2012年10月6日土曜日

2012年 MLBを振り返る 〜打撃編(1)〜


やはり何と言っても、最大の話題はミゲール•カブレラの三冠王ですが、これはMLBでは1967年のカール•ヤストレムスキー以来の事です。

一方、そのカブレラの「両リーグ三冠王」を阻止したのが打率0.336でMLBトップに立ったバスター•ポージーです。まずは、バスター•ポージーの活躍の理由を探って見ましょう。

1) バスター•ポージー

ジョシュ•ハミルトンやアンドリュー•マカッチェンがバットを肩に担いで腕の筋肉の緊張を防いでいたように、ポージーも腕の筋肉の緊張を防ぐための対策を取っています。

http://www.youtube.com/watch?v=pawn8BiU8NY&feature=plcp
http://www.youtube.com/watch?v=clTf1E_Byyc&feature=plcp
http://www.youtube.com/watch?v=CLyUK2Cw20A&feature=plcp

まず、低い位置でバットを垂直に立てると言う一番楽なバットの持ち方をして、そこから構えに持ち込みます。ポージーの構えは担ぎ気味の最も腕に負担のかかるタイプなのですが、面白いのは、構える直前にバットが水平を超えてヘッドがグリップより下になるまで倒している事です。

つまり、バットを寝かすと、グリップとヘッドの距離が空き、テコの原理でヘッドの重さが増幅されて感じられるのですが、そのヘッドの重さに抵抗するのを止めて、グリップよりヘッドが下になるくらいまでにバットを寝かす事で腕の負担を軽減させているわけです。こうすると、グリップとヘッドの距離が(水平の場合に比べると)短くなると言う利点も有ります。

そうしておいて、バットをトップの角度に持ち込むのは、ほとんど脚を挙げるのと同時で、ギリギリのタイミングまで楽な状態で待っています。ですから、腕の筋肉がリラックスした状態でスイング出来るのです。

では肝心のスイングを見てみましょう。

http://www.youtube.com/watch?v=uXxZymTYttE&feature=plcp
http://www.youtube.com/watch?v=8GSfkmqZ18o&feature=plcp

スイング自体はヘッドの出が早く、上から被せるように出て来る典型的なパンチャーのスイングです。高めを打つのが如何にも上手そうですね。ただ脊柱が直立気味で膝が潰れており、大腿四頭筋が効いている構えですので、股関節の斜め回転が使いにくく、回転が水平面回転になりやすいぶん、回転半径が大きいアウトサイドイン系のスイングになると言うのが唯一の問題点です。また、この構え(脊柱直立)だと後ろ脚に体重が残りやすいので、前の膝も開きやすいですね。

このスイングにはそれらの特徴が良く出ています。バットが遠回りで出てくるので、回転半径が大きく無駄な力を使っている様がよくわかります。
http://www.youtube.com/watch?v=0dE8U7qbYzs&feature=plcp
この選手にアドヴァイス出来るとすれば、腸腰筋その場ステップをかなりやる事で、このバランスの範疇で少しでも骨盤が前傾してハムストリングスが効いた状態を作って行くと言う事ですね。

もう一つ、良い所は「パンチャーの脚上げ型では脚を挙げるタイミングは遅い方が良い」と言う事を以前から書いてきましたが、この選手もまさにそうですね。脚を挙げるタイミングが遅い方が良い理由は二つで「早く脚を挙げると、地面反力で始動前に重心移動が始まってしまう」のが一つで、もう一つは「始動のタイミングがリリース後に設定出来ると言う脚上げ型の利点を活かすためには脚を挙げるタイミングも遅い方が良い」と言う事です。この点で成功している典型が三冠王を獲得したミゲール•カブレラです。ただ、このタイミングで脚を挙げるのは、タイミングのブレが命取りになりやすい面も有り、高度な技術では有ると思います。

ただ、ポージーのスイングが、ヘッドの出が早く非常にパンチャーらしいスイングになっているのは脚を挙げるタイミングが遅く、始動前の重心移動が起こりにくいため、ボトムハンドの引きが起こりにくいからです。

ポージーの打撃はパンチャーの要点を良く踏まえています。それは以下の二点です。
1) 脚を挙げるタイミングを遅く設定する
2)トップの角度に構える事による腕の筋肉の負担を防ぐ工夫をしている。

取り立てて他の打者よりスイングが速いとか、動体視力が良いとかは無くても、こうしたポイントで結果は変わると言う事ですね。

2)ブライス•ハーパー

次は高校時代から期待されて来た1992年生まれのMLB期待の新星、ブライス•ハーパーです。打率2割7分の22本塁打と素晴らしい数字を残しました。この選手は脚上げ型と、オートマチックステップもどきを併用しますが、このパターンはメジャーにも割と良く見られます。(デビッド•ライト、ショーン•ロドリゲス等)要はオートマチックステップに”気がついていない”場合に、そういう選択肢になるのでしょう。

脚上げ型 http://www.youtube.com/watch?v=VDO90w_kHU0&feature=plcp
オートマチックステップもどき http://www.youtube.com/watch?v=KYg9CmSqtks&feature=plcp 

しかし、オートマチックステップもどきはノーステップの一種で正しい打撃メカニクスとしては成立していないので、ハーパーが本来のパワーを発揮出来るのはやはり脚上げ型においてでしょう。

因にこの選手は構えがポージーのような「トップ型」では無く、バットを顔の前を通して投手方向に入れる「ヘッド入れ型」なので、ヘッドの重さがトップ型よりも感じにくく、そのため、構えが多少長くなってもあまり問題にならないのです。

しかし、トップ型では無いので、肩甲骨のポジショニングが理想的になりにくく、その結果として脊柱のS字カーブも正しく形成されにくくなると言う問題が生じています。構えで腰椎が後湾気味(腰が丸まり気味)なのも、ヘッド入れ型だからです。

この選手の長所は、この動画(http://www.youtube.com/watch?v=KYg9CmSqtks&feature=plcp)の後半の横映しに見られるように、後ろ脚股関節の割れと絞りが素晴らしい点です。その上でヘッド入れ型によって腕の筋肉がリラックスされている。力強い下半身と柔らかい上半身がセットになって、それをアメリカ人アスリートの若者が実現すれば、これだけのパワーが発揮されると言う事ですね。何よりもスイングの躍動感が素晴らしい。これは筋肉がフレッシュな状態である事を意味しますが、両手振り抜きを基本としているのも、この躍動感をキープ出来ている理由ですね。非常に若さを感じさせると言うか、若さを武器に出来ているスイングです。

ただ、この選手で心配なのは「故障」です。まず腰椎が後湾した状態でこれだけ強く腰を回す事による腰痛の不安。これは阪神タイガースの掛布雅之に前例を見ます。氏もまた、腰椎が後湾した構えから、凄まじいスイングを繰り返していた故に晩年は腰痛に悩まされたと言うのは有名な話です。もう一つは、前脚の膝。先の動画の横映しに見られるように、オートマチックステップもどきで膝を内に入れた状態から着地した場合、その過度に閉じた前脚で回転を受けるため、前脚の膝には多大な負担がかかります。これらの不安要素が30代中盤を過ぎたあたりからどのように響いて来るか。それが気がかりです。

いや、それにしても凄いスイングです。20そこらの若者がこれだけのスイングをする。やはりメジャーは素晴らしいです。ハーパーのホームランを少し集めてみました。

http://www.youtube.com/watch?v=6taRMihkb90&feature=plcp
http://www.youtube.com/watch?v=hiPC2zC0IB0&feature=plcp
http://www.youtube.com/watch?v=OeLA1-QbXm0&feature=plcp
http://www.youtube.com/watch?v=wKIYXUG6wG4&feature=plcp

スイングに対する考え方に、非の打ち所がありません。