素晴らしいスイングだ。片手フォローである点を除くと、ラボで追求しているスイングの理想型に近い。黒人特有の、ハムストリングスが効いた、はちきれんばかりの躍動感を感じさせるスイングである。
そして、素晴らしいスイングにはつきものの、構えてから投球が来る「間」もバッチリだ。良いスイングはこういう間の時に多い。
80年代から90年代に活躍したオートマチックステップの打者だ。知らなかったが、WIKIを見ると、結構良い成績を残している。特に1987年の47本塁打 打率0.307 打点134が目を引く。
ジョージ・ベル WIKI
ドミニカの出身のようだが、やはりこの種の打ち方は中南米原産なのだろうか。ただ、ステップが小さく、後ろへの体重移動も小さい(或は無い)打ち方は、アメリカにも昔から良く有ったので、こうした打ち方はアメリカ野球の感性からすると馴染みやすい物であるだろうし、むしろアメリカ野球的である。
クラウチングで、首の角度を、その前傾した脊柱軸に合わせている。クラウチングも首の傾きもやや過剰だが、こうするとハムストリングスの力はより使いやすくなる。そのため、体の回転が非常に豪快で、腰を突き出したフォロースルーが取れている。そして、始動時に発生する重心移動も充分に力強い。オートマチックステップのツボを心得たスイングだ。
ただ、クラウチングの角度を過剰にするデメリットはスイングがアウトサイドインの遠回りになり、体も突っ込みやすく遅い球を我慢しにくい事にある。
また、この打者のオートマチックステップは、後ろ脚への体重移動によって爪先立ちになった状態から始動する、言うなれば「セミ・オートマチックステップ」だ。横から見ると、スタンスはやや狭めだが、黒人でハムストリングスの力が使いやすい体型であれば、このスタンスでも力が発揮出来る。もちろん、割った方が良いのは当然だが。おそらく、このスタンスの狭さなので、始動前に重心移動を行い、その力を利用しないと力が発揮出来ないのだろう。股関節を割って構えると、止まった状態からパワーを発揮出来るようになる。
メジャーリーグには確かにオートマチックステップの打者が数多くいるが、実質的にはセミオートマチックステップの打者が、その大部分を占めるだろう。マット・ケンプもしかり。
この打者のスイングから学ぶべき事は、いわゆる「ステップ」をしなくても、これだけ体の力を使い切ったスイングが出来る(本当はその方が体そのものの力は使い切れるだろう)ということだ。(ただし、オートマチックステップはノーステップでは無い。実質的には脚は上がる。ノーステップは間違った打ち方だ。日本でもノーステップは一時的なブームで終わったが、ノーステップは間違った打ち方なので終わって当然である。)
しかし、こうした「ステップの小さい打ち方」を可能にしているのは、黒人特有の腸腰筋やハムストリングスの強さと、それに伴う運動機能の良さであるから、オートマチックステップを取り入れる打者は、そこを重視しなければならない。日本人の体のままでは、このスイングは出来ないだろう。いわゆる「技術論」だけでは到達出来ないレベルだ。黒人の身体機能に近づき、黒人のようなスイングを身につける。それでなければ、日本から世界に通用する強打者は育たない。