ここではBPL理論で必須としている
「ライアン挙げ」の基礎について説明します。このタイプの脚の挙げ方は日本人には馴染みの無い動作ですので、すぐにスムーズで自然なライアン挙げになるとは限りません。むしろ一定のレベルに達するのにある程度時間がかかるのは普通です。ただ、その基礎的な部分については以下の内容を実践する事で出来るようになるでしょう。
「ライアン挙げ」とは何か
まず前提として一般的な日本人のフォームと北米中南米の選手に多く見られる「ライアン挙げ」の違いとは何でしょうか。それを表現しているのが下の写真です。右の日本式では骨盤を動かさずに股関節の屈曲で前脚を挙げますが、左のライアン挙げでは骨盤ごと動かして前脚を挙げます。そのため使う筋肉も異なって来ますし、もちろんライアン挙げの方が前脚が高く挙ります。しかし、ライアン挙げの真価は「脚を高く挙げる事」にあるのでは無く「全身を使って前脚を挙げる為に一部の筋肉に負担がかからずにスムーズに動ける」という点にあります。
それでは以下にライアン挙げを実践するためのポイントを挙げて行きます。
1)ワインドアップステップを使う
STEP6で説明したワインドアップのステップを思い出してください。まず(1)から(3)にかけて前足を後方にステップし、次に(4)で軸足(後ろ足)をプレートにセットします。この流れの中で後ろ足(軸足)に対して前足(フリーフット)が後方に引かれた状態が作られます。これが前脚を挙げる為のバックスイングの役割を果たします。ライアン挙げでは前脚を大きくスイングさせて使います。そのため、このワインドアップステップを利用する事が重要になります。セットポジションからの投球にはライアン投げはマッチしません。
2)軸脚の膝を緩めて踵で地面を軽く踏む
ここでは「基礎編」と言う事で難しい理屈は言いません。結論から言うとプレートに軸足をセットするとき、踵で軽くトンと踏むようにするとライアン挙げはやりやすくなります。そして、この「踵でトン」をやるためには「前脚を後方に引くとき、後ろ脚の膝と股関節をカクッと緩める」事がコツになります。さらに、その緩めた膝の角度を踵でトンと踏んでから前脚を挙げるシーンでキープしておく(膝を伸ばしきらない)事もポイントです。以下はBPL理論の実践者による「踵でトン」が出来ている例です。
もう一度、ポイントを列挙しておきます。
ポイント(1)前脚を後方に引くとき、後ろ脚の膝と股関節をカクッと緩める。
ポイント(2)軸足をプレートにセットするとき踵でトンと踏みつつ前脚を挙げる。
ポイント(3)前脚を後方に引いたときに緩めた後ろ脚の膝の角度をキープする。
感覚的には軸足で地面を踏む事によって、その反動で前脚がポンと挙げやすくなる感じです。理論的には膝の角度を緩めたまま踵で地面を押す事でハムストリングスが働きやすくなり、脚を挙げるときに骨盤の回転を使いやすくなると言う事なのですが、そこまでの理解はここでは求めません。実践できるようになれば充分です。
以下はメジャーリーグの投手で踵で踏めている例です。
なお、ライアン挙げをしようとするとヒールアップする人が多いと思いますが、ヒールアップするようでは本物のライアン挙げとは言いません。「踵でトン」をマスターしてヒールアップしない本物のライアン挙げを身につけましょう。
3)骨盤ごと前脚を挙げる
前述のようにライアン挙げでは骨盤ごと前脚を挙げます。前田健太のような日本式のように膝を挙げる感じではなく、もっと身体の芯を意識して骨盤ごと前脚を挙げるように意識します。つまり骨盤を後傾させて前脚を挙げるという事です。「脚を高く挙げすぎると骨盤が後傾する」という論調も最近ではアチコチで聞かれますが、ライアン挙げの場合は挙げた時に後傾した骨盤が、その反動で前脚を降ろすときに前傾するので問題は有りません。
4)脊柱を柔らかく使う
下の写真のように脚を挙げるときに背中が丸まるくらい脊柱を柔らかく使います。(背骨を丸める意識は必要ないが間違っても背筋をピンと伸ばす意識は持たない)日本式が腿上げの筋肉を集中的に使うのに対してライアン挙げは全身の筋肉を総動員させて前脚を挙げます。そのぶん前脚の筋肉が緊張しやすいので脚の振り下ろしに引っかかりがなくスムーズなのです。これはライアン挙げの大きなメリットです。なお脚を挙げたときに丸まった背骨は降ろすときに反動で元に戻るので問題有りません。
5)挙げる脚の膝の屈曲は意識しない
ライアン挙げでは前脚を挙げるとき、膝の屈曲は意識しません。骨盤から下を全体的にリラックスさせて振り子のようにブラーンとスイングさせて挙げてやると膝は自然に(オートマチックに)曲がります。これは股関節の屈曲によってハムストリングスが引き伸ばされ、その伸張反射が起きるためです。
なお、この「ハムストリングスの伸張反射を利用したオートマチックな膝の屈曲」が出来ているか否かの目安となるのが脚を挙げた時の爪先の向きです。ノーラン•ライアンのように爪先が上を向いていれば出来ている証拠です。逆に前田健太のように爪先が下を向いていれば膝を意識的に曲げている(畳んでいる)事を表します。(これは腓腹筋の働きによるものですが、ここでは難しい理屈は言いません)
下の写真のようにまず股関節が屈曲し、次にハムストリングスの伸張反射によって膝が屈曲します。つまり脚挙げ動作の途中から前脚の膝がオートマチックに折り畳まれると言う事です。
以上が「ライアン挙げ」の主なコツであり、また基礎的事項です。それではここでライアン挙げの感覚を掴むためのドリル「ピッチャーズ•ハイキック」を紹介します。
ピッチャーズハイキック
最初は戸惑う人が多いですが慣れると非常に簡単な動きです。まず右投手であれば右脚と左腕を挙げた姿勢を取ってください。そこから挙げておいた右脚と左腕を振り下ろしながら左脚を挙げます。右脚を踏み降ろす時は「踵でトン」を行います。この動きを繰り返すのですが、このドリルの中では以下の点を特に意識しましょう。
1)踵でトンして、軸脚の膝の角度を保ちながら前脚を挙げる。
2)前脚を挙げるときは骨盤ごと挙げて、膝の屈曲を意識しない。
3)脊柱を柔らかく使う。
4)軸足でトンと踏むと同時に前脚をポンと挙げるリズムを掴む。
5)肘を90度に曲げて、顔は打者の方に向ける。
(5)以外は、ようするにライアン挙げのコツです。このドリルをやった後は少し脚の筋肉が疲れているので脚が挙りにくくなるかもしれませんが、ライアン挙げを憶えてもらうために導入期に行っているドリルです。