2016年3月16日水曜日

ダルビッシュ投手フォーム分析 その11

今回は、股関節スクワットの形を作り、ハムストリングスの力を上手く使えるようになるためのトレーニング方法を紹介します。

(1)基礎知識 アスレチックポジション
黒人系は特に腸腰筋(正確には大腰筋)が発達しています。



そのため、 腰椎が前弯して脊柱のS字のクビレが効いた骨格になります。骨盤が前傾するのでハムストリングスが引っ張られて力を使いやすくなります。

股関節伸展は膝伸展よりもスイングアークが大きく、さらに脚を後ろにスイングする動作です。(膝伸展は前にスイングする動作)

ですから着地脚の股関節が伸展すると地面を後ろに押すので、写真のように身体は前に運ばれます。(膝伸展の場合は逆に後ろに戻る)

こうした理由でハムストリングスは地面を押して身体を前に運ぶための主動筋です。この筋肉が強く使えるから黒人は脚が速かったりジャンプ力が有ったりするわけです。


ここで、誤解してほしくないのは、多くの本などで説明されている下図のような骨盤前傾は間違いと言う事です。これらも骨盤が前傾している事には変わりありませんが、背筋で背中から骨盤を引っ張り上げる事になるので、脊柱が全体的に反って緊張するので動けたものではありません。腸腰筋の効いた本来の骨盤前傾姿勢を作るためには、骨盤を前傾させようとしてはいけない(背筋が働くから)のです。


ではどうするのかと言うと、まず腰を反って腸腰筋をストレッチしてから、それを戻す時に股関節で身体を折ります。この時、胸椎後湾の凸アーチを高い位置に形成する事が出来ると、自然に脊柱のS字カーブが形成されます。

この時、膝を緩めて頸骨の真下に加重します。そうすると骨盤が前傾してハムストリングスの効いた状態が保ちやすくなります。

ボクシングのファイティングポーズのイメージで猫背気味にして手を身体の近くに置くとこの感覚が掴みやすくなります。


この写真のような感じも出来ている状態です。お腹あたりでガッツポーツを作ったり、グラブを叩いたり、シャウトしてお腹に力が入る感じの時というのはだいたい、腸腰筋が効いて骨盤が前傾位に入っている(腰が入ってる)状態です。背筋を伸ばして真っすぐ立った感じではなく、こうした姿勢が動ける姿勢(アスレチックポジション)なのです。こういう姿勢になると、前にグングン進む感じが出ますが、それはハムストリングスが効いているからです。


動画は、脊柱のS字が効いた姿勢の例です。そういう姿勢の人が、どういう動きになるのかと言う事を感覚で掴んでもらえると思います。こればかりは理屈というより感覚です。アメリカだとこういう動きの人が多いのでイメージしやすいと思います。
 
アスレチックポジションの定義を「脊柱がS字を描き骨盤が前傾し、ハムストリングスで立っている状態」と定義するとそれは下図のように様々な重心高で実現出来ます。


 例えばスクワットの前に、腰を反って腸腰筋をストレッチしておくと、股関節スクワットの形が作りやすくなります。なお腸腰筋は脚をやや開いて腰を反ると最大限ストレッチされます。


以下はアスレチックポジションがとれている例です。

この形を作る事ができること、その感覚を掴むこと、その形からの出力に慣れること等が重要になります。それが出来るとピッチングでのスクワットも完全な股関節スクワットに近づくはずです。

なぜなら、股関節スクワットの時の大腿四頭筋で立つ感じと、股関節スクワットでのハムストリングス、大臀筋で立つ時の感じは明らかに違うからです。ですから股関節スクワットの感覚が掴めると膝スクワットになったり四頭筋で体重を支えたりした場合に、その「違和感」がすぐに解ります。そうすると逆算的に膝スクワットになった原因を考えて修正する事が可能になります。
======================================

以上のように、腸腰筋が効いて骨盤が前傾した状態を作る事が出来るとハムストリングスの力を使えるようになりますが、それは「下半身の力を使う」という上で非常に重要な事です。 動作の中で、そのパワーが重要になるのはハムストリングスです。腸腰筋はコアのインナーマッスルであり、全身の骨格を正しい状態に導く事でハムストリングスを使いやすくするキーストーンのような筋肉です。つまり(腸腰筋というのは最近良く聞かれますが)ハムストリングスを使うための腸腰筋という事です。



ここで、多くの人が「そうか、じゃあ腸腰筋とハムストリングスを鍛えれば良いのか!」となるわけですが、そう簡単にいかないから難しいのです。それについてまずは書きます。

実際、ちまたに溢れているハムストリングスと腸腰筋のトレーニングは逆効果を含むものが非常に多いです。

まず腸腰筋ですが、腸腰筋は下図のように股関節の屈曲筋なので、多くの場合、腹筋や腿上げ系の運動が腸腰筋のトレーニングとして紹介されています。

しかし、もし腹筋が緊張を強いるような型式のトレーニングで硬化短縮してしまうと、図のように骨盤が後傾します。さらに腿上げは腸腰筋も働きますが、それ以上に大腿四頭筋のトレーニングです。

ですから、もし腹筋運動で腹筋が固まり、腿上げ運動で大腿四頭筋を鍛えてしまったとしたら、これはひどい逆効果になってしまいます。腸腰筋を鍛えて骨盤を前傾させハムストリングスが使えるようになりたいのに、その逆になってしまうからです。

次にハムストリングスについてですが、ハムストリングスも硬化短縮を起こしてしまうと骨盤を後傾させてしまう筋肉です。ですからハムストリングスの柔軟性は骨盤が前傾した状態を作るうえで非常に重要となります。ハムストリングスのトレーニングの後、下図右のように膝が曲がって骨盤が後ろに傾いた姿勢になってしまったとしたら、それは逆効果になっているということです。(強化期のトレーニングならそれを承知でやる場合もありますが、後で修正する必要があります。)

とくに最も避けたいのがレッグカールです。このトレーニングはハムストリングスの重要な仕事である股関節伸展を使わずに膝の屈曲だけで鍛える上に、低負荷で繰り返しやるタイプのトレーニングでは筋肉が無意味に固まりやすいからです。


それではどうすれば良いのかという事ですが、スクワット等のトレーニングの有効性を否定する気はありません。しかし、その前段階として、正しい骨格のバランスを作るためのトレーニング(教育的トレーニング)を行う事によって、アスレチックポジションの感覚を得た上で、その感覚が崩れないようにしながら、慎重に強化的トレーニングを行って行く必要が有るという事です。建築に例えると、先に正しい基礎と骨組みを作ってから、外装などを盛りつけて行くという行程が必要になります。


次回は、その具体的方法(主に教育的トレーニング)です。

その11 完