2016年3月7日月曜日

ダルビッシュ投手フォーム分析 その4

 上半身動作のポイントは前回の内容ですが、下半身動作のポイントに入る前に、ココまで書いたことに関する話題を少し書きたいと思います。

 まず例の「投球腕が左右対称に内旋された形を作る」ことによって、いわゆる「胸の張り」が良くなります。写真はその例です。 


これは、いわゆる「inverted-W」の形から両腕が外旋することによって胸の張りが生じるからです。


ところがダルビッシュ投手の場合、グラブ腕側でこの外旋が上手く働いていないので、投球腕側の胸は張られますがグラブ腕の胸が張られていません。つまり上手く両胸が張られている例と比べると「胸の張りが2分の1」になってしまっているわけです。これはパワーの面のみならず投球腕の負担という面に関してもデメリットとなります。

これは言うなれば「4輪駆動と2輪駆動」の差みたいなものです。2輪駆動で4輪駆動に匹敵するパワーを出そうとすれば、当然、投球腕には負担がかかります。それら2輪と4輪の具体例を動画で挙げます。2輪は当然、サイドハンドに多いです。(ある意味、その弱さを横回転で補っているとも言えますが。理屈上は)

4輪駆動系


2輪駆動系


4輪駆動系のフォームでは着地の前後に瞬間的にグワッと両胸が張られますが、もちろんこれは意識的に胸を張っているのでは無く、重心移動と連動して両腕が腕がオートマチックに動いた結果です。また、2輪駆動系の共通点はグラブ腕側の外旋が上手く機能していない点にあります。

この4輪駆動系の投げ方が出来ると、肩に負担がかかりにくくなるはずです。肩が重い感じ、張っている感じにはなりにくく、また、肩が温まる(投げられるようになる)のも早くなると思います。体幹部主導になるので肩に負担がかからないからです。

それでは、この4輪駆動系のアームアクションを身体に憶えさせる(マッスルメモリーを作る)ドリルを紹介します。シャドーでもキャッチボールでも可能です。

アームアクションドリル

写真のようにセットの形を作ります。(グラブをつけるた方が良いです)そこから身体出来るだけ捻らず、後ろ脚に体重を乗せるのに必要最低限なだけ前脚を挙げます。
その状態(1コマ目)から、全身の力を抜き、地面反力だけを使って重心移動を発生させます反動や捻りを使ったり、自分から前に出て行ったりしないと言う意味です。その重心移動と連動させて、両手を割ることが出来れば、後は求めたい腕の動きになるはずです。この投げ方を6分〜8分の力でシャドーやキャッチボールで繰り返すと4輪駆動系のアームアクションが身に付いていくでしょう。重心移動と連動して力を抜いた両腕がスパッと左右対称に割れる感覚を掴むことが、この練習のポイントです。

なお、ここでスムーズな両腕の回転を導くための重要なポイントとしてセットでグラブとボールをくっつけるということです。細かいことのようですが、そうでは無く、両手がくっついてることで、右手と左手が互いに支え合うことになるので腕の力が抜きやすいのです。

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今回の最後に、微妙な例を紹介しておきます。動画はジョシュ•ベケットと大谷翔平です。2人とも非常に似たフォームです。彼らは4輪駆動系の腕使いと言えますが、胸の張りは弱いです。言うなれば「出力の弱い4輪駆動」と言えます。


なぜそうなるのかというと、ベケットの場合、セットで両手の位置が低いからそこから手が落下する勢いが生まれにくく、両肘の上がりも弱くなりやすいので胸の張りが弱くなるわけです。一方、大谷の場合(ベケットにも言えることですが)藤川や松坂と比べると、両手を割るタイミングが早いからです。藤川や松坂はギリギリまで両手をセットの位置に保ち、重心移動を利用して一気に割っているのに対し、大谷は早い段階からジワジワ割っていくので、勢いが出にくく、胸の張りが弱くなるわけです。

その4 完