの力をつけるトレーニング」というものです。

正木君


揺らぎ方、打ちに行く間など、中学生としてはかなり自分の世界が出来上がっている打者です。このパフォーマンスを硬式の重いバットで実現出来れば、そして試合の中で発揮出来れば、日本のプロにはなれると思います。ただ、骨格的に日本人的な部分が有るのか、打ったり投げたりする動きに、日本人的な骨格のデメリットが少し出ています。簡単に言うと、このタイプの打者はゆったりとしたタイミングの取り方で打つ場合が多いのです。イチローの振り子打法もしかりです。ただ、その傾向が強すぎると、タイミングがブレやすい等の弊害も出て来ますし、究極的には不利な骨格的特徴です。なので、むしろ体作りの面で、如何に黒人などの外国人に近づくかと言う事がポイントになります。特に成長期が終わるまでは、骨格の形も、トレーニング次第で変わりうるので、その事が重要です。それについては、この記事(http://bplosaka.blogspot.jp/2013/04/5_3.html)に書いてあるので参考にしてください。

例えば、OBの高橋君は、比較的、骨格が日本人としては良い方でした。それが両者のタイミングの取り方の違いに表れているということです。

東本君


あまり見る時間が無かったので、この動画でも打ち方はほぼオリジナルだと思います。チームの中で一番良く打つと言う話を聞いたのですが、それも良く解ります。間合いやタイミング、反応など、投手と対戦する事が上手いのでしょう。そういうタイプの選手はいます。右投げ左打ちに多い気がしますが、要は試合に場慣れしており、クレバーな所があるのでしょう。このタイプの選手の場合、如何にフォームを良くするかが、どこまでのレベルに進めるかのポイントになります。そして、フォームには、まだ修正するポイントが有ります。

当日見た時は確か、バットが真っすぐ立っていたと思いますが、この構えだと脊柱も真っすぐになりやすく、そうなると、膝の曲がり方も前に潰れるようになってしまうのです。もう少し、バットを斜めにして構える事が出来るようになると、構えが良くなるでしょう。そして、スイングで体重が後ろに残り、前の膝が開くのも改善されるはずです。

左の構えだと後ろに体重が残りやすくなります。

もっと外国人のように。。とまでは行かずとも、ソフトバンクの柳田くらいの感じで構えられれば、スイングがもっと良くなるでしょう。


以上です。





2013年4月22日月曜日

デトロイト・タイガースに注目

2012年は惜しくもワールドシリーズでジャイアンツに敗れたが、今期は的確な補強をして、非常に期待出来るのがデトロイトタイガースだ。

投手陣

まず、投手陣。本格派の大型右腕が3人も揃っている先発3本柱はメジャー最強とも言われている。日本で言うと、松坂、涌井、前田健太が1チームに集まった感じだろうか。この3人を動画で紹介する。(ちなみに3人ともパンチャータイプ。そこも見所)

ジャスティン・バーランダー

ストレートは時に100マイルに達し、70マイル台の大きなカーブも投げる。そして、その中間の速度の変化球も大方の球種は投げる。メジャー最強右腕と言って良いだろう。2011年には24勝5敗と言う圧倒的な数字を記録した。

ダグ・フィスター

切れ味鋭いツーシームと、大きく美しいカーブを武器にする、クラシックなゆったりしたフォームで投げる大型右腕。3人の中では球速は遅いが、長身から高い重心のまま投げるので角度が有るし、ボールの動きは面白い。最高11勝。

マックス・シャーザー

バーランダー程ではないものの、95マイル以上の球速を出す本格派右腕。80マイル台中盤で、低めからボールゾーンに鋭く落ちる縦スラのようなボールで空振りを取る。この球が決まれば、まず打たれないだろう。最高16勝。

恐らく、ポストシーズンには間違い無く勝ち進むだろう。そうなった時、この3人の右腕がフル稼働することになれば、非常に見物だ。

打線

なんと言っても、プリンス・フィルダーと三冠王のミゲール・カブレラのコンビが打線の看板で、このコンビもまた、メジャー最強の呼び声が高い。

プリンス・フィルダーについては、この記事で紹介した通り、はちきれんばかりに体をねじり切るフルスイングと、柔軟な対応力が同居した高い打撃技術が見物だ。

一方、ミゲール・カブレラについては、流し打つ技術が半端無い。さらに腕を縮めてインコースを打つ技術も高いので、非常に手強い。そしてダルビッシュが言うように、非常に頭脳的な打者だ。ただ頭脳的と言っても暗いイメージでは無く、どちらかと言うとヤンチャなイメージで若い時代は通っていた。ベネズエラのハスラーと言った感じだろうか。勝負師ということだ。後半戦に煮詰まって来たときには、そういうあたりが見所になるだろう。

ミゲール・カブレラの流し打ち

ただ、昨年のワールドシリーズでは、この二人に続く存在がいなかった。高いレベルの投手が出て来たときには打てそうな感じのしない打者が多かった。なので、ここにあともう一人、一流投手が出て来ても対応出来るような「きちんと打つ」タイプの打者が欲しかったのだが、そこに持ってこいの人材が補強された。トリー・ハンターだ。高い守備能力で有名な外野手だが、打撃技術には非常に信頼出来るものが有る。既に37歳のベテランだが、昨年は打率0.313を記録している。最高31本塁打。2割8分、25本塁打レベルの成績を着実に積み重ねて来た、右のポイントゲッターである。

トリー・ハンターのホームラン

見てのとおり、構えた所から無駄無くバットが出てきて、鋭く両手で振り抜いている。こういうスイングだと、相手投手のレベルが上がっても対応しやすいので、大事な場面では頼りになるタイプの打者だ。今年も現在までで打率0.392をキープし、3位につけている。ただ、少し気になるのは、やや後ろが大きなスイングで、いわゆる「下からバットが出る」ところが有る。

このように、投手陣と打線に、それぞれ3人の大物タレントを揃えたデトロイト・タイガースに今年は期待したい。また、ポストシーズンでも比較的見応えが有るチームと言えるだろう。去年、ワールドシリーズを見て、まさに欠けていると思ったワンピースを的確に補強してきた。(トリー・ハンターの加入)そして、そのトリー・ハンターが今のところ好調で、6人が一応ケガ無くロースターに入っている。それだけに、個人的にも今年はタイガースに思い入れが強い。

90年代のオートマチックステップの打者

グレナレン・ヒル 野茂が渡米した当時、ジャイアンツでボンズの後ろを打っていた。


ジョー・カーター 1993年のワールドシリーズで打ったホームランが有名。ロベルト・アロマー、ジョン・オルルッド等とシト・ガストン監督のブルージェイズ黄金時代でプレーした。


パンチャータイプのオートマチックステップと言う理論に辿り着く最初のキッカケは野茂が渡米した当時から見始めたメジャーリーグ放送だった。その時に一種のカルチャーショックを受けた記憶が有る。

当時のメジャーリーグには今のAロッドやホセ・バティスタのように脚を挙げて打つ打者もほとんどおらず、パンチャータイプのオートマチックステップの打者は今より多かったように思う。そして、重心を落とし気味に構え、そこからテークバックを取らずにいきなりバットを振り出して来る打者が多かった。グレナレン・ヒルやジョー・カーターのような感じだ。

当時の自分の考えでは、体重移動を活かして前脚に軸を作り、ヘッドを遅らせながら体の回転を利用して打つのが理想的な打撃(ランディー・バースのような打撃)だと考えていたため、前述のようなメジャーの打者は「力任せで下手」に見えた。

なぜ、メジャーリーグに、こんなレベルの低い打者が沢山いるのか。これが最初のカルチャーショックである。

しかし、色々試しているうちに、こうした打ち方は重心を下げてスクワットダウンする事で、下半身に溜まったスクワットの力を、瞬発的にボールにぶつけるようにして打っているのでは無いかと考えるようになる。当時の私には、ここまでが限界だった。やってみると、無駄な動きは無くなるし、スイングはシャープになる。実戦的な打ち方だなと言うのがまず感じたことであった。だがもちろん、それはパンチャー本来のメカニズムでは無いし、実際、調子を保つ事も難しかった。(打つ前にスクワットダウンしながらタイミングを取っていたが、やってるうちに下半身の筋肉が緊張してきて動きが悪くなる。)

今のメジャーでも同じような感覚で打っている打者はいるのでは無いか。例えば、ジャスティン・モーノウは打ちに行く前に少し重心を下げる。こうして下半身に力を貯めているのだと思う。もちろん、これは本来は良く無い動きだが。(大腿四頭筋が効くので)

また、2012年に三冠王を獲得したミゲールカブレラは「両方の太腿に力を入れて待つ。その力をボールにぶつけている。」と自らの打撃を説明している。しかし、この感覚でも、意識的かつ瞬発的な力の発揮が有れば、メカニズムはパンチャーとなる。だから、パンチャータイプの打者も「下半身の力を使って」とか「重心をぶつける」と言う表現を使う事が多い。しかし、それでは自分の打撃メカニズムを理論的には正確に把握していないということになる。

そうこうしているうちに2001年、「メジャーの打法」と言うホームページの作者にインターネット上でだが話を聞く機会に恵まれる。そして、ここでまた衝撃を受けた。

私がスクワットの力を利用して打っていると考えていた打者に対する彼の見方は、私とは全く違っていて「まるっきり右腕で押して打っている。」「下半身を使わない打法である。」であった。こうした考えも最近では修正が加わっているようだが、ジーターに対する解説も、当時の私には受け入れ難いものだった。「大胸筋を使った大根切り」である。

「あり得ない」と思ったが、大体同じような打者に注目していたため、その理論が頭から離れる事は無かった。そして、その年か次の年かは忘れたが、今の理論の基礎が出来上がる。

つまり、下半身で先行動作を取らずに、いきなり(瞬発的に大きな力を発揮して)バットを振り出して打とうとすると、上半身でサイレントピリオドが発生すると同時に下半身が無意識に力を発揮して重心移動が発生する。だから、下半身で先行動作を取る必要は無い。そして、こうしたメカニズムを発動させるためには「静的な状態から、瞬発的に大きな力を発揮する」という事が必要になる。と言う理論だ。

つまり、スイングのための準備として、体を動かす動作は必要無い。最初から、いきなりバットから振り出して行けば良い。(重力で落とすとかでは無く、筋肉の力で振り出す)

つまり、野茂が渡米した当時にメジャーの打者から受けた印象は半分は正しかったと言うわけだ。メジャーリーガーは力任せに打っていたのだ。ただし、力任せで上手かった。

そして1994年に受けたカルチャーショックに対して、自分の中で咀嚼して、整理が付くまでに7年、8年かかった事になる。

こうした紆余曲折を経て思う事は、この「パンチャータイプ」と言うメカニズムに対しての理解が無ければ、結局、メジャーの打撃に対して「筋力が有るからこそ出来る事」「人種が違う」と言った見方から抜け切れ無いのではないかということ。例え、技術的に解説する事が出来ても、それでも最後の部分で「パワーが違うから」とならざるを得ない。これではメジャーを見ていても、技術に対して感情移入が出来ないから本当には楽しめない。

メジャーの技を本当の意味で味わい、楽しむためには「パンチャータイプ」と言うメカニズムに対する正しい理解が必要になるし、それが有ればメジャーリーグは非常に面白い。

2013年4月21日日曜日

藤浪晋太郎



やはり、藤浪は良い。良いというか面白い。豪速球投手のようなイメージが有るが、将来的にメジャーに挑戦した場合、クセの有るボールの動きで勝負するようなタイプになると思う。この動画でも、最後はツーシームかどうか知らないが、シュート方向に動く速球で決めている。

前にも書いたように藤浪はパンチャータイプだが、体幹の前屈が目立つフォームだ。腕の出所が低いので解りにくいが、縦回転系のフォームだと思う。このタイプのフォームの投手は(良い悪いは別として)ツーシームやシンカーなどシュート系の球と、縦のカーブを武器にする場合が多い。ただ、唯一気になるのは、肩を壊しそうなフォームだということだ。

日本人で似たように体幹の前屈が目立つパンチャーのフォームとして、山口高志と村田兆治を挙げたが、メジャーにもこのタイプのフォームのパンチャータイプが何人かいるので、動画で紹介したい。

マックス・シャーザー
ロス・オーレンドーフ
マット・ガーザ
ジェームズ・シールズ
ジェームズ・マクドナルド
ダン・ウィーラー

基本的には、始動のタイミングが遅いタイプに多いと思う。つまり、ある程度重心移動で体を打者方向に運んでから「エイッ」と力を入れて投げているということだ。皆、体が大きいので95マイルは出ているが、メジャーの本当の豪速球投手は97マイル出す。その意味では、このタイプのフォームは真の意味での豪速球投手では無い。パンチャーのメカニズムでは、始動のタイミングが早い方が力が出るからだ。(軸脚に重心が100%乗ってる段階で始動したい。)

ただ、このタイプが面白いのは、始動が早いタイプと違い、腕の振りを緩めて変化球を投げる事が出来るということ。最初の動画でも藤浪が腕の振りを緩めてカーブを投げているが、これはいわゆる「ストレートと全く同じ腕の振りからのカーブ」では無い。

もちろん、腕の振りを緩めないカーブも投げられるが、緩めて投げる事も出来るということだ。そのため、このタイプのフォームは変化球を力感の無いフォームで投げる事が多く、スインガーのように見える事が有るし、スインガーのような、抜いて投げる感じの中速〜低速系の変化球を武器にしている場合が多い。

始動が早い投げ方(理想的なパンチャーのフォーム)だと、腕の振りを緩めようとしたら重心移動そのものが最初から遅くなるので、かなり早い段階で打者に気が付かれるので、使い物にならない。しかし、始動が遅い投げ方だと、最後の腕の振りだけ緩めて投げても、そこそこは使える変化球になると言う事だ。

こうしたあたりを考えても、藤浪の投げ方だと、将来的には豪速球投手では無く、多彩な変化球で勝負するタイプになるだろう。もちろん、ストレートも速いだろうが、それ以上に技術で打者を打ち取るタイプの打者になるだろう。

ジョージ・ベル



素晴らしいスイングだ。片手フォローである点を除くと、ラボで追求しているスイングの理想型に近い。黒人特有の、ハムストリングスが効いた、はちきれんばかりの躍動感を感じさせるスイングである。

そして、素晴らしいスイングにはつきものの、構えてから投球が来る「間」もバッチリだ。良いスイングはこういう間の時に多い。

80年代から90年代に活躍したオートマチックステップの打者だ。知らなかったが、WIKIを見ると、結構良い成績を残している。特に1987年の47本塁打 打率0.307 打点134が目を引く。

ジョージ・ベル WIKI

ドミニカの出身のようだが、やはりこの種の打ち方は中南米原産なのだろうか。ただ、ステップが小さく、後ろへの体重移動も小さい(或は無い)打ち方は、アメリカにも昔から良く有ったので、こうした打ち方はアメリカ野球の感性からすると馴染みやすい物であるだろうし、むしろアメリカ野球的である。

クラウチングで、首の角度を、その前傾した脊柱軸に合わせている。クラウチングも首の傾きもやや過剰だが、こうするとハムストリングスの力はより使いやすくなる。そのため、体の回転が非常に豪快で、腰を突き出したフォロースルーが取れている。そして、始動時に発生する重心移動も充分に力強い。オートマチックステップのツボを心得たスイングだ。

ただ、クラウチングの角度を過剰にするデメリットはスイングがアウトサイドインの遠回りになり、体も突っ込みやすく遅い球を我慢しにくい事にある。

また、この打者のオートマチックステップは、後ろ脚への体重移動によって爪先立ちになった状態から始動する、言うなれば「セミ・オートマチックステップ」だ。横から見ると、スタンスはやや狭めだが、黒人でハムストリングスの力が使いやすい体型であれば、このスタンスでも力が発揮出来る。もちろん、割った方が良いのは当然だが。おそらく、このスタンスの狭さなので、始動前に重心移動を行い、その力を利用しないと力が発揮出来ないのだろう。股関節を割って構えると、止まった状態からパワーを発揮出来るようになる。

メジャーリーグには確かにオートマチックステップの打者が数多くいるが、実質的にはセミオートマチックステップの打者が、その大部分を占めるだろう。マット・ケンプもしかり。

この打者のスイングから学ぶべき事は、いわゆる「ステップ」をしなくても、これだけ体の力を使い切ったスイングが出来る(本当はその方が体そのものの力は使い切れるだろう)ということだ。(ただし、オートマチックステップはノーステップでは無い。実質的には脚は上がる。ノーステップは間違った打ち方だ。日本でもノーステップは一時的なブームで終わったが、ノーステップは間違った打ち方なので終わって当然である。)

しかし、こうした「ステップの小さい打ち方」を可能にしているのは、黒人特有の腸腰筋やハムストリングスの強さと、それに伴う運動機能の良さであるから、オートマチックステップを取り入れる打者は、そこを重視しなければならない。日本人の体のままでは、このスイングは出来ないだろう。いわゆる「技術論」だけでは到達出来ないレベルだ。黒人の身体機能に近づき、黒人のようなスイングを身につける。それでなければ、日本から世界に通用する強打者は育たない。

2013年4月20日土曜日

ベースボールの色とスクリューボール

野球には野球に適した「色」が有る。例えばバックスクリーンは黒板色で有ることによりボールが見やすくなる。また、色が精神に与える影響も見逃せない。黒系の色だと気が引き締まるが、薄い色だと眠気さえ誘ってしまう。黒系の背景に白系のユニフォームがコントラストが効いていて最も気が引き締まる。その意味で日本の球場では東京ドームの色が最も良い。これぞ野球の色である。選手も気が引き締まるし、見る方も「野球をみるぞ」と言う気になる。



逆に最悪だったのが、去年までの大阪ドーム。あの色だとボールも見にくいし、水色は眠気を誘うために寝室にも使われやすい色なので、あのカラーコーディネートは野球場としては良く無かった。これだと野球中継を見ながら眠くなってしまうだろう。選手も空気がダレやすかったのでは無いか。


そういう意見が多かったのか、今年から水色の色あいが暗くなっており、非常に良くなった。これでぐっと気が引き締まり、選手も集中力を保ちやすくなったはずだ。


ところで、野球は球場に見に行くのが良いか、テレビで見に行くのが良いか。球場に見に行くメリットは守備位置など全体が見渡せる事だが、これは本来なら非常にマニアックな見方だ。もちろん応援も有るが、それは野球を見るというのとは少し違うので、ここでは考えない事にする。

一方、球場に見に行くと、ストライクボールや投手の投げた球が非常に解りにくい。ネット裏でもテレビの方がまだ解りやすいだろう。投手と打者の対戦。その息詰るスリルを感じるにはテレビで見た方が良い。

ところで、日本の野球中継は、下の動画のように、水平アングルで、やや左中間寄りから映すのが一般的だ。


しかし、このアングルだと、投手の投げるボールの軌道が、正確に解りづらいと言うデメリットが有る。そこでメジャーでは下のように、やや俯瞰して見る事で、センターの中央から投手と打者を捉えるようにしているケースが多い。


ただ、これにもデメリットが有る。水平アングルから見てしまうと両者が完全に重なり、ボールが見えにくくなるので、俯瞰しているわけだが、そうする事で、画面の中で投手と打者が非常に大きな空間を占めてしまう。このアングルで日本の中継のように投手と打者をズームすると、打球が直ぐにカメラから消えてしまうので、やや引き気味に撮影している場合が多いのでは無いか。

これは体が大きいメジャーリーグだとまだ良いが、日本野球でやるとたちどころに迫力が無くなってしまうだろう。そうした意味ではNPBとMLBの中継スタイルの違いは理に叶ったものだと言えるかもしれない。

また、この中継スタイルの違いは、投手の投げるボールの球速を錯覚させる副作用が有るかもしれない。例えば間近で見ると凄いスピードで飛んでいるジェット機でも地上から見ると遅く見える。これと同じ理屈でズームの効いた日本式の方が投手の投げるボールが速く見えるのでは無いだろうか。(ちょっと適当っぽいが、たぶんそうだと思う。)それと、俯瞰して見るよりも、水平アングルの方が遠近感によってスピードを感じやすいのでは無いか。一時「メジャーのスピードガン表示は水増しか?」と言う議論がネット上で有ったが、こうした事情も関係しているのでは無いか。

しかし、それにしてもミネソタ・ツインズの本拠地の中継スタイルは頂けない。ここまで引いてしまうと、投手と打者が小さく見え過ぎて、動きが解りにくいし迫力が無い。これはなんとかならないものか。結局、内野手と外野手は映らないのだから、それだったらここまで引く意味はあまり無いはずだ。


ただ、メジャーでもやや左中間よりから映す場合も多い。ヤンキースタジアム等がそうだ。


この角度からだと、左投手の投げるシュート系の球、つまりスクリューボール系が見えにくくなる気がする。それでかどうか、また左投手がシュートする球を投げること自体が難しいのか、メジャーを見ていても、左投手のツーシームは地味な気がするし、大きく横に滑るような球は滅多に見られない。その中でも、とっておきの動画が有るので見てほしい。ここまでの話題は、この動画のための前フリと言っても良い。この動画の中にシュート方向にムーブする速球が4球有る。(4球目は動きが地味だが)

2012/07/18 Liriano's 10 strikeouts

センター中央から映すカメラなので解りやすいのか、それともリリーアノが特殊なのか。少なくともテレビ中継では左投手のこういうボールは中々、お目にかかれない。次の動画の最後の一球も良い。そしてやはりアングルがセンターの正面からだ。

2012/08/13 Minor's solid start

こういう球を投げる左投手が少ないのだろうか。それともテレビ中継のアングル上、解りにくいだけなのだろうか。その辺はまだ知識の足りない所だが。。実際、左投手はストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップと言うレパートリーの場合が多い。左投手にとってシュートする球を投げると言うのは難しい事なのだろうか。はたまた、右利きの左投げとか、左利きの左投げとか、そのあたりの事も関係があるのだろうか。




アンドリュー・ジョーンズのここに注目



NPB史上、最高レベルの助っ人外国人であるアンドリュー・ジョーンズだが、そもそもどんな選手なのかということを、まずは私見ながら紹介しておきたい。

アンドリュー・ジョーンズ wiki

まず、鮮烈なデビューと早熟な才能。1996年に19歳でワールドシリーズに出場し、第一打席と第二打席で二打席連続ホームランを打っている。そして、メジャーでも最高レベルの外野守備。肩については他にもっと強い選手がいるが、俊足と運動神経の良さを活かした守備範囲が売りで、トカゲのように外野フェンスをよじ上ったファインプレーが印象に残っている。(10年連続ゴールドグラブ)

ワールドシリーズでの二打席連続ホームラン(見られない場合は文字部分をクリック)


2001年頃からこの打者に注目して来たが、その頃の印象ではバリー・ボンズやケン・グリフィーJrレベルの選手になると思っていた。時代を代表する外野手として、ボンズ、グリフィー、ジョーンズになるだろうと思っていたのだが、その後の成績に爆発力を欠く。2005年に51本塁打を打ち、タイトルを手にするが、打率も伸びず、ボンズやグリフィーの域には達していない。ボンズ、グリフィーに比べると守備がうますぎたのが裏目に出たのかもしれない。(グリフィーも、度重なるダイビングキャッチによる手首の怪我が、打撃成績に影を落とした事を考えると、守備の上手さが裏目に出た一人だろうが。)

打撃に関しては、デビュー当時はオートマチックステップだった。当時のスイングは右打者のスイングとしては最も好きな部類のスイングであり、一目見てファンになった事を憶えている。その後、ノーステップやオートマチックステップもどきに流れたりと、フォームも安定しなかった。スイングもデビュー当時は両手で振り抜いていたが、キャリア中盤では主に片手でフォローを取っていた。フォーム的には、オートマチックステップもどきやノーステップで片手フォローを取っていた時期が最悪だったが、現在では(オープンスタンスからではあるものの)オートマチックステップで、スイングも両手で振る機会が増えているので、今現在のフォームはアンドリュー・ジョーンズのキャリアの中でも、かなり良い部類に入る。

日本での見所

さて、本題だが、日本での印象を見ると、意外なまでに打席で落ち着きが有る。そして大事に行こうと言う意識が非常に強く、実際ボールを良く見ている。打席内で非常に高い集中力を発揮しているので、充実した状態で打席に臨めているのだろう。

見所としては(無駄の無い)オートマチックステップの打者が、打席内でこれだけの集中力を発揮してきた時の「雰囲気」。これは見物だろう。今のNPBの中で、最も雰囲気の有る打席を作る打者の一人だと思う。

個人的な印象では、アンドリュー・ジョーンズと言う選手は、早熟な選手の晩年にありがちな状態だが「燃え尽きた天才」であり、キャリア中盤以降に、ボンズやマグワイアが見せたようなガツガツしたものを感じなかった。実際に燃え尽きていたか否かは別だが、今の打席での姿を見ると、逆にその事がプラスに作用しているかのような印象さえ有る落ち着きようだ。

wikiを見て知ったのだが、スロースターターらしい。また35歳と年齢も決して若く無い。特にジョーンズのように10代からプロで活躍した選手であれば、なおさら、この年齢は若いと言えるものでは無い。こうした選手の場合、夏場にむけて、どれだけ体がキレてくるかがポイントになるだろう。それによって成績も決まって来る。

ただ、一つ注文と言うか疑問に思うのは、日本に来てからのジョーンズのコメントで「出塁する事を大事に考えてボールを良く選んでいる」と言うのが有った。しかし、ジョーンズの役割は明らかにポイントゲッターなので、それはどうか。また、選球眼を発揮するのが良いが、それが「四球を選ぶための選球眼」では無く「打つための選球眼」であってほしいと思う。特にプロレベルの野球になると、多少ボールくさいからと言って、打てる球を見逃していたのでは、打てる球が無くなってしまう。それに、打席内ではある程度バットを振って行かないと、筋肉が硬直してしまい、打ちに行った時にミスショットしてしまう可能性も強い。ジョーンズのようにバットを寝かせて構える打者にとっては特に重要な事だ。落合のような神主打法の打者だとまた少し事情も違って来るが。実際、落合には四球選びを目的とした選球眼で投手を苦しめる感じが似合うような気もする。だが、トップ型(トップの角度にバットを置く構え)で構える打者には、そのスタイルは似合わない。

ジョーンズの選球眼やボールを見る姿勢にはメジャーを感じるのだが、ジョーンズのようなタイプであれば、四球を選ぼうとするのでは無く、打てる球は打って言って、芯を外しても良いからヒットにするくらいの気持ちで行った方が、結果的にホームランも増えるだろう。集中力を発揮しているのは良いのだが、それが裏目に出ている面が有るのが、残念な部分だ。また、これも大事に行きたい意識が裏目に出ているのか、構えを作るのが若干早く、ややバットの重さで腕が緊張した状態でスイングする機会が多いのも気になる。

ただ、下の動画を見ると、構えるタイミングに対する戦略とか上手さ(どのタイミングで、どの姿勢を作り、どのタイミングで構えるか)がある事を感じる。もしかしたら、日本の投手の方がメジャーの投手よりも間が長いのかもしれない。


下の動画では、ジョーンズが構えを作ってから、ちょうどいい間で投手が投げてくれている。このタイミングでスイング出来ると、打者にとって有利になる。


しかし、一つ言えるのは、スイングもさることながら、ジョーンズの打席での雰囲気。ボールの見方やボールに対する反応。これこそメジャー級だ。オートマチックステップの打者が高い集中力を発揮した時に見せる打席での雰囲気に注目してほしい。

さて、折角なのでアンドリュー・ジョーンズの一年目の成績を予想しておきたい。打点は他の打者による影響が特に強いので打率と本塁打数だけで良いだろう。

予想 本塁打32本 打率2割8分5厘

根拠は、ここ数年のジョーンズとしては、かなり良いフォームで打てている事。この頃(2009年)のスイング(オートマチックステップもどき)に比べると、今(オートマチックステップ)の方が明らかに躍動感が有る。そして打席での集中力の高さ(つまり本気度の高さ)にある。そこから数々の不安要素から来るマイナス分を差し引き、さらに夏場に調子を挙げて来るのではないかと言う読み。体がキレて来る事に加えて、シーズン半ばになると相手投手にも慣れて来るだろう。投手もジョーンズに慣れて来るが、双方が慣れて来た状態は、特に目立つ穴の無く、打者の方が実力が有るケースだと、打者の方に有利に働くと考える。こうした計算から上記の数字を挙げた。

2013年4月19日金曜日

速い球を打つ練習

速い球には、ある程度、年齢の低い頃から慣れておいた方が良い。イチローもそうだったが、動体視力や体の反応能力を高める事にも繋がる。そして、その後に緩い球を打つ練習をすると、緩い球がなおさら緩く感じるので、引きつける練習になる。だが、速い球を打つ練習と言うのは、危険を伴うし、色々と難しいのが現実だ。そこで、ここでは速い球を打つための練習方法を紹介したい。

「速い球」と言うのは、二つの要素で成り立っている。一つは「実際に高速で移動するボール」を速い球と言う。そして、もうひとつは「投手のリリースからホームベース到達が速いボール」を速い球と言う。例えば、ソフトボールの場合、実際には100キロそこそこでも、野球で言うと、140キロくらいに感じると言う。この二つの要素に分けて考えると練習もやりやすい。

1)実際に高速で移動するボールを打つ

動体視力と体の反応力を高める練習になるので、マシンを使ってどんどん速い球に挑むべきだ。機械で動くので人間より力が有り、また疲れ知らずなので、マシンの真価は速い球を打つ練習でこそ発揮される。

そして、もう一つのポイントは、そもそも「打つ必要など無い」ということ。自分が打てる能力の範囲内だと大して速い球を「感じる」事が出来ない。また、打とうとすると、あまりに速い球だと、詰まったりしたときに手首を痛める危険が有る。速い球を打つ練習は「打てなくても良いので速い球を感じて、スピードに慣れる」ということが最大のテーマだ。

方法としては、まずグリップの長さくらい(25センチくらい)に切ったプラスチックのパイプを持って打席に立つ。そして、速い球を打つイメージでマシンの球に合わせて、それをスイングする。バットが軽くなっているぶん、速い球にも対応出来るので、普段は打てないスピードボールを感じる事が出来る。

実際にはやった事が無いが、一度試してみようと思っている。ボールを拾いに行く手間が必要無いので、効率的な練習と言えるだろう。高額で勝ったマシンが泣くような気がしないでも無いが、ある意味、これこそがマシンの真価を発揮する練習でもあるのだ。

※)オートマチックステップの場合、マシンだとリリース前始動云々の問題が有るが、ハナから打たない前提だと、それも気にする必要が無い。全く間に合わなくても良いので、速い球を見て振って行くだけで練習になるだろう。

2)投手のリリースからホームベース到達が速いボールを打つ

これは近距離からボールを投げてもらい、それを打つ「ショートレンジゲーム」が良いだろう。ポイントは、投げ手は最低限、投手のように半身になった構えから投げる事。出来るだけ投球フォームに近い方が良い。次に使用するボールは野球のボールだと危険(そのくらい近づく)ので、タオルを丸めたものが良い。

ただし、あまりに近づき過ぎると、タイミング的に打つ事が出来ない距離になってしまうので、無茶な近さでは出来ないし意味が無い。打者の能力に合わせて、打てるギリギリの距離を設定する事が重要だ。簡単に打てるようだと、この練習の意味が無い。打者は、時間的余裕が無い中での反応能力を挙げる事が練習の目的なので、ボール球は見逃す事。

3)補足。遅い球も同時に練習する。

速い球を見たあとは、遅い球がなおさら遅く感じるので、速い球を見た後に遅い球を打つ練習をすると良い。また、遅い球を打った後は速い球がなおさら速く感じるので、遅い球を打った後に速い球を見る練習をすると良い。遅い球と速い球は同時に練習する事で、緩急への対応能力はさらに磨かれるだろう。

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速い球を打つ練習と言うと、一般には危険が伴うので、低年齢層の場合は敬遠しがちだが、上記のような方法だと、小学生にも手軽に出来るだろう。動体視力とか、体の反応速度のようなものはやはり幼い頃から鍛えておいた方が良いので、いろいろと工夫して取り組む事をお奨めしたい。打てなくても良いので慣れておく事だ。高いレベルを目指す場合、そういう事が重要になる。


スローイング・イップスなど無い。

スローイングイップスは基本的に内野手が陥る。

プレッシャーのかかる状況で緊張感の余りコントロールを乱し、それ以来スローイングに自信が無くなり、ますます投げられなくなるというものだ。

しかし、実際には技術上の問題から自信が無くなり、それゆえにプレッシャーによってますます緊張してしまうと言う順序では無いだろうか。つまり卵が先か鶏が先かの議論になる。

そして、技術上の問題と言うのは、スローイングフォームにおける、テークバック〜トップの複雑な回旋運動を頭で考えて意識的にコントロールしようとする事から始まる。そして投げ方が解らなくなる。結論から言うと、そこは意識してはいけない所なのだ。真面目な選手ほどイップスにかかると言われるが、真面目故にプレッシャーを感じやすいからでは無く、真面目故にフォームについて考え込むからでは無いか。

そして、ここがこの話のポイントだが、スローイングで腕を加速する動作と言うのは(パンチャーであれスインガーであれ)MAXのスピードを発揮する中でのみ理想的な動作が出現する。だから、内野手が軽く投げるような動きと言うのは(相対的には良い悪いは有る物の究極的には)どうやったって良い投げ方にはならない。そして、イップスは近距離でのスローイングで起こりやすい。

つまり、スローイングの中で「近距離で軽く投げて狙った所にコントロールをつける」と言うのは、そもそも一番難しい事なのだ。その一番難しい事を出来ないと言って悩んでいる状態がイップスなのであって、それを周囲がイップスイップスと騒ぎ立てるのでますます悩むようになる。

思い切り投げる事に集中すると、腕の振りから意識が抜きやすいので、余計な事を気にしないで済むが、軽く投げようとすると腕の振り(テークバックの回旋運動)に意識が向いてしまうので、余計に難しくなるのだ。

イップスにかかった選手は内野手から外野手にコンバートされる事が多いし、それによってイップスも軽減すると言われているが、それは「コントロールが大雑把で済む外野は投げる事に対するプレッシャーが小さい」からでは無い。外野手は思い切り投げられるので、動作も良くなるしコントロールも付けやすいからだ。

マウンド上から思い切り投げてストライクを取れるピッチャーが、バント処理で一塁手に山なりのボールを投げる時に暴投が起きる事を考えてほしい。

では、具体的にはどうすれば良いか。イップスにかかった選手にはバックホームでもピッチングでも良いので、まず全力で投げて良い球がいくように、根本的にスローイングそのものを作り直す所から始めると良い。イップスのせいにしてはいけない。

そして、その応用でステップを加えた内野手のスローイングを再開させて行く。このとき、リズム感と、ある程度強いボールを投げる事を重視すると良い。固まった状態から緩いボールを投げようとすると、体が上手く動かないので、コントロールがつけにくい。だから、余計にプレッシャーを感じるし、失敗を心因性の物と錯覚してしまう事になる。(ただし、一つ考えなくてはならない問題として、要は「置きに行く」中でイップスが起きるのだから、置きに行こうとすること自体はメンタルの問題では有る。)

そして、イップスから脱却しつつ有る状態でも、また完全に治っても、とにかく内野手のスローイングフォームの基本にはオーバーハンド(というか、スリークでも縦回転フォーム)からの全力投球がある事を忘れずに、その練習をしなければならない。内野手のスローイングをした後は、全力投球で動作を修正すると言う考え方が必要だ。そういう基本が出来たら、内野手のスローイングも感覚で上手く出来るようになるだろう。

技術的な事については、スペース上割合するが、一つだけ。ピッチング投げをするにしても、いわゆる「トップ」を作ろうとしてはならない。スローイングの中で、投球腕は体重移動と連動して「回る」ものであり「トップ」はその中の一瞬に過ぎない。意図的にトップを作って投げようとするなら、それは担ぎ投げである。担ぐと緊張して、また「イップス」になる。この事は当然パンチャータイプの技術にも当てはまるが、その辺を話し出すと長くなるので、ここまでにしておきたい。

イップスなど「無い」と言い切ってしまうと極論になってしまうだろう。しかし、個人的には、イップスと言う問題は殆ど「虚像」では無いかと思っている。一つだけ有るとしたら、プレッシャーのかかる場面で置きに行くと言うメンタルの問題だ。これをイップスと言うなら、イップスは確かに有るのかもしれない。だが、投げる事に自信が無いから置きに行くのだから、メンタルは問題の一部に過ぎない事は間違い無い。

2013年4月18日木曜日

プリンス・フィルダー

プリンス・フィルダー(wiki)

阪神タイガースからメジャーに返り咲いて、驚異的な長打力(51本塁打)を発揮したセシル・フィルダーの息子。1993年にセシル・フィルダーの打ったルーフ・ショットは、私の今までに見たホームランの中でも最も大きかったと思う。

セシル・フィルダー ルーフ・ショット(これだったか。これ以上のが有ったような気がする。)


セシル・フィルダーはパンチャータイプの二段ステップで右打者だったが、プリンス・フィルダーも同じパンチャータイプの二段ステップだ。ただしプリンスは右投げ左打ち。

※)メジャーに戻ってからのセシル・フィルダーのスイングは日本時代とは違い、かなりパンチャーらしいものだった。そして、阪神に来る前にブルージェイズ時代は確かオートマチックステップだったと思う。

プリンス・フィルダーは今のメジャーの中で、純粋な打撃技術と言う点では一ニを争う、いやもしかしたら一番かもしれない。昨年は同じタイガースのミゲール・カブレラが三冠王を取ったが、後ろにフィルダーが加入していた事は無関係では無いだろう。

右と左の違いも有るが、プリンスとカブレラは根本的に打者のタイプが違う。共にパンチャーでは有るが。カブレラは技術もさることながら、ダルビッシュの言っていたように頭脳的な打者だ。それが打ち方にも出ていて、体の力を全部使い切るスイングでは無い。しかし、フィルダーは体の反応力そのもので打っている印象が有る。体の力を使い切るタイプのスイングだし、フルスイングする中で柔軟な対応力を見せている。「もう一度、やれと言われても出来ない種類のスイング」を何度も見せて来た。そのあたりを考えても、「純粋な」打撃技術はフィルダーの方が上では無いか。だいいち、フィルダーは身長180.3センチと決して大きくは無い。メジャーのスラッガーの中では小さい方だろう。しかし、それでも50本塁打を打った事が有る。それに比べてミゲール・カブレラは193センチも有る。

まだ28歳と意外に若いので、後5~6年はプリンス・フィルダーの全盛期を見る事が出来る。躍動感溢れるフルスイングと、柔軟な対応能力が共存出来る事を教えてくれるのがフィルダーの打撃で、そこが見所である。では、動画で見て行きたい。

見所1 躍動感溢れるフルスイング

2009/06/30 Fielder's long homer
2011/05/20 Fielder's walk-off homer
2010/06/02 Prince's solo jack
2009/08/01 Fielder's homer
Fielder's solo shot

見所2 高めをバットを被せるようにして打つ上手さ

2011/09/27 Prince's solo blast
Prince's three-run shot

見所3 低めをすくいあげる上手さ

2011/09/27 Prince's third homer
2012/05/17 Prince's solo blast
2011/09/16 Prince's solo blast

見所4 遅い球を引きつけて打つ上手さ

2012/09/05 Prince goes yard
2012/06/09 Prince's solo homer

見所5 インコース打ちの上手さ

2012/10/10 Prince's solo shot
Fielder's solo jack
2012/08/03 Prince's two-run double

見所6 流し打ちの上手さとパワー

2011/07/27 Prince's solo jack
2012/09/30 Prince's 30th homer


まさにパーフェクトである。フィルダーの打撃は、いつもスイングが違って非常に表情が豊かだ。相手の投げるボールに対して、変幻自在に対応している。だが、それも元になるスイングの技術が高いからだ。そして筋肉の反射(主に伸張反射)が使えている。つまりガチガチに力んだ筋肉の使い方では無く、柔らかい伸び縮みを利用出来ているのだ。そうした反射が使えていると、ボールに対する反射的な反応もおこないやすくなる。それがスイングの表情を豊かに見せているのだ。

ただ、最近は二段ステップが爪先着地気味になっているので、ややスイングが小さくなっているのが気になる。しかし、2012年から両手で振り抜く事が増え、2012年の後半はほとんど両手で振っていたと思う。その結果、打率が始めて3割を越えて、自己最高打率(0.313)を記録した。今期も好調で期待出来そうだ。

また、プリンス・フィルダーは、まだ歴史の浅いパンチャータイプの技術論を考える上でも重要なポジションをしめている。確かに、バリー・ボンズやケン・グリフィーJr、デビッド・オルティーズなど、パンチャータイプの左の強打者には左投げの選手が多かった。しかし、右投げ左打ちで身長180.3センチのフィルダーがメジャーで50本塁打を放ちホームラン王になり、これだけ柔軟な対応能力を見せている。右投げ左打ちのパンチャータイプにとっての希望の星がフィルダーだと言えるだろう。

メジャー最高レベルの打撃技術を誇る、プリンス・フィルダーの打撃にこれからも注目してほしい。

エチェバリア メジャー第一号


2013/04/16 Hechavarria's three-run jack

この前、紹介したマイアミ・マーリンズのアデイニー・エチェ・バリアがメジャー第一号を放った。

打ってる球は甘いし、スイングスピードも取り立てて速いわけでは無い。だからパワーヒッターでは無いだろう。

しかし、このスイングはちょっと凄いのでは無いか。感覚的な事だが、タダモノでは無い事を感じさせるスイングだ。

タイプは全く違うが、イチローの高校時代のスイングにも共通した物を感じる。それは肩甲骨の可動域の広さ。肩甲骨が胸郭の周りをグルッと「深く」回転しているように見える。イチローの高校時代のホムランスイングを見たとき、肩甲骨の可動域の大きさに驚いた事が有るが、あれと同じ感じを見たのは、それ以来始めてだ。

それに加えて、その上半身の回転が、完全に腰の上に乗っている。これはバリー・ボンズに共通する、黒人特有の凄さ。バスケットで中腰になった時、腰の上に上半身が完全に乗っている黒人は上半身の自由度が日本人より高い。これは野球の守備で無理な姿勢からのスローイングが出来るのにも通じる。

そして、フォーム全体は(一般的な表現を使うと)スムーズで無駄が無い。このへんには、年齢には不釣り合いな成熟した物を感じる。

また、かなり肩が深く回って、巻き込むように打っている割りには、打球が意外とセンター寄りな事も特筆に値する。普通なら、これだけ巻き込んで打つと、もう少し引っ張った打球になりそうなものだが、要するに、それだけバットの面をフィールド内に向けるのが上手いのだろう。確か2006年のWBCだったと思うが、キューバのグリエルがインコースの球をファールにせずに、フィールド内に入れた技術に驚いた事が有るが、それに似たものを感じる。

まだ筋力的な強さはあまり感じない。心配なのは、そうしたものが何時までたっても伴って来ない選手もいるということ。だが、もっとパワーが付き、スイングが速くなって来たら、かなり期待出来そうだ。自分で「守備の人」だと思っていなければ良いのだが。。


2013年4月17日水曜日

リッキー・ヘンダーソンとウィリー・メイズ

リッキー・ヘンダーソンはMLB歴代最高盗塁記録保持者だが、右打者がこの記録を打ち立てた事は凄い。それだけの打撃技術が伴っている事を意味するからだ。ヘンダーソンのスイングはパンチャータイプで、アスレチックス時代のスイングを「メジャーリーグのバッティング技術」の中でも一つのパンチャーの見本としてイラストに起こしている。



この動画の中に3盗のシーンが2回有るが、2回目のスローモーションの方を見ると、踵から着地している事に注目してほしい。通常、スプリントでは踵からの着地にはならない。しかし、盗塁の場合、スプリントのように加速フェーズ以降で体が起き上がる前の、前傾姿勢のままゴールに到着するので、走るフォームも前傾姿勢となる。そのため、着地も踵からになるのだ。

※)盗塁はリード姿勢からスタートするので、クラウチング姿勢からスタートするスプリントの加速フェーズと共通点が有る。しかし、バッターランナーの場合、立っている姿勢からスタートするので、加速フェーズでも前傾姿勢にはならない。

また、頭から滑り込んでいるが、前傾姿勢からのスライディングとしては、この方が合理的だろう。ただ、相手守備との兼ね合いなどを考えると、頭から行くか脚から行くかを選択する要素は他にも有るのかもしれない。一例では、ヘッドスライディングはとにかくランナーにとっては危険な行為だ。突き指、肩の打球、その他諸々の可能性が有る。何とか体を起き上げて脚から行く方が良いのかもしれない。ヤンキースのブレッド・ガードナーは面白い手袋を付けていた。

こうした様々な要因から「走りの理論」も野球と陸上では変わって来る。しかし、それは走る事の根本の理論が変わるのでは無く、走ると言う動作を、その競技に適応させるための方法論が変わって来るだけの事だ。そこの所を誤解して「陸上の走り」と「野球の走り」が有ると考えない方が良い。走る根本は陸上も野球も同じだ。

では次に、ウィリー・メイズの動画を見てほしい。メイズはスインガーの打者で、スインガータイプのスイングとしてはかなり好きな部類のスイングだ。ハンク・アーロンよりもスイングそのものはアグレッシブなので迫力が有る。



背中から映した盗塁のシーンが有るが、この映像はメイズ関連の映像ではよく見かける。脚から行っているが、とにかく速い。弾丸のような速さとはこの事だろう。面白いのは、背中と腰が球体のようにというか、ハンドルのように回転しているように見える事。

これは坂道ダッシュでも同じ動きが見られる。坂道ダッシュでは、斜面に対して前傾軸を作るので、脚が完全に踏み下ろされる前に着地する。この場合、股関節が、平地でのダッシュより屈曲した状態で着地する事になる。つまり、割れた状態で着地する。その結果、そこからの絞り運動も使いやすい。そして、こうした事情は、前傾したまま走る盗塁のフォームと共通している。こうした股関節の捻り運動が、背中から見た時の円運動の原因だろう。そしてまた腕の振りも前傾しているぶん、捻り運動が起こりやすい。丁度四つ脚動物の前脚のようなイメージだ。この捻りも背中から見た円運動と関連が有るだろう。こうした動きを引き出す上でも坂道ダッシュは有効な練習である。

なお、坂道ダッシュの前には、腸腰筋をストレッチしておくと良い。前傾姿勢が作りやすくなるからだ。



林さん 進化の記録1



今回はズバリ、プロになるために何が必要かということについて書きます。

まず、やはり重要なのは以下の3点でしょう。

(1)スイングスピード
(2)肩の強さ
(3)脚の速さ

ですね。

(1)スイングスピード

まず、振る力を付けるトレーニング、構えの力を付けるトレーニングを継続して行なってください。そして、その上で軽いバットを振る事を重視した方が良いでしょう。林さんの場合「体の芯からの力を使う」という事をまだまだ追求出来る余地があります。その事が出来るようになってくると、もっとスイングスピードが上がります。そのためには末節部の筋肉が緊張しにくい軽いバットを振るのが良いのです。そうすると、筋肉はしなやかになります。(もちろん、それは重いバットを振った上での話です。)

そこで軽いバットについてですが、これはホウキよりも、林さんの場合だと、もう少しくらいは重い物の方が良いと思います。そしてグリップが細いものです。グリップが細い物の方が、リストターンで前腕部の捻りが起こりやすく、末節部の筋肉まで柔軟になりやすいからです。ホームセンターで売っている少年野球用の一歩手前くらいの重さのバットでグリップが細い物が有ればベストです。

こんなくらいの感じですね。ホウキも室内で振る用には良いでしょう。重いバットを振った直後に普通のバットが軽く感じるのは、まだまだ「錯覚」であって、本当に力がついたと言う訳では有りません。ですから、逆に言うと軽いバットを振って、普通のバットが重く感じるのも「錯覚」であって、力が落ちた分けではないのです。重いバットを振って行けば、着実に力は付いて行くので、錯覚に惑わされずに軽いバットも振って行く事が大切です。

普通の硬式木製バットは、チームの練習でいくらでも振る機会が有ると思うので、自主練では出来るだけ「振る力トレーニング」「構えの力トレーニング」「軽いバット素振り」に時間を費やす事をお奨めします。軽いバットを振る事でスイングをしなやかに保つという事は、緩いボールへの柔軟な対応と言う、オートマチックステップの命題にも関わって来る事です。

特に、短くて重いバットを振った後に、軽いバットを構えた時、両脚がしっかりと地面を捉えている感覚が鮮明になって来ます。その状態で軽いバットを振ると効果が有ります。

なお、今回の動画については後で改めて見てみると、早速「構えの力トレーニング」のデメリットの部分が出ているように見えます。つまり前腕部の筋肉のこわばりから、リストターンがスムーズにいかずに、結果的に巻き戻しの躍動感がやや損なわれていると言う事です。ですから、やはりあのトレーニングはストレッチと軽いバットの素振りを伴いながら、慎重に進めて行く必要があるということですね。ただやっていくとバットを軽く感じるようになって行く事は事実ですし、ウェートトレーニングのように肩が回りにくくなったりすることも無いので、焦らずに少しづつ続けて行ってください。

※)構えの力トレーニングは面白いもので、実験として、そればかりしばらくやってみると、確かに構えは楽になるのですが、それによってスイングのパワーが付く訳では無いということも解ります。ただ、やはり構えが楽になると言うのは大きいです。

また、実戦で使用するバットについては、違和感の無い範囲でグリップを細くする事がポイントです。そうすると握力が必要無くなり、前腕部の筋肉が緊張しにくい上に、リストターンもスムーズになるからです。それによってスイングスピードも速くなります。

とりあえず、目標はこの動画のハンク・コンガーくらいですね。



(2)肩の強さ

ここが右投げ左打ちの難しい所です。右投げ右打ちだと、素振りがスローイングの筋トレになり、シャドウピッチングが打撃のストレッチになると言う相乗効果が期待出来るのですが右投げ左打ちはそれが出来ないので、そのぶん手間がかかるのです。

ただ、逆に言うと、体のバランスが良くなる可能性は有ります。そして、実は左脳は右半身を司り、右脳は左半身を司ると言う理論もあります。そう考えてみると、右投げ左打ちは頭の良い選手が多いような気もしますね。(笑)高橋由伸なんか、そういう典型のようにも思えます。やはり人間は同じ方向にばかり回転し続けるとダメなのかもしれません。自分でも左投げ左打ちに取り組み始めた時に、心身のリンクした心地よさを感じた気がします。まぁ,両方で振った方が心地良い事だけは確かです。片方ばかりに回転し続けると心身ともに一方向にねじれて行くのかもしれません。(笑)逆で振るようにすると、長年のスイングで体に染み付いたアカが取れるような感じが有るのです。

話を本題に戻しますが、右投げのスローイングの筋トレとしては、やはり短い重いバットを使った右打ちの素振りが良いです。肩甲骨周辺の体幹部の筋肉が鍛えられる感じがします。自主トレのメニューとしては、素振りとシャドーの組み合わせは、最高です。考えようによっては右投げ左打ちの場合は、スローイングのための素振りが「逆振り」の効果を伴っているので一石二鳥だとも言えるわけです。

特に林さんの場合、スローイングのフォームで肘がやや畳めていない部分が有るので(セット始動が完璧に出来るので)その辺が上手く引き出しやすい、オートマチックステップ投げがおススメです。

また、肩の柔軟性が少し足りないので、その意味でも腕を多く振って行く必要があるのですが、オートマチックステップ投げのシャドーは、正にもってこいの練習です。シャドーボールの中に、少し重り(硬式球の重さを越えない範囲)を入れると、負荷によって肩の外旋も導きやすくなるでしょう。

なお、シャドーピッチングで右腕の柔軟性が増せば、打撃におけるボトムハンドの柔軟性が増す事になるのですが、これも右投げ右打ち、左投げ左打ちには得られにくいメリットです。右投げ右打ち、左投げ左打ちの場合、ボトムハンドの筋力的な強さと、柔軟性がどうしても得られにくいのです。

因に外野手と言う事に関して言うと、最終的に肩の強さは助走を付けたバックホームで必要となるのですが、そのための基礎として、ピッチング投げ、オートマチック無げを練習して行く事は重要です。何故なら、勢いや反動を利用しない状態でパワーが発揮出来るようになると言う事は体の使い方が上手くなった事を意味するので、その上で助走を付けると、さらに+アルファでパワーが発揮出来るからです。

そして、もちろん肩ストレッチも重要ですが、これは開いた時間にどこででも出来ます。

まとめると「素振り」「シャドウ」「肩ストレッチ」と言うメニューですね。ボールを投げるのはチームの練習でいくらでも出来るでしょう。

バットスイングとスローイングの組み合わせは、良い動作でやると、肩がかなりやわらかく入るようになる時期が来ると思います。(昔、それを実感した事が有ります。)下の写真は自分の中では良い方ですが、林さんの場合、上半身に筋肉がついているので、もう少し肘が背中まで入らなくなっています。


私自身、高校の頃、言っても腕立て伏せレベルですが、筋トレに熱心だった時期が有ります。(確か一日最高1000回)しかし、スイングを崩し、スローイングもイップス気味になるわ肘も痛めるわで、それから20~23くらいの時に、一切の筋トレを止めて、素振りとスローイングとストレッチをやって、このくらいまでは柔らかくなりました。そういう本人の談ですので、まずはこのくらいまで回るようになってください。そうすると、もっと肩も強くなるはずです。

※)もっとも野手はバットと言う負荷を扱うので、筋トレを完全否定する気は有りません。ただ、デメリットは確実に有るので、それをどうやって軽減して行くかと言う事です。

参考までに、メジャーの強肩シーンを貼っておきます。

2012/05/01 Harper's great throw
2011/07/29 Ankiel throws out Bay
2009/07/19 Francoeur's strong throw
2012/05/19 Heyward's fantastic throw


(3)脚の速さ

走る動作についてはまず、盗塁時に前傾気味になる事や、左回りに走る等の野球の競技特性がありますが、それ以前に、走る動作の基本そのものを追求して行く事が重要になります。それを坂道ダッシュや(両脚の真ん中に箱を置く)ボックスジャンプで、出来るだけ着地の衝撃を小さくして鍛えて行くと良いでしょう。

走る動作は、下図のように、股関節の屈曲、伸展を大きく使い、腸腰筋、ハムストリングスの重要性が非常に高くなります。

黒人ランナーのフォームで優れているポイントの一つが下の写真です。まず股関節伸展で背中に大きな反りが出来ますが、さらに凄いのは次のシーンです。両脚が空中に浮いているシーンでは抵抗で上体が後ろに流れやすいと思いますが、ここで腸腰筋の力によって上半身を起こして来る力が強いのです。こうする事で着地した脚に体重が乗りやすくなりますし、また股関節が、より屈曲した状態で着地出来るようになります。ただ、これはフォーム云々の問題では無く腸腰筋の強さの問題ですね。
          

そして、こうした能力を向上させるためには、腰を反るストレッチや腸腰筋その場ステップ等の反り系の運動と、リズム股関節伸展スクワット等の、アップダウン系の運動が重要になりますが、特に前後方向の脊柱の柔軟性(反りと丸まり)を少しでも向上させていくようにしてください。

リズム股関節伸展スクワット(5回くらいで終わって、体勢を作り直すのがコツです。)腕の力は脱力させた状態で肘を引きます。


そして、走る動作でも肩関節の捻り、股関節の捻り、それに伴う肩甲骨のスライドや脊柱の3次元的な撓み(たわみ)が起こります。こうした柔軟性を高めて行く事も重要です。


まずは、こうした二点を意識しながら、様々な練習に取り組んで行ってください。ポイントを整理して挙げておくと、以下の二点です。

1)腸腰筋とハムストリングスの強さに伴う、黒人的な身体機能の獲得
2)股関節や肩関節の柔軟性、肩甲骨の可動域の大きさに伴う動きのしなやかさ


(4)その他

やはり、今の林さんに、一番足りないのは、関節の柔軟性だと思います。ただ、それも最初の頃よりは良くなってます。特にスローイングにそれが出ていますが、最初の頃よりも肩が回るようになったと思います。そして、それと連動して、ステップ幅も少し広くなってきています。ただ、まだまだ肩が硬くて、その関係でステップ幅が狭いです。実験として、投球腕の肘を脇腹につけたまま、パンチャーで軽く腕を振ろうとしてください。腕が後ろに動かないので、ステップ幅も狭くなるのが解ると思います。肩が柔らかく回るようになると、ステップ幅も広くなりますが、この二つは連動しているのです。そしてもちろんステップ幅を広くするためには股関節の柔軟性も必要です。もちろん、この二つがかみ合えば、肩もまだまだ強くなると思います。写真は自分の中では一番良い写真ですが、投球腕のテークバックの可動域と重心移動の関連が良く解る連続写真です。


その他、股関節の柔軟性も重要ですが、残りの大学のシーズンの中で、今までの野球経験の中で、付けて来た筋肉全てを野球の動きに馴染ませてやるくらいの感じで取り組むのが良いと思います。振る力を付ける練習、構えの力を付ける練習をやっていれば、それで充分だと思います。

その意味では、繰り返しになりますが、体作りのポイントは以下の二点です。

1)腸腰筋とハムストリングスの強さに伴う、黒人的な身体機能の獲得
2)股関節や肩関節の柔軟性、肩甲骨の可動域の大きさに伴う動きのしなやかさ

(5)目安

プロ入りを考える時の物差しとして、丁度良いのがブリュワーズの青木でしょう。似たような体格、同じ右投げ左打ちの外野手、そこそこのパワーが有り、そして脚もそこそこ速いと言う点で、選手としてのタイプは、かなりの共通点が有ると思います。ただ、正直、彼の残して来た成績には凄い物があります。それを達成するためには健康である事や運も関係して来るので、成績を目標にすると言う意味では有りませんし、してもあまり意味が無いと思います。ただ、例の、スイングスピード(打撃のパワー)肩の強さ、脚の速さと言うのは目標になるでしょう。(現時点で林さんの実技をグラウンドでは生で見ていないので、肩などは、もしかしたら既に勝っているのかもしれませんが。)

つまり、青木よりパワーが有り、青木より肩が強く、青木より脚が速い選手を目指すということです。それは、まず最初の現実的な目標になると思います。そして、その上で、ここでは、さらに究極的な目標となりうるモデルを示したいと思います。(もちろん、それは自分自身でもあると思いますが。)目標は、かなり高いですが、ある意味で届かない事を前提とした目標(つまり永久的な目標)と考えて下さい。

★打撃 プリンス・フィルダー

同じ右投げ左打ちで、スイングが似ているので、良い目標になると思います。しかも、フィルダーは去年中盤あたりからだと思いますが、両手振り抜きに徹した結果、確実性が増し、今期は今のところ打率首位をキープしています。(二段ステップが爪先着地になったので、ややパワーは落ちてますが。)

2012/10/01 Prince's four hits

2012/05/26 Prince's four hits

その他、フィルダーの上手く対応した動画については、ブログで記事にして下記にリンクを貼る予定です。

ブログ記事 プリンス・フィルダーの対応力

★肩 リック・アンキール ジェフ・フランコーア

肩については、メジャーには、彼等より凄い球を投げる外野手もいます。ただ、それも、その選手の調子込みの話と言えるでしょうし、あまりにも現実的で無いので除外しました。(動画も見つからないですが、1993年にカージナルスのマーク・ウィッテンが見せたバックホームは凄かった。ライトから、イチローの3塁へのレーザービームと同じ球筋で、ノーバンで捕手まで届いたのが有りました。)

因に、ウィッテンはこの年、1試合4本塁打を打っていますが、その動画は有りました。パンチャーのオートマチックステップですね。

(このページで見られない場合、下の文章をクリックすると見られます。)

ただ、ここで挙げる二人の送球には、戦術論を度外視した上での「良いボール」と言う意味が込められています。例えば、高い球よりはワンバウンドの方が良いかもしれませんが、やはりそれでは魅力が無いし、本当に肩が強いとは言えないでしょう。また、日本でレーザービームと言われているバックホームに多いのですが、放物線の送球も肩が強いようには見えません。(イチローの3塁送球以来、日本では外野手の強肩を何でもかんでもレーザービームと呼ぶ間違った風習が出来てしまいましたね。)

日本人では新庄が、そういう球を投げていましたが、少し腕を伸ばしたくらいの高さの送球で、真っすぐ伸びて来るノーバウンドの球。この高さが一番力の有るボールになるし、肩も強く見えるのだと思います。(アウトになるならないは別)所謂、鉄砲肩的なボールですね。そういう意味で、以下の二つの送球は良い目標になると思います。(ここまでで無くとも)こういう感じの球が投げられたら、スカウトの目に止まりやすい気がします。

2011/07/29 Ankiel throws out Bay
2009/07/19 Francoeur's strong throw

★走り ウィリー・メイズ リッキー・ヘンダーソン

リッキー・ヘンダーソンとウィリー・メイズの走りの動画は、この記事に載せています。

リッキー・ヘンダーソンは黒人としては手足が短いですが、その事が逆に体幹で生み出した瞬発的なパワーをスピードに変換させやすくしている感が有ります。脚が速い人には意外とこのタイプが多い気がします。しかし、ヘンダーソンが日本人と違うのは見るからに腸腰筋の発達した体型です。さらに発達した大殿筋とハムストリングスが股関節伸展のパワーを高めています。そうした意味で、ヘンダーソンに近づくためには黒人の身体機能に近づくためのトレーニングが非常に重要です。平地でのダッシュで、走り終わりに速度を緩めるとき、背骨に反りが出来て脚が後から付いて来るような感じになって来れば、良い感じです。

次にウィリー・メイズですが、メイズの走りは林さんにとって特に足りない要素を示しています。それはリンク先の記事にも書きましたが、腕の振りや股関節の捻りに伴う、体幹の柔らかい動きです。

例えば、下の写真のように片脚が挙り、同側の腕を後方に引いた状態。この場合、肩は引いた腕の側が上になり、骨盤は挙げた脚の側が上になります。そのため、バランスを取ろうとして、脊柱がたわみます。(例えば、左肩、左腰が下がった状態だと、左に倒れそうになるので、脊柱が右に凸になるようにたわむ)

この他にも、体幹部には複雑な捻りなど、非常に柔らかい動きが生じています。それがウィリー・メイズの走りを背中から見た時のような、柔らかい動きを生み出しているわけです。例えば、下の動画は、そうした動きを身につけるための練習です。


こうした動きがダッシュの中で出来るようにするためには、股関節、肩関節の柔軟性、肩甲骨の可動域の大きさが重要になります。そしてどちらかと言うと、筋肉を付けると言うアプローチを重視してきた林さんにとっては、現状で不足してるのが、この部分です。

ヘンダーソンとメイズを例に挙げたのは、結局、走るのも打撃や投球と同様「腸腰筋とハムストリングスの強さに伴う、黒人的な身体機能の獲得」「股関節や肩関節の柔軟性、肩甲骨の可動域の大きさに伴う動きのしなやかさ」が重要になると言う事を説明するためです。日本のスポーツ選手、そしてスポーツ理論では後者は重視されていますが、前者の認識が無いため、実技においても、それが出来ていないのです。林さんは両方兼ね備えた存在になってください。そうすればまだまだ脚も速くなるはずです。そうしたトレーニング法も順次増やして行きます。ただ、現状、既に伝えている練習方法でも、以下の2大テーマに沿って行なって下さい。

1)腸腰筋とハムストリングスの強さに伴う、黒人的な身体機能の獲得
2)股関節や肩関節の柔軟性、肩甲骨の可動域の大きさに伴う動きのしなやかさ


(6)まとめ

スイングスピード、肩の強さ、脚の速さ、とプロ入りのための3大重要ポイントを挙げましたが、ひとまず大学最終シーズンが終わるまでは、やはり打撃でしょう。打撃で結果を残して、確実に次のステージに進む。そのためには打撃でアピールするのが一番重要だと思います。そして、そのためには実際に打って結果を残す事も重要ですが、スイングを一目見ただけで「アイツはモノが違う」と思わせるだけのスイングスピードが重要です。つまり、仮に4タコでも、スカウトがそれによって手を引く事が無いくらいの印象を与える事が重要です。その上での結果を出すための戦略論です。(特に上のカテゴリーを目指すアマチュアや二軍選手の場合、この優先順位が大切になります。)

そのためには、やはり練習方法が重要です。「黒人の身体機能に近づくトレーニング」「股関節、肩関節の柔軟性、肩甲骨の稼働域を広げるトレーニング」「振る力を付けるトレーニング」「しなやかさを付けるために軽いバットを振るトレーニング」そして、体の機能を統合的に高めるためには、やはり「短距離ダッシュ」が欠かせません。こうした練習で、とにかくスピードを挙げて、打席内で「俺のスイングを見ろ」と言う気分に浸れるような「えげつない振り」が出来るようにして行く事が、大学ラストシーズンの大きなテーマだと思います。良いスイングは究極的にはカッコいいのです。カッコ良いスイングを身につけて、打席の中でカッコ付けて下さい。スイングと言うのは一種の身体芸術で、打席と言うのは要するにステージです。特に若い選手の場合、そういう自分に酔う事が出来ない限り、能力も知れているということです。よく強心臓云々と言いますが、一度自分に酔ってしまえば、メンタルの強い弱いはほとんど関係ありません。要は自分に酔えるだけの実力が有るかどうかの問題です。その証拠にイチローを見て下さい。何時見てもカッコつけてるじゃありませんか。ああいう選手がメジャーに行って首位打者になったりするのです。

大学ラストシーズンのメインテーマはズバリ、スイングスピードでしょう。後の要素(肩と脚)は、ひとまずはスイングスピードを挙げるのに伴って自然に向上するくらいの構えでも良いと思います。

あと一つ、言っておきたい事としては、オートマチックステップは少なくとも「身体運動」と言う見地から見ると究極です。そして、そういう動きを理論的に把握した上で、林さんくらいのレベルで追求した例は恐らく今までにも無いでしょう。(ブログだけで塚口理論の内容が正確に伝わっているとも思えないので)実際、林さんの動きは人間の体のポテンシャルの中で、かなり高次元のものになりつつあります。しかし、まだまだ(簡単に言うと)アウターマッスル優位型で、動きの質と言う点で極めて行く余地が有ります。形の問題では無く、筋肉の質と動きの問題です。そこで軽いバットのスイングですが、確かに軽いバットを振ると言うのは、周囲から取り残される気がして不安も有るかもしれませんが、そもそもバッティングに取り組んでいるバックグラウンドが周囲とは全く質が違うのです。その意味でも、自分の「強み」を確固たる物にする意味、つまり、動きの質を究極まで高めて行くためにも、軽いバットを振ると言う練習も重視してください。ホウキも良い使い道が有りますが、メインはホームセンターで売ってるような子供用が良いと思います。多少の重みも有った方が腕に捻りが入りやすいから、末端に筋肉もほぐれるためです。

※)筋トレについては思う所が有るので、近いうちにブログに書きます。

だいたい以上です。ただ、私の弱点は、プロに行くような選手を実際に間近で見た経験に乏しいと言う事です。なので(動作のレベルは解っても)目の前で見ているスイングが、スピードとかパワーの面でプロに行くような選手と比較してどのくらいの位置に有るのかと言うのが、正直、イマイチ解りません。それは打球の飛び方で判断するしか無いのでしょう。なので、無責任な事も言えないのですが、林さんのポテンシャルだと、順当に伸びて行けば、充分に日本のプロは狙えると思います。豪語させて貰えれば、私に取って林さんをプロに入れるのは、7~8割りがた受かるだろうと言う、公立高校入試くらいの感じです。林さんの能力と、塚口理論、そして、無事に能力を積み上げていければ、それくらいのことだと思います。(ただ、スカウトにどう評価されるのかと言う問題も有ります。そして、もちろん、直ぐにとは言いません。少なくとも、社会人と言う段階を経る必要は有るでしょう。)ただ一つだけ気になるのは、プロレベルのキレの有るボールにどれだけ反応出来るかですね。今から、そのあたりの対策を何か考えておいた方が良いと思います。そしてやはり、他の野球選手が持ち得ない視点、つまりどこまで黒人に近づけるかということですね。

それと、もう一つ、時期的に今言うべき事でもないかもしれませんが、何事も、ある程度の所まで上達するのは、そんなに難しく無いと思います。将来的に突き詰めて行くための下地作り(突き詰める必要が生じた時のための準備)と言いましょうか。その意味で、内野の基本練習と言うのもおろそかには出来ないと思います。ある程度の線までなら、遊びの中で充分に上達すると思うのです。そして、そうした事をやる選手とやらない選手の間には差が出来ると思います。プロで活躍していくためには、ある程度の器用さも持っていた方が良いと思います。


以上です。


2013年4月16日火曜日

止まって打つ



掲示板のホセレイエスさんの記事でもありましたが「止まって打つ」ということについて、実践で示してみました。因にバットはソフトボール3号です。(軟式一般レベル)動画では強調するために、あえて長く止まっていますが、2スイング目、3スイング目くらいの感じだと実戦でも無理は無いと思います。(個人差も有りますが。)

オートマチックステップに取り組む多くの人が、止まって打つということが出来ていない傾向が有ります。揺らぎっぱなしだと、バットの回転を受けて、トップハンド側の前腕部や手首が緊張しやすく、それがミスショットに繋がるので、最後は止まった方が良いのです。

メジャーでも、最後まで揺らぎっぱなしの打者はミスショットが多い印象があります。ケン・グリフィーJrは上手くやっていた印象が有りますが、ホセ・カンセコの三振が多かったのも、そういう理由かもしれませんね。最近ではジョニー・ゴームス等が思い当たります。こうしたタイプはセンスが有るのですが、究極的には良く無いのです。前腕部が力むと、下半身も使いにくくなり、上半身と下半身がバラバラになります。

一度、止まる事によってバットの重さを体全体に上手く分散させて受け止め止めてやると、全身が良い意味で一体化します。そうした状態から振った方がミスショットは少ないのです。また、体の芯、深い所での力が上手く使えます。

揺らぎながら構えを作った後、止まって打つ(振る)習慣を付けましょう。そして、そのためには「ハムストリングスで立つ」事が出来るようにならなければなりません。

連続写真は余興です。

イチローの凄さ

私の手元にはメジャーリーグとその周辺(マイナー等)でプレーする863人分の投手の動画データが有る。引退した選手の物を合わせるともっとだ。そしてフォームだけでは無く、彼等がどういうボールを投げるのかということを、重視してリサーチしている。変化球については「こういうボールが有る」ということを投手に教えたいからだ。一口にツーシーム、シンカーと言っても、そのバリエーションは非常に豊富なので、実質上の「球種」は一般に知られているよりも遥かに多い。

イチローの打撃に関しては「所詮、内野安打でしょ」と言う意見も少なからず有ると思うし私もそう思って来たが、メジャーの投手がどういう球を投げるのかということが良く解るとイチローの凄さも良く解る。逆に言うと、それが解らなければイチローの凄さも解らない。イチローはあれだけのボールを空振りせずに何とかバットに当てて来た能力は凄い。

イチローがメジャーでプレーしてきた2001年から2013年の間に、メジャーの投手のレベルはかなり進化したと思う。イチローは自分からは「自分がどれだけ大変なレベルでプレーしてるか」と言う苦労話は言わないだろうから、ここに書いておきたい。

打撃技術に関しては、日本時代の「ルーズ&ウィーク」(よく言えばしなやか)の典型のようなスイングから、メジャー流の「タイト&ストロング」なスイングに変化している。少しづつジワジワと変わって来たので気が付きにくいが、デビュー当時の振り子打法のスイングと今のスイングを比較すれば、全く別物である事が解ると思う。

10/7/2012 プレーオフ地区シリーズ第1戦 イチローハイライト

そして、最近メジャーに挑戦した野手では青木が成功しているが、やはり(日本人としては)「タイト&ストロング」なスイングだ。加えて、やはり内野安打の期待出来るタイプしか今のところは成功していない。(松井秀喜を除いて)

下の動画は韓国系アメリカ人のハンク・コンガーのものだ。民族的には完全にアジア系だが、スイングは日本人のそれとは大きく違う。コンガーはアメリカで育っているので、育って来た野球環境が我々とは全く違うのだ。

コンガーは以前から注目している打者だが、まだメジャーでの地位を築けていない。捕手なので難しい面も有るのだろう。だが、打撃センスに関してはかなりの物が有る。スイッチヒッターでこれだけスイングが良い打者は珍しい。



2011/04/05 Conger's solo shot(左打席)
Conger's two-run single(右打席)

日本の野球環境ではまだまだ「ルーズ&ウィーク」なスイングが好まれる風潮が有るが、そのへんを変えて行かなければ、世界的に通用する打者は産まれにくい土壌だと言わざるを得ない。

2013年4月15日月曜日

間合いを嫌う

今期6本塁打と飛ばしているジョン・バックのホームラン

2013/04/09 Buck's two-run jack

構えの位置にバットを持って来るタイミングが遅いが、こうする事によって(バットの負荷による)腕の筋肉の緊張を防いでいる。(そのための手段は様々な種類があり、一長一短が有る。)

バッティングではタイミングが重要だが、打者が一度打席に入れば、打席を出るまでの全ての時間が「タイミング」である。いつボックスに入るか、いつ構えを作るか。

素晴らしいスイングをしているのに結果が出ないルーキーもいれば、ヨレヨレのスイングなのにまだ打ち続ける引退間際の選手もいる。こうした違いはアマチュアの選手にも見られる。

「スイング」は打撃の中の一要素に過ぎない。バッティングは投手との共同作業であって、その意味では素振りよりもキャッチボールに近い。そういう視野の広い打者は結果を残す。反対に、打席の中でスイングを気にしているような打者は視野が狭いタイプだ。

ところで、野球の解説で「間合いを嫌いました」と言う表現が有る。打者が、投手にじらされてボックスを外す行為だ。ここで注目したいのは、この行為は常に打者によって行なわれるということ。投手は自分の間で投げられるので、当たり前と言えば当たり前だが、投手は打者に比べて、道具の負荷が軽く、自然体で立っているので、少々の間合いは気にならないのだ。だから、打者にとっては「構えを作るタイミング」と言うのが重要になる。バットを立てて自然体で構える落合のような構えだと、楽なのであまり気にならないが、一種の変則打法と考えた方が良い。

スイング理論ばかりが取りだたされる。当たり前と言えば当たり前だし、打者の関心はやはりそこにあって当然だ。いくら打っても、スイングが遅ければ、スカウトの目には留まりにくいだろう。そのレベルだから打てるが、プロではどうかと思われるので、やはり打者はスイングを磨かなければならない。しかし、最後に対戦するのは投手であるということを考える事も大切だ。「自分達の野球をすれば勝てる」とばかりに「自分のスイングをすれば打てる」と考えるのは危険だ。

2013年4月14日日曜日

MLB 右のエースの傾向

メジャーの右のエースのピッチングスタイルの傾向について書いてみたい。(もちろん、思考過程だが)

日本でも大体同じなのかもしれないが、いかんせんあまり見ていないので良く解らない。また、左投手については、ストレート、スライダー、チェンジアップみたいなスタイルの投手が多く、投げてる球そのものは、右投手の方が面白い。(左投手でもツーシームとカーブを投げれば、断然面白くなるのだが。)

以下、右のエースの条件

条件(1)低めにストレートを集める事が出来る。

当たり前過ぎるので、深くは書かないが、やはりエース級は低めへの制球が良い。基本的な知識としては低めはボールの上を叩きやすいので長打を食らいにくいし、低めを打とうとすると腰の回転も小さめになるので、その点からも長打は出にくい。だから低めに集める事が投手にとっては重要になる。

条件(2)低めに落ちる中速系変化球がコントロール出来る。

縦のスライダーがストライクゾーンから低めのボールゾーンに落ちる球。これはやはり強い。このボールが決まっていれば、それだけで打たれないイメージが有る。今のメジャーでは、このボールで空振りをしているシーンを最も目にする印象が有る。

動画 A.J.バーネット 2012年 16勝10敗 

動画 ジョニー・クエト 2012年 19勝9敗

条件(3)オフスピードピッチが有る。

鋭い変化のムービングファストボールを投げ、そのバリエーションが豊富でも、対して良い数字を出せていない投手がいる。そして、そうした投手は大抵、緩急が使えていない。この事からも、やはり緩急と言うオーソドックスな手段は重要かつ有効なのだろう。ジャスティン・バーランダーは100マイル近い速球とカーブを使って22勝を挙げている。もちろん、速球も動かすが。

動画 ジャスティン・バーランダー 2011年 24勝5敗

条件(4)速球を動かせる。なおかつ、それをコントロール出来る。

ツーシームとカットボールに代表されるムービング・ファストボールだが、MLBの右のエース級はほぼ例外無く速球を動かして来る。中でも目立つ使い方は3つ。「ストラークゾーンからボールゾーンに逃げる球」「ボールからストライクに入って来る球」「詰まらせる球」

芯を外す上で有効なムービングファストボールだが、詰まらせるには有効でも、先に当てさせるのは有効ではないかもしれない。なぜなら、この種の球はその投手のMAXストレートよりも若干遅いので、打者の腕が伸びやすいと考えられるからだ。(当たってるかどうかは解らないがイメージ的に)実際、マリアーノリベラのカッターも左打者に詰まらせる時に真価を発揮していたイメージが有る。左打者にはツーシームも投げていた。先に当てさせるのなら、完全にボールゾーンに逃がした方が良いのでは無いか。

動画 クレイ・バックホルツ 2010年 17勝7敗

これらに比べて、クイックモーションや牽制が上手ければ文句無しと言った所か。



2013年4月13日土曜日

アデイニー・エチェバリア

アデイニー・エチェバリアと言う、1989年生まれの、期待出来る若手内野手がいる。

まずは下記動画。キンブレルの速球を空振している動画だが、スイングが素晴らしい。

2013/04/09 Kimbrel closes it out

この動画から二点。まず、このような速球に対しての空振は、打者の限界に近い能力を発揮したスイングなので、なまじミートしたスイングよりも、良いスイングである事が多い。だから投手のハイライト動画を見た方が素晴らしいスイングに多く出会える。もう一点は、この打者の良さの本質的な部分だが、非常に素晴らしい中心軸で、前脚と後ろ脚の体重配分が素晴らしい。バランス能力が素晴らしいと言う事だろうか。前軸が効いていながら、後ろ脚も活きている。(惜しむらくは、ややクラウチングが足りないので、後ろ脚に残り気味で前軸が効かず、空振りとしては巻き戻しが弱い。)

バランス能力の素晴らしさは、守備にも良く表れている。



次に、このプレーも地味に凄い。(2012/08/16 Hechavarria's cartwheel

1994年だったと思うが、始めてバリー・ボンズを見たとき、その打撃技術は、当時の自分にとっては前衛芸術のようで正直理解が出来なかった。しかし、ボディーバランスと言う点で他の選手よりも一頭抜けた存在である事だけは理解出来た。

普通の選手は、体の重みを筋肉で支えているか、或は、骨格で支える事が出来ていたとしても、その重みを地面に加えて立っているように見えたが、バリー・ボンズだけは違った。特に打席での身のこなしは、まるで、足裏と地面の間に数ミリの空間が有り、その上に浮いて動いているように見えたのだ。それほどの軽やかさであった。そして、重力に完全に打ち勝って育ったかのような骨格。高岡英夫の言う「腸腰筋で脚を吊って立つ」と言うのはああいう事を言うのかもしれない。ただ、その感覚はかなり彼の骨格の良さに起因するものなのだろう。実際、あの当時のバリー・ボンズのような立ち方の感覚は、今もって自分にも理解出来ない。

そして、このエチェバリアにも、あのときバリー・ボンズを見た時に感じたのと同じ感触を感じるのだ。もちろん、そういった選手はバリー・ボンズ以降、一度も見ていない。ただ、エチェバリアにはボンズほどのパワーは無いので違ったタイプの選手になるだろうが。

下は,マイナーリーグでのバッティング動画。練習の映像にはさほどすごみを感じないが、試合の中に、バリー・ボンズを彷彿とさせる空振りが有る(1.15~)前述のやや後ろ体重なのもボンズを彷彿とさせる。



まだ、パワーが無いので、打撃はしばらく時間がかかるかもしれない。しかし(3塁手登録になっているが)ショートを守る選手なので、ジーターのような選手になればと期待している。

ジェフ・サマージャ

気の早い話だが、今期MLBの奪三振レースではダルビッシュが20奪三振で2位に付けているが、1位の投手(奪三振22)が面白い。速い球が非常に良く動く。ちなみにパンチャータイプ。

ジェフ・サマージャ 

2012/08/13 Samardzija's stellar outing

1985年生まれの右腕で、過去3年、2勝、8勝、9勝とジワジワと来ている。

速球は時に100マイル手前に達するが、基本的にムービングボーラーで、特にシュート方向に滑る速球が面白い。緩急はあまり付けないタイプだ。因に、この手のムービングボーラーで球速がもう少し遅いタイプは結構いるが、それほど良い数字を出していない。やはり緩急を付ける球が必要なのだろう。ある意味、ムービングボーラーの方が時代を先取りしているが、それでも、本当に数字を残しているのは、もう少しオーソドックスな投球スタイルの投手だ。バックホルツやバーランダーのように、緩急も付けつつ、速球も動くタイプが最も強い。このへんのエース級の速球はサマージャのようなタイプに比べると動きは地味なので、見ている分には、サマージャの方が面白そうだが。

バッターの立場としては、多少ボールが動いても、強振すれば何とかヒットには出来ると言う事なのだろうか。それに比べると、緩急のどちらが来るのか解らない状況は打者を不安にさせる。余談だが、日本で通用していたレベルのムービングボーラーがMLBに行って、スピード不足からパワーで打ち込まれると言うケースは、これから出て来るのでは無いかと思う。

これだけ球速が出る投手が、これだけボールを動かして来る。このあたりに今のMLBの面白さが有る。投球技術のレベルに関しては、ランディ・ジョンソンの頃(90年代後半から2000年代前半)に比べて、一段平均レベルが上がった感が有る。これは、おそらく同じ時期の打撃技術の進化に比べて、やや上回っているのでは無いか。

2013年4月11日木曜日

ライジングファストボールの使い手 ライアン・ボーグルソン




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私が「意図的なライジングファストボールの使い手」と見ているのが、ライアン・ボーグルソンだ。阪神タイガースでプレーした後、メジャーに戻って成功している。

ライザーに関しては、以下の3点を考慮して見なければならない。「(1)メジャーの中継はやや上から映すので、角度的に単なる高めが浮いて見える事が多い。」「(2)高めに抜けた球である可能性がある。シュート回転してる場合、特にその可能性が高い。」「(3)アンダーハンドやサイドハンドの投手が投げる場合は、ライザーとは言わない。」

だが、それ意外の場合は、意図して投げた本物のライザーだと言う事になる。

特に、上の動画の二球目。キャッチャーは立ち上がっているし、カメラの角度を考慮しても、明らかに浮いている。そもそも、単なる高めのボール球なら、バッターはここまでのボール球を振らないだろう。ストライクゾーン付近から浮き上がって来るので振ってるわけだ。

また、ボーグルソンがライザーを意図して投げていると考えられる根拠は他にも有る。投げ終わった後の後ろ脚に注目してほしい。

フィニッシュで後ろ脚が一塁側にクロスして踏み出される右投手でも、変化球の場合は、そのアクションが弱くなる場合が多い。変化球は手先の操作が加わるぶん、後ろ脚の動作も弱くなるからだ。

ボーグルソンの2球目も、他の投球と比べて、後ろ脚の動きが違う。それに何となく投げ上げ角度を作っているような後ろ脚の動きだ。同じチームにいたブライアン・ウィルソンも、似たようなフォームでライザーを投げていた事からも、両者の間で教え合って投げている可能性が有る。

ちなみボーグルソンは、あまり力感の無いフォームだが、パンチャーである。パンチャーでも始動ポジションが遅いタイプだ。つまり、ある程度重心が打者方向に移動したポイントから「エイッ」と力を入れている。このタイプの場合は、腕を緩めて遅い球を投げるのがやりやすいので、ボーグルソンも変化球を投げる場合は、特に力感が無く、スインガーに近いイメージになる。(始動が早いタイプが腕を遅くしようとすると、フォームそのものが明らかに遅くなり、完全に打者に見破られる。)

稲葉の不振



日ハムの稲葉が不振だそうだが、その原因は彼独特の素振りに有ると思う。そして、それは習慣が積み重なった結果としての不振であり、打ってる時のフォームをどうこうして修正出来るものでは無い。

片手フォローもそうだが、良い時は、誰も特に問題を感じない。しかし、悪くなるとき、有る時点で目に見えてスイングが変わってしまう。こうなると中々本人には修正が出来ないが、それは特にハンドワークに表れる。手首の返しが早くなるので、以前よりもスイングの中のスイートスポットが狭くなる。そして、ボールをバットで運ぶ距離も短くなるので、打球も飛ばなくなる。

私は高校の時に科学する野球を取り入れて実践していたが、科学する野球の理論はスインガータイプを説明するものとしては正鵠を得ている部分が有る。と言うよりも「スイング理論」の部分では、スインガータイプの理論として考えると、現存する日本の打撃理論の中では最も正鵠を得ていると言えるだろう。私の理論でも、スインガータイプのスイング理論に関しては、科学する野球の「スイング理論(体重移動等の体の使い方を除く、あくまでもスイング理論)」をほぼ、そのまま踏襲している。

そして、稲葉はスインガータイプなので、今の稲葉の不振は、私の理論を持ち出さずとも、科学する野球の理論で説明がつく。

科学する野球ではダウンスイングとゴルフスイングを否定しているが、その理由は基本的に同じで、ヘッドを遅らせるレイトスイングが出来なくなるからである。

稲葉の素振りはゴルフスイングそのものだが、同時にダウンスイングでも有る。ゴルフスイングは体の回転に対して、ヘッドの出が早くなる。そして、ダウンスイングは手首の返しを早くする。

こうした素振りを日常的に行なっているので、稲葉の体はその動きを記憶してしまっているのだろう。結果的に、手首の返しが早くなっている。一度スイングにこうしたクセがつくと、修正する事は非常に難しい。

手首が返るとヘッドが返るが、ヘッドが返ると、もうミートする事は出来ない。だから手首の返りが早くなると、ボールを捉える事の出来るゾーンも狭くなる。

そのうえ、手首が返る過程でトップハンドの手の平がボールに向く、いわゆる(科学する野球で言う所の)平手打ちになる。つまりトップハンドの手首が背屈した状態でボールを捉える事になるのだ。こうなると、打球も飛ばなくなる。実際、テレビで稲葉のスイングを見ていると、そういうスイングになっている。つまり、ミートゾーンが狭くなって、平手打ちになっているのだ。ボトムハンドが「死ぬ」のが非常に早い。

村上豊氏が存命であっても、大体同じ事を言うと思う。

稲葉は、理想的なスイングとまでは言わずとも、他の選手と同じ「普通の」素振りをすれば、調子も戻って来るだろう。だが、このままだと、かなり深刻な事態になるかもしれない。

2013年4月10日水曜日

西武の金子



スイッチヒッターの選手だが、骨格の形が中々良い。特に1.38からの右打席の構えを見ると、それが解る。腰椎が前彎しながらも、胸椎がしっかりと後彎しているので懐の深さを感じさせる構えになっている。そして、骨盤が縦に短い。典型的なアスリート向きの骨格である。

ただ、この選手はスイッチヒッターなのが勿体ない。右一本に絞った方が面白い気がするが。左が「何処にでもいるような走り打ち系」なのに対し、右の構えの懐の深さには類い稀なものを感じる。

基本的にスイッチは左打席に立つ事が多いので、左の方が上手くなるし、左でバットを振る機会の方が多くなる。

左右で練習してみると解るが、右打者が左で振り込むと、右のスイングがドアスイングになる事が有る。本来、スイングは体の各部の回転が僅かにタイムラグを開けながら、順番に回転していく。そして、その絶妙なタイミングを上手い人ほど「体で憶えている」

しかし、あまりに逆の打席のスイングを繰り返すと、そういう「良い連鎖の記憶」を壊してしまい、一時的にスイングがドアスイングになる。(上半身と下半身が全部一緒のタイミングで一枚の板のように回るのでドアスイングになる)

もちろん、元々の技術が有ると、少し振っただけでそれは修正出来るので、逆でのスイングは良い練習になる。しかし,プロレベルでも、スイッチヒッターになるほど左で振り込むと、やはり右のスイングが悪影響を受けるのだろう。そのため、今のメジャーのスイッチを見ても、右打席がドアスイングの打者が非常に多い。金子もややバットが外から出て来て、フォローが小さく、前脚が開く。こうしたあたりにスイッチヒッター特有のものを感じる。

では、メジャーのスイッチで右のスイングが外回りになっている例を見てみよう。

ダニー・エスピノザ 右打席 左打席
ブライアン・ロバーツ 右打席 左打席
カルロス・ベルトラン 右打席 左打席
カルロス・サンタナ 右打席 左打席

いずれの選手も、右打席では、スイングの回転で、腰と肩の回転が同時で体が一枚の板のように回転し、その結果、スイングが外回りになっている。もちろん、阪神の西岡にもそういう傾向は有る。

スイッチヒッターは基本的に左で振る方が多い。(右投手の方が多いので)だから、スイングも左の方が良い場合が多い。しかし、金子の場合、スイッチにしては右のフォームが良い。右打席だけを見て、スイッチだと解る場合が有るが、金子の場合、言われなければ気が付かない。その意味でも、このくらい右で打てるのなら、右に絞った方が良いのでは無いか。


2013年4月9日火曜日

藤浪晋太郎はパンチャー



意外にもパンチャーである。これだけ腕が長いとボールも体から遅れて出て来るので、スインガー的なイメージが有るが、実はパンチャー。

ポイントは体幹部の前屈。(もちろん、腕の振りもスローでチェックしての判定。)この動きを明らかに筋肉の力でやっている感が有る。つまり「エイッ」と力を入れて投げるその意識が体幹の前屈運動に表れている。日本人では村田兆治と山口高志(元阪急豪速球投手)がこのタイプのパンチャーだ。

同じパンチャーでも、始動ポジションのタイミングや形、その他諸々の要素によって様々なフォームが有る。藤浪と似たタイプのパンチャー右腕(体幹の前屈が目立つタイプ)が、今のMLBの一線級でも2人思い浮かぶ。もうあと何人かいた気がするが、ちょっと出て来ない。

ジェームズ・シールズ 
2012/09/27 Shields' solid start

マックス・シャーザー
2012/09/12 Scherzer wins No. 16

こういったタイプは、どちらかと言うと始動ポジションの形成が遅めで、その抜く系の変化球が投げやすいようだ。なので、スライダーやカーブの投げ方がややスインガーっぽい。

ちなみに、藤浪のフォームについては、やはり手が体の前に出過ぎて重心が爪先寄りにな
り、骨盤が後傾し、ハムストリングスが使えず、膝が折れると言う、日本人特有の問題を抱えている。ただ、大谷に比べると我流フォームの感が強いので、ワンポイントアドバイスでどうこうと言うケースでは無い。

因に、大谷と近いタイプの投球フォームのメジャーリーガーと言えば、ジョシュ・ベケットだろう。


投球スタイルに関しては、藤浪はフォームから考えると、究極的には豪速球投手では無いと思う。むしろクセの有る面白いボールを投げそうな感じがするので、その意味では期待出来る。ダルビッシュに構えが似ているが、投球スタイルも似てくると面白いし、藤浪の方がよりクセの有る球を投げるはずだ。

ダルビッシュが成功しているのは、メジャーの投手を良く研究しているからでは無いか。「変化球が多い=軟投派」のイメージをくつがえしている所が良い。今は本格派が変化球を多投する時代なのだが、日本のエース級の多くは本質的にはストレートと変化球と言う投球スタイルの投手が多い気がする。日本だとストレート勝負=真っ向勝負と言う感覚が有るのだろうが、南米系の投手はアドリブの技が豊富なジャズミュージシャンのような感覚でいろんなボールを投げて打者との勝負を楽しんでいる。そのへん、変化球=逃げの投球と言う感覚が未だに残る日本との感性の違いだろう。



2013年4月8日月曜日

大谷のフォーム



典型的な昔式「振りかぶり型」のスインガータイプである。(ノーワインドでも、振りかぶるリズムで投げている。広島の前田とは違うタイプ。)カーブの投げ方にスインガーの特徴が出ている。西武の岸と同じタイプのフォームだ。この脚の挙げ型からパンチャーで投げるのが松坂大輔。日本の野球ファンにとっては最も親しみやすい投球フォームだろう。

フォーム的には、このタイプの投げ方として見ると、ソツが無く良く纏まっているが、グラブとボールを割るのが少し早いのが気になる。

グラブとボールは体重移動と連動して自然に割れるのが正しいのだが、大谷の場合、腕の力で割ってしまっている。因に、その点が最も上手かった日本人投手は藤川球児。その恩恵を活かして豪速球を投げ込んでいた。清水直行も上手かった。

グラブの中にボールが有る「セット」の状態は、左右の腕が相互に支え合うので力が抜きやすい。一方、割ってしまうと、両手の重さをそれぞれの肩、腕の筋肉で支えないといけないので上半身に力が入る。中でも、特に僧帽筋に力が入りやすいはずだ。そして、僧帽筋に力が入ると、胸椎が前彎し、腰椎が後彎し、骨盤の後傾した状態になりやすい。

大谷の場合も、腕を降ろした所で、僧帽筋の緊張からか、骨盤が後傾気味になっている。こうなると、ハムストリングスが効かないので、後ろ脚が体重を支えきれずに、膝が深く折れる。そうなるとなおさら大腿四頭筋が効き、ハムストリングスが使えない。

そのため、大谷のフォームは後ろ脚の膝が折れ過ぎて、重心が下がり過ぎている。そして投げ終わった後に後ろ脚が勢い良く前に出て来ない。このフォームで故障が怖いのは後ろ脚の膝と右肩だろう。腕は綺麗に回っているので、肘を痛める事は無いと思う。

特に、振りかぶり型は、元々のメカニクス上、骨盤が後傾し、膝で体重を受けやすい。そのため、そのメカニクス上の弱点をさらに強調してしまっている感の有る大谷のフォームには一抹の不安が残る。

グラブとボールを割るのをもう少し我慢して、体重移動との連動で割る事が出来れば、もっと腕の力が抜けて、フォームに躍動感が出る。重心は後少し高くなり、投げた後に後ろ脚がもう少し小気味良く前に出て来るだろう。シュートして抜ける球も無くなるだろう。しかし、肩に力が入り気味で、下半身が使い切れていないので、肩の故障は気になる。

面白いのはクイックの場合、その欠点が少し小さくなる。そのため、クイックの方がフォームが良い。だが、先発投手としては、そうも言ってられない。非常に簡単な修正で良くなるフォームだけに勿体無い。

西武の岸と比較してみると、岸の方がグラブとボールを割るタイミングが遅く、重心が高い。この辺は(似たタイプの)大谷にとって非常に参考になる部分だろう。惜しむらくは背中をやや一塁側に傾けるので、ハムストリングスが使いにくいバランスになっている事か。


ところで、落合が大谷の二刀流を賛成するコメントが有ったが、流石に落合が言うと説得力が有るので、一瞬納得してしまいそうになった。落合の思考はどちらかと言うとアメリカ式で「大谷くらいの素質の投手はこれからいくらでも出て来るよ」と言う余裕が根底に有るように感じた。だが正直、あの個性の無いと言うか執着心が感じられない淡白な打撃フォームにはあまり魅力を感じないのでやはり投手になった方が良い。この大谷の「二刀流問題」に関しては、言い出しっぺに一番の問題が有るのではないか。言い出さなければ無かった問題なのだから。

始動時の出力

下の動画の投手(アンソニー・バス パドレス)はパンチャータイプだが、始動時の後ろ脚の動きのパンチャーの特徴がよく出ている。ラボでも一番最初に、パンチを打とうとすると下半身がオートマチックに力を発揮すると言う事を実験で理解してもらっているが、下の動画はまさにその状態を表している。

この唐突な感じの後ろ脚のキックは、パンチャーのメカニズムが始動する時の特徴だが、フォームによって、それが見えやすかったり見えにくかったりする。この動画の投手の場合は典型的な見えやすいケース。だからと言って良いと言うわけでは無いが。ただ、この感じの下半身動作を見ると、腕の振りをチェックするまでもなく、パンチャーであると解る。有力な手がかりの一つと言う訳だ。



因に、今のメジャーではチェンジアップが全盛だと聞く。確かに、曲がったり落ちたりするチェンジアップを良く見る気がするが、スライダーやシンカーと思って見過ごしてるのも含めると、相当有る気がする。正直、球種は外から見て解りにくい部分が有る。

が、今のメジャーでは「ツーシーム全盛」と「チェンジアップ全盛」と言う言葉を良く聞くのは確かだ。そこでチェンジアップだが、この球種はパンチャーの投手が緩急を付けるのには持って来いなのでは無いだろうか。思い切り腕を振って行くパンチャーの場合、スインガーのように腕の振りを緩めるような感じで抜くボールは投げにくい。カーブでもしっかり腕を振る感じの投げ方になる。

チェンジアップは、腕の振りと球速の落差によって打者を惑わせる球だから、パンチャータイプにとっては適していると言えるだろう。パンチャー全盛と、チェンジアップ全盛はリンクしている現象なのかもしれない。実際、チェンジアップで有名だったヨハン・サンタナも典型的なパンチャータイプだった。

因に、パンチャーでも緩くて大きなカーブを投げる投手がいるが、それは以下のケースに分けられる。つまり「アーム式」と「始動ポジションが遅いタイプ」だ。始動ポジションが遅いタイプは、バッティングに例えると、スインガーの要素が混じったパンチャーということになる。この場合、途中で腕の振りを緩めるのがやりやすいし、実際、腕の振りを緩めて、緩いカーブを投げるパンチャーもいる。だが、こうしたタイプはいずれも、ストレートの球速に限界が有る。本当に速い球を投げるパンチャーの投手はあまり大きくて緩いカーブは投げない。投げられないメカニズムなのだろう。

チェンジアップの良いのは、投げ方がストレートとあまり変わらない所だ。チェンジアップは「得意な指を一本、使わないストレート」だと言う表現も有る。ツーシームチェンジアップとフォーシームチェンジアップが有るらしい。

いずれにしても、抜く系の投げ方がやりにくいパンチャータイプの場合、緩い球を一つ持つということは、大きな課題となるだろう。