最近よく話題にしている、パンチャーのピッチングフォームにおける始動が早いか遅いかと言う問題について書きたい。
パンチャーのピッチングでは、後ろ脚に体重を乗せた状態から「エイッ」と力を入れて投げる。瞬発的に大きな力を発揮する意識だ。この意識で一気に投げようとすると、無意識下で下半身が力を発揮し、重心移動が起きる。そして、この意識の中で「エイッ」とやる瞬間を始動の瞬間と言う。
※)ただ、ポイントを抑えずに思い切り投げると、アーム式や担ぎ投げになって、肩や肘の故障に繋がるので、そのへんはラボに来るなり掲示板で聞くなりしてください。掲示板でも大雑把な事は教えられます。
ポイントとしては出来るだけ後ろ脚に体重が乗った状態から始動したいと言う事。つまり、出来るだけ土台となる脚に体重が乗った状態から始動した方が力が出る。それとは逆に、脚を挙げて、脚を降ろして、やや重心移動が進んだ状態で始動するパンチャーの投手も多い。というか、一般的な投球技術理論を考えると、むしろその方が自然だろう。
今回は、始動の早いタイプと始動の遅いタイプを動画で紹介する。もちろん、パンチャータイプとしては始動が早い方が良いのだが、遅いタイプには遅いタイプなりの利点があったりして、一概に投手成績を左右する要因にもなっていないのが、また野球の面白い所だ。
始動の早いタイプ
クレイグ・キンブレル
メジャーで豪速球クローザーと言えばこの人。脚を挙げたらすぐ投げるような感じのフォームだ。ラボでも教えている事だが、脚を挙げて、降ろして、投げるの感覚だと始動が遅い。降ろした時には既に重心が移動しているからだ。なので、脚を挙げて、フッと力を抜いて、ガッと投げると言うリズムで教えている。これでも実際には脚を降ろしたあたりでの始動になる。脚を降ろしてから始動しようとすると、実際にはもっと始動が遅れる。キンブレルも脚を挙げたら、後はリラックスした状態から一気に投げると言うだけのフォームに見える。ただ、こうした始動の早いフォームは遅い変化球が投げにくい。実際、キンブレルもほとんど投げない。
デビッド・ロバートソン
キンブレルと似たタイプのフォーム。ただ、この投手は大きなカーブも投げる。(動画)僅かに始動のタイミングを遅めにずらし、力を抜き気味に投げているように見えるが。この動画では、速球の次にカーブを投げているので比較しやすい。また、これはキンブレルにも言える事だが、後ろ脚の膝をやや曲げ過ぎているせいで、重心移動の距離がやや短い。肩を痛めなければ良いが。
チャド・ビリングスリー
ビリングスリーも始動が早いので力感が有る。カーブをよく投げる事も関係があるように思えるが、多少アーム式なのが気になるが。ビリングスリーの動画で注目してほしいのは、どのボールを投げるときも腕を強く振ってる事。始動が早いタイミングで変化球を投げようとすると、こういう感じになると言う見本のような投げ方だ。
ジャスティン・バーランダー
この動画の中ではバーランダーは比較的多彩な変化球を投げている。そして、ビリングスリー同様、どのボールも腕を強く振って投げている。始動の早いパンチャーの特徴だ。先発投手の中ではメジャー最速と言っても良いスピードボールを投げるバーランダーも、やはり始動は早い。ただ、バーランダーの場合、やや後ろ脚の膝を曲げてタメを作る感じが有るので、そこのタイミングの調整で始動のタイミングや、力の入れ具合を操作しやすい投げ方にも思える。ただし、膝を曲げるようなタメの作り方は、動作理論上は良く無いので真似はしないで欲しい。
アレクシー・オガンドー
上半身動作は似ていないが、全体の投げるリズムや膝を折る所などはバーランダーと似ている。元鉄砲肩の外野手である。野手投げと言われればそれまでだが、パンチャータイプとはある意味、そういう投げ方である。何故かと言うと、モーションの早さが要求される野手にはパンチャータイプが多いからだ。もしかしたら、今のメジャーを見ていて「野手投げの投手が多い」と思う人がいるかもしれない。そしてまた、今の日本プロ野球を見ても「野手投げの投手が増えた」と思う人もいると思う。そうした人は、スインガータイプを深く理解している人で、逆に言うとパンチャーも理解出来る素養が有る。
始動の遅いタイプ
アービン・サンタナ
脚を挙げて、降ろして、投げると言うリズムの典型のようなフォーム。そのぶん、球速もバーランダーに比べると遅い。また、上の動画はパンチャーである事が理解しやすいように、比較的思い切り投げている動画を選んだが、それでも後半に力を抜いて変化球を投げているシーンが有る。基本的にあまり全力で投げない感じで、そのへんも始動の遅いタイプの特徴が出ている。腕の振りを緩めて投げる事がやりやすい利点を活かして中速系の変化球を武器にしているようだ。この動画のように、軽く投げて80マイル中盤の変化球で打ち取っているシーンが多く見られる。
イバン・ノバ
始動のタイミングが遅いので、スインガータイプだと思っていたが、パンチャータイプのようだ。スインガーに分類していた頃、ベースボールバイブルの東さんに「え、これがスインガーなんですか?」と聞かれたが、よく見ると、どうやらパンチャーのようだ。ただ、この投手の場合、始動のタイミングが遅い中でも、常に強く腕を振って様々なボールを投げている印象が有る。ただ、これは打撃でも投球でも言える事だが、基本的には重心移動である程度まで体を移動させておいて、最後にエイッと力を入れるフォームが多い。落合や福留のように最後まで力を抜きっぱなしと言う例も珍しければ、逆にオートマチックステップでいきなりガツンとやる例も珍しい。ただ、理想はそういう所に有ると言うのが、スインガーとパンチャーと言う分類方法のミソである。ノバにしても、この身体で、全てが理想的であれば100マイルくらいは出るのでは無いか。
エドウィン・ジャクソン
この投手も、スインガーと思っていたが、よく見るとパンチャーのようだ。始動のタイミングが遅いし、その利点を活かして軽く投げて80マイル台の変化球を投げるシーンが目立つので、スインガータイプと間違えていた。この動画のように、80マイル台中盤の縦スラのような落ちる変化球で空振りを取るシーンが多いが、こうした抜く系の変化球を投げやすいのも、このタイプの特徴だろう。遅い始動のタイミングから、やや出力を抑え気味にして、スッポ抜くように投げているのだと思う。
まとめ
このように、始動の早いタイプの方が球速は出る。しかし、始動が遅いタイプは、緩い変化球が投げやすい上に、力の加減がしやすいので、スピードの変化も付けやすい。そうした利点を活かして80マイル台の中速系変化球で勝負するタイプが多い。
しかし、ふと思った事だが、こうした特徴を理解しておけば、基本は始動の早いフォームを身につけつつ、やや始動のタイミングをずらす事で、両方のメリットを活かした投球が出来るのではないかと言う事だ。ただ、これはまさに今、文字通り机上で思いついた事なので、やってみた結果には責任は持てないが。もう少し試してから、もう一度、このテーマについて書こうと思う。もちろん、この問題の最大のテーマは「基本となる自分のフォームを崩さずに、試合中にアレンジを効かせる事が出来るか」と言う事になる。
パンチャーのピッチングでは、後ろ脚に体重を乗せた状態から「エイッ」と力を入れて投げる。瞬発的に大きな力を発揮する意識だ。この意識で一気に投げようとすると、無意識下で下半身が力を発揮し、重心移動が起きる。そして、この意識の中で「エイッ」とやる瞬間を始動の瞬間と言う。
※)ただ、ポイントを抑えずに思い切り投げると、アーム式や担ぎ投げになって、肩や肘の故障に繋がるので、そのへんはラボに来るなり掲示板で聞くなりしてください。掲示板でも大雑把な事は教えられます。
ポイントとしては出来るだけ後ろ脚に体重が乗った状態から始動したいと言う事。つまり、出来るだけ土台となる脚に体重が乗った状態から始動した方が力が出る。それとは逆に、脚を挙げて、脚を降ろして、やや重心移動が進んだ状態で始動するパンチャーの投手も多い。というか、一般的な投球技術理論を考えると、むしろその方が自然だろう。
今回は、始動の早いタイプと始動の遅いタイプを動画で紹介する。もちろん、パンチャータイプとしては始動が早い方が良いのだが、遅いタイプには遅いタイプなりの利点があったりして、一概に投手成績を左右する要因にもなっていないのが、また野球の面白い所だ。
始動の早いタイプ
クレイグ・キンブレル
メジャーで豪速球クローザーと言えばこの人。脚を挙げたらすぐ投げるような感じのフォームだ。ラボでも教えている事だが、脚を挙げて、降ろして、投げるの感覚だと始動が遅い。降ろした時には既に重心が移動しているからだ。なので、脚を挙げて、フッと力を抜いて、ガッと投げると言うリズムで教えている。これでも実際には脚を降ろしたあたりでの始動になる。脚を降ろしてから始動しようとすると、実際にはもっと始動が遅れる。キンブレルも脚を挙げたら、後はリラックスした状態から一気に投げると言うだけのフォームに見える。ただ、こうした始動の早いフォームは遅い変化球が投げにくい。実際、キンブレルもほとんど投げない。
デビッド・ロバートソン
キンブレルと似たタイプのフォーム。ただ、この投手は大きなカーブも投げる。(動画)僅かに始動のタイミングを遅めにずらし、力を抜き気味に投げているように見えるが。この動画では、速球の次にカーブを投げているので比較しやすい。また、これはキンブレルにも言える事だが、後ろ脚の膝をやや曲げ過ぎているせいで、重心移動の距離がやや短い。肩を痛めなければ良いが。
チャド・ビリングスリー
ビリングスリーも始動が早いので力感が有る。カーブをよく投げる事も関係があるように思えるが、多少アーム式なのが気になるが。ビリングスリーの動画で注目してほしいのは、どのボールを投げるときも腕を強く振ってる事。始動が早いタイミングで変化球を投げようとすると、こういう感じになると言う見本のような投げ方だ。
ジャスティン・バーランダー
この動画の中ではバーランダーは比較的多彩な変化球を投げている。そして、ビリングスリー同様、どのボールも腕を強く振って投げている。始動の早いパンチャーの特徴だ。先発投手の中ではメジャー最速と言っても良いスピードボールを投げるバーランダーも、やはり始動は早い。ただ、バーランダーの場合、やや後ろ脚の膝を曲げてタメを作る感じが有るので、そこのタイミングの調整で始動のタイミングや、力の入れ具合を操作しやすい投げ方にも思える。ただし、膝を曲げるようなタメの作り方は、動作理論上は良く無いので真似はしないで欲しい。
アレクシー・オガンドー
上半身動作は似ていないが、全体の投げるリズムや膝を折る所などはバーランダーと似ている。元鉄砲肩の外野手である。野手投げと言われればそれまでだが、パンチャータイプとはある意味、そういう投げ方である。何故かと言うと、モーションの早さが要求される野手にはパンチャータイプが多いからだ。もしかしたら、今のメジャーを見ていて「野手投げの投手が多い」と思う人がいるかもしれない。そしてまた、今の日本プロ野球を見ても「野手投げの投手が増えた」と思う人もいると思う。そうした人は、スインガータイプを深く理解している人で、逆に言うとパンチャーも理解出来る素養が有る。
始動の遅いタイプ
アービン・サンタナ
脚を挙げて、降ろして、投げると言うリズムの典型のようなフォーム。そのぶん、球速もバーランダーに比べると遅い。また、上の動画はパンチャーである事が理解しやすいように、比較的思い切り投げている動画を選んだが、それでも後半に力を抜いて変化球を投げているシーンが有る。基本的にあまり全力で投げない感じで、そのへんも始動の遅いタイプの特徴が出ている。腕の振りを緩めて投げる事がやりやすい利点を活かして中速系の変化球を武器にしているようだ。この動画のように、軽く投げて80マイル中盤の変化球で打ち取っているシーンが多く見られる。
イバン・ノバ
始動のタイミングが遅いので、スインガータイプだと思っていたが、パンチャータイプのようだ。スインガーに分類していた頃、ベースボールバイブルの東さんに「え、これがスインガーなんですか?」と聞かれたが、よく見ると、どうやらパンチャーのようだ。ただ、この投手の場合、始動のタイミングが遅い中でも、常に強く腕を振って様々なボールを投げている印象が有る。ただ、これは打撃でも投球でも言える事だが、基本的には重心移動である程度まで体を移動させておいて、最後にエイッと力を入れるフォームが多い。落合や福留のように最後まで力を抜きっぱなしと言う例も珍しければ、逆にオートマチックステップでいきなりガツンとやる例も珍しい。ただ、理想はそういう所に有ると言うのが、スインガーとパンチャーと言う分類方法のミソである。ノバにしても、この身体で、全てが理想的であれば100マイルくらいは出るのでは無いか。
エドウィン・ジャクソン
この投手も、スインガーと思っていたが、よく見るとパンチャーのようだ。始動のタイミングが遅いし、その利点を活かして軽く投げて80マイル台の変化球を投げるシーンが目立つので、スインガータイプと間違えていた。この動画のように、80マイル台中盤の縦スラのような落ちる変化球で空振りを取るシーンが多いが、こうした抜く系の変化球を投げやすいのも、このタイプの特徴だろう。遅い始動のタイミングから、やや出力を抑え気味にして、スッポ抜くように投げているのだと思う。
まとめ
このように、始動の早いタイプの方が球速は出る。しかし、始動が遅いタイプは、緩い変化球が投げやすい上に、力の加減がしやすいので、スピードの変化も付けやすい。そうした利点を活かして80マイル台の中速系変化球で勝負するタイプが多い。
しかし、ふと思った事だが、こうした特徴を理解しておけば、基本は始動の早いフォームを身につけつつ、やや始動のタイミングをずらす事で、両方のメリットを活かした投球が出来るのではないかと言う事だ。ただ、これはまさに今、文字通り机上で思いついた事なので、やってみた結果には責任は持てないが。もう少し試してから、もう一度、このテーマについて書こうと思う。もちろん、この問題の最大のテーマは「基本となる自分のフォームを崩さずに、試合中にアレンジを効かせる事が出来るか」と言う事になる。