下の写真にダルビッシュ投手特有のアームアクションが見て取れます。つまり身体を捻る事でグラブ腕が壁のようになって内側に少し内旋するような動作です。
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この動作の結果としてフォロースルーでグラブ腕が後ろに引けます。これは少なくともパワーの面ではロスに繋がります。
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この辺を上手くやっているのが藤川球児です。
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7の所で両腕の形が左右対称になり、自然に内旋がかかり、その後の赤枠のシーンでは両肩が同時に外旋します。これによって胸の張りも強くなりますが、グラブ腕は外旋する事で肘が身体の前に出て来るので身体の前に残りやすくなります。グラブが身体の前に残ると前肩が引けないのでパワーをロスしません。
つまり、この写真のような左右対称な腕の形を(腕の力で作るのでは無く)重心移動との連動の中で作る事がポイントになります。そして身体の捻りが大きくなるほど、この形は作りにくくなります。そこが回し込み式の難しいところで、スムーズに動ける反面、パワーのロスが出ると言う事です。
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※)この形は「inverted-W」と言ってアメリカでは肘を傷める原因とされる場合が多いですが、それは上半身で無理にこの形を作ったり、過剰に肘が背中側に入るからで、重心移動と連動して作る事が出来るなら、本来は理想的な形です。
下の写真は、藤川球児的なアームアクションを体感するための実験です。両腕が左右対称に内旋した形を作ったら、その両腕を素早く外旋しながら上半身を90度ターンします。そうすると、グラブ腕が折り畳まれて胸の前に残ってくれる はずです。
これを実現するためのポイントは腕の動き始めに有り、そこが出来れば後は自然に(オートマチックに)そうなります。(取って付けたようにグラブの位置を変えたり、前に残そうとすると不要な筋肉が働き、余計に力が落ちます。)
下図は重心移動と連動したアームアクションのメカニズムです。両腕はセットの位置で力を抜いておくと、重心移動が始まった時に自然に割れます。その時、両手が一度落下し、(おそらく)上腕二頭筋に 伸張反射が起きて、両肘が左右対称に曲がった形が出来ます。この動き出しさえ出来れば、後は自然に上手くいきます。
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ところでダルビッシュ投手と似たグラブ腕の使い方をしていたのが斎藤和己です。やはりグラブ腕が伸びて壁のようになり、その後、外旋が上手く働かずに背中側に引けています。
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なぜこのグラブ腕の使い方になると背中側に引けるのかというと、 おそらく、内旋された状態でブロックされてしまうからでしょう。ダルビッシュ投手の場合は意識的に内旋させている事は無いと思いますが、そういう投手や教え方は有ります。ダルビッシュ投手の場合は、身体の捻りが大きくなる事で、自然にグラブ腕がそれに近い状態になり、結果的に内旋位にブロックされるのでしょう。実際、サイドハンドの投手はだいたいこのグラブ腕の動きです。
この場合、危険なのはむしろ肩の方では無いかと考えられます。昔で言えば江川卓など、グラブ側が上手く機能しない投手に肩を壊す例が多いからです。前肩が後ろに引ける事で、投球腕の側に依存する度合いが増すのでしょう。動画は斎藤投手とダルビッシュ投手の比較です。最後にグラブ腕が引ける所に注目してください。
それではどうすれば、両腕が左右対称に割れてグラブが身体の前に残るアームアクションになるのかというと、それは以下の3点がポイントになります。
1)両腕を腕の力で割らず、重心移動の結果として割れるようにする
2)身体の捻りを極力小さくする
3)手を肘よりも高い位置に置く(手の落下が大きくなり、反動で肘が挙がりやすい)
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この辺がクリアーされているのが藤川球児です。彼はこの点(特に重心移動との連動でグラブ腕を割る)において日本野球の中で一番上手い投手だったと思います。それが豪速球の大きな秘訣でしょう。なぜなら腕の動きだしが体幹主導になっているため、その後のスイングも体幹主導になるからです。腕でテークバックしてしまうと腕の力に頼って投げる事になります。藤川球児の動画でイメージを掴んでください。セットポジションに保持された両腕が重心移動と連動して、「もうこれ以上、ひっついてられない」という段階になって始めてスパッと割れます。
両腕が左右対称に割れて、身体の前にグラブが残る藤川球児のフォーム
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ただ、ダルビッシュ投手のアームアクションがこの状態に近づいたとして、変化球に影響が出る可能性は考えられます。なぜなら、より「体幹主導」の動作になるため、腕の振りを意図的にコントロールする事は難しくなるからです。(コントロールが悪くなると言う意味ではありません)ただ、身体運動のメカニクスとしては理想的で、出力、身体への負担という観点からは良くなります。
〜その3完〜