2013年3月19日火曜日

WBC決勝戦の見所

決勝戦はドミニカVSプエルトリコになった。日本は出ていないが、近代野球というか、これからの野球がどこへ向かって行くのかと言う意味では最も見所の有る試合と言えるだろう。演じるのがラテンの選手なので計算通りの展開になるとは限らないが、この試合の見所を私なりに紹介していきたいと思う。順当に行けばドミニカが勝つだろう。投打ともに戦力がドミニカの方が1枚、いや2枚勝っている。

見所(1)最強の打者は誰か

最も注目したいのはロビンソン•カノー(ドミニカ)とエドウィン•エンカーナシオン(ドミニカ)とカルロス•サンタナ(ドミニカ)の左打席だろう。この3人が最も力が有ると見ている。カノーとサンタナは片手フォローだが、その悪影響が出にくいタイプ(特にカノー。サンタナはやや不安が残る。)だし、実際にまだ悪影響はあまり出ていない。本当にキレの有るメジャー一流クラスの球なら不安もあるが、プエルトリコの投手の球なら捉えて来るだろう。

サンタナ左打席  サンタナ右打席

見ての通り、この手のスイッチヒッターに多く見られるように、右打席はバットが遠回りする傾向が有る。

また、エドウィン•エンカーナシオンは、2012年に打率2割8分で42本打っている。荒っぽい印象のあるスイングだが、リラックスした構えから両手で強く振り抜いて来る。そこそこ振れているようなので、大一番での一発が見られるかもしれない。どちらかと言うと、緩急の変化に弱そうな打ち方なので、一定の球速で動く球で勝負する投手が出て来た時は要注意だ。

見所(2)ムービングボーラー対決

両チーム共に、ムービングファストボールが主体の近代的な投手を揃えている。ただ、この点に関しても、ドミニカの方が上手だ。日本戦で登板したプエルトリコの投手にスピードを増した感じだと思えば良い。ただ、ドミニカは準決勝でボルケスが先発したので、決勝では左腕のワンディ•ロドリゲスが先発するかもしれないが、ワンディ•ロドリゲスは、ムービングボーラーと言うほど球を動かしては来ない。

ドミニカの投手については、この記事http://bplosaka.blogspot.jp/2013/03/wbc_17.htmlで紹介しているが、ムービングボーラーと言う視点では以下の投手が面白い。

ペドロ•ストロップ動画

アルフレッド•シモン動画

サンティアゴ•カシーヤ動画

サミュエル•デデューノ動画

その他、ケルビン•へレーラ動画の速球や、抑えのフェルナンド•ロドニー動画も注目したい。

いずれにしても、ムービングファストボールが主体となる投手が投げる野球を見る場合、一球一球、ボールがどう動くのか、それに対して打者がどう反応するのかと言う事が非常に大きな見所になる。大雑把な見方では面白さが解らないので、見る方にもかなりの集中力を要求するだろう。

ドミニカのムービングボーラーの方が、格が上だが、日本戦で見たようにプエルトリコの投手も粒が揃っているようだ。ドミニカ打線が振り回して来ると、少ない失点で後半にもつれ込む可能性も有る。

見所(3)特大ホームラン

この試合、メジャーでも屈指の飛距離を誇る長距離打者が二人いる。(ともにドミニカ)二人とも荒っぽいタイプなのだが、ツボにハマると特大のホームランが見られるかもしれない。二人とも右打者なのでスプラッシュヒットは期待出来ないが。

ネルソン•クルーズ https://www.youtube.com/watch?v=9BP3Q1kiCo4

エドウィン•エンカーナシオン https://www.youtube.com/watch?v=cBPYtl1riwM

見所(4)プエルトリコのバッテリーvsドミニカの打線

日本戦で話題になった通り、プエルトリコにはメジャー最強捕手のヤディアー•モリーナがいる。モリーナがドミニカより一枚格下のプエルトリコ投手陣をリードして、ドミニカの今大会最強打線と対決する。これは非常に大きな見所になるだろう。

日本戦を見ても解るようにプエルトリコは外野よりも内野の方が守備力が高い。内野守備に関しては今大会最強だとも言えるだろう。そのため、モリーナとしては如何に低めでボールを動かし、ドミニカの打者にゴロを打たせるかと言う点がカギになる。もちろん、これは投手陣にも求められる課題だし、ベンチワークとしても低めに制球力の有る投手を選ぶ事が求められる。

この作戦がハマれば、後半までロースコアで試合がもつれ込む可能性が有る。プエルトリコにとって勝機となりうるのは、ドミニカの主軸にはカノーやサンタナ、ハンリー•ラミレス(動画)など、片手でフォローを取る打者が多い事だ。このタイプは、低めにボールを落とされると、バットヘッドを潜り込ませる事が出来ずにボールの上っ面を叩く可能性が非常に高い。両手で振り抜くタイプもいる(エンカーナシオン、クルーズ等)が、荒っぽい打者なので、その点ではまだ安心出来る。特に二人とも(悪い意味で)トップハンドが強い打者なので、低めに落ちる球には片手フォロー同様に苦しむ可能性が有る。低めに落ちる球に柔軟に対応して付いて来そうなのは当たっているホセ•レイエスの左打席(動画)とベテランのミゲール•テハダ動画)だろうか。この辺の伏兵が勝負のカギとなる可能性も有る。

片手フォロー云々と言う考えがモリーナに無かったとしても、力の無いムービングボーラで相手に何とかゴロを打たせて、高い内野の守備力で守り勝ちたいと言うことくらいは考えているだろう。その作戦が結果的に片手フォローの多いドミニカの主軸に効果的に作用すると言う可能性がある。

見所(5)プエルトリコの攻撃

見所と言うより不安要素である。日本戦を見る限り、プエルトリコの監督もキューバ同様、スモールベースボールに傾倒している感が有る。だが、日本の高校生よりも下手なバントが、ドミニカのムービングボーラー相手に決まるとはとても思えない。こうした事をアメリカ球界での経験が豊富なプエルトリコのロドリゲス監督が解らないとも思えないが。

ムービングファストボールが主流となり、その技術が向上して来ると予想されるこれからの野球では送りバントはある意味で高等技術になって来るだろう。送りバントのサインを出すくらいなら、小技に特化した選手を代打に送り、ヒッティングかバントかで相手を揺さぶって行った方が良い。

スモールベースボールを掲げるWBCの監督は、一度日本の高校に一ヶ月くらい研修に行くと良い。そうすると本場の送りバントがどういうものか良く解るだろう。バントはその性質上、脇役選手の技術なので、プロよりもバントが上手い高校生がいて当然なのだ。キューバの大砲が送りバントをする姿と言うのは白人が着物を着るくらい違和感のある物だが、そうした事を当の本人が理解出来ていない。

まだ体の小さかった頃の日本人が日米野球でパワーの差を見せつけられ、今で言うスモールベースボールに傾倒して行くのだが、その歴史はアメリカやラテン諸国の「スモールベースボール」とは比べ物にならないほど長い。また、体の小さな選手が多い日本の高校野球の選手が、飛び抜けた選手がいる強豪校に立ち向かって行く時「ウチには飛び抜けた選手がいないから、小技とヒットで繋いでいくぞ」と耳にタコが出来るくらい聞かされて、中学、高校時代から送りバントの技術を磨いて行くのだが、そうした事情は、外国人には理解しにくいものが有る。さらにそこには、合気道や柔道の受け身に通じる「相手の力を受け止めて利用する」と言う日本特有の精神的土壌が関係している気もする。

ただ、このスモールベースボールと言うか小技の技術は元々は日本はアメリカから学んだものだ。特に野村監督が現役時代にドン•ブレイザーから学んだエピソードは有名である。それが前述のような日本野球の事情とリンクして、日本のチームカラーとして発展していく。私はこの事を批判するつもりは無いし、むしろ「考えて野球をする」と言う事を若いうちに教えると言う事は、インナーマッスル云々の知識を教えるよりも、野球と言うゲームそのものを教えると言う意味では重要な事だと考えている。しかし、問題は、そうした技術(打撃の小技)がバッティングメカニクスに与える悪影響と、これからの野球の質にはマッチしないと言う事である。

野村がブレイザーから学んだ事からも解るが、この技術は元々は、アメリカの古い野球なのだ。それでイチローがメジャーデビューした頃に、アメリカ人は昔の野球を思い出したと言われる。昔と言うのはタイ•カッブの時代の事だろう。今でもアメリカで行われる古式野球では小技が健在かもしれない。

ただ、これからの野球では投手の技術力ももっと挙るだろうし、ムービングファストボールもさらに増えるだろう。そうした中で送りバントやバスター、右打ちと言った技術は非常に通用しにくいものになる。そしてジャストミートする事そのものが重要になってくるのだ。そのためには、打球の方向などでは無く、とにかくバットとボールがコンタクトするその現場に集中するのが、最も重要だ。そして、強く振り抜き、少々芯を外しても良いので、内野の頭を抜く。この考えが重要になる。

話をプエルトリコvsドミニカに映すと、ドミニカの投手はムービングボーラーが主体だが、球のスピードと言う点ではメジャーレベルで見ると、特筆するレベルでは無い。そういう中でボールが動いて来る状況で、プエルトリコの打者には集中力が求められるし、今の所、彼らは非常に高い集中力を発揮している。こうした場合、ベンチは出来るだけ打席に入る打者の集中力を削ぐべきでは無い。ベンチがする事は「相手投手と球種と、その対応に対するレクチャー」である。そうして、一発狙いに陥って打線の繋がりを失わないように念を押しておく必要が有る。こうした事を事前にどれだけ入念に行えるかがカギになる。

プエルトリコがノーアウトでランナーを出した。ここで決勝戦だからといって大事に考えて送りバントをするようだと、プエルトリコに勝機は無いだろう。日本戦を見た所、プエルトリコの打者は高い集中力をキープしているし、ドミニカやアメリカ、日本と戦い、非常に「質の高い練習」を繰り返して来た。そうした意味ではプエルトリコの打線も侮れない。ドミニカのスター軍団が振り回してくるようだと、プエルトリコにも勝機は有る。

ドミニカの投手陣は、確かに質が高いが、それでもメジャートップレベルと言うわけでは無い。トップレベルと言えるのはロドニーくらいだが、それもむしろ技巧派に近く、驚くような球を投げる投手では無い。その事を考えると、メジャー経験者の多いプエルトリコの打者にとっては、打てない球では無い。むしろ「打てそうで打てない球」なのだ。その意味では、準決勝での日本の打者と、決勝のプエルトリコの打者はダブルところがある。日本の打者にとってプエルトリコの投手の球には全く威圧感が無かったが、プエルトリコの打者もドミニカの投手には全く威圧感を感じないだろう。ベンチに邪魔されず、各打者が集中力を持ってジャストミートに徹して行けば、非常に面白い試合になる。

見所(6)ドミニカの伏兵

ドミニカには主軸だけでは無く、脇役にも見所の有る打者が揃っている。

1)ミゲール•テハーダ(https://www.youtube.com/watch?v=069CASq3_u4

ベテラン(38歳)だが、ある意味で最も注目したい打者だ。バッティングのセンスは主軸と比べても全くひけを取らない。と言うよりカノーと同じレベルの逸材である。(オールスター選出6回 打点王1回 MVP1回)

イチローがメジャーデビューした当時はアスレチックスの期待の若手ショートストップだった。その頃の方がスイングが良い意味で大きく、スピードもしなやかさも有ったのだが。それでもまだまだ、面白い打者だ。見た所、今大会ではいい感じで柔軟性を発揮している。両手で振り抜いて腕を柔らかく使い、良い意味でも悪い意味でもヘッドの重さが効くタイプなので、低めに落ちる球には強そうだ。(簡単に言うと低めをすくいあげるのが上手いタイプ)プエルトリコのムービングボーラーが低めに落ちる球をコントロールして来た状況で主軸が沈黙した場合、このテハーダが意外な所で試合を決める可能性も有る。

プエルトリコの投手にはあまり速い球を投げる投手はいないようだ。球に力が無い技巧派が相手なら、ベテランのテハダが大きな仕事をする可能性が有る。

2)メルキー•メサ(https://www.youtube.com/watch?v=R84dMfBa1Wo

代打で出て来たら注目したい選手。以下の動画を見ても、非常に高い打撃センスが有る事は間違い無い。

動画1(https://www.youtube.com/watch?v=63k_21tssTU

動画2(https://www.youtube.com/watch?v=ecky7Ffmzbo


見所(7)プエルトリコの打者

日本戦を見る限り、打ちそうな気配が有ったのは、マイク•アビレス、アレックス•リオス、カルロス•リベラ、アンヘル•パガン(左打席)、ヤディアー•モリーナだ。

マイク•アビレスは実際に大当たりしているし、リオスもホームランと綺麗なヒットを打った。だが、リベラ、パガン、モリーナも高い集中力を見せていたので打ちそうだ。ドミニカに比べると一発狙いの傾向があまり見られない事もプエルトリコ打線を面白くしている。そしてここまで不振だったベルトランもそろそろ打ち出すかもしれない。

マイク•アビレスだが、この打者は両手で振り抜くオートマチックステップ故に、注目していた打者だ。また解説の衣笠が言っていたように、ボールに食らいついて行って詰まっても良いからヒットにしようとする感が、特に強い。ただ、一つ気になるのは構えでバットを動かしすぎる事。(ただ、そのアクションも揺らぎと連動した整合性のある動きだが)このため、悪い意味で腕が効き過ぎて、キレのあるボールに対応力が落ちるのでは無いかと言う事が気になる。(それで日本戦での予想でも、注目打者に挙げなかった)ただ、この手の打ち方の打者は、相手投手のレベル云々よりも、自分の打撃メカニクスのコンディションによる部分が大きい。それが調子が良いと言う事は、ある程度は期待出来るだろう。


〜予想〜

番狂わせでプエルトリコが5対3で勝つと予想する。これまで当たってなかったプエルトリコ打線が、メジャーレベルでは大した事ないドミニカ投手陣相手にそろそろ来るかと言うのが一つの根拠。さらに日本戦で見せた高い集中力。ここまで不振のモリーナ、ベルトランもそろそろ来そうだ。特にモリーナは勝負にかける集中力が高いし、日本戦では打っていないので、確率的にそろそろ打ちそうだ。一方ドミニカ打線は前日にオランダと対戦して大味になっている可能性が有る。また主軸に良い意味でも悪い意味でも豪快に振って来る打者が多いので、プエルトリコバッテリーの術中にハマる可能性も有る。願わくば、プエルトリコの監督に攻撃に関しては動かないようにしてほしいと言う事。ただ、継投や、守備の配置(それに関する代打を出すか出さないかの判断。日本戦でも打たない守備的プレーヤーのファルーを使い続け、それが勝負を決めた)に関する判断は良いので、そこは期待出来る。

モリーナがリードするプエルトリコのバッテリーと、ドミニカ打線の対決で、プエルトリコのバッテリーが勝ち、不振続きのプエルトリコ打線のエンジンが温まってくれば、プエルトリコが勝つだろう。それが予想の大筋の根拠だ。

★余談 ハンリー•ラミレスの打撃

ハンリー•ラミレスは今のMLBで最も派手な片手フォローを取る打者である。1990年代、リニアック打法とチャーリー•ロウ理論で片手フォローが流行し、手首を返さずボトムハンド一本で大きくフォロースルーを取る打ち方が流行した。ルーベン•シエラ、ホアン•ゴンザレス、フランク•トーマスが典型的だが、ハンリー•ラミレスはこれらの打者の直系の子孫とでも言うべき打撃フォームだ。

ハンリー•ラミレスのフォームはコチラ
http://www.youtube.com/watch?v=1RhF5ulXJYg

片手フォローでも、このように手首を返さずボトムハンドを大きく伸ばすようなタイプは、特にその悪影響が出やすい。しかし、ラミレスを見ると、踵体重でかなりハムストリングスが使えている。これは先天的、骨格的な事も有るのだろうか。つまり骨盤前傾型なのだろう。

「骨盤前傾とは踵体重と見つけたり」つまり、骨盤が前傾すると、踵体重で腰が引けない。そうなった時、一番、腰が入って見えるようになる。ラミレスはその典型的なタイプだ。似たようなタイプとしてキャメロン•メイビンが挙げられる。(http://www.youtube.com/watch?v=-KBFR_mF2bw)マニー•ラミレスにも近いものが有ったと思う。どちらかと言うと胸椎後湾が顕著な体型に見られる事が多い。日本人では今売り出しのソフトバンクの柳田(パンチャー)がこのタイプだろう。

この手のタイプは、踵体重が強調されるせいか、やや後ろ軸(に見える)フォームになる事が多いが、このタイプの方が片手フォローの悪影響が出にくいようだ。構えの位置やバットの角度が比較的、腕の筋力に負担がかからないポジションである事もポイントだ。ただ、MLBのパンチャーの強打者クラスで片手フォローの悪影響から逃れられた打者を私は知らない。もちろん、両手で振り抜くに超した事は無いのだが、参考までに。