2013年5月4日土曜日

ボトムハンドが死ぬ

確か1990年代の中頃だったと思う。プロ野球の解説で青田昇が「今の選手は何であんなに筋力トレーニングをするのか理解出来ない。」と言った後に、以下のような内容の言葉を続けた記憶が有る。「大胸筋なんかが大きくなったら、ココ(左脇をさしていたように思う)が邪魔で仕方が無い。」

とても共感を得た言葉なので、良く憶えている。青田昇は綺麗なスインガータイプだったが、この話題にはスインガーとパンチャーはあまり関係が無い。

バットを振ると言うのは、基本的に手首を返す動きなのだが、返ってしまうと、もう打てない。ヘッドが返ると、インパクト出来ない。

そこで難しいのは、ボトムハンドが深く内旋し、また、簡単に外旋してしまわないスイングを身につけることだ。インパクトで写真のようにボトムハンドがしっかりと内旋している事が重要になる。メジャーでも、というか筋力トレーニングをしている選手の多いメジャーには、この内旋が甘い打者が多いが、そうした選手は多くの場合、打撃も荒っぽい。ミートゾーンが狭くなるからだろう。


そして、ベンチプレスなどで大胸筋が肥大すると決まって、このボトムハンドの内旋が甘くなる。そして、手首がすぐに返り、フォロースルーは小さくなる。

私は、この事に94年、95年頃に気が付いていたと言うか、その事で非常に悩み、色んな事をやったので、青田昇の言葉には、とても共感を憶えた記憶が有る。

まず、真っ先に筋力トレーニングを止めた事は言うまでも無い。

次に考えた事は、トップハンドを返すからボトムハンドが外旋するのだから、手首を返さずに、トップハンドを離してしまえば良いということ。この練習をかなりやった。自宅の庭にネットを張り、ボトムハンド一本でバットを持ち、ノックのようにトップハンドでトスを挙げて、ボトムハンド一本で、腕が、でんでん太鼓のヒモになったようなイメージで脱力して振り切る。しかし、これは上手くいかなかった。

また、鉄の短い棒をバットのように握り、インパクトの形を作って、両腕を捻る(ボトムハンドを内旋、トップハンドを外旋)運動。しかし、これも逆効果であった。

結論から言うと、特効薬的に効果的であったと思う練習は一つも無かった。

しかし、良いスイングが出来ている時だけは別で、そう言う場合、静止状態でインパクトの形を再現しても、トップハンドの内旋が深くかかっていた。筋肉が弛緩した状態で、加速するバットの重さや慣性力、遠心力などの外力を受けたからだろう。そうした静止状態やトレーニングでは再現出来ない状態で関節が捻られるので、柔軟性が増したのだ。野茂の投球腕の深い最大外旋をさして、そうした解説を加えてあるのを立花龍司か手塚一志の本で読んだ記憶が有る。こうした経験から、投球や打撃に必要な柔軟性を獲得するためには、スイングする事が最も重要で効果が大きいと言う考えを持つに至った。もちろん、ストレッチも重要で効果的だが、実際にスイングしていかないと獲得出来ない領域というものは確かに有る。だから、静止状態でインパクトの形を再現した時、その人の手首の形を見たら、だいたい野球経験者かそうでないかの察しは付く。もちろん、それは私だけではなく、多くの野球経験者がそうだと思う。バットを振って来た人は、バットを振らないと獲得出来ない、特有の腕の形を、静止状態でも作る事が出来る。

話を戻すと、ボトムハンドの内旋が死ぬと、ヘッドが返るからフォロースルーも小さくなるし、インパクト出来るゾーンも小さくなる。打者が不振に陥る理由は色々あるが、結局の所、大抵はココの所に出ると思う。1990年代頃はバッターのそういう所ばかりに注目していた記憶が有る。そして、中にはキャリア中盤から、ボトムハンドの内旋が急に甘くなる打者もいる。そして、そうした打者は多くの場合、元には戻らない。実際、成績も下降する事が多かったと思う。恐らく、年齢と共に肩甲骨の稼働域が小さくなる事なども関係しているのだと思う。

また、私は以前から、パンチャーで片手フォローを取る打者を批判して来た。90年代で言うとホアン・ゴンザレスとフランク・トーマス。そして最近ではジェイソン・ジアンビ、アレックス・ロドリゲス、マニー・ラミレス。これらの打者は、キャリア中盤からボトムハンドの内旋が甘くなり、それと同時に成績も下降した。そして実際に、自分で片手でフォローを取ってパンチャーのスイングをしてみると、ボトムハンドの内旋が甘くなって行く事が実感出来る。パンチャーで片手フォローを取らない事を強調する最大の理由はここにある。

バットは持たなくても良いので、鏡の前で、インパクトからフォロースルーの形を作ってみると良い。内旋が甘くなり、腕を綺麗に伸ばす事が出来なくなって来ると、大抵、調子も悪くなって来る。そしてベンチプレスや腕立て伏せなどの筋力トレーニングをすると、決まって内旋が甘くなる事が理解できるはずだ。

ボトムハンドが死ぬと打撃も死ぬのである。

それを理解した上でのトップハンドトルク(パンチャー)理論である。