2012年6月9日土曜日

黒人の動きと日本人の動き



上の動画で、どちらのダンサーが上手く見えるでしょうか。パッと見はインストラクター的なスウェットのダンサーの方が上手く見るかもしれません。実際、身体が良く動いているように見えるのはスウェットの方です。しかし「黒人的」と言う観点から見ると、また違うのです。

この種のダンスの見方で難しいのは「ダンスが上手い」と言うのと「黒人的な」と言うのは必ずしもイコールでは無いと言う事です。つまり、ダンスが上手くてもファンキーさが無い場合が多々有るわけです。
黒人的な身体的特徴が無くても、ダンスを練習して難しい動きをマスターすれば、一般的には「ダンスが上手い」と言う事になります。一方、黒人的な身体的特徴が有り、リズム感や運動神経が良くても、ダンスの練習をしなければ、一般的には「ダンスが上手い」とは言われません。

しかしダンスを練習していない人でも、黒人的な身体的特徴を備えている場合、少し身体を揺すっただけでも何とも言えない雰囲気が出たりするのです。逆に言うと、派手な動きを伴わない、ただ音楽に合わせて身体を揺すっている動きに、(表面的なフリ付けでは誤摩化せない)骨格的特徴の違いが出てくる訳です。こればかりはいくら日本人が練習したところで、(黒人には)中々かなうものでは有りません。

私の場合、この種のダンスを見る時には何よりも、そこに注目します。つまり、どんなフリが出来るのか、どんなステップが出来るのかと言う問題では無く、一言で言うと「黒人的なフィーリングが出ているのか」と言う事の一点に注目するわけです。なぜなら、それは言い変えれば「腸腰筋とハムストリングスを上手く使って骨盤が前傾した状態からの出力が上手く出来ているか。それによって体幹で上手くリズムの波が生み出しているか」と言う事を意味するためです。

そういう視点でもう一度、上の動画を見てみましょう。スウェットの方は横から見ると、脚を挙げる所で、腰椎が後湾して、骨盤が後傾してしまっています。一方、Tシャツの方は脚を挙げた所でも腰椎が後湾していません。

2.10からの音楽に合わせている所を見ると、その違いが良く出ています。スウェットの方は脚を挙げて肘を挙げた所で、肩をすくめるような状態になり、首が両肩の間に埋まるような感じになっています。これは脚を挙げた所で腰椎が後湾するので胸椎の後湾がキープ出来ずに、肩甲骨が胸郭に上手く被さらないからです。そのため、肩甲骨を支えたり、肘を引き上げたりするのに僧帽筋を強く使う必要が生じます。そうするとなおさら胸椎が前湾しやすくなるので、腰椎が後湾、つまり骨盤が後傾しやすくなってしまうのです。

一方、Tシャツの方は、肘を挙げた時に、肩をすくめるような感じにならず、首周りをスッキリさせたまま踊っています。これは、脚を挙げて肘を挙げる時に、腰椎が後湾しないので、胸椎を後湾した状態にキープする事が出来るため、肩甲骨を胸郭に被せたまま動作出来るためです。その結果、僧帽筋が過剰に働かなくなるので、なおさら胸椎を後湾させた状態にキープしやすくなり、結果的に骨盤の後傾を招きにくいのです。

この違いがステップにも出ています。スウェットの方は骨盤が後傾気味なので、大腿四頭筋を使った腿挙げになりがちで、その分、脚を挙げるのが重そうですし、脚を踏み下ろす際にハムストリングスも使いにくいので、下に踏みつける動きが弱くなっています。
一方、Tシャツの方は骨盤が前傾した状態に保ちやすくなっているので、脚を引き上げる動作が軽やかで、反対に下に踏み下ろす動作が力強く出来ています。
つまりスウェットの方は脚を挙げる時に力を使い、下ろす時に力が使えないのが、反対にTシャツの方は脚を挙げる時に力を必要とせず、下ろす時に力が使えているわけです。

この振りでは、脚が着地する所をビートの強拍と合わせますから、下ろす時に股関節伸展が使えた力強い動作になっている方がリズムが出るのです。

全体的な雰囲気では、スウェットの方が如何にもリズム感が有りそうに見えます。それは脊柱のしなりも非常に柔らかく使っていますし、腕の動きも表情が豊かだからです。ただ、よく見ると、脊柱のしなりが無理矢理に体幹で作ったものであり、脚の動きの結果としての脊柱の反り(股関節伸展の結果としての脊柱の反り)以外の成分が混じっていますから、本当の意味で体幹で生み出したリズムにはなっていないわけです。こういう場合、腕の動きの柔らかさで、見た目の動きの波を作り出そうとする人が多く、これらが日本人のダンスの特徴です。

一方、Tシャツの方は、あまり柔らかく脊柱が動いているとは言い難いものの、その動きが、ステップと連動しており、体幹でリズムを生み出しているので、腕で余計な動きの波を作り出す必要が無いのです。

動きだけを見るのではなく、リズムを良く聞きながら見ると、Tシャツの方が、力強くリズムの強拍のポイントを捉えられている事がわかります。

恐らく、スウェットの方が歴が長いか、熱心に取り組んでいるように思えます。そのため、非常に身体を柔らかく使ってリズムを取る事が出来ているのですが、黒人的なリズムの取り方はTシャツの方が上手く出来ているのです。これは骨格的な特徴の違いが大きいでしょう。しかし、もう一つの原因は、ダンスの世界で、黒人の動きの特徴を解剖学的に考えようとする雰囲気が無いため、腸腰筋、ハムストリングス、骨盤の前傾、脊柱の生理的湾曲と言ったキーワードが念頭に無い状態で練習をしているためだと思います。

黒人化のためのトレーニングを積み、黒人の動きをよく見ていると、今回の内容も実感として伝わりやすいと思います。