アメリカが敗退し、ドミニカとプエルトリコが準決勝に進出した。打線で見た場合、アメリカの進出を期待していたが、主砲として機能していたデビッド•ライトをケガで欠いた事を考えると、仕方が無いかもしれない。
ところで、日本とカブスの強化試合で2本のホームラン(うち一本はサヨナラ場外)を打ち、試合を決めた選手がいる。そのシーンは↓。
Cubs Javier Baez Walk-Off Home Run vs Japan
ハビエア•バエズ。プエルトリコ出身で1992年生まれの21歳で遊撃手。カブスのNO1プロスペクト(若手有望株)らしい。躍動感のある豪快なスイングのパンチャータイプだ。WBCには参加していない。ただ、こちらの動画(http://www.youtube.com/watch?v=Rog78wwpNqY)を見ても、片手でフォローを取るケースが多いのが気になる。メカニクス的にはライアン•ジマーマンに似ていると言えるだろう。(http://www.youtube.com/watch?v=CggTV0NiE6c)
さて、WBCだが、やはりドミニカが戦力的には最強だと考えられる。一般には打線に目が行きがちだが、比較的一発屋の荒っぽい打者が多く、相手の投手が良ければ繋がりにくい打線では有る。それよりもむしろ特筆すべきは投手陣。さほど豪華なメンバーでは無いが、今流行のペドロ•マルティネス直系的なムービングボーラーが多く、投手の人選と言う意味ではアメリカより数段近代的である。(カーブストレートの左腕ジオ•ゴンザレスと、ナックロボーラーのディッキーを看板にしていたアメリカはかなり古典的だった。)まずはドミニカの投手力から分析していきたい。
ペドロ•ストロップ(動画)今大会、投手成績トップ。典型的なペドロ的右のパンチャータイプ。
ケルビン•へレーラ(動画)何度か当ブログでも紹介した事が有る。典型的なパンチャータイプで速い球を投げる。
フェルナンド•ロドニー(動画)今期48セーブで、投手陣の中では最もビッグネーム。もちろん、クローザーをつとめる。速球で押して来るタイプでは無く、低めのボールを動かして、打たせて取るタイプ。
サンティアゴ•カシーヤ(動画)パンチャーカーブの動画で何度か紹介した事のある投手。あの独特の鋭いカーブが見られたらうれしい。動画を見ての通り、直球で押すタイプでは無いだろう。
アルフレッド•シモン(動画)ややアームがっかったパンチャー右腕。この投げ方ならムービングボーラーと見て間違い無いだろう。
オクタビオ•ドテル(動画)こちらもアームがかったパンチャー。39歳のベテランセットアッパー。ただ、この感じだとかなり制球が良く無いと打たれそうだが。
エディンソン•ボルケス(動画)パンチャータイプの右腕。見ての通り変化球で勝負しているが、このメンバーの中ではまだ本格派な方だろう。ただ何となく肩が出来上がるまでに時間がかかりそうな投げ方なので、この時期にどこまで仕上がっているかが気になる。
ロレンゾ•バルセロ(動画)比較的球速が出そうなパンチャー右腕。だがツーシームが多いタイプか。
アンヘル•カストロ(動画)ソフトバンクに所属するパンチャー右腕。球は速いらしい。ピッチングスタイルは不明。
ホアン•セデーニョ(動画)スインガーの左腕。普通の左腕のカーブを投げる。カーブ、スライダー、ストレートの典型的左腕。CCサバシアやクレイトン•カーショウと同じ。このメンバーの中ではオーソドックスなタイプ。
サミュエル•デデューノ(動画)この動画ではパンチャーカーブを連発している。割と投げ方が良いパンチャー右腕。かなり面白そうな存在。
ワンディ•ロドリゲス(動画)メジャーで14勝をした事が有るパンチャー左腕。パンチャーだがクセ球では無い。仕上がっていれば「モーションの割には」速い球が来る。カーブ
スライダー、ストレートの典型的な左腕の投球スタイル。
ホセ•ベラス(動画)パンチャーの右腕。クセのある投げ方で、適度に荒れ球。190センチ台の長身ながらリリースポイントは低い。「力の有る」ストレート、スライダー、ツーシーム等が有るようだが、ムービングボーラー系では無い。打って点を取る事は難しそうな投手。
Atahualpa Severino 映像資料無し
こうして一通り見ると、パンチャーの右腕でボールを動かすタイプが多い。意図を持って選ばれたと言うよりは、母国の英雄ペドロ•マルティネスの影響だろう。「速い球を動かせ」と言う指導がかなり浸透しているのかもしれない。左腕が少ないのが気になるが、野球は投手力のセオリーで言えば、ドミニカが優勝候補最右翼だろう。プエルトリコはあまり見ていないが、近代的なピッチングスタイルの投手が多いドミニカに注目したい。
仮に日本と対戦した場合、見所は「日本の打者vsドミニカの投手」と「日本の投手vsドミニカの打者」だろう。当たり前と言えば当たり前だが、その意味を考えると面白い。要するに「日本の打者がドミニカの(今流行の)ムービングボーラー(MLB平均レベル)にどのくらい通用するか」と「ドミニカのパワーヒッター(メジャーのパワーヒッター)が、日本の(ダルビッシュや松坂よりは下のクラスの"怪物レベル"ではない)良い投手から、どのくらい打つのか」と言う所に注目したいと言う意味。特に日本がここまでの試合で打って来たのは白人系の古典的な投手が多かったので、その意味でもドミニカの投手と日本の打者の対戦は見物である。繰り返すがドミニカの投手陣が注目されるのは「豪華」と言う意味ではなく「近代的」と言う意味である。むしろ、決勝と言う事でドミニカが力んでメジャーで実績の有る左腕のワンディ•ロドリゲスを出して来たら日本にとっては都合がいいと言うべきかもしれない。(少なくとも見てる方は面白みが無い)ロドリゲスはあまり「ドミニカ的な投手」では無いからだ。ドミニカ的なのはペドロ•ストロップやアルフレド•シモン。
もしドミニカが2次ラウンドを1位通過した場合、日本対ドミニカは決勝でしか見られない。ただ、プエルトリコ打線なら日本の投手力(前田健太の先発が予想される)にかなり低い点に押さえられる可能性が有る。そう考えると日本対ドミニカの決勝が実現する可能性は高い。
そうなった時の決勝は田中将大だが、私はこの投手の力を全く評価していない。腕を体の前に大きく突き出すので爪先体重になり、膝が折れて大腿四頭筋が効く。そのため後ろ脚のハムストリングスが使えず、重心移動が弱く、投げた後の後ろ脚が勢い良く前に出ない。この投げ方なら球の力が無いので一発を浴びて当然である。
ただ、とは言っても田中将大である。日本野球でキャリアを積み上げて来て、素材的にも高い能力が有るし経験値も高い。変化球の技術力も有る。そうした技術力の中で「ハムストリングスが使えない」と言う欠点が有るのは事実だが、その欠点が「どのくらい響くのか」と言うのは、その日のコンディショニング等によって変わって来る。それが良い方に振れた場合、ドミニカの打線でも、それほど簡単に打てるとは思えない。だが、悪い方に振れた場合、完全にドミニカ打線に「捕まる」だろう。特に「ハムストリングスの効いていない大腿四頭筋ストレート」は痛打される可能性が高い。しかも大腿四頭筋ストレートは当たれば良く飛ぶ。恐らく重心移動が弱いので指先でスピンをかけるのに依存する度合いが強くなるためだろう。(イメージ的に言うなら星飛雄馬のストレートはおそらく大腿四頭筋ストレートだったのだろう。余計解りにくくなったか? 巨人の星を読んだ事が有ればある程度解るはず。飛雄馬の投げた雪球を受けた伴宙太が星の球質の軽さに気がつくシーンが有る。別にマンガから星飛雄馬の動作を云々する等と言う気は毛頭無いが、筆者が言いたかったのは要するに、スピンが効いた軽い球、当たれば飛ぶ球の事だったのだろうと言う意味。)
田中の頼みの綱はスプリットか。あれが決まれば打たれないだろう。ただ、オランダと戦って勢いに乗ったドミニカの打線が、その勢いを日本戦に持ち込んで来る可能性がある。
では準決勝のプエルトリコvs日本を予想してみたい。
まず、プエルトリコの打線。ハッキリ言って全くと言って良い程見所が無い。と言うと少し言い過ぎだろうか。だが、大味でしまりが無い事だけは確か。ビッグネームはカルロス•ベルトランとアレックス•リオスとヤディアー•モリーナ。これらの打者もどちらかと言うと鋭さに欠ける印象の有るタイプだ。少なくとも個人的には興味が持てない。まぁ、これは好みの問題かもしれないが。。
ただ、プエルトリコにはメジャー経験者が比較的多く、メジャーリーグの投手の投げる球をよく見ている。こうした目に日本の投手が投げる球はどう映るか。そういう意味では、台湾、キューバ、オランダの打者とはひと味違うだろう。そうしたプエルトリコの打者が大振りに走らず、集中力を発揮してきたら、そこそこ力を発揮するだろう。だが、それが出来なければ、日本の投手リレーに2点くらいに抑えられる可能性も充分有る。
特に前田健太は調子が良いし、世界的に見てもそこそこ良い球を投げる。ストレートはMLBレベルでは速いと言う事は無い。しかし、カーブを使って緩急を付ける投手のストレートとしては充分な速さだ。そして日本人特有の脚を挙げた所で止まるようなモーション。プエルトリコの打者は「タイミング」と言う面において苦しむのでは無いか。
野手で注目される存在はキャッチャーのヤディアー•モリーナだろう。この捕手は強肩で有名なので、盗塁を決める事は容易では無い。
モリーナの強肩1(https://www.youtube.com/watch?v=aH-tqW8r1wI)
モリーナの強肩2(https://www.youtube.com/watch?v=NZoF3XctrCs)
このモリーナの強肩に加え、中南米系投手特有のムービング•ファストボールで日本の送りバントや右打ちが封じられれば、日本の戦術の柱である「バント」「盗塁」「右打ち」が封じられる事になる。が、プエルトリコがそうした事を考えているかどうか。
そして、肝心の投手陣。これもドミニカに比べると一段下で時代遅れの感が否めない。が、過去の試合で大崩れはしていないので、そこは期待出来る。ただ、プエルトリコの投手が投げる球は日本の打者にとって「厳しい」と言う程のものでは無いだろう。
つまり、双方の打者にとって、双方の投手の投げる球は、さほど厳しいというほどのものでは無いが、さほど甘いものでも無い。そうした意味で、3点4点の丁度良い試合になるのでは無いかと思う。
プエルトリコ打線がコケるパターンとしては先制されて集中力を欠いた状態で主軸が一発を狙いに行って大味になり、脇役も機能しようが無くなると言うパターン。
日本打線がコケるパターンとしては慣れないボールを投げて来る慣れない投手を捉えきれずにズルズルと後半にもつれ込むパターン。クセ球系のボールで右打ちや送りバントが失敗する可能性も有る。そして、後半になって2点差3点差を追いかけるシーンで焦りから中田や糸井あたりの力のある打者が一発を狙い出し、打線の繋がりが寸断されると言うパターン。
ただ、プエルトリコの面白いのは第二ラウンド決勝でドミニカと2対0と言う接戦を演じた事で(決勝でドミニカを破って)優勝出来ると言うイメージを掴んでいるのでは無いかと言う事。こうしたマインドが集中力に繋がれば、力を発揮してくる可能性が有る。
集中力が持続出来れば、強振すると言う彼らの特徴が「大味な打撃」では無く「今のは振り切ったからヒットになりましたね」に変わって来る。そうなって来た時の彼らは手強い。
そして、ドミニカの投手の投げる球を見た、昨日の今日と言う事も、プエルトリコにとっては有利な条件だ。同じ前田の球でも、第一ラウンドとかでいきなり出くわすのとは見え方が違って来る。これに対して、日本打線は今まであまり良い投手の球を見ていない。
予想するのは非常に難しいが、5対3でプエルトリコが勝つと予想したい。本音を言うとドミニカと日本の決勝戦でドミニカ打線の爆発するのが見たいのだが。
ポイントとしては守備。プエルトリコの守備は良さそう。まずキャッチャーのモリーナ。外野は、さほど強肩ではなさそうだが、リオス、パガン、ベルトランは脚が速い。他の二人も守備で選んだ感が有る。内野もファーストでこのくらい動けるのだから、守備で選んでいる要素が強いのだろう。この守備力が有るから、投手があまり大量失点をしていないのかもしれない。
もう一つのポイントとしてはプエルトリコの打線。この打線はビッグネームがいるので、いわゆるメジャー評論家に言わせると「打率○○を記録した」とか「○○と言われている」とか、"凄いメジャーリーガー"として、紹介する事が出来るメンツだが、私的には、正直、このメンツは「アテにならない」と考えている。だが、一発が有る事も確か。それを考慮した上で5点取れるのでは無いかと予想したのだが。
結果 3-1でプエルトリコの勝ち。
本音では日本とドミニカの試合を見たかったのだが。それでは、この試合を独自の目線で解説していきたいと思う。
まず、序盤。プエルトリコの先発マリオ•サンティアゴは、球の力は全く無かったが、まともなストレートが全くと言って良いほど無い典型的なムービングボーラーだった。そしてコントロールもまとまっていたので四球も少ない。これが大きかった。
日本打線は(力が無く、適度にまとまっている投球に対し)食い気味で振って行くが、僅かにポイントがズレるので中々綺麗なヒットにならない。打てそうで打てない。それをプエルトリコの巧守が必死にバックアップする。このコンビネーションが非常に上手く機能し、日本はサンティアゴから得点を奪えなかった。球場で見ていると「なんで打てないの?」と思ったファンも多かっただろう。
序盤、最も「打つのでは」と見ていたのが中田翔。サンティアゴの投球は緩急があまり無く、小さな球の動きで勝負するタイプ。良く言えば精密機械。悪く言えば綱渡り的な投球で日本を抑えて来た。ただ、中田だけはそういう次元で野球をやっていない。サンティアゴの「玄人的な」良さが通じない。極端に言えば3球思い切り振って行って、少しポイントがズレようがヒットにはなるし、オーバーフェンスも可能である。サンティアゴがメジャーで結果を出せていない理由もそこにあるのだろう。つまり球に力が無いムービングボーラーはパワーの有る打者には通用しにくい。
ただ、5回。1点ビハインドでランナーを一人置いて、その中田の打席。マリオ•サンティアゴが脚に不調を訴えて降板する。これが中田にとっては凶と出た。代わりに出て来たホセ•デラ•トーレは、もう少し大きな変化と緩急を使って来るタイプ。おそらく中田のようなブンブン振って来る典型的な若いパワーヒッターには「微妙な変化」等と言う「玄人的な」投球術は通用しにくいのでは無いか。それよりも素人目に解りやすいハッキリしたスライダーとかチェンジアップとか、もちろん豪速球も含め、そういうハッキリした投球術の方が通用しやすいだろう。もしここでマリオ•サンティアゴが続投していたら(0ストライク2ボールまで投げていた)結果は大きく違っていたかもしれない。
今回登板したプエルトリコの投手はだいたいが「球に力の無いムービングボーラー」だった。そして、素直な真っすぐが一試合通じて何球あっただろうか。「球の力」と言う意味ではNPBでも極々平均的なレベルだったと思うが、こうした球を日本の打線がことごとく打ち損じていた。或はちょっとしたポイントのズレで長打が出なかった。そして、その打球がプエルトリコの巧守に阻まれた。この打たせて取る投手陣と巧守のコンビネーションがプエルトリコの勝因だろう。そして日本の野手がMLBであまり成功しないのも、パワーの問題よりも、この問題(動く球に対する反応)の方が大きいのでは無いか。メジャーの一線級の投手が投げるムービングファストボールはもっと凄い。
一方、プエルトリコはどうか。今回彼らが対峙した日本の投手は、比較的技術が有り、制球がまとまっていた。だが、ストレートはメジャーレベルでは速く無いし、ムービングファストボールもあまり無い。色んな意味で「メジャーの投手をスケールダウンし、まとまりを良くした感じ」だったのでは無いか。ある意味、メジャーの主力級と対戦するための「丁度良いシミュレーション」みたいな感じだったのだろうと思う。つまり「打てない球」では無いが「それほど簡単に打てる球」でも無いと言う状況だった。
それも有ってか、特に序盤、プエルトリコの打者陣は一発を狙う感じでも無く、非常に良い意味で集中力を保てていた。日本投手陣の制球の良さが、彼らの集中力を高めていた感すら有った。日本人の球は「集中しないと打てないが、集中すれば捉えられる」と思わせる程度の球だったからだろう。
プエルトリコの打者は、特に変化球やムービングファスト系に対する反応が、オランダやキューバとはひと味違っており、見逃したり、ファールで粘ったり、また打ち返したりと、非常に良い反応を見せていた。スイングそのものよりも、その「反応力」にメジャーを感じさせられた。本来なら序盤に1点では無く3点くらい入ってもいい感じだった。
しかし、それに水をさしたのがプエルトリコの作戦。勢いに乗るべきシーンで(彼らの不慣れな)送りバントやエンドランなどで、ことごとく打者の集中力に水をさしてしまった。案の定、どれも上手く行っていない。打者があれだけの集中力と反応の良さを見せているのであれば、普通に打たせて自分の打撃に集中させた方が良かっただろう。こういう傾向は改められなければ、決勝でも攻撃の脚を引っ張る事になるだろう。
また、日本側の作戦の不備としては、もう少し左腕を使った方が良かっただろう。ベルトランとパガンとファルーはスイッチヒッターなので、彼らは左腕が出ると右に変わる。メジャーの打者を良く観察していると解るが、皆ほとんど同じタイプの中南米にゴロゴロいる典型的なスイッチヒッターで、あの手の打者は総じて左の方がバッティングが良く、右打席ではバットが遠回りする打者が多い。それを考えると杉内、能見、内海、大隣、山口等の左腕で繋ぎ、その間に先制しておき、相手を焦らせてから、クローザーに前田を持って来ても良かった。(或は、左腕陣がプエルトリコ打線に通用しないと判断した時点で、一枚、格が上の前田を投入すると言う手も有る。)
また、最も大きな采配ミスはランナーを一人置いてアレックス•リオスにホームランを打たれたシーンだろう。ややクロスファイアー気味に投げて来る能見に対して、開かず、コンパクトに両手で振り抜くリオス(しかも背が高く長打も有る)。如何にも「左殺し的」なスイングである。あそこでワンポイントで良いから右投手を投入するべきだった。沢村でも良かったし、牧田を投入しても良かったぐらいだ。プエトリコのパワーヒッターの中では、リオスのスイングが最も無駄が無く、実戦的であったからだ。その上で一発もあるので、最も警戒する打者の一人だった。リオスにはスイングのキレやスピードはあまり無いが、後ろの小さいスイングで技術的にはアラが無いのが長所だ。だから沢村の速球や、牧田のような変則投手なら、痛手を負う事は無かったかもしれない。一点ビハインドの緊迫した試合展開を考えると、あそこに全てをかけても良かった。
なお、この試合、一点目はアビレスのタイムリーで、3点目はアビレスがヒットで出塁した後のリオスのホームランで入っている。つまり、攻撃に関してはこの二人で勝ったようなものだ。では二人のスイングを見てみよう。
アビレス https://www.youtube.com/watch?v=jdl6OTvs_Ik
リオス https://www.youtube.com/watch?v=6uosx7gp-Ac
二人とも、オートマチックステップの両手振り抜きである。こうした打者は大事な場面では頼りになるので、気をつけなければならない。特にリオスのようなメジャーのレギュラーとなると、メジャーの一線級の球を嫌と言うほど見て来ている。そういう打者がココ一番で集中力を高めて、無駄の無い打ち方から両手で振り抜いて来たら。。最も警戒するべきシーンだっただろう。
オランダに関してもそうだったが、大事な場面で打ったのはスコープやシモンズと言った両手振り抜きの打者であった。キューバでもセペダが最も安定していた。今大会を見て各国が気がついてほしいのは、スモールベースボールでは無く「片手で振るパワーヒッターは大事な所でアテにならない」と言う事。自分自身にとっても、その事を強く再認識させられた大会であった。(厳密に言うと、片手で振るタイプでもオルティーズやカノーのようなタイプはまだマシ。)
ドミニカのハンリー•ラミレスは大事な場面でホームランを打ったが、相手はナックルボーラーのディッキーである。片手フォローはインコースの球に詰まり、低めに落ちる球に空振りをするのが最大の弱点だが、常に一定に近いタイミングでナックルボールを投げられたら、その弱点はあまり出にくい。
プエルトリコ側の采配で光ったのは9回裏一死一塁、中田翔の場面でベテラン左腕のロメロから、カブレラにスイッチした事。おそらくプエルトリコも事前の情報から、当たっている中田のパワーは警戒していただろう。カブレラは荒れ球だが、鋭い変化球が有り、球速も有る。クセの有るフォームの右腕だった。ロメロのような、球に力が無いが比較的安定した感じの投手に比べると、中田にとっては打ちにくい相手だろう。
大きな視点で見れば、ムービングボールで打たせて取り、守備力で守り勝つと言うプエルトリコの作戦勝ちだったのでは無いだろうか。
ただ、試合中に気になったのは実況が言っていた事だが、内川が「サンティアゴはシュートとスライダーで横に揺さぶって来るタイプなので、どちらの球をどうやって打つか、しっかり決めてから打席に入りたい」と言っていた事だ。これには異論を唱えたい。サンティアゴのようなムービングボーラーの場合、詰まっても良いから内野の頭を抜くぐらいの気持ちで「どう打つか」では無く、とにかく体の反応に任せて喰らい付いて行き、ジャストミートして強い打球を打つ事に集中した方が良いのではないか。そして、その事を打線全体で確認しておいた方が良い。いずれにしても、ああしたタイプ(世界的にはトレンドとなっている投球スタイル)の投手との対戦経験の少なさが日本の敗因となったのは間違い無いだろう。
そういう視点で見ると、今大会「面白い」と思っているのがチェックスイングの判定の甘さ。MLBでは絶対にスイングを取られるケースでもほとんどスイングを取られない。これは良い事だったと思う。ムービングボール全盛の現在、打者にはホームベースギリギリの所での反応力が求められる。そうした状況でバットが止まったと言う事は、打者の勝ちに等しいのだ。実際、今大会の審判に「救われている」チェックスイング達は、打者サイドから見たら「振っていない」スイングばかりである。ではなぜMLBのチェックスイングが厳しいのか。それはステロイド全盛時代の名残では無いか。あの時期に比べると、検査も厳しくなっているし、投手の技術も進化している。そうした中での「MLB流のチェックスイング判定」に対するアンチテーゼが、今回の審判団の中に共通認識として有ったのではないだろうか。
そして、最後に話題の走塁ミスというか采配ミス。自分自身ビックリしたのだが「ダブルスチールしても良いよ」と言うサイン等あり得るのだろうか。「盗塁しても良いよ」ならまだしも二人で息を合わせる必要の有るダブルスチールを「しても良いよ」と言うのはちょっとあり得ないのではと思ったが、その辺はあまり詳しく無いので、これ以上の言及は避けたい。