最後に技術編です。
中編で書きましたように、リュータ君の場合は技術と言うよりも、良い骨格を作って行くということが重要なポイントになります。日本人的と言うのも正確な表現かは解りませんが、とにかく脊柱が逆S字を描きやすい傾向にあるのです。そして、そうした骨格による技術の特徴と言うのもあります。私は経験上、そうした選手も実際に何人か見て来ましたが、中にはチームで主軸を打っていたりもします。その他、かなり大きな当たりを飛ばすパワーヒッターもいました。しかし、ここで問題としているのは「プロとして見た場合」と言う事なのです。
そして、実はあのイチローも、そうした骨格の形と言う意味ではかなり不利なタイプなのです。
それでは具体的なフォームについてですが、脚を挙げたときに、もう少し手が体寄りに有った方が、踵に体重が乗りやすくハムストリングスの力が使えます。今は少し手が体から離れているため、ハムストリングスが使い切れておらず、重心移動が今一歩弱いです。最初の後ろ足で踵の踏みはかなり良い感じが出ているだけに勿体ないところです。左の写真くらいの位置に手が来るようにしてください。
中編で書きましたように、リュータ君の場合は技術と言うよりも、良い骨格を作って行くということが重要なポイントになります。日本人的と言うのも正確な表現かは解りませんが、とにかく脊柱が逆S字を描きやすい傾向にあるのです。そして、そうした骨格による技術の特徴と言うのもあります。私は経験上、そうした選手も実際に何人か見て来ましたが、中にはチームで主軸を打っていたりもします。その他、かなり大きな当たりを飛ばすパワーヒッターもいました。しかし、ここで問題としているのは「プロとして見た場合」と言う事なのです。
そして、実はあのイチローも、そうした骨格の形と言う意味ではかなり不利なタイプなのです。
イチローを観察していると、脊柱が逆S字を描いたり、腰椎が後彎して、腰が丸まっているケースがよく有ります。イチローの骨格もリュータ君と似たタイプです。ただ、イチローの場合は、プロ入りした後に選んだトレーニングが比較的良かったのです。腸腰筋とハムストリングスを重視する初動負荷理論です。
ところで、こうした骨格の最大の弱点は何かと言うと、パワーを発揮するのに大きな反動を必要とすると言う事です。例えばイチローの場合は打撃練習ではホームランを連発していると言われていますが、それは打撃練習では一定のタイミングで打てるので、反動動作を充分に行ないやすいからです。つまり、そうした打ち方をすればイチローにも日本レベルだと充分長距離打者のパワーが有るのですが、それが試合で出来にくい所に、このタイプの弱点が有るのです。リュータ君が脚上げ型におちついているのも、それと関係があるかもしれません。逆に言うと、そうした体型とは対局にあるような黒人選手等はノーステップに近い打ち方で充分にパワーが発揮出来たりするわけです。(そして技術としては、良い骨格を用いて、良い動きをしている黒人の打ち方の方がレベルが高いものです。)
そうした意味では、自分のタイミングで投げられる投手は、この骨格上の問題に打者程は強く影響を受けません。ですから、投手向きの体型、野手向きの体型と言うものもあるのです。例えば、阪神の井川なども「日本人的」な骨格の一人ですが、下半身に肉がつきやすいのもこのタイプの特徴で、そうなると当然脚取りも重くなるので走る上で不利になります。
こういった事を踏まえつつ、リュータ君の技術についての所感を書きます。
(1)投球編
ピッチングは技術的にはかなりソツの無い方です。腕も綺麗に触れているので肘を壊す心配もあまり無い方です。ただ、どんなに腕が綺麗に振れるタイプでも下半身の力が使えなければ、腕に頼ることになりますが、この場合は肩を痛めます。例えば斎藤佑樹は、かなり綺麗に腕を使うたいぷでしたが、後ろ脚の膝を曲げる独特のフォームだったため、大腿四頭筋が強く働き、ハムストリングスの力が使えず、重心移動が弱いと言う問題がありました。そして今、右肩痛で手術云々が取りだたされる状態になっています。斎藤ほど腕が綺麗に触れても肩を壊す心配は有るということです。
リュータ君の骨格を考えた場合、現状では前述しましたように「力を発揮するために大きな反動を必要とするタイプ」です。(ただ反動と言っても、投手の場合脚を挙げるだけで充分で無理に捻ったり、体を後ろに傾けたりする必要はありません。)
こうした特徴を考えると、体が出来上がるまでの10代の間は、特に体を大きく使って投げる事を重視した方が良いでしょう。その意味で、外野からのバックホーム等は良い練習です。逆にクイック等は、あまりやり過ぎると怖い面が有ります。ワインドアップの投球フォームでも、出来るだけ、ゆったり大きなフォームで投げる事を心がけた方が良いと思います。肩を壊すと、投手としては絶望的になりますから、この辺は特に気をつけてください。その意味で、外野手兼投手と言う今のポジションは良いという考え方も出来ます。
なお、クイックやオートマチックステップ投げ(高速クイック)を練習する場合は出来るだけ負担の少ないシャドーピッチングで行なうようにしてください。(新聞を丸めて粘着テープを巻いたシャドーボールを握ってください。タオルだとテークバックの形が実戦と違ってしまいます。)
それでは具体的なフォームについてですが、脚を挙げたときに、もう少し手が体寄りに有った方が、踵に体重が乗りやすくハムストリングスの力が使えます。今は少し手が体から離れているため、ハムストリングスが使い切れておらず、重心移動が今一歩弱いです。最初の後ろ足で踵の踏みはかなり良い感じが出ているだけに勿体ないところです。左の写真くらいの位置に手が来るようにしてください。
なお、メジャー式の脚の挙げ方は下の動画の方法で練習出来ます。
次に、高速クイックのオートマチックステップ投法ですが、構えにやや問題が有ります。写真のように左右の腕の形が左右で大きく違います。右肘が上がり過ぎていますが、これだと右肩の筋肉が緊張しやすくなります。その状態で腕を思い切り振ると、故障の危険もあります。この投げ方をする初期は確かにこれくらい肘を張った方が力が出る気がしますが、なれて来るともっと肘を低くしても力が出せるようになります。それまではシャドー中心で練習するのも手でしょう。
下図のようにまず左右対称の形を作り、そこから少し捻った状態が正しい形です。
また、下の写真の所で、腰を丸めて大腿四頭筋にタメを作る傾向が有りますが、その感覚も無くすことが重要です。(日本ではむしろ一般的なフォームなので悪いと気が付く事が少ないですが。松坂もそうです。)
投球は以上です。
(2)ランニング編
ランニングは現状では特に何もありません。ただ、言い忘れましたが、ダッシュの練習には二種類が有り、一つは徐々に加速して行く走り方で、もう一つは盗塁のように瞬発的にスタートする走り方です。前者はスキップから入るのも良いですし、後者は盗塁のスタートの練習とするのも良いでしょう。
また、盗塁のスタートは素晴らしいです。「体の面が素早く二塁方向に向く」「一塁側の左脚がまとわりつかずに、サッと地面から抜ける」「伸び上がらずに低い姿勢のままスタートする」といった、重要ポイントが全てクリアーされています。これも「ハムストリングスで立つ」ということと「右腕を下げた構え」が出来ているからでしょう。
ただ、この写真ではもう少し左の股関節が割れていた方が良いです。右腕を下げるのは体を左に捻り、左の股関節を割るためです。そうする事でスタート時に左脚股関節の割れ〜絞りを使った蹴りが強く効くからです。実際、今回のスタートではやや左脚の蹴りが弱いです。(意識して蹴ると言う話では無く、そのための構えを作れば良いということです。)
盗塁のスタートはイチローが非常に上手いです。日本人の俊足ランナーはイチローを倣ってか、皆、右腕を下げていますね。
7/23/2012 ヤンキースイチロー初盗塁!
ソフトバンク本多の盗塁
帰塁も、このように上半身が一塁を向いているので(右腕を下げると)頭から帰るのが速いのです。
因に盗塁と言うのは100m走に例えると、体が起き上がる前に二塁に付くので、本来は頭から滑り込む方が自然なのですが、それはあくまでも身体運動の観点から見た場合ですね。野球では、それ以外でも相手との兼ね合いで考える要素が有るので、ケースバイケースになるのでしょう。しかし、前傾姿勢で走りながら、脚から滑り込むと言うのはかなりロスの有る動作だと思いますが。
因に、2011年に盗塁王を取ったヤンキースのブレット・ガードナーの構えは面白いです。この構えは要するに、二塁方向に走り出すためのバックスイングを取っている状態を意味するのです。(ディズニーのアニメで説明しましたが。)ただ、このように腕を曲げてしまうと筋肉が疲労するので、この形が良いとも思いませんが。いずれにしても、この構えも右腕を下げた構えと意味する所は同じです。
なお、リュータ君の場合、構えではせっかく体が捻れてるのだから、もう少し左の股関節が割れていた方が良いですね。
(3)打撃編
バッティングについては、試合で脚上げ型をする場合でも、オートマチックステップの練習をすることが重要です。それが良い体の使い方だからです。一方、脚上げ型には脚上げ型の長所が有り、最終的に実戦でどちらの方が結果が出るか断言する事は非常に難しいのです。実際にメジャーでも、ステップ方法と成績の間に有意な相関関係は見られません。(現在のオートマチックステップの打者が自分の打ち方のメカニクスを理論的に把握していないと言うのを考慮すると、個人的には、本来はオートマチックステップ優位だと思いたいですが。)ただ、オートマチックステップで練習する事が体の使い方を良くする上で重要だと言う事です。
例えば、リュータ君の場合は股関節を割る練習が重要ですが、脚上げ型の場合、そうした構えを作りにくいのです。現状ではまだ股関節が割れていないため、大腿四頭筋に負担がかかっています。股関節を割った構えを身につけるメニューを行なって下さい。その他、ボトムハンドが緩みやすい問題など、問題点は当日お話したとおりです。
ただ,後ろ脚に体重を残しながら加減して振っている様子を見ると、まだ少し前脚の膝に違和感が有るのでは無いかと思います。
ところで、脊柱が逆S字を描きやすく、股関節が割れにくいと言う現在のリュータ君の状態は、膝痛を防ぐ観点から見ても、不安のあるものです。昨年、膝を痛めて手術した二人の強打者の動画を見て下さい。
アルバート・プホルズ
メジャー最強打者の一人、プホルズは昨年オフ右膝を手術し、今回のWBCでドミニカからの参加を見合わせた選手です。このように構えで右膝を内に絞った状態で深く曲げれば、膝を痛めて当然です。投手方向から見た動画を見ても、後ろ脚の膝をホームベース方向に大きく潰すように曲げている事が解ります。
ビクター・マルティネス
2008年オフに、ウォームアップとしてランジを行なっているとき、バランスを崩し、左膝を痛める。その後に手術。2012年のオフにも左膝を負傷。(情報ソース)
どちらの構えを見ても、メジャーでは少ない「脊柱が前傾しているのに首が真っすぐ立って、脊柱が逆S字を描いている構え」の打者です。その結果、骨盤が後傾し、膝がホームベース方向に潰れています。ランジ中の怪我と言うのはあくまでもキッカケで、それ以前から少しづつ症状が悪化していたのだろうと推測します。
こうした事例から考えても、理論的に考えても、リュータ君の場合、膝痛ということに関しては、特に予防に気を使って行った方が良いと思います。その意味でも坂道ダッシュ(下りは絶対に歩いてください)と箱の上に着地するジャンプは危険の少ない良いトレーニングです。腰椎が後彎し、膝が潰れた状態でしゃがまない事も非常に重要です。そして打撃では股関節が割れるようにして大腿四頭筋で体重を受け止めないようにすることが重要です。
特に、リュータ君の場合、股関節が割れにくく、腰椎が後彎しやすいので、このままだと、腰と膝には負担がかかりやすくなります。
これが股関節が割れて下図のようになると、腰にも膝にも負担が掛からないでしょう。
腰痛は腰椎の前彎過多でも後彎過多でも起こると言われていますが、脊柱は胸椎が後彎して腰椎が前彎したS字を描いているのが自然なので、腰椎後彎に伴う腰痛が最もタチが悪いと思います。椅子に座り続けてなる腰痛等は、その典型です。
例えば、下の動画はメジャーリーグの新人王、ブライス・ハーパーです。素晴らしいスイングですが、この構えでは腰椎がやや後彎気味で、膝が前に潰れているので、少し不安ですね。この姿勢から思い切り振ると、やはり腰や膝が危ないです。
次に、左脚の膝に関してですが、膝と言うのは捻りの負荷に弱いので、特にフォロースルーの取り方がポイントになります。と言っても、ゴルフで自然に振ると振り上げる形になるのと同じように、特にフォロースルーの動きを意識する必要は有りません。フォロースルーはあくまでも結果です。
上手くフォロースルーが取れれば、下図のように前脚股関節のラインに沿って振り上げるような形になります。
これは、着地した時に体重を受け止めて割れた前脚股関節が、その反射で絞り動作を起こすためです。この股関節の絞り動作によって、骨盤が回転するので、フォロースルーは前脚股関節の関節ラインに沿った軌道になります。そして、その前脚の動きを効果的に使うためには、着地した前脚に体重が乗るバランスをキープしなければなりません。写真は里崎ですが、このように脊柱が立っているくらいだと上手く前脚に体重が乗ります。そして、その後、股関節が伸展するとき、体全体が後ろに傾いた一本のラインを形成します。これは後ろ脚に体重が残っている形では無く、前脚に体重が乗った結果です。(タマに後ろ脚に残って、この形になる場合もありますが。)
下の写真のように、前脚股関節を割った状態で着地させ、そこから前脚股関節の伸展と同時に上半身を捻ると、前脚股関節のラインに沿って身体が捻られる事が解ります。そして、そうすると、身体を捻っても前脚の膝に負担がかかりません。
フォロースルーは、写真のように前脚股関節に沿って身体を捩る動きになるのが正しい動きです。結果的に、バットも高い位置に振り上げられます。そして、そのためには、踏み込んだ前脚に体重が乗る必要があります。(だから前脚に体重を乗せるイチローのようなタイプはフォロースルーが高いのです。)
これが上手く出来ているのが、動画のプリンス・フィルダーです。
一方、前脚に体重が乗らずに、後ろ脚に体重が残ると、前脚股関節の伸展が上手く使えないので、下図のようにスイング軌道は水平になります。これは日本人には多い形で、野村克也や清原などが当てはまります。清原については、このバランスのままで、現役の晩年にフルスイングを強調する塚口理論を採用した事も、左膝を痛めた一因かもしれません。
それでは、どうすれば前脚に体重が乗るかということですが、下の林さんの連続写真を見て下さい。構えで後ろ肩、前腰、前足が一直線に並んでいます。つまり、タスキラインの延長線上に前足を置くということです。前足の接地点がこれ以上前になると、踏み込んだときに体重が乗りません。そして、連続写真では着地した時に上体が立っており、そこから前脚股関節伸展でフォロースルーで体軸が後ろに傾きます。そして、最後には前脚が緩みます。これが正しいフォームです。こういうスイングになるためには、特に構えた時のバランスが重要になるということです。
そして、このような形になると、フォロースルーの回転を前脚股関節の斜めのラインで受け止める事が出来るので、前脚の膝にネジりの負担がかかりません。ですから、前脚の膝に負担をかけないようにするためには、むしろ踏み込んだ前脚に体重を乗せてしまった方が良いということです。
そして、構えでの後ろ肩、前腰、前足のラインは、写真のように後ろ脚股関節のラインに沿った捻りが出来ると作りやすくなります。
このように、構えでも、フォロースルーでも、股関節のラインの沿った捻りが大切になります。ですから、動画のように、股関節のラインに沿って体を捻る体操をよくやるようにしてください。
そして、前脚を上手く使う事が出来るようになると、写真のように振った後、巻き戻す動きが起こります。このとき、後ろ脚はホームベース方向に踏み出されます。横浜のブランコなどは巻き戻しに躍動感が有る良い例です。(巻き戻しは、素振りや空振り、ファールチップで特に鋭くなります。)素振りでは、巻き戻して終わるようにしてください。
最後に、脚挙げ型や二段ステップは、実戦での対応として行なうには良いと思います。しかし、その場合でもオートマチックステップで振る基礎練習が重要になります。構え、スイングなど、理想的な体の使い方が身に付くからです。特に素振りではオートマチックステップを重視してください。その方がスイングが良くなります。ただ、まぁ本人の実感が伴うか否かが重要だと思いますが。その意味でも、この時期に詰め込み過ぎになるのも、良く無いかなと思います。何と言っても、本人によるトライ&エラーの繰り返しが技術向上には必要不可欠だからです。
長くなりましたが、以上です。