あと何回か小ネタを挟んで最後に下半身動作のポイントについて書きたいと思います。
今回のメインテーマは、最近はあまり見られなくなったと思いますが、写真のようなやや前脚を開き気味に挙げる脚の挙げ方についてです。
実は前脚股関節を外旋して挙げる投手というのは、結構います。
これは大腰筋を使った前脚の挙上を意味します。大腰筋は股関節の屈曲筋ですが、図のように大腿骨の内側に付着しているので股関節を外旋させる役割もあります。
特に日本人選手の場合、ほとんどの投手は大腿直筋を主導として前脚を挙げます。骨盤を動かさずに膝を挙げる前田健太のような脚の挙げ方だとほとんど大腿直筋だけで挙げていると思われます。
下図は大腿直筋を使った前脚の挙上と、大腰筋を使った前脚の挙上の比較です。大腰筋を使った方が物理的に楽な事は明らかです。
つまり、股関節をやや外旋気味に挙げる前脚の挙げ方は、下半身の筋肉を緊張させない効果が有るのです。反対に、下の写真のように、骨盤を動かさずに膝をやや内に入れながら腿上げするような前脚の挙げ方では、もっとも大腿直筋を使います。ですから、この前脚の挙げ方は筋肉が緊張しやすく、スムーズに動く上ではマイナスとなるわけです。
この事は、特にセットポジションから前脚を挙げる投げ方で重要になります。なぜなら、ワインドアップの脚運びでは下の写真の(4)のように軸脚をプレートにセットした状態で前足の接地点が軸足の後方に位置することになるので、脚を挙げるためのバックスイングを取っているのと同じになり、前脚を楽に挙げることが出来るからです。
これに対してセットポジションからの前脚の挙上では、脚を挙げるためのバックスイングが使えないので、楽に脚を挙げる事が難しくなります。ココで威力を発揮するのが、大腰筋を使った外旋脚上げです。
なお、この外旋脚挙げはダルビッシュ投手のような「回し込み式脚挙げ」の中で効果的に働くと考えれます。
下図のように捻りを加えることで、軸脚側の股関節を打者方向に送り込み、大腿部を斜めにする事で重心移動をスタートさせるのが回し込み式のメカニズムでした。
ただ、ここでの捻りが過剰になると、身体の面が打者に対してクローズになり過ぎて、色々な弊害が生まれて来ます。そこで外旋脚挙げによって、ややオープンな状態で前脚を挙げる事によって、上半身をあまりクローズに入らないようにしながら捻りの流れを生み出すことが出来ます。これにより回し込み式のデメリットは幾分解消するはずです。
ここまでに「ワインドアップ」と「セットポジション」での脚挙げについて書いたので補足として(釈迦に説法だとは思いますが )クイックモーションについても書いておきます。というのはクイックモーションの原理については意外に論理化されていないからです。また回し込み式の脚挙げがクイックに適合しない事もクイックの原理を考えると良く解ります。
まずクイックとセットの違いですが、「前脚を挙げてから重心移動が始まる=セット」「前脚挙上と同時に重心移動が始まる=クイック」の違いで、本質的には脚の挙げ方の大小ではありません。
セットポジション 脚を挙げてから重心移動
クイックモーション 脚を挙げると同時に重心移動
問題は、「前脚の挙上と同時に重心移動が始まる」という動きをどうやって実現するかで、今の野球界の中で一般に論理化されていないのがこの部分です。
それは「抜き」と「捻り」という二つの要素によって成り立っています。
写真はバックホルツのクイックモーションです。構えから腰を後ろに引かずに前脚を挙げる「抜き」と同時に前脚の膝を後ろ入れる「捻り」が出来ている事が解ります。
つまり、クイックでは前脚の膝を入れて挙げないといけないので、外旋脚挙げはクイックには適応しないと言う事です。(言うまでも無い事だと思いますが。。)
特に「抜き」はある意味レベルの高い身体の使い方で、特に狭いスタンスから「抜き」効果を上手く使う事は難しい動きです(理屈が解ると難しく無いと思いますが)。これらを上手くやっていたのが数年前のクレイ•マックホルツです。最近はやや「抜き」が雑になった感が有ります。抜きが上手いと必要最小限の前脚の挙上になります。
なお、「抜き」と「捻り」にはそれぞれに役割が少し違います。
「抜き」モーションを速くするのに貢献する。
「捻り」後ろ脚に体重を乗せてタメを作るのに貢献する。
また、スタンス幅が広いととうぜん、抜きが使いやすくなりますし、狭いと使いにくくなるので、そのぶん、捻りへの依存が増します。
つまり、「抜き」「捻り」「スタンス幅を広く」「スタンス幅を狭く」という4枚のカードの組み合わせで、何種類かのクイックモーションを持つ事が可能になると言う事です。広いスタンスから抜きを主に使うとモーションは速くなりますが球速は落ちると思います。一方、スタンスを狭めると抜き効果が働きにくく、モーションは遅くなりますが、少しの捻りで後ろ脚にタメを作る事が可能になり、球速が出るはずです。以下の動画は「クイックネス重視型のクイック」と「球速重視型のクイック」の比較です。
※)ただし久保康友はパンチャーなので、そのぶん、クイックは速くなります。スインガータイプは一般的にクイックは(0コンマ何秒ですが)パンチャーよりも遅くなります。
また、広いスタンスからの素早いクイックは動きがぎくしゃくしやすい反面、狭いスタンスから抜きを上手く使うと非常にスムーズなクイックになります。モーション自体は遅い反面、身体の力を上手く使う意味では「上手い」クイックとも言えます。 動画の「球速重視型」はそうした例です。
その5 〜完〜
今回のメインテーマは、最近はあまり見られなくなったと思いますが、写真のようなやや前脚を開き気味に挙げる脚の挙げ方についてです。
実は前脚股関節を外旋して挙げる投手というのは、結構います。
これは大腰筋を使った前脚の挙上を意味します。大腰筋は股関節の屈曲筋ですが、図のように大腿骨の内側に付着しているので股関節を外旋させる役割もあります。
特に日本人選手の場合、ほとんどの投手は大腿直筋を主導として前脚を挙げます。骨盤を動かさずに膝を挙げる前田健太のような脚の挙げ方だとほとんど大腿直筋だけで挙げていると思われます。
下図は大腿直筋を使った前脚の挙上と、大腰筋を使った前脚の挙上の比較です。大腰筋を使った方が物理的に楽な事は明らかです。
つまり、股関節をやや外旋気味に挙げる前脚の挙げ方は、下半身の筋肉を緊張させない効果が有るのです。反対に、下の写真のように、骨盤を動かさずに膝をやや内に入れながら腿上げするような前脚の挙げ方では、もっとも大腿直筋を使います。ですから、この前脚の挙げ方は筋肉が緊張しやすく、スムーズに動く上ではマイナスとなるわけです。
この事は、特にセットポジションから前脚を挙げる投げ方で重要になります。なぜなら、ワインドアップの脚運びでは下の写真の(4)のように軸脚をプレートにセットした状態で前足の接地点が軸足の後方に位置することになるので、脚を挙げるためのバックスイングを取っているのと同じになり、前脚を楽に挙げることが出来るからです。
これに対してセットポジションからの前脚の挙上では、脚を挙げるためのバックスイングが使えないので、楽に脚を挙げる事が難しくなります。ココで威力を発揮するのが、大腰筋を使った外旋脚上げです。
なお、この外旋脚挙げはダルビッシュ投手のような「回し込み式脚挙げ」の中で効果的に働くと考えれます。
下図のように捻りを加えることで、軸脚側の股関節を打者方向に送り込み、大腿部を斜めにする事で重心移動をスタートさせるのが回し込み式のメカニズムでした。
ただ、ここでの捻りが過剰になると、身体の面が打者に対してクローズになり過ぎて、色々な弊害が生まれて来ます。そこで外旋脚挙げによって、ややオープンな状態で前脚を挙げる事によって、上半身をあまりクローズに入らないようにしながら捻りの流れを生み出すことが出来ます。これにより回し込み式のデメリットは幾分解消するはずです。
ここまでに「ワインドアップ」と「セットポジション」での脚挙げについて書いたので補足として(釈迦に説法だとは思いますが )クイックモーションについても書いておきます。というのはクイックモーションの原理については意外に論理化されていないからです。また回し込み式の脚挙げがクイックに適合しない事もクイックの原理を考えると良く解ります。
まずクイックとセットの違いですが、「前脚を挙げてから重心移動が始まる=セット」「前脚挙上と同時に重心移動が始まる=クイック」の違いで、本質的には脚の挙げ方の大小ではありません。
セットポジション 脚を挙げてから重心移動
クイックモーション 脚を挙げると同時に重心移動
問題は、「前脚の挙上と同時に重心移動が始まる」という動きをどうやって実現するかで、今の野球界の中で一般に論理化されていないのがこの部分です。
それは「抜き」と「捻り」という二つの要素によって成り立っています。
写真はバックホルツのクイックモーションです。構えから腰を後ろに引かずに前脚を挙げる「抜き」と同時に前脚の膝を後ろ入れる「捻り」が出来ている事が解ります。
つまり、クイックでは前脚の膝を入れて挙げないといけないので、外旋脚挙げはクイックには適応しないと言う事です。(言うまでも無い事だと思いますが。。)
特に「抜き」はある意味レベルの高い身体の使い方で、特に狭いスタンスから「抜き」効果を上手く使う事は難しい動きです(理屈が解ると難しく無いと思いますが)。これらを上手くやっていたのが数年前のクレイ•マックホルツです。最近はやや「抜き」が雑になった感が有ります。抜きが上手いと必要最小限の前脚の挙上になります。
なお、「抜き」と「捻り」にはそれぞれに役割が少し違います。
「抜き」モーションを速くするのに貢献する。
「捻り」後ろ脚に体重を乗せてタメを作るのに貢献する。
また、スタンス幅が広いととうぜん、抜きが使いやすくなりますし、狭いと使いにくくなるので、そのぶん、捻りへの依存が増します。
つまり、「抜き」「捻り」「スタンス幅を広く」「スタンス幅を狭く」という4枚のカードの組み合わせで、何種類かのクイックモーションを持つ事が可能になると言う事です。広いスタンスから抜きを主に使うとモーションは速くなりますが球速は落ちると思います。一方、スタンスを狭めると抜き効果が働きにくく、モーションは遅くなりますが、少しの捻りで後ろ脚にタメを作る事が可能になり、球速が出るはずです。以下の動画は「クイックネス重視型のクイック」と「球速重視型のクイック」の比較です。
※)ただし久保康友はパンチャーなので、そのぶん、クイックは速くなります。スインガータイプは一般的にクイックは(0コンマ何秒ですが)パンチャーよりも遅くなります。
また、広いスタンスからの素早いクイックは動きがぎくしゃくしやすい反面、狭いスタンスから抜きを上手く使うと非常にスムーズなクイックになります。モーション自体は遅い反面、身体の力を上手く使う意味では「上手い」クイックとも言えます。 動画の「球速重視型」はそうした例です。
その5 〜完〜