2012年5月2日水曜日

Y君 1回目



新4年生としては、上出来だと思います。当日は気がつかなかったのですが、動画を見返してみて、最も感じる事は「センス」です。もう少し凡庸な言い方をすると「起用」だと言う事です。投球腕のテークバックの動きや、ボールを打つ時の対応能力など、その辺に光るものを感じます。野球を始めたのが早かったのかもしれませんが、こうした事は野球の感覚が無いと出来ない事です。ですからむしろ股関節の割りや捻りなど、基礎的な身体の使い方の練習を地道に続けて行く事で、後は本人の対応能力により、結果が出せるのでは無いかと思います。また、起用と言う意味で言えば、守備も色々なポジションがこなせそうで、そうなれば試合に出るチャンスも増えるので、なんとなく順調に階段を上って行くようなタイプに見えますね。これは全くの勘ですが。

続きます。

打撃編


1 揺らぎ、ヒッチ、コネる

バッティングにおいて最も気になる点は、当日、揺らぎの練習を行った結果、素振りの中で少しバットを捏ねる傾向が出た事です。捏ねてしまうと、空振りやミスショットが増えてしまいます。(もちろん、捏ねるからと行って片手でフォローを取らせるのは逆効果になるのでやらないでください。)

大きく気になったのはそこだけで、つまり具体的にはご帰宅後にボールを打とうとした時に、ミスショットが出てまったりしないだろうかと言うことです。

それと同時にヒッチの動きが出てきました。もちろん、無意識で起きるヒッチは良い動作です。ただ「揺らぎを練習した結果として、ヒッチが起こり、バットを捏ねる」と言うのは一つながりになっている事で、揺らぎを練習した事の結果としてままある事なのです。

つまり揺らぎと連動してバットがクルクル回りますね。(ケン•グリフィーJrのように)その動きのリズムが出来ると、その動きの連続でヒッチが起こりやすくなります。しかし、その一方、そのバットがクルクルするのが強調され過ぎたり、また手でバットを揺らしてしまうと、その後にスイングをした時もバットがクルクルしてしまい、捏ねてしまう場合が有るのです。

難しい問題なのですが、揺らぎから打ちに行くのは一番良いやり方です。しかし、子供の筋力、技術力、諸々を考慮した時に、それを実現しようとすると、逆に難しい部分が出て来る事も有るのです。一方、ワキを締めてグリップのコックを作った素振りでは捏ねていませんでした。以上の事から、今後の取り組みの中で以下のポイントに気を付けてください。

1)最も基本的な事として、バットの揺らぎは下半身の体重移動の結果であり、構えの中では意識してバットを回したり、手を揺らしたりしません。(この点、揺らぎ体操は、股関節の円運動を引き出しやすくするため、敢えて意図的に塩ビパイプをクルクル回します。)その体操と実際のバッティングの違いを再確認してください。ただ、この技術自体、指先まで神経が通ってこないと難しい部分(この動きの中で手首や前腕部を力ませず、かつ安定させる事)もあり、その意味で下記(2)のような事も考えてください。

2)上記の内容を踏まえた上でも、揺らぎから振ると言う事を素振りの中で繰り返した結果、コネることが多くなったり、ミスショットが増えたりした場合、「上半身に関してはバットをクルクルさせない揺らぎ方をする」「止まってから手首の形を固めてから振る(動画の実打では出来ています)」「そもそもあまり揺らがないで振る」等、そういった素振りを取り入れ、その中に一定の割合でラボで行った揺らぎの方法で振る練習を行ってください。と言うのは、最終的にはその方法で振れるようになってほしいからです。例えば、私自身の例でも左で振るときはそういう感じです。ただY君の場合、そこまで無理が有るようには見えませんが、参考までに、書いておきました。要は特に子供の場合「今、一番上手く振れる振り方」と「目標とする理想的な方法」が噛み合ない事も有るのです。例えば、弱い筋肉は大きく引き伸ばさないと力が出ないので、理想の形より捻りを大きく取らないと力が出なかったり、等、様々なケースが有ります。このような場合「今、一番上手く振れる振り方」もやっていかないと、振る力が中々ついて来ないのです。しかし、その一方「目標とする理想的な方法」も練習していく必要が有ります。前述の通り、Y君の場合、それほど無理が有るとは思いません。ですから、そういった二段構えの取り組みが必ずしも必要だとも思いませんし、必要なければそれに超した事はありません。しかし、もし今回危惧したような状況になった場合、積極的にこうした二段構えの方法を取ってほしいという事です。

3)とは言う物の、揺らぎ体操等は、四頭筋が弛緩し、ハムストリングスで立つ骨盤前傾の姿勢が取れていないと上手く出来なかったり、全身の連動を憶える良い練習ですから、腸腰筋その場ステップと揺らぎ体操のセットは積極的に行ってください。もちろん、実際のスイングの中でも、そういう入り方が出来れば理想的です。

他、フォーム的に細かい部分は勿論あるのですが、それはこれからのトレーニングや素振りで改善されて行く部分が大きいでしょうし、特に今の年齢だと、まずバットがボールに当たる事、そして当たった時に、満足出来る強い打球が飛ぶ事。この二点が最も重要だと思う訳で、そのテーマに対して、現状で最も危惧されるのは、上記の揺らぎに起因するコネだと言う事です。


続きます。

2 肩の傾き

また、バッティングで次に気になったのは、構えた時に後ろ肩が傾きやすいと言う事です。

これが、打撃の構えの時だけなら、さほど気にならなかった(子供は筋力が弱いのでバットの重さで後ろ肩が下がりやすいと思います。)のですが、ストレッチのスタンディング割れ絞り体操でも、後ろ股関節のラインに沿って斜めに右腕を振り上げる所で、水平に回してしまったりと、要は捻りに伴い右肩を上げるのが苦手のように見えたので、その辺はストレッチ等で根本的な動きから見直して行く必要が有るかもしれません。

あまり当て推量で適当な事も言うべきではないのですが、例えば筋肉のコリとかが解る人に見せると、右側の筋肉が少し固まり気味だったりとか、そういう可能性も有ります。(全くの勘ですが)

いずれにしても、後ろ肩が下がっていると、スイング軌道もアッパー気味になりやすいですし、後ろ脚に体重が残り過ぎたりと良い事はありません。体幹部操作2の捻りによって後ろ肩が少し上がる事が大切です。

3 首の角度


写真のように、首の角度が脊柱軸に一致していません。そのため、少し骨盤が後傾気味の構えになっています。ただ、これは経験から、最近では「首を斜めに」とは言わない方が良い事が解ってきました。Aロッドにしても少し強調し過ぎでしょうね。首を斜めにと言うと強調し過ぎた悪い例になる場合が多いのです。



ではどうすれば良いのかと言う事ですが、捻りが足りないと写真のようになりやすいのです。首が立っている事の弊害を端的に表現すると「アゴが上がっているのと同じ意味になる」と言う事です。ですからつまりアゴが上がらなければ良いのです。

ここで少し体幹部操作2の捻りを強調した構えを作ってみてください。捻りを加えないで前傾(ホームベース方向に)した状態と比べると、捻った方が自然に首が傾くと思います。(この詳しいメカニズムはまだ説明出来ませんが)捻るとむしろ首を立てるのが難しくなるでしょう。捻って、アゴを軽くクッと引いてやると、もう首が立ちようがありません。

この問題も「2 肩の傾き」に関係が有るのかもしれません。つまり体幹部操作2の捻り、スタンディング割れ絞り体操の動きが苦手なのでしょう。その辺が出来るようになると、打撃も良くなって来ると思います。

4 打撃 まとめ

上記のように、細かいポイントも有るのですが、今最も重要な事は、この感じでどんどん振って行く事により、この打法のメカニズムを身体に憶え込ませる事です。ただ、そうは言っても実際にはバランスが悪くて腕や脚が緊張したりしていると、思うように上手くならずに、むしろ振れば振るほど悪くなったりもして伸び悩む事も有るのです。その意味で「1 揺らぎ ヒッチ 捏ねる」のテーマは特に重要な問題です。基本的に打撃は下半身の力が使えて、上半身に力みが無ければ、少々形は悪くてもバットは走ります。ただ、肘を上げなければ上半身がリラックス出来るかと言うと、そうでも無かったりして一筋縄ではいかないのですが、基本はそういう事です。Y君の場合は親御さんの方でかなり理解されているようですので、そんなに心配は無いのですが、その辺を客観的に見て、伸び悩む方向に向かわないように、そうなってもなるべく早く脱出出来るようにする事が重要でしょうね。そういう調子が悪くなる事が何回か起きるのは仕方が無い事ですが、それを脱出しながら着実に進歩して行きたい所です。


投球編

当日もお話しましたように、重心移動が始まる時に重心がストンと真下に下がるのが問題です。これは、このシーンで骨盤が後傾するためにハムストリングスが緩んでしまい、その力を発揮しにくくなる事で起きる現象です。股関節伸展の力が弱くなるため体重を支えきれないのです。

真下に重心が下がってしまうと、股関節が割れにくく、膝の屈曲がメインになってしまうので大腿四頭筋が強く働き、ハムストリングスが使いにくくなります。一方、滑り台を滑り落ちるような軌道での重心移動だと、上手く後ろ脚股関節が割れてくれます。そうすると骨盤が前傾して、ハムストリングスの力が使いやすくなるのです。

斎藤和己

もちろん、当日もお話しましたように前脚を上げる時に回し込んで来るようなリズムが有った事も原因の一つでしょう。しかし、それだけが原因では無いと思います。それをここで書きます。

最大の原因は、グラブとボールが割れた時、グラブ腕がお腹側に大きく突き出される事です。このため、その反作用で腰が背中側に引けてしまうのです。何故、グラブ腕がそういう動きになるのかは後述します。

このシーンで骨盤が後傾してしまう事の悪影響は多々有るのですが、最も大きな悪影響は肘に負担がかかりやすい腕の振りになる事です。下の写真の2コマ目で、もう少し投球腕が外旋して、上腕三頭筋が打者に向き、ボールが肘の後ろに隠れる関係を作りたいものです。(ここでのこの形は同じ問題を抱える人に共通して見られる特徴です。)

なぜ、投球腕の外旋が不足するのかと言うと、骨盤が後傾した結果、後ろ脚股関節の伸展の力が弱いため、股関節の伸展と連動して胸を張る動作が不十分になってしまうためです。後ろ脚の股関節伸展が上手く使えると、後ろ腰を前に突き出し、脊柱が全体的に反る形になり、もっと力強く胸を張る事が出来ます。胸の張りと肩関節の外旋は連動している(実験すると解りやすいでしょう)ので、胸の張りが不足すると外旋も不足するのです。そうなると肘に負担がかかります。

次にフォロースルーのシーンにも問題が現れています。下の写真のように、このシーンで少し腰が引け、前脚の膝も少し曲がり過ぎています。こうなると、身体全体の前に出て行く力が弱いので投球腕に負担がかかります。
後ろ腰が引けているのは、当然、前述の股関節伸展が上手く使えていない事が原因ですが、前脚についてここから書きます。下の写真の右のように、フォロースルーでは前脚は一度伸びるのが望ましいのです。(もう少し後のシーンでも構いません。早すぎると突っ張ってる事になりますので良く有りません。)

これは骨盤が後傾した状態で前脚が着地してしまうので前脚に関しても、ハムストリングスによる股関節伸展の力が使いにくくなる事が原因です。前脚股関節伸展がもっと使えると、股関節伸展=絞りですから、前脚股関節を内に締める力が働き、最後のフォロースルーで、回って来る上半身と前脚が、雑巾を絞るようにギュッと逆に捻る力を発揮して、もっと最後の所でキレが出てきます。今は、その力が弱いので、なんとなくヌル〜ッと倒れ込むようなフォローになっています。

と、このように、動き出しで骨盤が後傾してしまう結果、ザッとこれだけの問題点がその後に出て来てしまうのです。逆に言うと、そこが改善されれば、今の問題はほとんど解決し、年齢不相応に完成されつくしたフォームになるでしょう。ですから最大のテーマと言えるわけです。

端的に言うと、この問題が解決されると、後ろ脚股関節の伸展も力強くなるので、重心移動が大きくなり、胸の張りと投球腕のしなりも良くなります。そして最後のフォロースルーでもっとキレが出て来るでしょう。

ではどうすれば良いのかと言う事ですが、これらの問題の多くは動き出しのグラブ腕の動きに原因が有ります。ここからは、その修正法について書きます。

下の動画は始動した時に腕がお腹側に伸びる原因を表しています。小さく前にならえのようなセットポジションだとグラブ腕の肘の凹みが前を向いているので腕がお腹側に伸びやすいのです。(小さく前ならえの形を使う練習をやりましたが、それはあくまでもセットポジションからの始動を理解するためのもので、小さく前ならえの腕の形が良いと言う意味ではありません。)


一方、肘の凹みが身体の中心方向に向いていると、そこから腕が割れる時、両肘が均等に開く形になりやすいのです。これは両肩関節が内旋した状態で、この時グラブの捕球面がやや地面に向きます。

また、最初の腕組みドリルは、同じような問題を抱えている投手に使用するドリルです。この状態から始動すると、腕がお腹側に伸びにくく、身体の近くに位置するので、始動時に骨盤が後傾しにくいのです。なお、このドリルはセットポジションで腕を高く掲げて腕に力みが入った結果、下半身の力が使いにくくなっている投手にも有効です。肩甲骨を胸椎に被せて腕を組んだ状態では肩から腕の力が抜きやすく、下半身の力が使いやすいからです。

Y君の場合、セットポジションのところで、特にグラブ腕の肘の凹みが身体の正面に向いているので、そこから両腕が割れるシーンでグラブ腕がお腹側に伸びやすいのです。

ボール側は良いのですが、写真のようにグラブ腕側のワキを締めて、手首を掌屈させるクセが有ります。

これは特に子供に多いのですが、前脚を上げる時に、後ろ脚の膝と前脚の膝が重なるくらいの位置まで持ってくる事で後ろ脚に体重を乗せると言う事を知らないのです。そうすると、体全体を後ろに傾けて後ろ脚に体重を乗せようとするため、骨盤も後ろ脚側が低くなるように傾きます。その骨盤の傾きとバランスを取ろうとして、肩を傾けようとするので後ろのワキは開くものの、前のワキが締まりやすいのです。グラブ腕側の手首を背屈すると前腕部が回内し、肩関節も内旋するのでワキが開きます。それを防ごうとして手首を掌屈し、前腕を回外気味にさせる事でワキが開きにくくしているわけです。


ですからまず前脚を上げる時のバランスに注意しながら、セットポジションの形を見直していかなければなりません。その辺が良くなると、後の動作も連鎖的に良くなって来るでしょう。

もう少し続きます。

とりあえず目安として、セットポジションでのグラブ腕を下の写真の左のようになるよう、修正してください。今は右のようになっています。肘の凹みの向きが違う事に注目してください。ただしこの形を作ろうとして力んでしまっては本末転倒です。(そうなる場合が良く有ります。)腕組みドリルのように、肩甲骨を胸郭に被せるイメージを作る事で、肩、腕に力みが入らないようにしてください。


以上です。ピッチングでは、投球腕のテークバックの形など、小学生らしからぬ巧みさが有ります。(写真)コンパクトな腕の振りが出来るので、内野手も上手くこなせるでしょう。

この腕の振りのしなやかさを保つためにも、素振りの後はシャドーピッチングや腕回しのストレッチ等を積極的に行った方が良いでしょう。

ではがんばってください!