2016年3月18日金曜日

ダルビッシュ投手フォーム分析 その12

今回は、腸腰筋とハムストリングスを「動きの中で正しく働くように」しながら鍛える方法についてです。「教育的トレーニング」であるため、強度には限界がありますが、スクワット等と組み合わせる事で、より効果的なトレーニングとなるでしょう。

このトレーニングは、筋肉のバランスを整え、姿勢を良くする効果があります。骨も約90日サイクルで新陳代謝すると言われているので、僅かながら骨格の改善も期待出来ます。ただしもちろん、遺伝子と成長期までに決まる要素によって、その人が到達する事の出来る範囲には限界があります。
  
 しかし、こうしたトレーニングを実践し、教えて来た経験と観察から言える事は「良い骨格を持ちながら、その利点を使えていない黒人選手」に比べると、「骨格的には恵まれていないが、トレーニングを積んだ日本人」の方が、アスレチックポジションに伴う利点を投打の実技の中で活用出来るようになります。

下の動画はこれから紹介する腸腰筋とハムストリングスのトレーニングを積んだ打者と投手(共にパンチャー)のビフォーアフターの例です。(投手はアフターのみ)


簡単に言うと、打者は腰を突き出して背中を反るようなフォームになり、投手は投げた後の重心移動と軸脚の出方が大きくなります。これらはハムストリングスによる股関節伸展の出力が向上した事を意味します。つまり、メジャー式のフォームに近づくと言う事です。それはこのあたり(腸腰筋とハムストリングス)が日本人と彼等の間にある差の大きな要因であるからです。


主なトレーニングは二種類です。まずは結論(動き)から見せたいと思います。これらのトレーニングは、腸腰筋とハムストリングスの本来の機能を活かした動きで、筋肉の柔軟性を保ちながら強化するという点に主眼が置かれています。

腸腰筋その場ステップ(教育メイン 主に腸腰筋)


股関節伸展ジャンプ(強化メイン 主にハムストリングス)


では具体的なやり方とポイントです。
 
(1)腸腰筋その場ステップ

まず最も重要なのは、腸腰筋の伸張反射を利用して脚を挙げるという事です。つまり腰を反った反動を使って脚を挙げます。腿上げのように無理に挙げないようにしてください。最初はあまり脚が挙がらない人が多いですが、続けていくうちに腿が地面と水平かあるいはそれ以上まで挙がるようになります。


また、膝を支点に身体を後ろに倒すのでは無く、腰を前に突き出す事が重要です。着地した脚の踵寄り(頸骨)で地面を押し込み股関節伸展を使って腰を前に突き出します(ココでハムストリングスが効きます)。


腕は意識的には振らずにぶら下げているだけです。あるいは腕を組んでも可能です。このトレーニングの初期には腰に痛みが出る可能性がありますが、それは悪性の腰痛では無く、筋肉痛のようなもので慣れると痛みは引き、むしろ腰痛が出にくくなります(悪性の腰痛はむしろ座ったりする時の腰椎の後湾に伴って起きるからです)。回数は1セットを20〜30回として1日100くらいは簡単に出来ます。(動画の打者は500回とかしていました。)

(2)股関節伸展ジャンプ

このトレーニングの大きなポイントの一つは、最初のジャンプの着地を利用して、フルスクワットに持ち込むという点にあります。最初からフルスクワットで構えると筋肉が緊張しやすいからです。ジャンプする時は上に飛ぶ意識では無く、腰を前に突き出す意識です。この動作が股関節伸展でハムストリングス、大臀筋が強く働きます。

 
フルスクワット時の姿勢が重要で、膝が前に出たり、腰が丸まったりしないように気をつけてください。また、低くスクワットし過ぎると、膝が曲がりすぎて大腿四頭筋が強く働いてしまうので、大腿骨が地面と水平になるくらいを目安としてください。


なお、このトレーニングではハムストリングスの強化的効果が大きな反面、大腿四頭筋が強く働きやすいというデメリットがあります。そして疲労によってフルスクワットの姿勢が崩れるほど大腿四頭筋が働きやすくなります。ですから、1セットを6回(フルスクワットから5回)など、短く設定して、休憩をいれながら行う事がポイントです。
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以上が、二種類のトレーニングの方法ですが、腸腰筋その場ステップが教育的効果が高いのに対して、股関節伸展ジャンプはほぼ強化トレーニングです。姿勢改善などの効果が強いのは断然、腸腰筋その場ステップです。なので、以下のような感じでセットで行う事をお勧めします。(腸腰筋その場×20と股関節伸展ジャンプ×6の繰り返し)



特にお勧めは腸腰筋その場ステップで続けていくうちにアスレチックポジションの姿勢の感覚が掴みやすくなってきます。またアップとしても全身を適切なポジションに入れると言う意味で最適です。

ちなみに、これら2種類のトレーニングは黒人のダンスのリズムトレーニングから考えだされたものです。

黒人、黒人系選手の身体能力の秘密はどこにあるのかという事を考える過程で必然的に彼ら特有のダンスに注目するようになったのは1995,6年くらいの事なんですが、そのリズムトレーニングを考案した七類誠一郎の「黒人リズム感の秘密」という本によると「黒人のリズム感、運動能力の高さの秘密は、その体幹部の使い方に有る」という事です。そのリズムはごく大雑把に言うと、上下動を伴う身体使いと、前後のしなりを使う身体使いの二種類に分けられますが、それらはいずれも腸腰筋とハムストリングスをフル活用した動作なのです。そして、それらの動きの運動強度を高めたものが「股関節伸展ジャンプ」と「腸腰筋その場ステップ」です。


ある意味、黒人は彼らの文化(ダンス、音楽)を通じて、身体運動上の優位性を受け継いでいるとも言えます。


腸腰筋とハムストリングスが正しく使える事で、ほとんど全てのスポーツに好影響があります。もちろん、ここでテーマとなっている股関節スクワットを実現するためにも非常に重要な事です。

その12 完