2013年5月20日月曜日

ジャスティン・アップトン

ジャスティン・アップトン

〜このシンプルなフォーム。このコンパクトなスイング。冷静に見ると日本の少年野球でも教えてそうな「何の変哲も無い」フォームだが、この打ち方でこれだけ飛ばせるのは「黒人パワー」の賜物である。〜

今期14本でメジャー全体でのホームラン数トップに立っているジャスティン・アップトンのバッティングについて。



元々、今のメジャーで最も飛ばす打者の一人だと見ていたが(後述するように)確率的にはそれほど期待しにくいフォームなので、ここまで打つ(量産する)ようになるとは思っていなかった。ただ打率は0.277とそれほど高いわけでは無い。(とは言っても大したものだが。)

このホームランも凄い飛距離だ。


(youtube版はコチラ)

今期もまた大きな当たりをかっ飛ばしている。

2013/05/17 J. Upton's grand slam

この打者のフォームについて考えてみたい。

まず体型。黒人に特有の「出っ尻」系の体型で腰椎の前彎が大きい。胸椎の後彎はそれほど目立たない。このタイプは大殿筋やハムストリングス等の股関節伸展筋の力が強いからか体の回転力が強いタイプが多い。エイドリアン・ベルトレイやプリンス・フィルダーが当てはまる。

アップトンの場合、それに加えて脊柱を真っすぐ立てているので、脊柱全体がやや反り気味になっているように見える。こうした構えだと背筋は緊張しやすいので柔軟なハンドワークは期待しにくいが、骨盤が前傾することには変わりない(脊柱のS字カーブを伴う本来の骨盤前傾とは違うとはいえ)ので、股関節伸展の力は使いやすい。なので体の回転力が強い。アップトンのスイングを見ても、これぞハムストリングスパワーとでも言うような力強い下半身の回転が見られる。これがアップトンのパワーの源だと言って良いだろう。

つまり、ハンドワークの柔軟性を犠牲にしながらも、過剰に骨盤を前傾させてハムストリングスを中心とした股関節伸展の力を余す所無く使い切る。ここにアップトンの打撃の特徴が有る。なので必然的に高い打率は期待しにくい。が、当たれば飛ぶスイングだと言う事。

次にバットの構え。バットをほぼ水平に寝かせて、ほとんどヘッドを投手方向に入れないで構えている。これは最も腕に負担のかかる構え方で、その意味でも柔軟なハンドワークを難しくしている。

ただアップトンの場合、構えでかなりハムストリングスが効いているので、腕の負担もそれによって軽減出来ている。(※)なので、同じ構えを日本人などがするのに比べると腕の負担はそれほど大きいわけでは無い。

※)実験としては、脚を肩幅より少し広く構え、股関節、膝関節は「緩める」程度に軽く曲げる。そして、バーベルを担ぐようにバット(重めのバットが良い)を両手で頭上に担ぎ上げてみる。(バッティングの構えとは全然違う形)

こうすると、当然だがまず腕でバットの重さをありのままに感じる事になる。では次に、その状態から両脚で強く地面を押してほしい。頭の高さを出来るだけ一定にしたまま地面を両脚で押す感覚だ。そうすると、担ぎ上げていたバットが軽く感じられるはずである。地面を押す力が発生すると同時に逆向きの力(バットを持ち上げる力)が体の中で発生するからだ。この実験で解るように、構えでハムストリングスが効いていると、バットを軽く感じる事が出来る。こうした事からも日本人がオートマチックステップに取り組む場合は特に股関節を割ったワイドスタンスを取る事が重要になる。

ジョニー・ゴームスもかなり構えでハムストリングスが効いている。この打者もバットを軽く感じているだろう。構えでハムストリングスが効くようになるとバットがかなり軽く感じられるようになる。構えを楽にするためには、バットを構える技術に加えて上半身の筋力も必要だが、ハムストリングスの効いた構えを作る事もポイントになる。


さらに脚の挙げ方だが、アップトンの場合、マーク・トロンボ等のように後ろ脚に体重を乗せてバランスを取るわけでも無い。こうしたアップトンのような脚の挙げ方だとタイミングのズレに打撃が影響されやすいので、そうした事も打率があまり高く無い事に関係している。

前脚を挙げて後ろ脚の上でバランスを取るトロンボの脚の挙げ方。脚を挙げるならこのくらいハッキリ挙げた方が打ち方としては簡単と言えるだろう。


アップトンに関しては、総合的に見て、やはり「ハムストリングスパワー(つまり黒人パワー)で一発飛ばしてやろう」と言う打撃フォームだと言う事が出来る。

ただ、所謂「無駄な動きの無い」スイングだし、両手で振り抜いており、スイングにもクセが無い。だから、それなりの「上手さも」も発揮出来る。(これが同じようにハムストリングスが効いた構えでもホセ・カンセコのようにバットをクルクル回しまくるようなタイプだと、またもう一段荒っぽい印象になってしまう。)

2013/04/08 J. Upton's four-hit night
※)この動画での一塁ベース上の立ち姿を見ても、かなり腰椎の前彎が目立つ事が解る。この体型の場合、下半身を中心とした体幹の回転力が強く発揮出来ている打者が多い。

そうした意味では「丁度良いくらいに打率も期待出来る一発屋」と言うのがアップトンの適切な評価だと思う。が「上手さ」を見せたからと言っても本質的には「ハムストリングスパワー」を活かしたパワーヒッターである事に変わりない。スイングがコンパクトなのでミートに徹しているように見えなくも無いし、またミートに徹して来るケースも有るのかもしれないが、本質的には飛ばし屋のパワーヒッターである。

おそらく、アップトンのような体型はMRIを撮影すればかなり腸腰筋が大きい事が解るのでは無いかと思う。その強力な腸腰筋の働きによって骨盤が前傾するのでハムストリングスも効いて来ると言う理屈だろう。ジェームズ・ブラウンと似たタイプだ。

ジェームズ・ブラウンがリズムを取る足踏みは正に「これぞハムストリングスによる股関節伸展」と言えるものである。腸腰筋その場ステップや、腸腰筋をストレッチした後の踵での小刻みな足踏みなどのトレーニングの感覚が有れば共感出来るだろう。最初の方のアップのシーンを見るとステップを踏む脚の大腿四頭筋がプルプル揺れているのが解る。大腿四頭筋が緩んでハムストリングスが使えている証拠だ。そして見るからに踵を使って床をノックしているような動きも、股関節伸展を使った足踏みの特徴である。


今期も「黒人力」全開のアップトンのパワーに注目してほしい。これだけシンプルな打ち方で、スイングもコンパクトなのにこれだけ飛ばせるのはまさに「黒人力」以外の何ものでもない。同じ事をズブの日本人がやったら(割と想像しやすい打ち方だが)外野フライがせいぜいでは無いだろうかとも思える。