2015年5月22日金曜日

「優劣の違いでは無い」の意味

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 パンチャーとスインガーの違いは優劣の違いでは無いと書いたが、この事についてもう少し掘り下げて説明したい。断っておくが私は「打撃理論にこれが正解というものは無い」等と言う耳障りが良いだけの事が言いたい訳ではない。実際に「ある部分」において優劣が無いからそう言っている。下図を見てほしい。


 投打ともに野球の「技術力」はメカニズムだけでは決まらない。メカニズムの善し悪しとは「身体に負担をかけずに、その力を最大限に利用できているか否か」によって決まるわけだが、投打ともに、この点においてはパンチャーとスインガーの間に違いは無い。つまり、双方ともに個別の完成されたメカニズムとして成立しており、その意味においては優劣の差は無い。

 それでは競技適応とはどういう事か。例えば投手であればクイックモーションのタイムは速いに超した事は無い。しかしそれは野球という競技の中に盗塁という戦術があるからこそ要求される能力であって、投げる動作それ自体の善し悪しを計る物差しにはならない。実際ワインドアップにおいては「ゆったりした良いフォーム」という表現が有る。

パンチャーの特性を活かした久保康友の高速クイックモーション

 一方バッティングでも、バックスイングにかかる時間が短ければその分だけ落ち着いて投球を待てるのだが、この事も打つ動作それ自体の善し悪しを計る物差しにはならない。しかしこれらの能力は野球と言う競技の枠組みの中では、共に投手や打者にとって重要なものであり、したがって良い選手か否かを計る物差しにはなりうる。

 パンチャータイプがスインガータイプよりも優れているのはまさにこの点で、その事がスインガータイプ主流の時代からパンチャータイプ主流の時代への変化をもたらす要因となったと考えられる。もちろん、その変化は多くの選手の試行錯誤の結果として起きた変化であり、何かの理論を背景として起きた変化では無い。

 マーク•マグワイアとベーブルースの違いはパンチャーとスインガーの時代を明確に表現している。2人とも単に記録的な数のホームランを打っただけでは無く、打撃技術の進化、変遷に大きな役割を果たしたと言う意味で共通している。

 パンチャータイプとスインガータイプの間には「身体に負担をかけずに、その力を最大限に利用できているか否か」という観点から見た場合は優劣の差は無い。しかし、競技適応という観点から見た場合、パンチャータイプの方が優れている(野球に向いている)なぜなら加速のための準備にかかる時間が短いからである。例えば、ゴルフなどの競技ではこうした能力は必要とされないだろう。