2013年5月23日木曜日

松田 宣浩の前・テ・ギュン打法



松田はトップ型で構える脚上げ型のパンチャーだが、トップ型の構えで腕が緊張するのを防ぐため、肩にバットを乗せて構えて、脚を挙げる時に構えを作っている。結果、腕をリラックスさせた状態から振り出せているが、その反面、その動作のデメリットによってフォームそのものには若干の崩れが有る。ただ、デメリットには目を伏せてメリットを採りに行くと言う選択なので良いとか悪いの問題では無い。もちろん理想では無いのだが、軽はずみに「ワンポイントアドバイス」を出せる類いの問題では無い。

ただ、松田の打撃で良いのは「音」だろう。ミートした時の音が重厚感が有って良い。恐らく、トップハンドが柔軟に外旋し肘が深くえぐり込まれ、手首の掌屈した状態で、ボディーブローのように深くトップハンドが効くと、このような音になるのでは無いかと思う。それもまた腕がリラックスした状態から始動出来ているからだろう。

因によく言われる「前テギュン打法」だが「前・手・ギュン」であって「前手・ギュン」では無い。

まずwikiの記事。

本人は「ボールを前でとらえて手をギュンと押し出す」というこの打撃を、金泰均の名前をもじった前テギュン打法と呼んでいる。

このように、前の後の「テ」はキム・テギュンの「テ」と「手」をかけているので有って「前手」つまり、ボトムハンドのことを指しているわけでは無い。

つまり「前の手でギュンと打つ打法」では無く「で捉えて両ギュンと打つ打法」という事である。この辺、誤解を招きやすいのでは無いかと思う。

その証拠に、このサイトの記事(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34549?page=2)によると。。

「決して大きくない体でも(松田は身長180cm)、飛ばないボールでも、飛ばすコツはあるんです。それが『前手ギュン』。僕がたどり着いた究極の打撃理論です! ボールを体の前のほう(投手寄りの位置)で捉えて両手でギュンと押し込む。そのイメージで打てばいいんです」

ただ、パンチャーでもボトムハンドを意識している例は有るので、ボトムハンドの事を意識しているからと言って、スインガーとは限らない。反対にスインガーでもトップハンドの使い方を重視と言うか説明している場合が有る。要するにスインガーにもパンチャーにも「ボトムハンドの使い方」と「トップハンドの使い方」が有るということ。

ただ、同じトップ型で脚上げ型のパンチャーでも、西武の浅村は構えが長過ぎて損をしている事が多いように思える。

例えば、この動画では浅村の初球の強さが話題になっている。何球も打っている間に構えで腕がつかれて来るから初球に強いのではないだろうか。あくまでも推測の域を出ないが。


フォームとしては(最初から構えている)浅村の方が良いが、そういうちょっとした事で損をしているので松田の方が結果を残して来たのだろう。松田の方が実戦を意識した打ち方だと言える。

ただ、今期は浅村の方が良い成績を残している。(打率0.308)

松田のような打ち方は「フォームの崩れ」の部分が年々蓄積されて来て、長期的に低迷する危険性を孕んでいる。

こうした「実戦対応」を強く意識した打ち方の場合、練習では、その「実戦対応」の部分を外して「フォームを作る」必要が有る。その辺で「試合のための練習だ」とばかりに試合と同じ打ち方に固執してしまうと、どんどんフォームが崩れて行く。その辺の理解が有るかどうかが気がかりでは有る。

具体的には松田と浅村の違いは「脚を挙げる時に手を動かすか動かさないか」に有る。フォームとしては動かさない方が良い。しかし、松田の場合は、そのタイミングで肩に置いたバットを構えの位置に持ち上げる事で腕の筋肉の緊張を防いでいるのだから、フォームとしては問題があっても、その問題の有るフォームによって、それなりのメリットを得ている事になる。

ただ、こうした松田のような打ち方の場合、短期的にはメリットが「吉」と出るが、長期的にはデメリットが「凶」と出る場合が多くなる。

例えば、同じソフトバンクの松中。松中の場合、構えではバットを立てておく事で腕をリラックスさせているが、脚を挙げる時にバットをトップの角度に持ち込んでいる。


この方法は日本人には多く見られる方法だが、その意味を説明すると以下のようになる。

本来は脚を挙げて後ろ脚に体重移動すると同時にバットを後ろに引くのは良く無い。これは打撃理論の教科書に乗せても良いほど、基礎的な話である。何故かと言うと、その後、前脚を踏み出して行く時、グリップが後ろに残りにくいどころか、後ろに引いた反動で(前脚の踏み出しと同時に)前に出て来てしまう事もあるからだ。つまり打撃にとって重要な「割れ」が作りにくくなる。だから脚を挙げると同時に手を後ろに引いてはいけない。一本脚打法の王貞治もそれが出来ていた。

しかし、松中のようなバットの構えのまま(動かさずに)前脚を挙げて、そこから前脚を踏み込んで行くと、バットがトップの角度に入るまでに時間がかかるので、タイミング的に遅れやすいし、踏み込んで行く時の動きも大きくなりやすい。なので脚を挙げて後ろに体重を乗せた状態ではバットはトップの角度に構えておきたい。では最初からトップの角度に構えてはどうか。それだと腕の筋肉が緊張しやすい。

こうした事情によって、構えではバットを立てておいて、脚を挙げると同時にトップの角度に持ち込んでいる。良く見ると、この方法を採っている日本人打者は多い。ある意味で、この打ち方も松田と同じく、実戦対応を意識した打ち方である。(対応が地味なので解りにくいし、本人も気が付いていないかもしれないが。)

最後に話を松田に戻すと、要は浅村のような(脚を挙げる時に手を動かさない)打ち方を練習でしておいた方が良いということになる。