2013年5月29日水曜日

エクトル・ルナとミゲル・カブレラ

今だ打率4割をキープし話題になっている中日のルナと、今年も三冠王を取りそうな勢いのミゲール・カブレラ。この2人の打撃スタイルはよく似ている。が、ラボで目指しているスタイルとは少し違う。

エクトル・ルナ


ミゲール・カブレラ


共にパンチャータイプの脚上げ型で、始動のタイミングは遅い。(ルナは腕を引く時の後ろへの体重移動を使って前脚を挙げている。)そして比較的、軽打してくる。

始動が遅いので、落ち着いてボールを見る事が出来る。その上で軽打してくるから当然、ミートしやすくなる。

理想はフルスイングする中で確実性を向上させる事であるし、理論上、それは可能と言うか、理論的には確実性の高いスイングと飛ばせるスイングは一致している。ただし、それはあくまでも「理論上」であって、その理論を自分の体で実現出来る打者はあくまでも一握りに過ぎない。そして、そこに辿り着くまでには理論と言うよりは地道な反復練習とか子供の頃からの長い経験が必要になる。一般的なレベルでは、やはり100%全開のスイングよりも95%くらいで振った方が確実性は挙る。一般的なレベルの打者は「全開」で振ると体重移動が大きくなり過ぎたり、無理矢理振る部分が出て来るからだ。これはもちろん、プロレベルでも言える事だろう。

そして、もう一つ。ルナとカブレラは共に片手フォローだが、軽く振るスイングには片手フォローがマッチしやすい。こうしたあたりを見ても、彼等のスタイルはラボで追求しているものとは違う。が、強いスタイルの一つである事は間違い無いだろう。

ただ、このスタイルの問題点は、ある程度のパワー、そして体の大きさを必要とするということ。左打者で内野安打を量産するなら別だが、軽く打ってヒットにしようと思えば(ヒットは全て芯で捉えているわけでは無いので)一定以上のパワーを必要とする。なので、パワーヒッターの資質の有る打者が、この戦略を取って来た時には強いとは言えるが、誰でも出来る事では無い。

では、ラボで追求している打撃スタイルを体現しており、なおかつ結果を出している打者を何人か実例で挙げてみたい。

1)ブラディミール・ゲレーロ

悪球打ちで、打撃理論は「強く打つ事だけを考えている」高いレベルになると、少々ボール球でも打てる球は打って行かないと、打てる球が無くなってしまう。悪球打ちで「強く打つ事だけを考えている」打者が、これだけの打率を残している事から学ぶことは多い。

2) デレック・ジーター

意図的な流し打ちも見せるが、基本的には強く打って、芯を外してもヒットにすると言うスタイルで安定した成績を積み重ねて来たし、チャンスに強い事でも有名。詰まった当たりのヒットも多い。強く打つタイプの打者にとっては「汚いヒット」は「綺麗なヒットに繋がる打ち損ない」だが、バットに乗せて運び綺麗に打つタイプの打者に取っては「汚いヒット」はただの打ち損ないでしか無い。汚いヒットで喜べる打撃スタイルの方が、野球をやっていて面白い。ジーターはそういうタイプの打者だろう。

3) プリンス・フィルダー

小手先で合わせて打つのでは無く、常に全身を使って振りに行き、その中で体の反射的な反応で上手く打っている。こうした打ち方の方が反応が良いので、難しい球を打つのが上手い。それほど打率は高く無いが、メジャーの長距離打者としては小さい部類ながら、本塁打のタイトルも獲得しているし、打率とホームランの両方でバランスの取れた成績を残している。

まとめてみると

●芯を外してもヒットになるように強振する。
●少々のボール球でも打てる球は打って行く。
●手で当てに行くのでは無く、振って行く中で反応力を活かして対応する。
●汚いヒットもヒットはヒット。

などの事が言える。これがラボで目指している打撃スタイルだ。

ただ「少々のボール球でも」ということに関しては、あまりレベルが低い相手だと、むしろ逆に投手を助けるだけにもなりかねない部分は有る。ただ、その場合でも「振る」ということによってタイミングが合って来ると言う事も有る。「じっくり見るタイプの打者」が一球も振らずに1ストライク3ボールになった後、バッティングカウントからの甘い球をいきなり振ってミスショット。こういう場合だって有る。

ただ、もっと大きな視点で見た時に、ルナとカブレラのスタイルがラボで目指しているスタイルと違う一番の理由は、彼等の打撃が「スイング本位」では無く「野球本位」だからだ。つまり、身体運動として良いか悪いか云々以前に、18.44m先から人が投げたボールを当てて、野手のいない所打ち返す事を中心に作られた打撃である。なので、ルナもカブレラも「スイング」それ自体は決して良くは無い。スイングがもっと良い打者なら、他にいくらでもいる。例えばルナよりもブランコの方がスイングは良い。こうした(ルナやカブレラのような)スタイルは簡単に結果を残せるようで、実際には難しい。調子をキープする事が難しかったりする。カブレラに関しては、それを長年続けているのはやはり凄いと言わざるを得ないだろう。

ただ、ラボではあくまでも「スイング本位」の取り組みを追求したい。

これはもう、どちらが結果が出るか(それは解らない)の問題では無く、考え方の問題だろう。