2015年5月20日水曜日

STEP9 クイックモーション基礎

 クイックモーションの定義とその指導メソッドを紹介します。クイックモーションは仕組みさえ解れば簡単にできるので、コレについても事前プログラムで済ませておきます。

 ここではまずタイムを縮める云々以前に、「クイックモーションという投げ方の中で、如何に身体の力を使い切り、無理の無い投げ方で良い球を投げられるか」という事をメインテーマとします。これは少年野球などでクイックモーションを教える際にも重要な事でしょう。これが出来た上で、次にタイムの事を考えるべきです。

 そうした点を考慮して、BPL理論でクイックモーションのお手本として採用しているのがクレイ•バックホルツのそれです。(2010年頃の。最近ではクイックに関してはやや劣化した)スムーズでギクシャクしておらず充分な球威が出ています。



 それではまず基礎中の基礎から説明します。まず、そもそも「セットポジション」と「クイックモーション」の違いとは何でしょうか? 下の動画を見て考えてみましょう。単なる脚の挙げ方の大きい小さいや、動きの速さの問題ではありません。



 答えは以下の通りです。

セットポジション 脚を挙げてから打者方向に重心移動する
クイックモーション 脚を挙げると同時に打者方向への重心移動を始める

セットポジション

クイックモーション

 セットポジションの脚の挙げ方は誰でも簡単にできると思います。それではどうすればクイックモーションの脚の挙げ方が出来るのでしょうか。つまりどうすれば「脚を挙げると同時に重心移動が始まる」という動きが出来るのでしょうか。そのためのポイントは2つあります。つまりその2つこそが「クイックモーションが成立するために欠かす事の出来ない動作」なのです。

 それら2つのポイントとは「抜き」「捻り」と表現する事が出来ます。

1)「抜き」について
 下図のように物体を二本の柱で支えている状態から一本を抜くと、物体はその抜いた柱の方に倒れます。つまりクイックモーションでは前脚を挙げるときに後ろ脚に体重を移動しないで、前脚を「抜く」ように挙げる事で、前脚の挙上と同時に重心移動が始まってくれます。



 「抜き」については鏡に自分を映して、自分の身体が空間位置上で後ろ脚の方向に動かないように気をつけながら前脚を挙げると実感できます。

2)「捻り」について
 下図のようにセットポジションの構えから身体をバックスイングの方向に捻ると、前の股関節がセンター方向に、後ろの股関節が打者方向に動きます。それによって後ろ足の接地点と後ろ脚股関節の間に距離が出来、後ろ脚の大腿骨が斜めに傾きます。


 例えば鉛筆でも机の上に真っすぐ立てている限りは安定しています。しかし少しでも斜めになると、重力によって傾きを増して行き、最終的には倒れます。つまり前脚を挙げながら後ろ脚が斜めになる状態を作る事によって「前脚の挙上と同時に重心移動が始まる」という動きを可能にしているのです。
 ですから、クイックモーションでは前脚を挙げるとき、若干後ろ脚の方に寄せるようにして捻りを入れる必要があります。(もちろん捻り過ぎは駄目)

※)捻りのメリットはそれによって後ろ脚に体重が乗る事にあります。一方でメリットは捻りすぎるとその反動で開いたり様々な好ましく無い動作を引き起こす点にあります。

 バックホルツのフォームを見ると、前脚を挙げるとき2コマ目のように(背景と比較)センター方向に重心移動していない事が解ります。つまり「抜き」が出来ています。また、前脚を挙げながら後ろ脚大腿部が斜めに傾く形を作れています。「捻り」も丁度良いくらいです。


 このようにクイックモーションと言うのは「前脚を挙げるときに抜きと捻りを行う事により、脚を挙げると同時に重心移動が始まるようにする投げ方」を意味します。下の動画はBPL理論の実践者によるクイックモーションの実例です。



 なお、クイックモーションにおける「始動ポジション」は脚を挙げた直後と考えると良いでしょう。ここでも「動きの中での始動」になります。バックホルツの連続写真で言うとモノクロになっているあたりで始動するイメージです。



 なお、スタンスの広さによってクイックの性格は変化します。スタンスを広めに取れば「抜き」がやりやすくなり、モーションのタイムは速くなりますが後ろ脚に体重を乗せにくいので球威は出にくくなります。一方、狭くすると後ろ脚に乗せやすくなりますが、そのぶん「抜き」がやりにくくなるため、タイムは遅くなり球威重視となります。しかしながら、狭いスタンスでも「抜き」を上手くやる事によってタイム面でのデメリットを最小限に抑える事が出来ます。ある意味、これがクイックの理想像とも言えるでしょう。バックホルツをお手本にしているのは「狭いスタンスながら抜きを上手くやる事によってタイムと球威を高い次元で両立させている」からです。

 以上の内容が理解できたら、シャドウピッチングも利用しながら前脚の挙げ方や始動のタイミングのコツを掴めるまで練習してみましょう。