まず投球動作の特徴を簡単に振り返っておきます。
フォーム上のまとめ
1)「割れと絞り」
後ろ脚股関節の割れ絞りの柔軟性が素晴らしいです。これは股関節の柔軟性と回し込み式の特徴が出ていると言えます。この柔軟性が大きなストライドを生み出していると言えますが近年は(意図的な部分も有るのかもしれませんが)この柔軟性とストライド幅がやや減少しているように見受けられます。この股関節の捻りがスインガーのオーバハンドとしては稀な大きく横滑りする変化球を可能にしているのかもしれません。
2)「ハムストリングスを使う」
回し込み式の動作形態上、重心移動の初期に骨盤がやや後傾しやすく、そのぶん膝スクワットの要素が若干、混入します。その結果として必要以上に重心が下がってしまう場合が有ります。この問題については回し込みの動きを小さくする事で軽減されます。また、普段のトレーニングや投球に入る前の立ち方などもポイントになります。動作中に骨盤の角度を無理に意識してもあまり意味は無いと思います。
3)「肩の柔軟性」
本編では書かなかったですが、投球腕の回転がしなやかでスムーズな事は大きな長所です。特に最大外旋が深くとれているのが良い所です。この柔軟性が球速だけでは無く大きなカーブに繋がっているのでしょう。上半身のウェートトレーニングに取り組む際に、特に重要になるのが投球腕の外旋可動域の保つ事です。大胸筋、広背筋、僧帽筋といった上半身のビッグマッスルは肩を内旋させるので、これらが固まってしまうと外旋可動域が低下するためです。
4)「腕の軌道」
これも本編では書かなかったですが腕の振りが綺麗な縦ぶりになっているのが特徴的です。横回転系の身体の使い方で引っ張ってきて最後に腕が縦振りで出て来る。。この組み合わせが横と縦の変化球を併せ持つという類い稀な投球スタイルを生み出しているのかもしれません。コーチによっては「身体が横回転で腕が縦回転なのでいっその事サイドスローにしたら」等と言う人がいるかもしれないフォームです。もちろんそんな必要はありませんが。ただ、この点については動作上の善し悪しと言うよりは「特徴」と言うにとどめたいと思います。ただ横と縦の変化球を併せ持つと言う所にダルビッシュ投手の大きな強みが有る事は言うまでもありません。
ところでなぜ腕の振りが縦振りになるのかというと、おそらく首の角度のためでしょう。写真のメキシコの投手のような首の角度になっていると、脊柱軸と腕の回転面が直行しやすいのに比べてダルビッシュ投手のように首が立っていると脊柱軸に対して腕の回転面が立ちやすいからです。このため腕の出所自体は低くても縦振り気味になるのでしょう。
ただ、(メキシコ投手は傾き過ぎにしても)負担がかからないのは脊柱軸と腕の回転が直行する方だとは思いますし、動作中に部分的な角度の意識が入るとスムーズさの面ではマイナスになります。意識するのはむしろバランスで脊柱が傾き気味でもそれによって全体のバランスが真っすぐとれていれば良いというのも考え方の一つです。
5)「グラブ腕」
これも回し込み式フォームの特徴なのですが、グラブ腕を壁のようにかざしてしまうと、そこで動き(グラブ腕のスムーズな回旋運動)がブロックされやすく、その結果、フォロースルーでグラブ腕が後ろに引けやすくなります。これはパワーロスに繋がります。具体的にはグラブ腕の外旋が不十分になります。グラブ腕側の胸の張りが不足しているのも、このためです。
(まとめ)
回し込み式として完成度が高いゆえに、その特徴(回し込みの捻り動作に起因する長所と短所)が非常に明確に表れているフォームだと思います。ただ、その長所と短所が組み合わさる事で、縦横いずれの変化球もメジャートップレベルの変化量を持つと言うダルビッシュ投手最大の長所に繋がっていると言う事を考えると、その時々のニーズに合わせたさじ加減が非常に重要になってくるのではと思います。
また、本来的には股関節や肩関節の回旋能力の柔軟性が大きな長所なのですが、近年はそれがやや減少しているように見えるのが有る意味、最も気になる点です。
肩肘の負担について
もちろん、別段肩肘を痛めやすいフォームという事は無いのですが、ダルビッシュ投手のフォームで痛める原因になる箇所が有るとすれば以下の通りです。
1)左右非対称に背中側に入る投球腕
図(モデル=八木智哉)のように投球腕の肘だけが大きく背中側に入ってしまうと、投球腕側の大胸筋が伸張され、その伸張反射で強く収縮するので肩の外旋が不足気味になり、肘が下がりやすくなります。ダルビッシュ投手の場合、回し込みに伴う捻りを大きく取り過ぎる事でこの状態が起こりえます。
2)グラブ腕の引け
この点で真っ先に思いつくのが江川卓です。グラブ腕を前にかざした後、背中側に引くフォームで肩痛で早く引退した投手です。グラブ腕が引けるぶん、投球腕に負担が増すのでしょう。このタイプのフォームは良く肩を痛めます。ダルビッシュ投手の場合はやはり捻りが大きくなった時にこの現象が置きるのではと思います。(図モデル=江川卓)
3)外旋可動域の低下
これはツイッターでお話した通りです。大胸筋、広背筋、僧帽筋が硬化してしまうと投球腕の外旋稼働域が減少して肘の内側側副靭帯に負担がかかります。ウェートトレーニングに取り組む際に最も注意したいポイントです。(僧帽筋は腕を前に出した状態での肩内旋と連動します)
写真=外旋可動域が低下して肘が下がった危険なフォーム
4)フォロースルー
膝スクワットの要素が強くなり、フォローで後ろ脚が充分に出てこなくなると、投球腕にブレーキのストレスがかかるので、この場合は肩を痛めやすくなります。
写真のようなメジャーでよく見られる一塁側に倒れ込むようなフォローは腕の振りの軌道を重心移動がなぞるので、腕にブレーキの負担が集中せず、肩に負担がかからないフォームです。
ただ、回し込み式の場合、あまり一塁側に倒れるフィニッシュにはなりにくいでしょう。いずれにしてもフォローで後ろ脚が勢い良く出て来ると、肩に負担がかからないと言う事です。その点ではオリックスの平野佳寿なども良い例です。
ダルビッシュ投手の場合、上記4点に留意する事でほぼ肩肘を痛める不安要素は無くなると思います。特にウェートトレーニングを行う時に肩肘の柔軟性を保つという点については気をつけて頂きたい部分です。以下にその場合に使えるストレッチを簡単に紹介します。特に目新しいものでは無いですが参考くらいにはなるのではと思います。
肩腕回旋の動的ストレッチ(内旋3種 外旋3種 総合3種)
このように脊柱のしなりも利用します。また肘を90度に曲げて腕を挙げる事で下図のメカニズムが働き、肩を捻りやすくなります。
この種のストレッチは考えようによってはいくらでもやり方が有ると思います。 こういったストレッチをウェートトレーニングの合間や後に挟んで行く事によって肩腕回旋の柔軟性を保つことが重要です。
特に、スインガータイプの場合、投球腕の外旋は非常に重要な意味を持ちます。ある意味、スインガーの本質に関わる動きです。下図のように体幹が回転する時に慣性でボールを後方に残し、身体の回転が減速する時にヌンチャクのメカニズムで末端が走るのがスインガーのメカニズムだからです。最後の瞬間にヌンチャク効果を有効に活用するためには末端部を後方に残して体幹を回す事が重要で、そのためには肩関節の外旋可動域の柔軟性が必要になるためです。
例えば、この写真(大谷)で言うと、4以降がヌンチャク効果で腕が走ってるシーンです。ただ、この時上半身のビッグマッスルが肩関節を強く内旋させるため、ヌンチャクのような直線運動の感覚は本人には無いはずです。ヌンチャクはあくまでも比喩です。
ダルビッシュ投手の場合でも、同じように最大外旋を作って、その後にヌンチャク効果で末端が走っている事が解ります。
ちなみに、これが松坂や藤浪のようなパンチャー投手になると、トップから筋肉のしなりで一気に腕を振って来る感じになります。
パンチャーの場合でも柔軟性は重要なのですが、スインガーの場合、特に重要度が高いと言う事です。故障を防ぐだけでは無く、球速を挙げる、大きなカーブを投げる上でも外旋可動域の大きさが重要となるのがスインガーの特徴です。
その19 完
フォーム上のまとめ
1)「割れと絞り」
後ろ脚股関節の割れ絞りの柔軟性が素晴らしいです。これは股関節の柔軟性と回し込み式の特徴が出ていると言えます。この柔軟性が大きなストライドを生み出していると言えますが近年は(意図的な部分も有るのかもしれませんが)この柔軟性とストライド幅がやや減少しているように見受けられます。この股関節の捻りがスインガーのオーバハンドとしては稀な大きく横滑りする変化球を可能にしているのかもしれません。
2)「ハムストリングスを使う」
回し込み式の動作形態上、重心移動の初期に骨盤がやや後傾しやすく、そのぶん膝スクワットの要素が若干、混入します。その結果として必要以上に重心が下がってしまう場合が有ります。この問題については回し込みの動きを小さくする事で軽減されます。また、普段のトレーニングや投球に入る前の立ち方などもポイントになります。動作中に骨盤の角度を無理に意識してもあまり意味は無いと思います。
3)「肩の柔軟性」
本編では書かなかったですが、投球腕の回転がしなやかでスムーズな事は大きな長所です。特に最大外旋が深くとれているのが良い所です。この柔軟性が球速だけでは無く大きなカーブに繋がっているのでしょう。上半身のウェートトレーニングに取り組む際に、特に重要になるのが投球腕の外旋可動域の保つ事です。大胸筋、広背筋、僧帽筋といった上半身のビッグマッスルは肩を内旋させるので、これらが固まってしまうと外旋可動域が低下するためです。
4)「腕の軌道」
これも本編では書かなかったですが腕の振りが綺麗な縦ぶりになっているのが特徴的です。横回転系の身体の使い方で引っ張ってきて最後に腕が縦振りで出て来る。。この組み合わせが横と縦の変化球を併せ持つという類い稀な投球スタイルを生み出しているのかもしれません。コーチによっては「身体が横回転で腕が縦回転なのでいっその事サイドスローにしたら」等と言う人がいるかもしれないフォームです。もちろんそんな必要はありませんが。ただ、この点については動作上の善し悪しと言うよりは「特徴」と言うにとどめたいと思います。ただ横と縦の変化球を併せ持つと言う所にダルビッシュ投手の大きな強みが有る事は言うまでもありません。
ところでなぜ腕の振りが縦振りになるのかというと、おそらく首の角度のためでしょう。写真のメキシコの投手のような首の角度になっていると、脊柱軸と腕の回転面が直行しやすいのに比べてダルビッシュ投手のように首が立っていると脊柱軸に対して腕の回転面が立ちやすいからです。このため腕の出所自体は低くても縦振り気味になるのでしょう。
ただ、(メキシコ投手は傾き過ぎにしても)負担がかからないのは脊柱軸と腕の回転が直行する方だとは思いますし、動作中に部分的な角度の意識が入るとスムーズさの面ではマイナスになります。意識するのはむしろバランスで脊柱が傾き気味でもそれによって全体のバランスが真っすぐとれていれば良いというのも考え方の一つです。
5)「グラブ腕」
これも回し込み式フォームの特徴なのですが、グラブ腕を壁のようにかざしてしまうと、そこで動き(グラブ腕のスムーズな回旋運動)がブロックされやすく、その結果、フォロースルーでグラブ腕が後ろに引けやすくなります。これはパワーロスに繋がります。具体的にはグラブ腕の外旋が不十分になります。グラブ腕側の胸の張りが不足しているのも、このためです。
(まとめ)
回し込み式として完成度が高いゆえに、その特徴(回し込みの捻り動作に起因する長所と短所)が非常に明確に表れているフォームだと思います。ただ、その長所と短所が組み合わさる事で、縦横いずれの変化球もメジャートップレベルの変化量を持つと言うダルビッシュ投手最大の長所に繋がっていると言う事を考えると、その時々のニーズに合わせたさじ加減が非常に重要になってくるのではと思います。
また、本来的には股関節や肩関節の回旋能力の柔軟性が大きな長所なのですが、近年はそれがやや減少しているように見えるのが有る意味、最も気になる点です。
肩肘の負担について
もちろん、別段肩肘を痛めやすいフォームという事は無いのですが、ダルビッシュ投手のフォームで痛める原因になる箇所が有るとすれば以下の通りです。
1)左右非対称に背中側に入る投球腕
図(モデル=八木智哉)のように投球腕の肘だけが大きく背中側に入ってしまうと、投球腕側の大胸筋が伸張され、その伸張反射で強く収縮するので肩の外旋が不足気味になり、肘が下がりやすくなります。ダルビッシュ投手の場合、回し込みに伴う捻りを大きく取り過ぎる事でこの状態が起こりえます。
2)グラブ腕の引け
この点で真っ先に思いつくのが江川卓です。グラブ腕を前にかざした後、背中側に引くフォームで肩痛で早く引退した投手です。グラブ腕が引けるぶん、投球腕に負担が増すのでしょう。このタイプのフォームは良く肩を痛めます。ダルビッシュ投手の場合はやはり捻りが大きくなった時にこの現象が置きるのではと思います。(図モデル=江川卓)
3)外旋可動域の低下
これはツイッターでお話した通りです。大胸筋、広背筋、僧帽筋が硬化してしまうと投球腕の外旋稼働域が減少して肘の内側側副靭帯に負担がかかります。ウェートトレーニングに取り組む際に最も注意したいポイントです。(僧帽筋は腕を前に出した状態での肩内旋と連動します)
写真=外旋可動域が低下して肘が下がった危険なフォーム
4)フォロースルー
膝スクワットの要素が強くなり、フォローで後ろ脚が充分に出てこなくなると、投球腕にブレーキのストレスがかかるので、この場合は肩を痛めやすくなります。
写真のようなメジャーでよく見られる一塁側に倒れ込むようなフォローは腕の振りの軌道を重心移動がなぞるので、腕にブレーキの負担が集中せず、肩に負担がかからないフォームです。
ただ、回し込み式の場合、あまり一塁側に倒れるフィニッシュにはなりにくいでしょう。いずれにしてもフォローで後ろ脚が勢い良く出て来ると、肩に負担がかからないと言う事です。その点ではオリックスの平野佳寿なども良い例です。
ダルビッシュ投手の場合、上記4点に留意する事でほぼ肩肘を痛める不安要素は無くなると思います。特にウェートトレーニングを行う時に肩肘の柔軟性を保つという点については気をつけて頂きたい部分です。以下にその場合に使えるストレッチを簡単に紹介します。特に目新しいものでは無いですが参考くらいにはなるのではと思います。
肩腕回旋の動的ストレッチ(内旋3種 外旋3種 総合3種)
このように脊柱のしなりも利用します。また肘を90度に曲げて腕を挙げる事で下図のメカニズムが働き、肩を捻りやすくなります。
この種のストレッチは考えようによってはいくらでもやり方が有ると思います。 こういったストレッチをウェートトレーニングの合間や後に挟んで行く事によって肩腕回旋の柔軟性を保つことが重要です。
特に、スインガータイプの場合、投球腕の外旋は非常に重要な意味を持ちます。ある意味、スインガーの本質に関わる動きです。下図のように体幹が回転する時に慣性でボールを後方に残し、身体の回転が減速する時にヌンチャクのメカニズムで末端が走るのがスインガーのメカニズムだからです。最後の瞬間にヌンチャク効果を有効に活用するためには末端部を後方に残して体幹を回す事が重要で、そのためには肩関節の外旋可動域の柔軟性が必要になるためです。
例えば、この写真(大谷)で言うと、4以降がヌンチャク効果で腕が走ってるシーンです。ただ、この時上半身のビッグマッスルが肩関節を強く内旋させるため、ヌンチャクのような直線運動の感覚は本人には無いはずです。ヌンチャクはあくまでも比喩です。
ダルビッシュ投手の場合でも、同じように最大外旋を作って、その後にヌンチャク効果で末端が走っている事が解ります。
ちなみに、これが松坂や藤浪のようなパンチャー投手になると、トップから筋肉のしなりで一気に腕を振って来る感じになります。
パンチャーの場合でも柔軟性は重要なのですが、スインガーの場合、特に重要度が高いと言う事です。故障を防ぐだけでは無く、球速を挙げる、大きなカーブを投げる上でも外旋可動域の大きさが重要となるのがスインガーの特徴です。
その19 完