2016年3月20日日曜日

ダルビッシュ投手フォーム分析 その13

次に鍛えた腸腰筋とハムストリングスを投球動作の中で使えるようにするための体感法について書きたいのですが、その前にピッチングフォームの事について書きます。

まず、ハムストリングスが使えたか否かというのは、何よりもまずフォロースルーに出ます。ハムストリングスが使えると、フォロースルーでの後ろ脚の蹴り上げが大きく起こり、後ろ脚が前にしっかり出て来ます。

後ろ脚股関節の伸展が「蹴り動作」になるのに加えて、前脚股関節の伸展が身体を前に運ぶからです。

下の動画は ハムストリングスが使えている場合に起きる4つのフォロースルーのパターンです。


命名するなら以下のような感じです。(命名が好きな物で^^;)
A)ターン&タンブル(倒れ込み)
B)ストレートタンブル
C)正対着地型
D)蹴り上げターン型

これらの動作は「ハムストリングスは股関節伸展を起こす」と言う事と「股関節が伸展する時、絞り(内旋)が起きる」という二つの事を考えると解ります。

股関節伸展による身体を前に運ぶ作用


股関節の絞りによる内旋が身体を回す作用(脚を固定した状態で股関節を内旋すると骨盤の方が回ります)


A)上記二つの作用が最高の形で出ると「ターン&タンブル」になります。しかし、バックホルツにもそういう傾向がありますが、単に骨盤や背中が一塁側に傾いている事が原因で一塁側に倒れ込んでいる場合もあり、必ずしもすべてが良い意味でのターン&タンブルとは言えません。フランシスコ•ロドリゲス(Kロッド)や西口(元西武)もこのパターンです。
B)ストレートタンブルは股関節伸展によって身体を前に運ぶ力は強くても何等かの理由で絞りによる内旋がイマイチの場合に起きると考えられます。
C)正対着地型は日本人的な脚挙げ動作から下半身が上手く使えた時に出る形で、見ていて小気味良いので個人的には好きな動きです。
D)蹴り上げターン型は「日本人版ターン&タンブル」とでもいうべき動作で、股関節伸展によって身体を前に運ぶ力が弱いために倒れ込みが起きないのだと考えられます。

いずれにしても投げた後に体重移動がダイナミックに起きるのがハムストリングスを使えているフォームの特徴で、逆に下の写真のように軸脚が空中で止まったり、地面を引きずるだけだったりと言うのが使えていないフォームの特徴です。(ただし変化球を投げた時は腕で操作を加えるぶん、体幹下半身の働きが若干阻害されて、フォローの体重移動は小さくなる場合が多いです。)


ダルビッシュ投手の場合、脚の挙げ方が日本式なので、必然的に「正対着地型」と「蹴り上げターン型」が多く見られます。ストレートの調子が良い時は、こうした動きがダイナミックになるはずです。
ただ気になるのは、これは大谷投手の時にも話題になった事ですが、(動画のように)フォローで前脚の膝が伸びる時に、地面を蹴って後ろに身体が戻るような動作が見られる場合がある事です。


この動作は前脚の大腿四頭筋によって膝の伸展が起きている事を意味します。膝伸展は下腿部を前に振り出す動作なので、膝伸展によって地面を蹴ると身体が後ろに戻ります。

つまり、着地後に前脚の大腿四頭筋が強く働き、その膝伸展の作用によって前脚が引ける動きが起きているということです。

ではなぜこうなるのかというと、重心下降の時に「膝スクワット」が起きる事で、重心が過剰に下がり、着地した前脚の膝が曲がり過ぎてしまうからです。(つまり後ろ脚のハムが使えなければ前脚のハムも使えなくなるという事です)

とくに上の写真のような角度で着地すると、大腿骨が膝を打者方向に押し込み、着地後に前脚の膝の屈曲角度が深まるのはよく見られるケースです。原因は重心下降が過剰になっている事にあります。一方、下の写真はサバシアですが、重心があまり下がっていないので前脚が良い角度(膝が曲がりすぎない)で着地して、その後に股関節伸展の力を上手く使えています。



※)ただ単に重心が高いだけではもちろん駄目です。その場合、重心移動のエネルギーが小さくなるので、着地後に前脚にかかる負荷も不十分になり、前脚が股関節伸展を強く起こせないからです。(簡単に言うと立ち無げで軽く投げると、当然フォロースルーはダイナミックになりません)

上記の事から「重心下降で股関節スクワットが出来ると軸脚のハムストリングスが効いて、重心が過剰に下がらないので、前脚も適切な角度で着地出来て、着地後に前脚股関節伸展の力が上手く使えるので、フォロースルーでの体重移動がダイナミックになる 。」ということが言えるわけです。さらにもちろん軸脚側のハムストリングスが強く使えると重心移動のエネルギーも強くなるので、それを受け止める前脚股関節の屈曲〜伸展も強く使えて、なおさらフォロースルーはダイナミックになります。

つまり、ダルビッシュ投手の場合で言うと、重心下降から膝スクワットの要素が消えると、もっと両脚のハムストリングスが使えるようになり、フォロースルーで後ろ脚が勢い良く出てくるようになるはずです。そして、それが出来ると重心移動のラインは必然的に下の写真のような感じなる(もう少し重心が高くなる)はずです。もちろん、単に重心を高くすると言う意味では無く、ハムストリングスが効いた結果でなければ意味が有りません。


つまり、腸腰筋とハムストリングスが使える事で「股関節スクワットになる」→「重心が少し高くなる」→「フォロースルーで躍動感が出る」という流れになれば最高だと言う事です。そしてその中では両脚の股関節伸展の力が使えるので、下半身を使っている感覚ももちろんあります。「単なる下半身が使えていない高重心投法」の事ではありません。

そしてそれを実現する為には、立ち方やワインドアップでの脚の運び等がポイントになります。ピッチング動作は動き出したらほとんどオートマチックなので、最初が肝心になると言う事です。次回はそれらについてです。

その13 〜完〜