2013年5月29日水曜日

エクトル・ルナとミゲル・カブレラ

今だ打率4割をキープし話題になっている中日のルナと、今年も三冠王を取りそうな勢いのミゲール・カブレラ。この2人の打撃スタイルはよく似ている。が、ラボで目指しているスタイルとは少し違う。

エクトル・ルナ


ミゲール・カブレラ


共にパンチャータイプの脚上げ型で、始動のタイミングは遅い。(ルナは腕を引く時の後ろへの体重移動を使って前脚を挙げている。)そして比較的、軽打してくる。

始動が遅いので、落ち着いてボールを見る事が出来る。その上で軽打してくるから当然、ミートしやすくなる。

理想はフルスイングする中で確実性を向上させる事であるし、理論上、それは可能と言うか、理論的には確実性の高いスイングと飛ばせるスイングは一致している。ただし、それはあくまでも「理論上」であって、その理論を自分の体で実現出来る打者はあくまでも一握りに過ぎない。そして、そこに辿り着くまでには理論と言うよりは地道な反復練習とか子供の頃からの長い経験が必要になる。一般的なレベルでは、やはり100%全開のスイングよりも95%くらいで振った方が確実性は挙る。一般的なレベルの打者は「全開」で振ると体重移動が大きくなり過ぎたり、無理矢理振る部分が出て来るからだ。これはもちろん、プロレベルでも言える事だろう。

そして、もう一つ。ルナとカブレラは共に片手フォローだが、軽く振るスイングには片手フォローがマッチしやすい。こうしたあたりを見ても、彼等のスタイルはラボで追求しているものとは違う。が、強いスタイルの一つである事は間違い無いだろう。

ただ、このスタイルの問題点は、ある程度のパワー、そして体の大きさを必要とするということ。左打者で内野安打を量産するなら別だが、軽く打ってヒットにしようと思えば(ヒットは全て芯で捉えているわけでは無いので)一定以上のパワーを必要とする。なので、パワーヒッターの資質の有る打者が、この戦略を取って来た時には強いとは言えるが、誰でも出来る事では無い。

では、ラボで追求している打撃スタイルを体現しており、なおかつ結果を出している打者を何人か実例で挙げてみたい。

1)ブラディミール・ゲレーロ

悪球打ちで、打撃理論は「強く打つ事だけを考えている」高いレベルになると、少々ボール球でも打てる球は打って行かないと、打てる球が無くなってしまう。悪球打ちで「強く打つ事だけを考えている」打者が、これだけの打率を残している事から学ぶことは多い。

2) デレック・ジーター

意図的な流し打ちも見せるが、基本的には強く打って、芯を外してもヒットにすると言うスタイルで安定した成績を積み重ねて来たし、チャンスに強い事でも有名。詰まった当たりのヒットも多い。強く打つタイプの打者にとっては「汚いヒット」は「綺麗なヒットに繋がる打ち損ない」だが、バットに乗せて運び綺麗に打つタイプの打者に取っては「汚いヒット」はただの打ち損ないでしか無い。汚いヒットで喜べる打撃スタイルの方が、野球をやっていて面白い。ジーターはそういうタイプの打者だろう。

3) プリンス・フィルダー

小手先で合わせて打つのでは無く、常に全身を使って振りに行き、その中で体の反射的な反応で上手く打っている。こうした打ち方の方が反応が良いので、難しい球を打つのが上手い。それほど打率は高く無いが、メジャーの長距離打者としては小さい部類ながら、本塁打のタイトルも獲得しているし、打率とホームランの両方でバランスの取れた成績を残している。

まとめてみると

●芯を外してもヒットになるように強振する。
●少々のボール球でも打てる球は打って行く。
●手で当てに行くのでは無く、振って行く中で反応力を活かして対応する。
●汚いヒットもヒットはヒット。

などの事が言える。これがラボで目指している打撃スタイルだ。

ただ「少々のボール球でも」ということに関しては、あまりレベルが低い相手だと、むしろ逆に投手を助けるだけにもなりかねない部分は有る。ただ、その場合でも「振る」ということによってタイミングが合って来ると言う事も有る。「じっくり見るタイプの打者」が一球も振らずに1ストライク3ボールになった後、バッティングカウントからの甘い球をいきなり振ってミスショット。こういう場合だって有る。

ただ、もっと大きな視点で見た時に、ルナとカブレラのスタイルがラボで目指しているスタイルと違う一番の理由は、彼等の打撃が「スイング本位」では無く「野球本位」だからだ。つまり、身体運動として良いか悪いか云々以前に、18.44m先から人が投げたボールを当てて、野手のいない所打ち返す事を中心に作られた打撃である。なので、ルナもカブレラも「スイング」それ自体は決して良くは無い。スイングがもっと良い打者なら、他にいくらでもいる。例えばルナよりもブランコの方がスイングは良い。こうした(ルナやカブレラのような)スタイルは簡単に結果を残せるようで、実際には難しい。調子をキープする事が難しかったりする。カブレラに関しては、それを長年続けているのはやはり凄いと言わざるを得ないだろう。

ただ、ラボではあくまでも「スイング本位」の取り組みを追求したい。

これはもう、どちらが結果が出るか(それは解らない)の問題では無く、考え方の問題だろう。

短いバットでベースに近づかず、外角を打つ方法

トップ型のオートマチックステップでは、構えでバットの重さによる腕の筋肉の緊張を避ける事が非常に重要なテーマになる。そのため、使用するバットは軽くてミドルバランス。そして、短い方が良い。因に、細いバットの方が空気抵抗が小さくヘッドスピードが上がるので、細いバットの方が良いだろう。つまり、以下のようなバットが好ましい事になる。

●軽い
●短い
●細い
●ミドルバランス

こうしたバットを体に力を付けた上で、思い切り強振していく。ただ、ホームランを狙うのでは無く、芯を外してもヒットになりやすいように強く打つ。このスタイルだと、レベルの高い投手にも対応しやすい。いくら二戦球の投手からどうでも良い場面でホームランを打っても、相手のエースに手も足も出ないようでは良い打者とは言えない。そして野球ファンは結構、そうした事を鋭く見ている。これは選手の間でも同じでMLBでよく有る選手間のアンケート等を見ていると、それを感じる。

そして、もちろんスイングはフルスイング。相手バッテリーから見て「嫌だなぁ」と思われるようなアグレッシブなフルスイングで、どんどん振って行く。計算的なようで野性的、野性的なようで計算的。そういう打者を目指してほしい。

このページには多くのプロ野球選手のバットの長さと重さが書いてある。

見ると、やはり低い位置でバットを立てて構え、悠長なタイミングの取り方をする昔の打者は長くて重いバットを使う傾向が有るようだ。

プロレベルで「短い」と言えば84センチだろうか。そして重さは一番軽くて850gくらいか。ただ最初から一番軽い850gに設定してしまうと、自分の体調や相手のレベル(豪速球投手など)に合わせてバットを軽くして対応する事が出来ないから860g〜870gあたりが妥当か。

ただ短いバットを用いた時、問題になるのはアウトコースだろう。

ではホームベースに近づいて立つのが良いのか?

しかし、それはマズい。

何故なら、インコース高めの速球と言う一番バットを素早く出す必要が有るボールに対して、時間的余裕が無くなるからだ。そうなると、始動のタイミングを早くする必要が生じるが、これはオートマチックステップにとっては好ましく無い。オートマチックステップでは極力、始動のタイミングを遅らせて「リリース前始動」によるデメリットを軽減したい。だから、インコース高めの速球に対して、時間的な余裕を確保するため、ベースには近づきたく無い。

ただ短いバットであまりにベースから離れてしまうと、アウトコースが打てなくなるから、他の打者と同じくらい。つまりベースとの距離は「普通くらい」が良いだろう。それでも軽くて短く、ミドルバランスの細いバットを使っているのだから、インコース高めへの対策は充分と言える。

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では、本論。短いバットでベースに近づかず、アウトコースをどうやって打つのか。

まず、一つ。基本的にオートマチックステップの構えは(他の打法に比べると)クラウチング気味なので、そのぶん、アウトコースは打ちやすい。

また、上半身の倒し方、つまり構えのシルエット(投手方向から見たシルエット)が同じでも、腸腰筋の効き具合によって骨盤の角度が違って来る。そして、骨盤が前傾すると、ハムストリングスが使えるようになるが、この事がアウトコースを打つためには重要になる。

ハムストリングスは股関節の伸展筋だが、股関節の伸展とは、脚を後方にスイングして体を前に押し出す動作なので、ハムストリングスが効いていると、体をニュゥ〜ッとホームベース方向に押し出して行くので、アウトコースに対して踏み込みが強くなる。だから、ハムストリングスが効いていると、アウトコースにバットが届きやすい。

動画)フレッド・マグリフ クラウチング気味で膝をあまり曲げていない。つまり、股関節は屈曲して、膝は伸展気味の構えだが、バランス的に理想とは言えないものの「ハムストリングス」と言う観点から見ると、股関節が屈曲して膝が伸展しているとハムストリングスは最も引き伸されるので、その力が使いやすい。だから、アウトコースへの踏み込みが効く。ただ、クラウチングのデメリットはスイング軌道がアウトサイド・インになる事。そうしたメリット、デメリットが組み合わさって、この動画ではアウトコースのボールを引っ張って特大ホームランを打っている。また、単純にクラウチングのバランスによって外角方向に体が倒れやすいというのも有る。


このように、構えでハムストリングスが効いていると、アウトコースは打ちやすくなる。

そして、もう一つ。後ろ脚をズラすと言う使い方。もちろん、これも意識的なものであってはいけないし、そういう動きを意識的な動作として練習するのもいけない。ただ、そういう打ち方を練習する事は出来る。そして、この打ち方は、最も腕を伸ばす必要があるアウトコース低めに対して威力を発揮する。

まず、実験としてインパクトのポーズを作ってみてほしい。そして、その状態から後ろ脚を背中の方にズラす。そうすると、バランスを取るために、上半身がホームベース側に倒れ、そのぶんだけ、腕が外角に伸びる事が解るだろう。昔から打撃理論で良く語られて来た打ち方だが、これが出来るとアウトコースへの対応力は向上する。

動画)ジェフ・フランコーア 微妙で解りにくいが後半のスローモーションを見ると、後ろ脚を背中側に引く事により、肩がホームベース方向に倒れ込み、それによって外角低めに対応している。


この打ち方は、どうしたら出来るのか。まず構えでハムストリングスが効いていると、踏み込んだ前脚に体重が乗りやすいので、後ろ脚が外しやすい。(適度にと言うのが重要だが)クラウチングの構えも踏み込んだ前脚に体重が乗りやすいので後ろ脚が外しやすくなる。

そうした構えを作った上で、素振りをしてみよう。

目の前の壁のキズなど、目安になる点を見つける。そして、その点は外角低めのボールゾーンに設定する。その一点を見つめたまま何も考えずに思い切り振ると、自然に後ろ脚が外れるはずだ。出来なければ「クラウチングを強調」「膝の屈曲を小さく」「事前に腸腰筋をストレッチしてハムストリングスを効かせる」「さらに外に外れたポイントを見て振る」といった事をすると、後ろ脚が抜けるだろう。なお、ハムストリングスを使うコツは構えで踵(頸骨の真下)に体重を乗せる事だが、クラウチングで爪先体重になると大腿四頭筋が効いてしまうので、爪先体重にならないように注意する必要がある。

こういうスイングを素振りの中で練習しておくと良いだろう。

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ただ、基本的にオートマチックステップではインコース高めの速球に対する余裕を確保する事によって、始動のタイミングを遅らせたい。そうする事によって遅い球も対応しやすくなる。緩急への対応が一つのポイントになるオートマチックステップにおいてはインコース高めの速球と言うのは重要なテーマだ。

その上で、アウトコース低めを打つためには、どうすれば良いか。別に優先順位が有る訳では無いが、インコース高めに目をつむるわけにはいかない。なので、ベースに近づくわけにもいかない。

では、短いバットでベースに近づかずにアウトコーを打つための対策を最後に整理しておきたい。

(1)構え

構えは、この打法の理想的な構えを変える必要は無い。試合でアウトコースに対応するために構えを変えたりすると、調整が難しくなったりして、余計に話がややこしくなる。なので、基本的に構えは変えない。ただ、その上で、そもそも他の打法に対してクラウチング気味であるこの打法はアウトコースにアドテージが有る。これが一点。

次に、あくまでも「理想的なバランスで構える」事を前提として、アウトコースに対応するためのポイントは「膝を曲げ過ぎない」「事前に腸腰筋をストレッチする」の二点が挙げられる。膝を曲げ過ぎると大腿四頭筋が効き、ハムストリングスが働かない。次に事前に腸腰筋を効かせる事によって、骨盤が前傾し、ハムストリングスが使いやすくなる。つまり、同じ脊柱の傾き角度(クラウチングの角度)であっても、腸腰筋の効き具合によって骨盤の角度には違いが生じる。

(2)打ち方

後ろ脚を抜き、背中側にズラすスイングを練習で憶える。やり過ぎると良く無いが、こうした打ち方を練習の中で憶えるといいだろう。なお、その際、バランスを取るために交互にインハイを振る事も必要になる。(この場合はインハイの一点を見つめて振る。スイング軌道は意識しない。)

これら2つのポイントを抑える事がアウトコースを打つ上で重要になる。このポイントをもっと大雑把な視点で考えると以下の3点に纏める事も出来る。

1)構え ハムストリングスの効いた構えを作る
2)事前のストレッチ 腸腰筋とハムストリングスが活性化する状態を作る
3)スイング 後ろ脚を抜くスイングを憶える

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バットは短い方が良い。インコース高めの速球が大事なのでアウトコース対策に(クラウチングで構えるなど)極端な事は出来ない。その状況下で一番腕を伸ばす必要があるアウトコース低めを如何にして打つかと言う事が大切になる。

始動を遅く設定するためにインハイ速球への対応が重要になる。そして、短いバットを使うためにアウトコース低めへの対応が重要になる。インハイとアウトロー。この二つが重要になる。

2013年5月27日月曜日

エルボーガード





この動画の打者はニック・スウィッシャー。比較的好きな打者で、左右共にパンチャータイプのスイッチヒッターだ。

この打者を見て、常々思っていた事。「トップ型の構えだな」「あまり捻っていない構えだな」「捻っていない割りには、ボトムハンドの肘が浮かず、バットが良い角度に納まっているな」「ゴツいエルボードだな」「バット短いんじゃ無いか」「首が斜めだな」等々。

トップ型の構えでは写真のように、ヘッドが重力によって背中側に倒れようとする。この力に負けてしまうと、ボトムハンドの肘が浮き、バットを担ぐような構えになる。そうなるとなおさら腕に負担がかかる。右の打者の方が捻りが深くヘッドが投手側に入っているが、この方が「投手から見たグリップとヘッドの距離」が短くなるのでボトムハンドの肘に関しては浮きにくい。ただいずれにしてもトップ型の構えにとって、この「肘が浮いてバットが横に寝てしまう」と言うのは厄介な問題だ。

ここで、エルボーガードが有ると、この回転力に抵抗する事になるので、肘が浮きにくく、バットが良い角度に納まりやすい。そうなるとバットも重く感じにくくなる。なるほど、スウィッシャーの構えを見て感じた印象はそういう所から来ていたのか。ほとんど捻っていない構えなのに、あの絶妙なバットの角度。あれはエルボーガードの効果も有るのだろう。

手っ取り速く試したい人は、バスタオルか何かを肘に巻いてみると良い。バットが良い角度に納まりやすくなるはずだ。

エルボーガードは中々使えそうなアイテムだ。もちろん、重すぎると問題だが。ところで、こうした類いのアイテムは他にはシンガード(すね当て)や親指に巻いてバットを支えるリング等が有る。シンガードはオートマチックステップの動きが遅くなりそうだし、親指リングはトップ型の核心には迫っているものの、動作に対する影響が懸念される。

エルボーガードなら、そのあたりはまだマシでは無いか。もしかしたらボトムハンドの引きも起きにくくなるかもしれない。ボトムハンド側を(重りで)止めて置いて、トップハンド側をそこにぶつけて行くと言うパンチャーのメカニズムには適応しそうだ。スイングスピードについても「手首に少し重りが有った方がスイングスピードが上がる」と言う話も有る。「中学野球小僧テクニカル・バッティング編 湯浅影元の記事」大学教授の話なので裏付けは有るのだろう。

いずれにしても、トップ型の構えでは「バットの重さによる腕の緊張」を如何に無くして行くかと言う所に心血を注ぎたい。そのためのパワーも付けたいし、バットも短く軽くしたい。バランスもトップバランスは避けたい。構えるタイミングやルーティーンも考えたい。そのためにプラスになると思える事なら、何でもしたい。

何故、そこまでその事に気を使うかと言うと、最終的なレベルでは投手はとてつもない球を投げて来るからだ。そこでバットの重さに足を引っ張られるようだと話にならない。物凄い投手の物凄い球。これを打てとは言わないまでも、手も足も出ない状況だけは避けたい。

バットを軽くする事によって、あと少しバットが重ければホームランだったのにと悔しい思いをする場面も出て来るだろうが、そのバットの軽さによって「凄い球」に対応出来るようになる事を有り難いと思った方が良い。

スウィッシャーのバットが短いのではと書いたが、実際の所は知らない。ただ、バットが長いとそれだけヘッドの重さがキツくなるので、トップ型の場合は短いバットの方が良いだろう。そうするとホームベースに近づいて立たなければと思われるかもしれないが、構えがクラウチング気味なので、それほど近づく必要は無いはずだ。

ところで、エルボーガードと言って忘れてならないのはバリー・ボンズだろう。侍の甲冑のような大袈裟なエルボーガードをしていた。

2013年5月24日金曜日

林さん進化の記録2



実戦を繰り返している中でのスイングだけ有って、シャープさを感じます。

この最初の置きティーのスイングが硬式木製バットで実現出来ればプロレベルでしょう。ただ、こうして軽いバットを振っている時のスイングの良さを見ると、やはり以下の二点の重要性を痛感します。

1)バットを軽く感じるためにパワーを付ける事。
2)軽いバット(特に細身でミドルバランス)を使用する事。

です。体のパワーを付けた上で、軽いバットを思い切り振ってこそ、この打法の良さ、真価を発揮出来る事が良く解る置きティーの動画です。

もちろんバットを軽くする事で、そのぶんだけ飛距離は犠牲になりますが、スイング自体はフルスイングです。軽いバットでフルスイングし、芯を少々外してもヒットに出来るように強く打つ。そういうバッティングスタイルだと投手のレベルが高くても対応しやすいし、またそういうスタイルのための打法です。

では早速具体的な技術論について気が付いた事などを書きます。

1)バットの重さによるスイングの違い

この前に「メジャーの左打者と林さんのスイングの比較」と言うテーマの動画をアップしましたが、そこでメジャーの打者と林さんの違いとして最も大きいと思われるのが、スイングにおける肩甲骨の動きです。

メジャーの打者はスイングの中で肩甲骨が大きく動いています。上方回転、下方回転の動きも有りますが、それよりも胸郭の上を肩甲骨がスライドする動き、つまり内転や外転です。メジャーの打者はスイングにおける回転運動を、この肩甲骨の動きで行なっている割合が高いと言えます。一方林さんの場合、スイングにおける回転運動を体幹部そのものの回転に依存する割合が高いようです。

ジェマイル・ウィークス
セス・スミス


プリンス・フィルダーのこのフォロースルーなどは、肩甲骨が大きく動いているスイングの典型的だと言えます。

そこで下の動画ですが、これは硬式木製バットとソフトボール3号バットを使用した時のスイングの比較です。

硬式木製バットの時の方が体幹が大きく回転しています。大きく回転しているから良いと言うよりも、むしろ過剰に回転していると言った方が良いと思います。一方、ソフトボール3号バットの場合だと、体幹の回転は小さめに抑えられています。

これは恐らく、硬式木製バットの方が重いので、肩周り、つまり肩甲骨と胸郭の間の筋肉が緊張しているからでしょう。筋肉が緊張しているから肩甲骨が動かないのでそのぶんを体幹の回転で補っているということです。一方、ソフトボール3号バットの場合だと肩甲骨周辺の筋肉がリラックスしているので、肩甲骨の動きがよくなるため、体幹をそれほど回転させる必要が無くなるわけです。

そのため、ソフトボールバットの時は巻き戻しが強く出ています。これは体幹部の回転が止まって、肩甲骨が胸郭上をスライドする動きで上半身がねじられているからでしょう。バットの出方が硬式木製の方が横振りになっていて、ソフトボールバットの方は縦軌道で出ているのも、体幹部の回転を使っているか、肩甲骨の動きを使っているかの違いが出る所です。

一方、下の写真は2011年の夏頃にミズノの短いバット(830g)を振った時の動画ですが、メジャーリーガーのスイングによく似ており、肩甲骨が大きく動いています。具体的には縦軌道の振り出しで、フォロースルーでは肩甲骨が胸郭の周囲を大きく動くので背番号が見えるくらいに体がねじれています。(もちろんバットが短く軽いので、インパクトまでにボトムハンドの引きが起こりにくいので縦軌道でバットが出る。そして、フォロースルーでは残っていた肩甲骨が一気に回るので上半身が大きくねじれると言う事も言えます。)

つまり、メジャーの打者はパワーが有るので、肩甲骨周辺の筋肉をリラックスさせる事が出来ているから、スイングで肩甲骨が大きく動くと言う事です。もちろん、肩甲骨の可動域や、骨格の形の良さも重要です。しかし、ソフトボールバットや短いバットを振っているときのフォーム(メジャーの打者とそんなに変わらない)を見る限り、簡単に言うとパワーの違いが一番大きな原因では無いかと思います。

写真)メジャーの打者同様、体幹の回転が止まって肩甲骨が大きく動くので、体が大きく捻られるフィニッシュの形。

ですから、もちろんパワーを付けるために重いバットを振る事は重要なのですが、それと同様に軽いバットを振って動きを良くしていく事も考えた方が良いです。

この場合の軽いバットと言うのは、塩ビバットのように無負荷に近いものでは有りません。何故かと言うと少しは重さが有った方が腕の筋肉が捻られたり、バットの重さでバットが残って筋肉が引き伸されたりする効果が期待出来るからです。(塩ビバットを振る練習は、それはそれで意味が有りますが、この場合は違うと言う事です。)

重さとしては少年野球の低学年用くらいのものが良いと思います。長さも短いバットです。短い事によって構えで最大限、筋肉が緩んでくれるからです。これを重いバットを振る練習との組み合わせで振ると良いでしょう。そして林さんの場合、そうしたバットを振ってほしいもうひとつの意味が有ります。写真を見る限りミズノのバットでも事足りそうなものなのですが、それよりも軽いバットを振ってほしい理由が有ると言う事です。それが次の(2)「オートマチックステップの精度」と言うテーマです。

(2)オートマチックステップの精度

最近の林さんのオートマチックステップの動きをみていると脚が高く挙り過ぎていたり、膝が内に入っていたりと、少し雑になっています。もう少し地面にまとわりつくように粘りっけの有る挙り方をしながら、最後の瞬間にスパッと挙り、一瞬で着地する感じになった方が良いです。

そして、そういう場合と言うのは大抵、体の表面的な筋肉(アウターマッスル)が優位に働いていたり、腕や上半身の筋肉が力んでいる場合が多いのです。つまり(1)の問題と共通するのですが、やはり現時点での林さんのパワーと硬式木製バットの重さの比率の関係で、どうしても上半身の筋肉が緊張してしまうわけです。

そういった緊張が無くなると、もっと体の芯の筋肉の力が使えて、筋肉も体幹の中心部から末端部へと連鎖的に収縮するようになります。そうなると、ステップの動きはもちろん、体の回転やスイングといった全ての動きに「粘り気」が出て来ます。単純にしなやかさと言っても良いですが、それよりももっと力強い感覚で、体の中心部から末端部にブワッと力の波が伝達して行くような感じです。丁度、下の動画の最初に出て来るカルロス・リーのような感じですね。

もっともカルロス・リーの場合は生来的なパワーがそれを可能にさせているわけですが、こうした境地を目指す場合に重要になるのは「重いバットを振ってパワーを付ける事」と「軽いバットを振って良い動き、良い筋肉の働きを体に憶えさせる」と言った二通りの練習をすることです。

その上で、オートマチックステップの動きを良くするためには「(35)オートマチックステップスイング」と「(23)揺らぎストップスイング」の練習内容が適応します。

特に「揺らぎストップスイング」では説明の文章に書いてあるように、全身をリラックスさせて自分の体重を地面に落とし込んで地に脚が着いた状態(反動で浮く前)から振るのですが、そこから始動する時に浮かび上がるのでは無く、むしろ振りながら自分の体がドリルになったように地面に潜り込んで行く、埋まって行くくらいのイメージ(あくまでもイメージ)で、一度、軽いバットを振ってみて下さい。(バットを持たなくても良いです)ステップの良い感じが掴みやすいと思います。

ただ上記のイメージを持つと不必要な意識のぶんだけ不必要な力みも生まれるので、何回かやって感じが掴めたら、後は「体重を地面に落とし込んで地に脚が着いた状態から振る。振る時はあくまで一瞬で振り抜く一点に集中する」と言う方法で振って下さい。いずれにしても「地に脚が付く」状態だとハムストリングスが効いて来るので、反対側の腸腰筋が引き伸されてステップで使いやすくなります。やや外旋気味で挙るオートマチックステップ特有の形は腸腰筋が働いた結果です。そのために「揺らぎストップスイング」が効果的だと言う事です。

この練習でも軽いバットを使う事で構えでの筋肉の緊張を無くすと効果的ですし、また構えで体が止まった所で体の中心軸が決まると、体の芯からの力が使えるようになります。筋肉が緊張していない状態で体の心からの力が使えると、体の中心部から末端部にブワッと力の波が伝達して行くような感じの動きになるわけです。こうした練習を軽いバットを使って行なう事によって、筋肉に良い働きを憶えさせる事が非常に重要です。

打撃は確かにバットと言う重い棒を振るので筋肉の力が必要になります。骨格の構造と物理の法則を上手く使えば筋肉の力はいらない。。と言う事はありません。しかし、それと同時に、必要最低限の筋力しか無くても、体の中心から末端部へ、連鎖的に上手く力を伝達される事が出来た時に発揮されるパワー。これも侮れないほど大きな物があります。細身なのに豪速球を投げる投手はそれが出来ていると言う事です。こうした意味での「パワー」を向上させる事も、単純に筋力を向上させる事と同じように重要で効果的だと言う事です。

これは林さんだけでは無く山下さんにも、と言うよりも硬式レベルで野球をやっている打者はそういう場合が多いと思いますが、900g前後の硬式バットから700g台の軟式、600グラム台、500グラム台の少年野球用バット。。このくらいまではバットの軽さに応じてスイングスピードがどんどん速くなっていきます。しかし、それ以上さらに軽くしていった時、思いのほかスイングスピードが速くなってこないのです。このような打者は鉄バットのような重いバットを振ると、見事に腕だけで振る感じになってしまう特徴が有ります。ただ一般的にはそういう打者の方が多いようです。

500gくらいまでのバットのように、ある程度の重さが有ると、バットの重さを触媒として、体の表面的な大きな筋肉が刺激を受けて活性化(多くの筋繊維がONの状態になる)する事で、そうした筋肉の力を使いやすくなるからスイングスピードが挙るのでしょう。しかし、これはいわゆる「アウターマッスル優位型の加速様式」です。そして、そうした体の使い方に慣れ切ってしまうと、そういうメカニズムでしかスイングスピードを挙げる事が出来なくなるので、あまりに軽いバットだと思うように速く振る事が出来なくなるわれです。

一方、バットの重さを触媒としなくても、体の中心から末端部への力の伝達が完全であれば、塩ビバットのような極端な軽いバットでも速く振れるようになります。そうした体の使い方、筋肉の働きを常に保存した上での筋力強化でなければならないと言う事です。

そして、真に筋力が付いた上で、そういう体の使い方が出来るようになると、軽いバットを振った後に普通のバットが重く感じても、それがプラスに働くような形でバットが速く振れます。その反対で重いバットをブンブン振って普通のバットが驚くほど軽く感じられても、思ったほどスイングスピードが挙らない事もあります。

上記のような意味で、林さんのスイングにもまだまだ、軽いバットを振る事で改善される余地があると言うか、新たに筋力を付けなくても、今の筋力の範囲で眠っている資源を掘り起こしてやるだけで、スイングスピードが向上する余地が残っていると言う事です。ですからもちろん重いバットを振る事も重要ですが、軽いバットを振る事も重要だと言う事です。

軽いバットを振る練習では「揺らぎストップスイング」のように一回一回、時間をかけて振る事も大事ですが、それと同時に軽いバットは数多く振れるので、その特性を活かして軽いバットを数多く振る日を作っても良いと思います。動きをしなやかにするだけなら、巻き戻して着地した脚を基点に構えを作って振る連続素振りのようなある程度雑な感じでも、充分効果的です。

3)ショートストロークスイングの必要性

課題であった「(ヘッドが寝ていない)適切なトップの角度からヘッドが立ってダウン軌道で振り出されるスイング、ボトムハンドの引きが小さいスイング」も下の写真を見る限り、かなり実現出来るようになってきました。もう後一歩です。

その後一歩は、前脚膝が内に入るクセが完全消失することも重要になります。この動作によりボトムハンドの引きが起こりやすくなり、ボトムハンドの引きが起きるとヘッドが倒れるためです。

また、もう一つのポイントとしては、「(1)ショートストロークスイング」の練習をすることです。この練習は軽いバットで良いので、バットを短く持ち、両手の間隔も僅かに開けます。下の写真を見ると、ショートストロークスイングでは、ややバットが水平に回転し始めるタイミングが早い(ダウンスイングのフェーズが短い)です。

その他、ショートストロークスイングについては山下さんの記事でも書いてありますので、それも参考にしてください。ただ、思えば、今までこのポイントをあまり重視してこなかった気がします。ショートストロークスイングは、ラボでもポイントを抑えれば比較的誰でも良い感じにバットヘッドが立って出るようになりますので、これからやっていくと出来るようになるでしょう。

(3)トップハンドの深さ

これも、同じテーマで山下さんの記事に書いています。ただ、林さんの場合は右投げ左打ちと言う事で、この問題はより大きなテーマだと言えます。投球腕では無い方の腕は肩関節の外旋が浅くなるためです。ですから、その柔軟性を獲得するために左腕の機能を高めていかなければなりません。これは右投げ左打ちの選手にとっては永遠のテーマになると同時に、それが右投げ左打ちの大変な所です。

そこで、今回は大胸筋と広背筋のストレッチを紹介します。(これはスローイングの時にまたやりますが)肩関節の強力な内旋筋である大胸筋や広背筋が硬くなってしまうと外旋可動域が小さくなるので、これらの筋肉の柔軟性をキープする事が大切です。バット外旋と共に行なって行くと良いでしょう。特に重いバットを振ったりすると、トップハンド側の大胸筋、広背筋は硬化を起こしやすくなりますから、これらの筋肉をストレッチして柔軟に保っておく事が大切です。

以下の4種目は右投げ左打ちの選手の左腕には必須種目です。順番的には「バット外旋」「大胸筋ストレッチ」「広背筋ストレッチ」「腕回し」の順番が良いでしょう。バット外旋を最初にやって腕回しを最後にやる事が大切です。

外旋&外転 広背筋ストレッチ


水平伸展&外旋 大胸筋ストレッチ


バット外旋 (立花龍司 TCA理論肩編 より)


腕回し


(4)両脚のライン

構えを見ると、まだ両脚のラインが不安定です。両方膝が開いていたり、前脚股関節が割れていなかったりする事が有ります。この辺がもっと安定してくると構えも安定してくると思います。

 下の写真では甲子園の構えが一番良いですね。右上は両方割れており、右下は前脚股関節があまり割れていません。左上はまぁまぁ良いです。ただ左下もまだ前脚股関節がイマイチ割れていない感じです。この辺は細かい角度の問題と言うよりも「股関節を割る」と言う事に対する感覚の良さが求められる所です。その感覚が身に付けば、おのずと安定してくるでしょう。

下の写真の練習では2人とも良い感じで出来ているので「(8)両脚ライン作りスイング」の内容を練習すると、良くなるでしょう。下図のイメージです。

(5)黒人パワー

特に始動時に発揮される下半身の力と言うポイントでモノを言う「黒人パワー」ですが、これ(始動時の力)は最初の方は林さんの方が強かったですが、最近では山下さんの方が強くなりつつあります。ただ、始動時の力については、黒人化トレーニングを積んでいても、構えで上半身が緊張していると、思うように力が発揮出来ないので、一概にトレーニングの問題だけとは言い切れないものも有ります。

そしてもちろん黒人パワーは打撃のパワーにも大きく影響します。特に林さんの場合、まだシーズン中ですので、スイングが崩れやすい上半身トレーニングよりも、スイングに影響が出にくい下半身、体幹部のトレーニングの方が無難ではあります。そうした事も考えてメニューを決めた方が良いでしょう。

また、黒人パワーについては自転車に乗るのと似ている部分が有り、一度身に付けると、思い出すのも早いですし、またスイングの一振り一振りの中でも鍛えられるようになります。そうした意味で特に若い間に重視したいトレーニングです。(ただし、自転車と違うのは一度憶えてもやらないと錆び付いて行く点です。その意味でも、継続して行なう必要があります。継続して行なう事で感覚自体は30代を過ぎても磨かれて来ます。)

ただ、最近の林さんを見ていると、下の写真の投手側から見た姿勢や、腕の形(関節の微妙な捻り具合や可動域から醸し出される雰囲気)がだいぶ良い感じになって来ています。

時代劇に例えると向かい合っただけで相手の剣士に対して「その構え、お主、出来るな」と思わせるようなものになりつつ有ります。まぁ雰囲気が出て来たということですね。そうした意味では身体機能を向上させると言うテーマは着実に成果を挙げて来てると言えます。

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後は、如何に(技術を落とさずに)パワーを付けて行くか、また「この打法による実戦経験を積み重ねて行くか」と言う事が重要になると思います。

今回は以上です。次回はスローイングで、その次が打撃のパワートレーニングと言うテーマにしたいと考えています。

山下さん進化の記録2



黒人化トレーニングをかなり行なっているだけ有り、始動時の下半身の力が強力になってきています。「始動時の下半身の力」と言う点では、今までこの打法を教えて来た中でも1,2を争う強力さです。

始動時の下半身の力が強力になっているので、始動してから打ちに行くまでのリズムはジョージ・ベルを彷彿とさせます。黒人化トレーニングを熱心に行なうと、このようになる(始動時の重心移動が強力になる)のだと言う意味で皆さんも参考にしてください。


ノーステップ打法とも間違われやすいほど、ステップが小さくて素早いオートマチックステップですが、それだけに逆に言うと始動時の重心移動がしっかりと行なえなければパワーが発揮出来ません。ジョージ・ベルや、山下さんのこの動画では最初の置きティーを見ると、体ごとボールに飛びつかんばかりの躍動感が感じられますが、本来はこのアグレッシブさこそがオートマチックステップで求めたいスイングなのです。そして、そのためには黒人化トレーニングが重要になると言う事です。

今回全てのポイントを総ざらいする事によって技術的問題点がだいぶ見えて来ましたので、早速それらのポイントを挙げて行きます。

技術的改善ポイント

1)ボトムハンドのコックとボトムハンドの引き

山下さんの以前からの問題としては、スイングに入るとボトムハンドの引きが強く起きている事に有ります。このため高めに対して一度ヘッドが落ちてからもう一度被せるような打ち方になったり、ボトムハンド側肩甲骨がインパクトで残っていないので、フォロースルーが手首を返すような感じになってもう一つ大きくならない等の問題が見られます。

この原因は構えでボトムハンドのグリップのコックが効いていない事にあります。

ここで実験をしてみてください。バットを持つ必要は有りませんので、両手でグリップの形を作り、構えてから肩を回す実験を以下の二つの方法で行なって比較してください。

A)ボトムハンドの手首をコックしないで(背屈しないで、手の甲をホームベース側に向ける)構えて、その状態から肩を回す。
B)ボトムハンドの手首をコックして(背屈して、手の甲を投手側からややセカンド寄りに向ける)構えて、その状態から肩を回す。

AとBを比較すると、コックしないで構えたAの場合の方がボトムハンドの引きが起きて肩甲骨が背中側に逃げるのに対して、コックして構えたBの場合だと、ボトムハンドの引きが起きにくく、肩甲骨が残るのが解ると思います。これはボトムハンドをコックすることが、前腕が回内している事を表している事と関係があります。そして前腕の回内は体幹部操作による肩関節の内旋によって起こります。(両手を組んで股関節を割る体操です。)肩関節が内旋すると、肩関節の内旋筋である広背筋が緩みます。一方、肩関節が内旋していなかったり、逆に外旋していたりすると、広背筋が引き伸されて、収縮しようとします。

広背筋(肩関節の外旋によって引き伸される。収縮すると肩関節が内旋する。)

つまり、ボトムハンドのコックが効いていないということは、肩関節が内旋していないと言う事を意味するので、ボトムハンドのコックが効いていないと、広背筋が引き伸されて、収縮する力が強くなっているわけです。この結果として、広背筋(脊柱から上腕骨に至る)の収縮によって、ボトムハンドの引きが起こりやすくなっているわけです。一方でボトムハンドのコックが効いていると、広背筋が緩んで力を発揮にしにくいのでボトムハンドの引きが起こりにくいわけです。以下のスイングは構えでボトムハンドのコックが効いているので、ボトムハンドの引きが小さい例です。(ただ単に体幹の回転力が弱いので引きが小さいケースもあり、引きが小さい=絶対良いスイング と言う図式は成り立ちません。プリンス・フィルダーやブライス・ハーパー、ホセ・バティスタのように回転力が強いので引きが強いスイングも有ります。)

なので、まずは体幹部操作1の原理によって、両方のグリップにコックがかかった形を強く作れるようにしていく必要があります。そのためには、脊柱のS字カーブが効いた構えを作れる事や、肩甲骨の可動域の大きさ、前腕部や肩関節の捻りの柔軟性などが求められます。ラボで行なっているストレッチ以外にも色々試してみても良いと思います。

例えば、この動画の打者(グラント・グリーン)は中々良いグリップをしていますが、これなどは骨格の形の良さによる部分が大きいでしょう。
バックネット側から見ると、胸椎の後彎が明確に形成されている事が解ります。こういう体型だと肩甲骨が外転しやすく、それと連動して起きる上方回転に伴い肩関節が内旋するので、グリップのコックが効きやすいわけです。

つまり、こうした状態を「骨盤が前傾して脊柱のS字カーブが効いた姿勢を作るトレーニング」「骨盤が前傾して脊柱のS字カーブが効いた構えを作る技術の向上」「肩甲骨や、肩関節、前腕の捻りなどの可動域の大きさ、柔軟性の向上」と言ったアプローチによって獲得して行く事が重要になるわけです。

現状では、黒人化トレーニングによって体幹部、下半身のパワーはかなり出るようになって来ました。しかし、上半身の肩甲骨から先の柔軟性がまだ充分では無いので、今一歩良い形を作れずにいます。その辺がこれからの課題になります。そして、この点が改善されると、以下のような点でスイングが良くなると考えられます。

1)高めに対してヘッドを落とさずにいきなり上から被せるようにバットを出せるので高めが打ちやすくなる。
2)ボトムハンドの引きが小さくなると、バットがインサイドアウトに出せるようになるので、正確性が向上する。
3)インパクトでボトムハンド側の肩甲骨が残っているので、両腕が大きく投手方向に伸び、フォロースルーが大きくなる。(押し込みが強くなりパワーが向上する。)
4)手首を捏ねないのようになるので、フォロースルーは斜め上に振り上げるような軌道になる。

などです。

なので、まずは下の写真の形を作る能力をもっと向上させる事が重要になります。(左の写真の体操ではもう少し肘を鋭角に曲げた方が前腕の回内が効きます。)

この形を作るためのストレッチとしては以下のものが挙げられます。(考えられるものを全部挙げてるだけです。)

●肩甲骨内転&外転(前腕を回内し、一方を外転する時、反対側を内転する)
●前腕回内肘伸ばし
●バット振り子前腕捻り
●バット絞り肩甲骨外転(塩ビパイプ等を水平に構えて、手首を背屈させながら、胸椎を後彎させて、肩甲骨を外転させる)
●肩関節内旋系のストレッチ
●大胸筋ストレッチ(肘を150度くらいに軽く曲げて、腕を水平にし、肩を水平伸展しながら、肩を外旋するストレッチ)
●胸椎の後彎した姿勢をつくるための腸腰筋ストレッチ
●体幹部操作1のグリップ作りストレッチ
●胸椎の後彎とグリップのコックを連続させる体操(マジック等を持つ)

などです。つまり前述のように「骨盤が前傾して脊柱のS字カーブが効いた姿勢を作るトレーニング」「骨盤が前傾して脊柱のS字カーブが効いた構えを作る技術の向上」「肩甲骨や、肩関節、前腕の捻りなどの可動域の大きさ、柔軟性の向上」などが重要になると言う事です。

また、技術的には最後にショートストロークスイングの撮影をした時などに言いましたように「バットを首筋の横を通すくらいのイメージで構える感覚で、実際には丁度良いくらいになる」と言う事がコツです。つまりグリップを後ろに引き過ぎるとボトムハンドのコックがやりにくくなると言う事です。

なお、練習メニュー的には「(1)ショートストロークスイング」「(17)股割りグリップコックスイング」「(28)絞りロックスイング」「(29)コックロックスイング」「(42)グリップ横滑り前脚内旋防止スイング」「(58)ボトムハンドで引かないスイング」あたりが対応しています。

その他、構えを作るスタートポジションではグリップをかなり絞っておき、構えが出来てくると共にグリップがストロングになってくる感じで構えを作ると、コックの効いたグリップが作りやすくなります。

2)股関節の割り、爪先の向き、脚のライン等々

股関節の割りに関しては、もう一歩です。例えば下の写真は「(42)グリップ横滑り前脚内旋防止スイング」で両方のグリップのコックと股関節の割れを意識して捻りを少なめに構えた状態です。グリップを体から離し気味にしているぶん、肩甲骨が外転し、胸椎が後彎しているからでしょうが、股関節が良く割れています。

写真)両脚股関節を割る理論だった頃の自分の構え

なだらかな曲線で「ハ」の字型を描く両脚のライン、股関節、膝、足首と外に開く配列、両脚の間に(バランスボールのような大きい)ゴムボールが挟まっているかのようなフワッとした感じ。これが股関節が上手く割れている時のラインです。ただ、出来ればもう少し後ろ足の爪先を閉じてこの形を作れる足首の柔軟性が有れば良いですが。前述のように、この写真ではグリップのコックを意した事で上手く股関節が割れてくれたのでしょう。

このように上手い構えでは「角が取れている感じ」が出て来ます。そうした意味では山下さんの構えもかなり「角が取れて来た」のですが、下の写真はまだ少しゴツゴツした感じが出てしまっています。

このゴツゴツした印象はどこから来るのかと言うと、後ろ足の爪先が開き過ぎているので、膝が爪先と同じ方向に折れて、足首の真上に膝が来る配列になり、大腿四頭筋で体重を受け止める形を作ってしまっているというのがまず一点です。やってみると解りますが、こうなると両脚股関節の割れた形が作れません。そのため、上の写真でも、前脚側股関節が割れていない感じで、最初の良い例の写真のように、両脚の間にゴムボールが挟まっているような柔らかい感じが無いのです。(両脚の間の空間が潰れてしまっていると言う表現が良いでしょう。)こういった各々のパーツの配列が全体としてゴツゴツした印象を醸し出してしまっているわけです。下図は、そうした事を意識して描いたイラストです。その辺にはかなり気を使って描いています。

このように、爪先の向きや、それを可能にする足首の柔軟性、股関節を割る感覚を磨く事など、もう少し磨きをかけて、さらに「角の取れた感じ」の構えが出来るようになってくると、もっとスイングも良い意味で角が取れて来ると思います。その辺も一つのテーマです。練習メニュー的には「(7)股割りスイング」や「(8)両脚ライン作りスイング」が適応します。

股関節がもっと上手く割れるようになると、骨盤が前傾するので、もっと胸椎が後彎し、グリップのコックも効いて来るでしょう。このようにグリップとも関わって来る問題です。写真のように胸椎の後彎した形も出ていません。この辺に曲線的なラインが出来るとさらに角が取れた構えになるでしょう。今は脊柱が直線的なのでゴツゴツした感じになってしまっているわけです。

体幹部操作1の股割りストレッチを鏡で見ながら、脊柱のS字カーブが一番綺麗に出る感じを掴んで行くのも良いです。胸椎の後彎の凸アーチが高い位置に形成される姿勢です。

ただ、こうした問題もグリップと根本は同じで、要は体の柔らかさとか、その辺を向上させていくと言う問題です。一つの関節の可動域が大きくなると言ってもちょっとした違いでしか有りませんが、そうした各々のパーツが積み重なって構えが出来た段階では大きな違いが生まれるということです。そしてそうした各々のパーツが良い状態で積み重なった構えが出来ると生み出される力も大きくなると言うわけです。

(3)ショートストロークスイングの重要性

軽いバットを絞ったグリップでコンパクトに構えた時に(下の写真のように)ボトムハンドの引きが無く、バットが鋭角に出るパンチャー特有のインサイドアウトの形を作れる事が基本技術として重要です。

このスイングが出来る状態を作った上で、大きく構えると、いわゆる「後ろが小さく、前が大きいスイング」になります。つまり、ベース(基礎)にこうした体の使い方が出来る上で大きく振るということが重要になると言う事です。その基礎作りとして、ショートストロークスイングの練習が重要です。

コツとしては、まず事前に腸腰筋をストレッチする事です。それによって骨盤が前傾して胸椎の後彎した構えができると、肩甲骨が外転&上方回転し、肩関節が内旋するので前腕が回内し、グリップにコックがかかります。この時、スタンスは狭め、重心は高めにします。それによって体幹部操作の効きが弱くなるので、上の写真のようにトップハンドの肘は低めです。つまり、コンパクトな構えで、この構えにはグリップは絞り気味が適応します。そのような構えを作っておき、そこからギュンと一気に鋭く振り抜くと言う練習です。これを軽いバットで良いので練習する事が大切です。(重いと小さいスイングのクセが付く。)

軽いバットで絞ったコンパクトな構えから小さく振れる基礎が出来た上で、重いバットを使い、大きな構えからスイングすると、構えが大きい分と、バットの重さが負荷になる事で筋肉が大きく引き伸され、体の捻転差も大きくなるので、良い意味でスイングが大きくなります。

こうしたショート・ストロークが出来るようになる事も、今後の大きな課題の一つですね。

(4)トップハンドの深さ

これも以前からの大きなテーマの一つですが、トップハンドの外旋が浅く、手首が背屈気味だと言う事です。これだとヘッドが出るのが早くなるばかりか、手首でボールの勢いを受け止めるので、体幹の力がボールに伝わりにくくなります。
本来は、下の写真のように、振り出しでは背屈気味だった手首がインパクト〜フォロースルーで掌屈していくのが理想的なスイングで、これによって手首の返りも遅くなり、腕が大きく伸びてくれます。

こういうスイングが出来るようにするためには、トップハンドの肩甲骨(肩甲胸郭関節)、肩関節の柔軟性、可動域の広さが重要になります。これから、ウェートの筋肉も取れて来て、スローイングも磨きながらやっていくと、その辺も改善されてくるでしょう。こういうトップハンドの使い方(肘の入りの深さ)が出て来ると、まだまだもっとパワーが発揮出来るようになります。

因みに日本人打者で、そのへんが上手く出来ているのがコラム記事でも採り上げましたが、ソフトバンクの松田です。

このスイングを見ると、トップハンドが深く外旋することで、右肩甲骨がボールの下に潜り込むくらい深く右肩が入っている事が解ります。それだけトップハンドが深く外旋していると言う事です。松田の連続写真を見ると、たいていトップハンドが掌屈しています。
これは、関節の柔軟性というよりも、構えでバットを肩に乗せているので、そのぶんトップハンド側がリラックス出来ているからです。ただそのバットを肩に乗せる作戦故のフォームの乱れから、手首をややコネるような感じでフォローも体の前で止まり、前脚も開き気味になっています。ただ、トップハンドの効かせ方、その肩の入りの深さとパワーの関係と言う点では非常に参考になるスイングです。

因に、メジャーリーガーでは何と言ってもプリンス・フィルダーの父、セシル・フィルダーでしょう。

トップハンドの掌屈はトップハンド側の肩の外旋と連動して起こります。そして、その柔軟性を獲得するためには投げる動作が効果が有ります。トップハンドが柔らかく使えるようになると打球は飛びます。

(5)その他のポイント

まず、今回の練習ではなりを潜めていましたが、前脚の膝が内に入るクセが出ないようにしていく事が重要です。

この動作が出現すると、前脚股関節が割れた状態で着地出来なくなるので、スイングにも何かと悪影響が及びます。「(42)グリップ横滑り前脚内旋防止スイング」の内容を参考にしてください。また、少しでも良いので止まってからスイングする事「(23)揺らぎストップスイング」や、両脚股関節の割れた状態(その上で膝の向きが違う)を作る「(8)両脚ライン作りスイング」の内容も参考にしてください。これらが膝が内に入る動作を出さないためのポイントになります。

また、後ろ足が綺麗に返り、脚のラインが綺麗な逆L字になるようにすることも課題です。「(30)後ろ脚L字スイング」の内容を参考にして下さい。基本的には後ろ脚股関節の割れ絞り体操と、ハムストリングスや腓腹筋のストレッチによる練習メニューです。

さらに、現状ではやや手首をコネ気味と言うか、後ろ肩が手首の返りと共に、せり上がって来る動きが大きいのが問題です。

そして、この動作、つまり手首の返りがタイミング的に早いので、目線のブレにも繋がり、正確なミートの妨げにもなると思われます。上の方のジャック・カストの連続写真のような腕の使い方が出来るようになると、トップハンドの肩が下のまま腕が伸びるようになります。

これはボトムハンドの引きが強い事などが関連しているので、その辺が改善されれば直って来るでしょう。改善していきたい課題の一つです。

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技術的に改善したいポイントは以上です。今回は打撃理論について総ざらい的にメニューを消化してもらったので、山下さんのフォーム上の課題を総ざらい的に挙げてみました。今後もチェックポイントの一覧として、ときおり振り返って確認するようにしてください。これらのチェックポイントが全て改善されれば素晴らしいフォームになるでしょう。基本的には全て身体の柔軟性に根ざしているので、スイングやストレッチを重ねる事で地道に改善していく事が重要になります。パワートレーニングも色々考えていますので、現段階では根元に針金を巻いたバットなど「あまりフォームを崩さずに振れる範囲の重いバット」を振り込みながらのパワー強化&技術向上をはかっておいてください。もちろん、シャドーピッチング、軽いバットの素振り、ストレッチ等も重要です。

以上です。次回はスローイングになります。パワートレーニングについては、その時に触りを紹介します。

2013年5月23日木曜日

松田 宣浩の前・テ・ギュン打法



松田はトップ型で構える脚上げ型のパンチャーだが、トップ型の構えで腕が緊張するのを防ぐため、肩にバットを乗せて構えて、脚を挙げる時に構えを作っている。結果、腕をリラックスさせた状態から振り出せているが、その反面、その動作のデメリットによってフォームそのものには若干の崩れが有る。ただ、デメリットには目を伏せてメリットを採りに行くと言う選択なので良いとか悪いの問題では無い。もちろん理想では無いのだが、軽はずみに「ワンポイントアドバイス」を出せる類いの問題では無い。

ただ、松田の打撃で良いのは「音」だろう。ミートした時の音が重厚感が有って良い。恐らく、トップハンドが柔軟に外旋し肘が深くえぐり込まれ、手首の掌屈した状態で、ボディーブローのように深くトップハンドが効くと、このような音になるのでは無いかと思う。それもまた腕がリラックスした状態から始動出来ているからだろう。

因によく言われる「前テギュン打法」だが「前・手・ギュン」であって「前手・ギュン」では無い。

まずwikiの記事。

本人は「ボールを前でとらえて手をギュンと押し出す」というこの打撃を、金泰均の名前をもじった前テギュン打法と呼んでいる。

このように、前の後の「テ」はキム・テギュンの「テ」と「手」をかけているので有って「前手」つまり、ボトムハンドのことを指しているわけでは無い。

つまり「前の手でギュンと打つ打法」では無く「で捉えて両ギュンと打つ打法」という事である。この辺、誤解を招きやすいのでは無いかと思う。

その証拠に、このサイトの記事(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/34549?page=2)によると。。

「決して大きくない体でも(松田は身長180cm)、飛ばないボールでも、飛ばすコツはあるんです。それが『前手ギュン』。僕がたどり着いた究極の打撃理論です! ボールを体の前のほう(投手寄りの位置)で捉えて両手でギュンと押し込む。そのイメージで打てばいいんです」

ただ、パンチャーでもボトムハンドを意識している例は有るので、ボトムハンドの事を意識しているからと言って、スインガーとは限らない。反対にスインガーでもトップハンドの使い方を重視と言うか説明している場合が有る。要するにスインガーにもパンチャーにも「ボトムハンドの使い方」と「トップハンドの使い方」が有るということ。

ただ、同じトップ型で脚上げ型のパンチャーでも、西武の浅村は構えが長過ぎて損をしている事が多いように思える。

例えば、この動画では浅村の初球の強さが話題になっている。何球も打っている間に構えで腕がつかれて来るから初球に強いのではないだろうか。あくまでも推測の域を出ないが。


フォームとしては(最初から構えている)浅村の方が良いが、そういうちょっとした事で損をしているので松田の方が結果を残して来たのだろう。松田の方が実戦を意識した打ち方だと言える。

ただ、今期は浅村の方が良い成績を残している。(打率0.308)

松田のような打ち方は「フォームの崩れ」の部分が年々蓄積されて来て、長期的に低迷する危険性を孕んでいる。

こうした「実戦対応」を強く意識した打ち方の場合、練習では、その「実戦対応」の部分を外して「フォームを作る」必要が有る。その辺で「試合のための練習だ」とばかりに試合と同じ打ち方に固執してしまうと、どんどんフォームが崩れて行く。その辺の理解が有るかどうかが気がかりでは有る。

具体的には松田と浅村の違いは「脚を挙げる時に手を動かすか動かさないか」に有る。フォームとしては動かさない方が良い。しかし、松田の場合は、そのタイミングで肩に置いたバットを構えの位置に持ち上げる事で腕の筋肉の緊張を防いでいるのだから、フォームとしては問題があっても、その問題の有るフォームによって、それなりのメリットを得ている事になる。

ただ、こうした松田のような打ち方の場合、短期的にはメリットが「吉」と出るが、長期的にはデメリットが「凶」と出る場合が多くなる。

例えば、同じソフトバンクの松中。松中の場合、構えではバットを立てておく事で腕をリラックスさせているが、脚を挙げる時にバットをトップの角度に持ち込んでいる。


この方法は日本人には多く見られる方法だが、その意味を説明すると以下のようになる。

本来は脚を挙げて後ろ脚に体重移動すると同時にバットを後ろに引くのは良く無い。これは打撃理論の教科書に乗せても良いほど、基礎的な話である。何故かと言うと、その後、前脚を踏み出して行く時、グリップが後ろに残りにくいどころか、後ろに引いた反動で(前脚の踏み出しと同時に)前に出て来てしまう事もあるからだ。つまり打撃にとって重要な「割れ」が作りにくくなる。だから脚を挙げると同時に手を後ろに引いてはいけない。一本脚打法の王貞治もそれが出来ていた。

しかし、松中のようなバットの構えのまま(動かさずに)前脚を挙げて、そこから前脚を踏み込んで行くと、バットがトップの角度に入るまでに時間がかかるので、タイミング的に遅れやすいし、踏み込んで行く時の動きも大きくなりやすい。なので脚を挙げて後ろに体重を乗せた状態ではバットはトップの角度に構えておきたい。では最初からトップの角度に構えてはどうか。それだと腕の筋肉が緊張しやすい。

こうした事情によって、構えではバットを立てておいて、脚を挙げると同時にトップの角度に持ち込んでいる。良く見ると、この方法を採っている日本人打者は多い。ある意味で、この打ち方も松田と同じく、実戦対応を意識した打ち方である。(対応が地味なので解りにくいし、本人も気が付いていないかもしれないが。)

最後に話を松田に戻すと、要は浅村のような(脚を挙げる時に手を動かさない)打ち方を練習でしておいた方が良いということになる。

2013年5月22日水曜日

エドウィン・エンカーナシオン

二本のホームランが収録されている動画だが、どちらとも凄い。


エンカーナシオンは構えで腕を下げており、バットも立て気味なので、腕には負担がかからない。ただし解剖学的には理想的な構えにはならない。今期ホームランは12本と4位につけているが打率は0.255とあまり高いとは言えない。やはり、こうした打ち方だと一発長打に走るか、アベレージを狙いに行くかのどちらかにならざるを得ないのだろう。

ただ、上半身の力が抜けている分、始動時の下半身の力は凄まじく、かなりハムストリングスを使えている。始動時の下半身の力は上半身のサイレントピリオドと連動しているので、上半身に力みが有ると、始動時の下半身の力は弱くなる。

また、エンカーナシオンは下半身の構えも楽な感じだ。典型的なパンチャータイプの構えでは無いが、この打ち方は「リラックスした状態から一気に大きな力を発揮する」と言うパンチャータイプのメカニズムの本質的な部分を非常に良く表現しているし、それは傍から見ていても解りやすいと思う。上半身も下半身も全体的にリラックスした構えから一気に力を発揮してボールを強く叩く。そういう打ち方である。

そうした「力の発揮の仕方」と言う観点から見ると良い打ち方なのだが「形」を伴っていないので打撃成績にも限界が有ると言う事なのだろう。ただ一つの「打撃スタイル」としては充分魅力的であるし「打者のタイプ」としても魅力的ではある。

エンカーナシオンと比較的似たスタイルを採っているのがブライス・ハーパーだ。


一見、トップ型の構えに見えるが、よく見ると顔の前にバットを通す「ヘッド入れ型」の一種である。これはやってみると解るが、トップ型よりも腕に負担がかからない。ただ、この構えだと骨盤が前傾しにくく股関節が割れにくい問題が有る。なのでハーパーもやや腰が丸まり気味で膝が前に潰れた形を採っている。なので、そのフォームは理想的であるとは言えない。

しかし、下半身に関しても、動的なタイミングの取り方をすることでリラックスした状態を作れているので、エンカーナシオン同様「リラックスした状態から一気に大きな力を発揮する」と言うパンチャーの根幹部分はよく表現出来ている。ただ、エンカーナシオンに比べるとフォームを重視した「バランス型」と言えそうなので、バランスの良い打撃成績を残す事が出来るのだろう。スイングもエンカーナシオンに比べるとクセが無い。

ハーパーにしてもエンカーナシオンにしても構えで腕の力が抜けているので、始動時に発揮される下半身の力が強い。ただ、そうやって発揮したパワーもフォームに問題が有るとロスされて行くので、最終的には差し引きが生じる。そのため、彼等のようなフォームが一番パワーを発揮出来ると決めつける事は出来ない。ただハマった時に飛距離が出やすいスタイルである事は間違い無いと思う。

ただ、やはりフォーム的に理想なのはプリンス・フィルダーのようなトップ型だ。あらかじめトップの角度にバットがセットされているので、バットが出るまでに無駄な動きが少ない。(面倒なので簡単な言い方をするとそうなる。)


しかし、トップ型で結果を残すためには数多くの抑えなければならないポイントが有る。

2013年5月21日火曜日

理想だけど難しい「トップ型」の構え

交流戦のセレモニーで、東尾修と掛布雅之による一打席真剣勝負が行なわれた。結果はセンターフライだが、この年齢で硬式木製バットでセンターフライを打っているのだから掛布の勝ちと言っても良いくらいだ。現役時代のイメージそのままの素晴らしいスイングである。掛布のスイングはバットの長軸周りのスピン量が大きくリストターンが鋭いイメージなので、昔から打球にスピンがかかって高く挙るホームランが持ち味であった。その持ち味をそのまま発揮しているあたりが流石だ。1985年、圧倒的な実力を誇った3番バースの後ろで「ベテランにはなったが、このチームの主砲は俺だ。」と言わんばかりの重厚な存在感を放っていた4番掛布の現役時代が思い出される。


そこで掛布の構えだが、落合ほどではないがバットを立てて構えている事に注目してほしい。この構えだと腕に負担が掛かりにくいので年を取ってもパフォーマンスが落ちにくいと言うのは有るだろう。因に掛布はスインガータイプ。

パンチャータイプの場合、バットをあらかじめトップの角度で構えておく「トップ型」の構えが(解剖学的、技術論的に)理想的だが、この構えは(バットを横に寝かすので)腕の筋肉に負担がかかると言う弱点が有る。なので、まずその点を克服しなければ「解剖学的、技術論的に理想的である」と言うトップ型の恩恵に浴する事は出来ない。つまり理論的には理想的だが、それを理論通りに理想的な物として実現させるということはそれほど簡単では無い。軟式草野球等の場合はまだバットが軽いので良いが、体力がバットの重さについていかない高校の硬式野球や、相手投手のレベルが高いプロ野球などでは、尚更である。そのため、ラボでは「構えの力を付けるトレーニング」と言うものを考案しているのだが、それについては新しいバージョンを含めて、後日ブログ上で公開する予定である。

台湾球界に移籍したマニー・ラミレスはトップ型の構えで打っていた(二本のホームランが収録されている動画)


トップ型の構え

もし野球がテニスのラケットのような軽い打具を使って行なう競技なら、トップ型の弱点は存在せず、理想的な技術が文句無しに理想的な技術として存在出来る。しかし実際には140キロ前後の硬式球を打ち返すために、900g前後の打具を必要とするので、理想的な技術であるはずの「トップ型の構え」に弱点が生まれてしまった。

このためにバッティング技術の追求には二つのルートが生じてしまう。一つはフォーム的には問題が生じる事を受け入れてバットを立てて構えると言う方法。この場合、腕の力が抜けるので、柔軟に振る事が容易になる。二つ目はあくまでもフォーム的に理想である事を追求し、トップ型で構えると言う方法。この場合、よほど体格的に恵まれている打者を除き、何等かの形で筋力を強化して行く事が必要になる。そして、もちろん、これらの中間的な方法も有る。こうした事情から、野球のバッティングフォームには多様性が生まれている。

トップ型の構えだと、引退して体力が落ちて来た時には高いパフォーマンスを維持する事が難しいだろう。また軽いバットを使わないと打てなくなると思う。しかし、若い間は、より高い次元のパフォーマンスを発揮する事が出来るはずだ。

つまり、野球のバットがテニスのラケットくらいの軽さなら、トップ型で構えるのが一番良いと断言出来る。しかし、実際には900gの重さが有るので(その打者の筋力等)ケースバイケースで、どのように構えると一番結果が出るかと言う事が違って来る。(トップ型で構えると一番結果が出るとは断言出来ない。)

因に、メジャーリーグと言えども、純粋なトップ型の打者と言うのはそれほど多いわけでは無い。マーク・トロンボやブライス・ハーパーやマット・ケンプは厳密にはトップ型では無い。そこで、ここでは現役メジャーにおけるトップ型の強打者を紹介しておきたい。

プリンス・フィルダー
アレックス・ロドリゲス
ジャンカルロ・スタントン
ジャスティン・アップトン
ジョーイ・ボット

このあたりの打者は完全なトップ型の構えだと言えるだろう。因に日本人打者なら、西武の浅村、ソフトバンクの松田、巨人の長野あたりはトップ型に分類出来る。

トップ型の構えを選択すると言う事は、究極のフォームを追求する事を意味するし、それは同時に身体運動としても究極と言える境地を目指す事を意味する。また、打撃技術というものに対し、がっぷり四つに向き合う事を意味する。

ここまで書くと「トップ型の構え」を目指さざるを得ないだろう。硬式プレーヤーの場合、バットが重いし、プロを目指すとなるとピッチャーのボールも速くなるので苦労も多いと思うが。

因にトップ型がその弱点を克服するためのポイントとなる項目を挙げておく。具体的な内容までは書けないが、一度、頭を整理する事が出来ると思う。

1)構える力を付ける。(筋力を強化する事だがウェートトレーニングでは無い。)
2)出来るだけ軽いバットを使う。(特にトップバランスは避ける)
3)骨格を上手く使った、筋力的負担の少ない構えを身につける。
4)構えを作るタイミングや構えの作り方を工夫し、構えている時間を短くする。
5)間が長過ぎればタイムをかけて打席を外す事も考えておく。
6)見逃しが続いた時等は軽く素振りを挟んで腕の筋肉をほぐす。
7)ハムストリングスの効いた構えを作る。
8)腸腰筋が効いて、胸椎が後彎した骨格を目指し、構えでその形を作る。
9)柔軟性を損なわないように、軽いバットを使った素振りも行う。

※)7についてはジャスティン・アップトンの記事で書いたが、構えでハムストリングスが効くと、地面を抑える力が強くなるので、反作用的にバットを持ち上げる力が強く働き、バットを軽く感じるようになる。

上記の内容を考慮すると、おのずと打撃スタイルは「体の力をつけて、軽いバットを凄いスイングスピードで思い切り振り抜く。バットの重さで飛ばすのでは無く、スイングスピードで飛ばす。」と言う方向に行き着くだろう。

2013年5月20日月曜日

柳 賢振(リュ・ヒョンジン)の骨格は父親ゆずり

柳 賢振(リュ・ヒョンジン)は今期韓国球界からドジャーズに入団した左腕で、今のところ4勝2敗、防御率3.42と、中々の成績を残してドジャーズを助けている。

そのリュ・ヒョンジンの打撃フォームに注目してほしい。


胸椎の後彎が顕著な体型をしている事が解る。そしてややヒッチするような腕の動きでタイミングを取っている。単純に言うと「腕でタイミングを取るタイプ」だ。

胸椎が後彎した体型だと、肩甲骨が胸郭の上に被さるので、このようにバットを動かしてタイミングを取っても、あまり腕に力みが入らない。同じ事を「背中が無い」体型の人がやると、腕が力みまくってまともなスイングにはならないだろう。

ただ、この動画で興味深いのは、ヒットを打った後に客席の父親が映っている事だ。立ち上がっている姿を見ると、見事に脊柱がS字カーブを描いており、胸椎の後彎、腰椎の前彎ともにハッキリと形成されている。リュ・ヒョンジンの体型は父親譲りと言う事なのだろう。

ロビンソン・カノーも胸椎の後彎が顕著で、腕を動かして打つタイプだ。リュ・ヒョンジンとロビンソン・カノーのタイミングの取り方はよく似ているが、それは同じ骨格上の特徴を活かした共通点である。


ライアン・ジマーマンも大きなヒッチをするが、こうした動きは骨格的な特徴に根ざしたものであるから、誰にでも出来る事では無い。


こうした見方が出来ないとメジャーリーガーの技術を日本人が採り入れる事は出来ない。

ジャスティン・アップトン

ジャスティン・アップトン

〜このシンプルなフォーム。このコンパクトなスイング。冷静に見ると日本の少年野球でも教えてそうな「何の変哲も無い」フォームだが、この打ち方でこれだけ飛ばせるのは「黒人パワー」の賜物である。〜

今期14本でメジャー全体でのホームラン数トップに立っているジャスティン・アップトンのバッティングについて。



元々、今のメジャーで最も飛ばす打者の一人だと見ていたが(後述するように)確率的にはそれほど期待しにくいフォームなので、ここまで打つ(量産する)ようになるとは思っていなかった。ただ打率は0.277とそれほど高いわけでは無い。(とは言っても大したものだが。)

このホームランも凄い飛距離だ。


(youtube版はコチラ)

今期もまた大きな当たりをかっ飛ばしている。

2013/05/17 J. Upton's grand slam

この打者のフォームについて考えてみたい。

まず体型。黒人に特有の「出っ尻」系の体型で腰椎の前彎が大きい。胸椎の後彎はそれほど目立たない。このタイプは大殿筋やハムストリングス等の股関節伸展筋の力が強いからか体の回転力が強いタイプが多い。エイドリアン・ベルトレイやプリンス・フィルダーが当てはまる。

アップトンの場合、それに加えて脊柱を真っすぐ立てているので、脊柱全体がやや反り気味になっているように見える。こうした構えだと背筋は緊張しやすいので柔軟なハンドワークは期待しにくいが、骨盤が前傾することには変わりない(脊柱のS字カーブを伴う本来の骨盤前傾とは違うとはいえ)ので、股関節伸展の力は使いやすい。なので体の回転力が強い。アップトンのスイングを見ても、これぞハムストリングスパワーとでも言うような力強い下半身の回転が見られる。これがアップトンのパワーの源だと言って良いだろう。

つまり、ハンドワークの柔軟性を犠牲にしながらも、過剰に骨盤を前傾させてハムストリングスを中心とした股関節伸展の力を余す所無く使い切る。ここにアップトンの打撃の特徴が有る。なので必然的に高い打率は期待しにくい。が、当たれば飛ぶスイングだと言う事。

次にバットの構え。バットをほぼ水平に寝かせて、ほとんどヘッドを投手方向に入れないで構えている。これは最も腕に負担のかかる構え方で、その意味でも柔軟なハンドワークを難しくしている。

ただアップトンの場合、構えでかなりハムストリングスが効いているので、腕の負担もそれによって軽減出来ている。(※)なので、同じ構えを日本人などがするのに比べると腕の負担はそれほど大きいわけでは無い。

※)実験としては、脚を肩幅より少し広く構え、股関節、膝関節は「緩める」程度に軽く曲げる。そして、バーベルを担ぐようにバット(重めのバットが良い)を両手で頭上に担ぎ上げてみる。(バッティングの構えとは全然違う形)

こうすると、当然だがまず腕でバットの重さをありのままに感じる事になる。では次に、その状態から両脚で強く地面を押してほしい。頭の高さを出来るだけ一定にしたまま地面を両脚で押す感覚だ。そうすると、担ぎ上げていたバットが軽く感じられるはずである。地面を押す力が発生すると同時に逆向きの力(バットを持ち上げる力)が体の中で発生するからだ。この実験で解るように、構えでハムストリングスが効いていると、バットを軽く感じる事が出来る。こうした事からも日本人がオートマチックステップに取り組む場合は特に股関節を割ったワイドスタンスを取る事が重要になる。

ジョニー・ゴームスもかなり構えでハムストリングスが効いている。この打者もバットを軽く感じているだろう。構えでハムストリングスが効くようになるとバットがかなり軽く感じられるようになる。構えを楽にするためには、バットを構える技術に加えて上半身の筋力も必要だが、ハムストリングスの効いた構えを作る事もポイントになる。


さらに脚の挙げ方だが、アップトンの場合、マーク・トロンボ等のように後ろ脚に体重を乗せてバランスを取るわけでも無い。こうしたアップトンのような脚の挙げ方だとタイミングのズレに打撃が影響されやすいので、そうした事も打率があまり高く無い事に関係している。

前脚を挙げて後ろ脚の上でバランスを取るトロンボの脚の挙げ方。脚を挙げるならこのくらいハッキリ挙げた方が打ち方としては簡単と言えるだろう。


アップトンに関しては、総合的に見て、やはり「ハムストリングスパワー(つまり黒人パワー)で一発飛ばしてやろう」と言う打撃フォームだと言う事が出来る。

ただ、所謂「無駄な動きの無い」スイングだし、両手で振り抜いており、スイングにもクセが無い。だから、それなりの「上手さも」も発揮出来る。(これが同じようにハムストリングスが効いた構えでもホセ・カンセコのようにバットをクルクル回しまくるようなタイプだと、またもう一段荒っぽい印象になってしまう。)

2013/04/08 J. Upton's four-hit night
※)この動画での一塁ベース上の立ち姿を見ても、かなり腰椎の前彎が目立つ事が解る。この体型の場合、下半身を中心とした体幹の回転力が強く発揮出来ている打者が多い。

そうした意味では「丁度良いくらいに打率も期待出来る一発屋」と言うのがアップトンの適切な評価だと思う。が「上手さ」を見せたからと言っても本質的には「ハムストリングスパワー」を活かしたパワーヒッターである事に変わりない。スイングがコンパクトなのでミートに徹しているように見えなくも無いし、またミートに徹して来るケースも有るのかもしれないが、本質的には飛ばし屋のパワーヒッターである。

おそらく、アップトンのような体型はMRIを撮影すればかなり腸腰筋が大きい事が解るのでは無いかと思う。その強力な腸腰筋の働きによって骨盤が前傾するのでハムストリングスも効いて来ると言う理屈だろう。ジェームズ・ブラウンと似たタイプだ。

ジェームズ・ブラウンがリズムを取る足踏みは正に「これぞハムストリングスによる股関節伸展」と言えるものである。腸腰筋その場ステップや、腸腰筋をストレッチした後の踵での小刻みな足踏みなどのトレーニングの感覚が有れば共感出来るだろう。最初の方のアップのシーンを見るとステップを踏む脚の大腿四頭筋がプルプル揺れているのが解る。大腿四頭筋が緩んでハムストリングスが使えている証拠だ。そして見るからに踵を使って床をノックしているような動きも、股関節伸展を使った足踏みの特徴である。


今期も「黒人力」全開のアップトンのパワーに注目してほしい。これだけシンプルな打ち方で、スイングもコンパクトなのにこれだけ飛ばせるのはまさに「黒人力」以外の何ものでもない。同じ事をズブの日本人がやったら(割と想像しやすい打ち方だが)外野フライがせいぜいでは無いだろうかとも思える。

2013年5月19日日曜日

バリーさん ミヤゴンさん 1回目

本日は御利用ありがとうございました。



まずバリーさんですが、スイングでの腕の形は非常に良いものがあります。ただ、始動する時の下半身の力が弱いです。なので、まずは股関節のストレッチをしっかりとやっておいてください。ただ、スイングスピード自体がまださほど速く無いので、振る力を付けるために少し重めのバットを振るようにしてください。ただ試合が近い事も有るので極端に重いバットは避けた方が良いです。硬式木製を短く持つくらいが無難でしょう。股関節の機能性が向上し、また股関節周辺の筋肉が強くなり、そして上半身はバットを振る事によって鍛えられて行くと、打撃に関しては高校二年三年頃にはそこそこいい状態に仕上がる事が期待出来そうです。ただ体が細すぎるので、もう少しバットを振る事でパワーを付ける事を考えた方が良いですね。

次回までに構えで修正しておいて欲しいのは、下の写真のポイントです。まず、横から見た形では、もう少し捻り(股関節の斜めのラインに沿った捻り)を入れて後ろ脚股関節を割った方が良いということと、それ(捻り)によってもう少しヘッドが投手方向に向いて良いということですね。その方がパワーが出ますし、もう少しヘッドが入ったくらいの方がむしろインサイドアウトに(体に巻き付くように)バットが振り出せます。そして投手方向から見たバランスではもう少し脊柱が立っているくらいの方が良いです。

構えについては下のイラストを参考にしてください。

重心の高さ、膝の曲げ具合、背骨の角度などは下の写真くらいです。

フォームで良い所はグリップと構えでの腕の形で、これらが出来ているからスイングでの腕の形は良いです。ただ前述したように体幹、下半身の力がもう一つ使えていないので、そのへんは当日やったストレッチを中心に練習しておいてください。

次にスローイングについてですが、まず気になるのは動画を見てもちょっと肩が痛そうな事です。打つにしても投げるにしても、パンチャーと言うのは思い切り振る技術なので、アップは入念にした方が良いのですが、そのへんの説明を忘れていたのでもしそのせいだとしたら申し訳ないです。ダウンはそれほどでも無いのですが、アップは柔軟体操も含めてある程度は入念に行なうようにしてください。これはパンチャーの場合、打撃も投球も共通する事です。痛むようだと、シャドーグリップ(粘着テープを丸めたもの)を握っての軽いシャドーから始めるようにしてください。



次にミヤゴンさんですが、ピッチングについては「ピッチングフォームの中で基本として抑えておきたいポイント」が大体全部及第点的にクリアされているので、技術的には既にしっかりしたものが有ると言えます。この感じだと高校でも良い線行くと思います。

ただ、現状では「日本人的な体の使い方」を前提とした「日本人的なフォーム」なので、そのへんが基礎的な体の使い方から変えて行き、メジャー、特に黒人や中南米系選手の動きに近づいて来ると、もっと良くなるでしょう。そして、そこに他の選手から一頭抜けた存在になるカギが有ると言う事です。

現時点での長所は両腕の動きが完璧に出来ていると言う点です。投球腕の振り、グラブ腕n納まり方など文句無しの出来です。こういった事がこの時点で既に出来ているということは、今後に技術とキャリアを積み重ねて行く上で大きな武器になるでしょう。

打撃に関しては、投手であっても打てるに超した事は無いし、バットを振る事は投手にとっての良い筋力トレーニングになるので、そういう意味で見て行きたいと思います。とりあえず次回までに一回目の内容(というか最後に撮影したときの打ち方)を思い出しておいて下さい。オートマチックステップが出来ていたり出来ていなかったりする事があるので、常に両足の踵が着地した状態から振りに行く(始動する)ようにしてください。

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では、次回までにしておいてほしい事と、次回の予定について書きます。(2人共通)

まず次回からはバリーさんは打撃、ミヤゴンさんは投球と言うように分ける形でいきたいと思います。ただ2人とも打撃と投球の両方をしてもらいます。その上で、打撃でバットを振る場合はバリーさん4回ミヤゴンさん2回と言った感じで、逆に投球の場合はミヤゴンさんが4球投げたらバリーさんは2球と言う感じにしたいと思います。

では次回までにしておいてほしい事ですが。。

投球編

まず、オートマチックステップの投げ方をシャドーで練習しておいてください。これは腕の振りの形を良くする効果が有ります。

オートマチックステップ投げ


次に、ピッチャーズ・ハイキックと言う当日行なった練習をしておいてください。特にミヤゴンさんの場合は、いきなり実戦でメジャー式の脚挙げを使った投げ方をする事は難しいと思いますが、この動きだけでも練習で行なっておいてください。


そして、この練習の中で、当日もやりましたように下記の4つのポイントを意識してください。なお、この辺の事はこの記事(http://bplosaka.blogspot.jp/2013/05/blog-post_4.html)の中にも書いてあります。

ポイント1 骨盤ごと回転させ体幹からブラーンと振り上げるように前脚を挙げる。
ポイント2 後ろ脚でトンと踏むと、前脚がポンと挙る。
ポイント3 前脚をリラックスして振り上げると、膝は勝手に曲がる。
ポイント4 脊柱を背中側に倒すと脚が挙る。これを頭を残して(倒さず)行なう。

また、ワインドアップモーションで、前脚を後方に引く際、軸脚の膝をカクッと抜いて膝を緩める感覚や、その膝を緩めた軸脚で地面をトンと踏む(踵で踏む感じ)を思い出しておいて下さい。

軸脚の踵の足踏みが上手い例(CCサバシア)

2009/06/11 Sabathia's strong start

軸脚の膝を緩める事が出来ている例(ペドロ・マルティネス)

打撃編

まず、当日行なった各種ストレッチをしておいてください。主なものは以下の通りです。(体操の名前は、動画のファイル名と同じです。)

1)(反り系)腸腰筋その場ステップ(かなり重要です。)

2)(割れ絞り系)股割り体操 (爪先を開き過ぎず、両手を体の真ん中で組んで行なう。両足の足裏の外側に荷重する。)

3)(割れ絞り系)リズム股割りスクワット(脚の内側のラインに定規が入っていて、それがたわむようなイメージで行なう。爪先の向きや荷重位置に気をつける)

4)(割れ絞り系)座り割れ絞り体操(座って膝を90度に曲げて行なう。)動画ファイルに入ってます。

5)(割れ絞り系)アップダウン割れ絞り体操(アップダウンをつけて行ないます。)

6)体幹部操作で構えを作る体操(あまり前脚の膝が内に入ると膝を痛めやすいので両脚股関節を均等に割る意識で行なう)※動画には入っていません。youtube動画

7)(割れ絞り系)割れ絞りパンチ(当日もやりましたが、動画ファイルに入ってます。)

8)8の字揺らぎ体操 ※動画には入っていません。

これらの体操に加えて、以下の4つの練習を行なっておいて下さい。どれも当日行なったものばかりです。

1)体幹部操作で構えを作る体操の後に素振りをする。

2)腸腰筋その場ステップの後に「踵体重」「首の角度」「背中の丸まり」の3点を意識して、投手方向から見たバランスをイメージして構えを作り、振る。

3)後ろ脚股関節のラインに沿って捻りを入れて、後ろ脚股関節を割ると同時にタスキラインの筋肉を引き伸した構えを作り、振る。振る前に「割れ絞りパンチ」を行なう。

4)揺らぎながら前足で足踏みをし、足踏みを止めて、揺れが止まってから振る。そのリズムを憶える練習。

以上です。これらの練習を少しづつで良いので忘れないように行なっておいてください。なお素振りをする時は地面を向いて振るのではなく、実戦同様、投手方向を向いて振る事が大切です。そして、振った後は巻き戻した形で終わるようにしてください。

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次回の予定

今回は、とりあえず「この打ち方」「この投げ方」の基礎を知ってもらい、その打ち方、その投げ方が(上手い下手は関係無く)出来るようなると言うのがテーマでした。

次回は、「その打ち方」「その投げ方」で上手くなるための技術論や練習法を伝えたいと思っています。時間的には1日を4分割して、打撃→投球→打撃→投球の順番で行ないたいと思います。また走り方と、有効な下半身トレーニングとして坂道ダッシュもやりたいと思います。(時間的には20分くらいで済みます。)

打撃ではパワーアップのための練習法も有りますし、投球ではクイックモーション等も行ないます。また投手のための肩のストレッチなども行ないます。

なお、時間を有効に使うために、昼食はあらかじめ用意しておいた方が良いです。(近くにコンビニが有りますが。)

以上です。

2013年5月18日土曜日

システム変更のお知らせ


本日より、ラボにおける(ご新規での)2人同時受講の受付を廃止させて頂きます。

理由についてですが、私の理論が某大で詳細な情報量を含むため、マンツーマンで無ければ、ラボでのサービスがお客様にとって有意義な時間とならないためです。これは特に基礎的な内容を伝えなければならない初期段階において言える事です。

ですから既に2人で受講された事が有るお客様(無料企画含む)と特待生につきましては、今回の変更の対象外となります。その場合の料金はこれまで通りの50%増しとなります。(特待生と、回数制で前金で料金をお支払い頂いたお客様につきましては今後も料金は発生しません。)

以上、ご了承ください。







2013年5月16日木曜日

よくあるフライングエルボーの誤解例

パンチャータイプのオートマチックステップは基本的に肘を張った構えになる(必ずしも必須と言うわけでは無い)が、肘を張った構えの事を「フライングエルボーの構え」と言う。ただ、このフライングエルボーの構えで誤解している例が非常に多いので、今回はその事について書いておきたい。

写真1) 間違ったフライングエルボーの構え(のイメージ)

このようなイメージ、腕使いで構える人が多い。ただこれだと体幹部操作も効いていないし、構造的にかなり筋肉の力に頼って構える事になる。また、バットもインサイドアウトに振りにくい。

写真2) 正しいフライングエルボーの構え(のイメージ)

これが正しいフライングエルボーの構え。こういうイメージで構えている人は非常に少ないと思う。(写真1のイメージでも写真2のイメージでも最終的に出来あがった構えの形はあまり変わらない。)

写真3)解りやすく言うと、写真2の構えは下の写真のような極めて「普通」な構えの延長線上に有る。この構えだと日本人選手にも結構いるだろう。そして、この構えから体幹部操作が効いて捻りが入り、さらに肘が挙った状態が、構えの完成した形にある。その完成した形は写真1の形とも似て来るが、根本的に体の使い方が違う。

そして、この構えからだとバットがインサイドアウトに最短距離を通って出て来る振り出しがイメージしやすいだろう。

今までの中で最もこの点がよく出来ていたのがきたろうさん。(下の写真)これが正しいフライングエルボーの構えの形である。

こうした構えを頭上から見ると、写真のように胸の前に空間が開くのが解ると思う。丁度、左右の肘とグリップを結ぶ二等辺三角形が出来る事になる。(前腕の長さが左右で等しいので二等辺三角形)

この腕の形からの振り出し(始動)だと、スイングまでの腕の動きも必然的に理想的な形になりやすい。動画で確認してほしい。(特に横から映したハイスピード動画に注目してほしい。)

そして、プリンス・フィルダーの構えにも、この感覚が有る事がわかる。フィルダーは重心が高く、構えではあまり捻っていない。そうした意味でもきたろうさんの構えに似ている。ただ、ここから捻りが入り、スタンスが広くなると、もう少し腕の形は変わって来る。

プリンス・フィルダー 動画1(後半横映しに注目)
プリンス・フィルダー 動画2(冒頭と後半横映しに注目)

なお、この構え方では前腕部の骨を利用してバットを支える事になる。支えると言うより、圧力を加えると言った方が良いかもしれない。

バットを支えると言うのは力学的には図のように倒れそうな柱を支えるのに等しいのだが。。

それを写真のような体勢で受け止める事になる。ただ「支える」感覚だと少しバットが寝過ぎる。なので、正確には斜め横から圧力を加える事によって支える感じになる。が、その圧力はもちろん手に力を入れて作るわけでは無い。

丁度、ドラゴンボール(マンガ)のカメハメハのような手の形になるが、その形は体幹部操作1のストレッチの中で作る事が出来る。スタートの状態ではグリップを絞っておく事がコツになる。(写真はだいぶ前に撮ったものなので、爪先を開き過ぎ等、細部に問題が有るが。)

体幹部操作で下の写真のように手の平を(相撲の鉄砲のようなイメージで)絞り出すような感覚が掴めると、前腕の骨格で支える(圧力を加える)グリップの感覚が解るだろう。もちろん、胸椎の後彎によって肩甲骨を外転させる必要がある。(それによって肘が前に押し出される肩甲骨の角度になる。)

前腕の骨格でバットを支える構造は下図の構造に似ている。バットが前腕の骨を意味し、ボールがバットの断面図に相当する。

ただ、捻りが入った構えができると、トップハンドに関してはむしろ上から掴む感覚になる。この辺の感覚が理解出来れば、かなり感覚が良い方だと思う。実際、自分で試しても左ではここに書いたような感覚が掴めない。

写真のように、トップハンドを上から掴む感覚が生まれる。(捻りを入れてヘッドが投手方向に入った構えでは。)トップハンドで上から掴む感覚が生まれて来ると、前腕部の骨で支える感覚は消えて来る。

ただ、捻りが入って来ると、最終的に腕の形は図のようになる。(きたろうさんの場合は捻りが浅いケース)この形は写真1で挙げた悪い例に似ている。しかし、上記のような内容を理解し、体感で来た上でのこの形であれば、それが出来ていないのとは全く筋肉の働き等が変わって来るだろう。

構え一つとっても非常に奥が深い。特に腕や手の使い方に関してはかなりの記述を必要とするほど、奥の深いものが有るし、また難しい。実際、そこにクセが出てしまうからメジャーリーグでも理想的なスイングが出来る打者はそうそういないということだ。「前腕部の骨格で支える(圧力を加える)感覚」「トップハンドで上から掴む感覚」こうした感覚を体幹部操作によってつかんでほしい。

練習方法としては、まず「重心が高くスタンスも狭めの構え」つまり体幹部操作が効いていない構えで腕の形を小さくしておき、その中でこの感覚「前腕の骨で支える」「トップハンドで上から掴む」を確認しておき(確認したら振る)、そこから段々と構えを大きくしていく(本来の形にする)と良い。(体幹部操作を効かせて行く。)