2013年6月5日水曜日

山下さん 進化の記録3



今回は投球がメインでしたが、まず打撃からです。

打撃編

まず、下の写真を見て下さい。これが今回の構えで捻りが小さく、ヘッドが投手方向に入っていません。山下さんの場合、何も言わないと自然とこうなって行く事が多いです。後述しますが、現状での身体条件が関係しているのでしょう。
この結果、ボトムハンドの前腕とバットの長軸が作る角度が開き過ぎて、俗に言う「バットが下から出る遠回りのスイング」になっています。

下は1回目(進化の記録1)の時の構えとの比較です。1回目の構えの方が捻りが入ってヘッドが投手方向に入っている事が解ります。


常に、この1回目の構えを忘れないようにしておいてください。捻りが入っていない構えと言うのは、スイングで「後ろ脚に体重が残る」「バットが下から出て遠回りになる」だけでは無く、構えでも上半身、下半身ともに構えが緊張しやすく、全ての面において良い事は有りません。ですから、ある意味、山下さんにとって一番重要なポイントがココであると言えます。

では何故、捻りが不足することが多いのかと言うと、それは肩の柔らかさが不足していると言う事が一つの原因になっていると思います。

投球時、テークバックで肘が背中側に入って行くと同時に、顔が目標から逸れて3塁側に向いて行きます。これは恐らく肩の柔軟性が足りないために、肘の動きに釣られて顔の向きが変わっているのでしょう。自分でも左で投げると、最初の頃は目標方向を向いていられず、顔の向きが変わってしまったのですが、シャドーを続けて肩が回るようになると少しづつ目標を見据えたまま投げる事が出来るようになっていきましたので、肩の柔軟性の問題だと考えて間違いなさそうです。

一方、下の写真はチャーリー・ファーブッシュのキャッチボールを撮影したものですが、肘が背中側に入っても顔の向きが変わらず、涼しげに目標を見据えている事が解ります。ファーブッシュはメジャーでもかなり柔らかい方ですが、一つの目標にしてください。

打撃に関しては今回は以上です。捻りを入れるということ、そのために肩を柔らかくすることですが、捻りを入れようとするあまり股関節の割りを忘れないようにしてください。

また上半身を捻るためには、肩甲骨の可動域の大きさが非常に重要となりますので、肩甲骨ストレッチも行なっておいて下さい。肩甲骨が動かないと、脊柱を捻る事になり、そうなると首も一緒に回るので、投手方向を向いたまま捻る事が難しくなります。

投球編

投球でもやはり、肩の硬さが出てしまっています。下の連続写真のように投球腕がテークバックで内旋されず、腕が伸びたままになっています。

このような形になると、下図のメカニズムによって股関節の外転が過剰に起こります。つまり腕が外に開く運動との連動で体幹(オレンジ)が反対に回転し、さらにその体幹との連動で後ろ脚(緑)が反対に回転するわけです。
一般的にはこのようなフォームになると、後ろ脚股関節の外転(割れない)に伴い、膝がもっと内に折れます。ただ山下さんの場合、かなり股関節のトレーニングを積む事によってハムストリングスで立つ事が出来ている関係で、それでもまだ上手く割れた状態を作れているのでしょう。ただ、ここで肘から挙った形が作れるようになると、青の部分の回転がもっとコンパクトになり、さらに「リズム割れ絞り体操」で後ろ脚股関節を割る時のような捻る動きになるので、後ろ脚股関節の割れ〜絞りの動作がもっと上手く使えるようになります。トレーニングの「割れ絞り内旋肘挙げ(写真)」の動きと同じです。


このように内旋して肘から挙る形が出来るようになると、後ろ脚股関節の力がさらに有効に使えるようになるので、もっとステップ幅が大きくなります。そして、この辺は球速に直結する動作ですので、重要です。

投球腕が内旋して肘から挙る動作と後ろ脚の力を使う事が関係している事は、下の写真を見ると解りやすいでしょう。


下の写真は肘から挙るテークバックが上手く出来ている例です。

何が山下さんと違うのかと言うと、投球腕が下に落下したときの手の向きです。出来ている例ではココで手の平が背中側に向いています。そうすると、肘の凹みが体側を向きますが、この状態から手を下に残しながら肘が挙って行くと、肘が曲がった形が出来上がるわけです。

一方、山下さんの場合、このシーンで手の平が体側を向いているので、肘の凹みが体の前方を向いています。その状態からでは手を下に残して肘から挙る形が作れないのです。

ただし、これは非常に難しい問題で「投球腕が下に落下した状態」は既に無意識のフェーズなので、ここで手の向きを意図的に操作する訳にはいきません。また、そういう手の向きを作ろうと構えを工夫しても、それが現在の身体条件上で不自然な形になってしまうと不要な力みに繋がり、いい結果は出ません。ですから、改善はそう単純には行かないということです。特に意識的に投球腕の肩を内に捻ろうとすると肩を痛める事にも繋がります。

そのため、これを改善していくためには、地道にストレッチ等で肩甲骨の可動域を大きくしていったり、肩のストレッチを行なって筋肉の柔軟性を向上させる事が重要になるのですが、一つフォーム的な視点からの改善策として、現状では前脚を降ろす時に背筋が伸び過ぎていると言うのが有ります。

これでは胸椎が後彎しにくいので、肩も内旋しにくくなります。ここでもう少し背中を楽にして下の写真のような「黒人の姿勢」を作る事がポイントです。つまり胸椎が後彎して手の平が背中側に向いた状態ですね。

前脚を降ろして来た時に前傾しすぎていると良く無いので、打撃のように前傾する感覚は持たないでほしいのですが、背筋が伸びてしまってもいけないと言う事です。

さらに重要な問題としてワインドアップで投げるリズムは「挙げて降ろして投げる」では無く「挙げて、力を抜いて、投げる」ですから脚を挙げた後はもう無意識の世界です。そこで降ろしたときの姿勢を意識してしまうと始動が遅れます。ですから、『前脚が降ろされた時に、そういう姿勢(胸椎が後彎した姿勢)になっているように、前脚を挙げる時の姿勢を意識して作る』ということがポイントになります。現状ではやや後ろに反り返っている感が有るので、その辺が修正ポイントになるでしょう。

次の問題としては、下の写真のようにトップの所で肘が下がってしまう事です。

なぜこのようになるのかということですが、これもテークバックでの内旋が不足しているためです。山下さんのテークバックでは肩の内旋が不足した状態で、外転が大きく起きています。

ここで大胸筋と広背筋と言う二つの筋肉に注目してください。これらの筋肉は共に『肩関節の内転筋であり内旋筋』です。テークバックではどちらにしても肩が外転するので、内転筋である大胸筋や広背筋は引き伸されます。しかし、そこで内旋がかかっていると、そのぶんだけ内旋筋である大胸筋や広背筋も緩んでくれます。

一方、肩が内旋しないで外転してしまうと、大胸筋や広背筋は強く引き伸されて、その反射で収縮を起こします。こうなるとトップの時点で既に大胸筋や広背筋によって肩を内転かつ内旋させようとするので、肘は下がるし、肩の外旋も起こりにくくなります。これは特に肘を痛めやすい形です。

つまり山下さんのフォームでは1と2で肩が内旋の浅い状態で外転するため大胸筋と広背筋が引き伸され、3と4ではその反射によって収縮する事で肘を引き下げているわけです。これも、内旋して肘から挙るテークバックが身に付けば直るでしょう。

では、ここからはその他のポイントについて一つづつ書いて行きます。

★フィニッシュの形

フィニッシュでの重心移動はかなり大きく取れるようになって来ました。しばらくやっているうちに完璧なターン&タンブルフィニッシュになって来るでしょう。

フィニッシュの重心移動が大きく取れている原因は前脚股関節の伸展、つまり絞り動作が力強いからで、股関節伸展によって体を前に運ぶと同時に、絞り動作における股関節の内旋によって骨盤が回っているというわけです。

(写真)この辺までの形は非常に良いですが、ここから下半身が一塁側に回る動作とバランスを取るように上半身が逆側に回ろうとする動作があれば文句無しです。

(写真)前脚股関節の絞り動作が力強く出来ているので、フィニッシュで骨盤が大きくターン出来ています。これは股関節トレーニングの成果でしょう。ハムストリングスが使えるようになってきたと言う事です。

(写真)前脚股関節伸展によって体を前方に運ぶ事が出来ている。背景上の定点(赤●)との位置関係を見ると、重心が前に移動している事が解る。

(写真)ただ、最後にグラブ腕が背中側に引けていますが、これは上半身と下半身がねじれる動きがフィニッシュで出て来ると改善されて行くでしょう。ただ、こうした動作(グラブ腕が引ける)は恐らく外野からのバックホーム投げのクセだと思います。(林さんにも共通している事からも、そうでしょう。確か新庄が投手をやった時もそうなっていたと思います。)外野手のスローイングではグラブは引けやすいですね。恐らく助走動作との関係でそうなるのだと思いますが、そうした「外野手特有のクセ」を改善していくためにもピッチャー投げが必要である(野手もピッチャー投げをすることでスローイング動作の修正を計る事が必要である)と言う一つの事例だと考えて下さい。つまり、野手の場合、野手のスローイングによって乱れたスローイング動作をコマメにピッチャー投げによって修正していかなければならないということです。

続く。

★背骨を柔らかく使う

下の写真のように前脚を降ろす時に、骨盤を前傾に戻す動きは非常に良いですが、これも股関節のトレーニングの成果でしょう。

しかし、前述のようにここで背筋を伸ばし過ぎだと言う問題が有ります。そして、前脚を挙げて降ろす一連の動作の中で、背骨の使い方が硬いです。

(写真)脚を挙げるところ。ここでもっとグニャッとやるくらいの感じで背骨を柔らかく使った方が良い。

(写真)背骨が柔らかく使えている例

★前脚の降ろし方

これは当日の試行の中で改善されましたが、重要なポイントなので、ココでもかいておきます。前脚の振り下ろしと重心移動の軌道は滑り台を滑り落ちるような軌道になるのが理想です。下の写真では比較的それが出来ています。

ただ、当日、最初の方では「挙げて、降ろして、投げる」のリズムになっていたのか、前脚を挙げた後、ストンとその場に降ろすような動きになっていました。それを「クッと前脚を挙げて、フッと力を抜いて、ガッと投げる」のリズムにする事によって前脚の降ろし方と重心移動の軌道がだいぶ良くなりました。この感覚を忘れないようにしてください。

さらに後ろ脚の力が有効に使えるようになると、最後の低空飛行の伸びが良くなるでしょう。

★腕の初動

腕を逃がすと言う動作についてですが、前脚を挙げる時のこの動作(腕を挙げる動作)が少し大きくなりすぎています。こうなると腕の動き(テークバックの初動)が「重心移動と連動した動き」では無く「挙げた反動で降ろす」動きになってしまい、理想的なテークバック動作になりにくくなります。

まずは「腕が逃げる」動作のメカニズムについて確認しておきます。

前脚を挙げる時に、脊柱が丸まるため、肩甲骨が外転します。(胸椎が後彎すると肩甲骨が外転する) 肩甲骨は鎖骨から吊り下がっているので外転するときは上方回転を起こします。そして外転した肩甲骨は角度が下図右のようになっているので、この角度で肩甲骨が上方回転すると(山下さんの写真のように)肘が体の前に出ながら挙上されるわけです。これが「腕を逃す」動作です。

つまり、まず一点重要なポイントとして、体幹動作との連動の結果「挙る」のであって「挙げる」のでは無いということです。現状では、この点はそれほど出来ていないとも思いませんが、もう一つのポイントがあって、そのポイントが出来ていないために、腕の動き(挙上)が大きくなり過ぎています。

それは、ワインドアップモーションの脚の運びで前脚を後ろに引く時に肘を少し浮かすと言う事です。
前脚を後ろに引く事によって、後ろ脚に対して体が前傾する状態になる事はお話しましたが、その前傾する体幹部とバランスを取るようにして、図のように肘が浮くということです。下の写真では赤の線が前傾する体のライン(頭から前足)を表し、青のラインが上腕骨のラインを表しています。(写真は解りやすくするため、どちらのラインも極端に斜めにしています。)

山下さんの場合、ここでの「肘の浮き」がほとんど無いため、次の「逃がし」の動きが大きくなり、その結果、テークバックの初動が少し雑になっているわけです。「浮かしてから、逃がす」と憶えてください。

例えば、下の写真はチャド・ビリングスリーですが、前足を引いた時、後ろ脚の膝が緩み、体幹部が前傾して、肘が浮いています。少し前傾が過剰で、肘も浮き過ぎですが、このような状態になるのが良いということです。

そして、この状態から前脚を挙げて、体幹部との連動で自然に挙るぶんだけ腕を挙げて「逃がす」ことによって前脚が挙るスペースを確保すると言うのが正しい動きです。

★「手」の走り

「手の走り」と言うのは打撃に例えると「ヘッドの走り」と同じ言葉だと考えて下さい。現状では「肩」は走っていますが「手」は走っていません。これはつまり、投げ方そのものは良いし、下半身、体幹部の筋肉も有効に使えているのですが、上半身のしなやかさが無いので「手」が走らないということを意味します。

写真を見ても、肩と手がほとんど並走しています。スインガーほどでは無いにしても、パンチャーでもやはり肩に対して手は少し遅れます。

こうした事はシャドーを継続していくうちに少しづつ改善されていくでしょう。やれば必ずしなやかになっていくんだと思ってコツコツやっていくしか無いです。実際に効果は少しづつ表れて来るものです。

ただ、素振りの間にシャドーを挟むと、効果は実感しやすくなります。例えば重いバットを振った後のシャドーでは筋肉が硬くなっているので手は走りません。しかし、そこから5回10回とシャドーを重ねて行くうちに、だんだんと筋肉がほぐれて手が走るようになって来る事がわかるはずです。

この重いバットの素振りとシャドーの組み合わせは効果的ですが、あまり重いバットを振って筋肉が固まった状態でいきなり腕を振ると危険なので、その辺はストレッチを挟んだり、軽い腕振りを挟んだりする等した方が良いでしょう。基本、素振り10回にシャドー10回と言う感じです。あるいは重いバットの素振り10回、軽いバットの素振り5回、シャドー5回等でも良いと思います。基本は負荷の大きな状態でのスイングと負荷の小さな状態でのスイングを繰り返すということです。そういう事をやっていくと、もっと投げる時も「手」が走るようになってきて、そうなると球の伸びやキレが違って来ると思います。

ただ、今回、全力でのシャドーをやってもらう事で、末端部が走っていないと言う状態が良く解ったのは収穫でした。逆に言うと、そこの所にまだまだ、大きな改善の余地があるということですし、そこが改善されればまだまだ伸びるということです。そして、それを改善するのは、そんなに難しく無いですが地道な作業になると言う事です。理論的なフォームの問題と言うよりも、スローイング動作(負荷の小さいスイング)を繰り返す事です。その結果は、打撃でのヘッドの走りにも影響してくるでしょう。

★顔の向きとグラブ腕

その他のポイントとして、まず顔の向きがブレ過ぎですが、これはテークバックで肘が背中側に入る時に顔が目標から逸れる動きが無くなっていけば、改善されて行くでしょう。

また、「手が走る」と言う話題で書きましたが、もう少し肩の回転と腕の回転の間にタイムラグが出来ると、軸が安定した状態でのスイングになるので、顔のブレも軽減されていくでしょう。

次に、グラブ腕ですが、現状、問題はあるものの写真の3コマ目などは良い位置でグラブを握れています。この形が作れて、投げた後に体の前に残る事が出来るまでをまず第一目標としましょう。

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以上です。次回は打撃のパワートレーニングがメインテーマですが、打撃動作と投球動作もポイントを見たいと思います。

余談ながら、下の動画の最初に浅村が出てますが、このレベルを越えれば間違い無くNPBで活躍出来るわけです。パワーとスイングスピードでは不可能では無いと思えるところまで来ましたが、柔らかさではまだまだ浅村の方が体の使い方が柔らかいです。ただ、この動画を見る限りだとそんなに無理でもなさそうですね。同じ右打者のトップ型の構えなので浅村はひとまずの目標になるでしょう。


これはセスペデスの打撃練習ですね。


そして、これはキューバのアレクセイ・ベル。この動画の2.46くらいからのスイングスピードが出せれば文句無しでしょう。